自動車損害賠償責任保険の改正法案について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

 春ですね。体を張る?虚勢を張る?オンパックスを貼る?見栄晴?

 自動車損害賠償責任保険の改正法案について検討してみます。

 運転免許を持っている人でしたら自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という)を皆さんがご存じでしょう。自賠責保険とは自動車損害賠償保障法によって、自動車および原動機付自転車を使用する際、全ての車の所有者に加入が義務づけられている損害保険のことです。自賠責保険は運転者の過失割合に関わらず交通事故で負傷した者を被害者として扱われます。保険金の限度額は死亡の場合が3000万円、後遺症障害がある場合は段階に応じて上限3000万円、介護が必要な場合は4000万円、傷害は120万円までとなっています。支払いは政令の定めに応じて画一的に支払われます。自賠責保険は人身に対してのみに適用され、物損や自損事故には適用されません。物損事故や自賠責保険の保証額の不足を補う為に任意保険に加入することが一般的となっています。

 さて、今国会に提出されている改正法案は交通事故の被害者支援と事項防止に関わる費用の財源として新たな賦課金を設けるという案です。

下記資料:国土交通省作成、自動車損害賠償保障法改正する法律案、概要1

 現在でも被害者を支援する制度として療養施設の設置や在宅でのリハビリ支援や委託病床での治療は介護料の支給は行っています。その財源は図のように自賠責保険料の中から16円を充てています。足りない予算は保険料の運用の積立金から補填して来たようです。ただし、積立金から補填できるのは当分の間とした10年程度と規定されています。当該の法律案では保険料の一部として徴収する賦課金ではなく、新たな恒久的な賦課金として新設するとともに積立金での補填も併せて恒久化するという案です。

下記資料:国土交通省作成、自動車損害賠償保障法改正する法律案、概要2

 被害者支援として行う治療や看護は委託病床を募るケースが多いと思いますが、確かに制度が暫定的であると医療施設の協力も得づらいと思います。重度後遺障碍者へのリハビリの提供に対して医療施設が意欲的に取り組んでもらうには法案のように恒久的、かつ持続性のある制度とする必要があるとは思います。

 制度の必要性を認めた上で少し気になることがあります。

下記資料:三井住友海上HPより、人身事故発生件数の推移

 近年の自動車産業界の懸命の努力により、衝突被害軽減ブレーキなど自動車の安全性能は飛躍的に向上し、図のように激減しています。

下記資料:国土交通省「交通関連統計資料集」自動車保有台数の推移

 2010年あたりから人口減少が進んでいますが自動車の保有台数は増え続けています。その背景には自動車の性能が良くなり、新車は売れなくなりましたが、中古車としての需要はあり、耐用年数の伸びに応じて自動車の保有台数は減らないという状況にあります。

 要するに人身事故は半減している中で、自動車登録台数は増えているのですから、自賠責保険の収益は相当に向上しているはずです。

下記資料:損保ジャパンより

 図より2020年度は大幅に保険料は減少しています。表にはありませんが2021年度平均6.7%の保険料の引き下げを行っています。事故件数が大幅に減少したことに併せて自賠責保険料も引き下げを行っていたのです。事故件数が半減したからと言って保険料も半額に出来るかといったら、そうではないことは理解できます。それにしても、2010年の保険料収入が約8000億円で人身事故件数が約76万件であるのに対して、2020年の保険料収入が同じく約8000億円なのに対して人身事故件数が31万件であるのはバランスよく保険料の減額が反映されているようには思えません。

 今回の法案にある新たな賦課金というのは交通事故の被害者支援や事故防止の推進に関する費用を新たな賦課金として保険料に上乗せして徴収するということです。果たして新たに定義付けてまで賦課金を徴収するほどに自賠責保険の財源が枯渇するとは俄に信じがたいです。2020年と2021年で20%以上の保険料の値下げを行ってきましたが、2022年の保険料は据え置きとなっています。そして、国土交通省と財務省は2023年度には約100円から150円の保険料の値上げをすることで合意に至ったと報道されています。なぜ自動車台数はほとんど減らずに事故件数は半減しているにも関わらず値下げ傾向にあった自賠責を保険料が値上げに転じないといけなくなったのか。株式会社カービューのサイトで下記のように報じています。

 「今回の値上げ方針は、2021年度予算の編成段階で財務省と国土交通省が合意に至ったことによるもの。自賠責保険制度は事故を起こしたときに最低限の賠償責任を担保する役割が知られているが、ほかにも事故で重度後遺障害を負った人の支援にも使われている。この支援に必要な費用は、かつて実施されていた政府再保険時代の積立金運用益を財源として賄われているが、毎年度の支援に必要な150億円弱が運用益だけでは捻出できなくなったことが今回の値上げの理由となる。であれば値上げやむなしとも思えるが、ここには少々複雑な背景が存在する。実は本来存在するはずの積立金7,500億円のうち、6,000億円が年金や公共事業などを含む国の一般的な政策経費に流用されて手元にないのだ。積立金が少ないゆえに運用益も少額にとどまり、仕方なく積立金自体を取り崩しつつ支援を継続しているというわけ。実は、政府も毎年微々たる額(50億円強)を積立金に返してはいるのだが、完済までに100年以上かかりそうなうえ、そうこうしている間に積立金自体が枯渇しそうなので今回の合意に至った。 だが、自賠責保険料は自動車ユーザーが自動車の使用に起因する様々な費用の負担のために支払うもので、一般的な政策経費への流用の穴埋めに保険料を使うのは筋が違うとの声も上がるだろう。」

実は平成6年から平成7年にかけて財務省は予算財源の不足を補う為に自動車安全特別会計から政府の一般会計に1兆1200億円が貸し付けられ、未だに6000億円以上が返済されていないということです。過去17年間に渡り返済を放置されていましたが、4年前から麻生財務大臣の時代に少しずつ返済が開始されました。2018年に23億円、2019年に49億円、2020年は40億円、2021年に47億円の返済が為されています。そして、昨年12月に斉藤国土交通大臣と鈴木財務大臣が話し合いを持ち、2022年から5年間は54億円ずつ返済することで合意したと報じられています。

 元金の1%にも満たない返済です。国交省と財務省の言わば身内同士の交渉はまともに利息すら設けず、100年かかっても完済しないような計画で合意したのです。その一方で、人身事故が劇的に減少しているにも関わらず自動車ユーザーである国民に新たな賦課金を課すことも合意しているのです。

 交通事故の被害者支援事業は年間予算として144億円を計上しています。自動車安全特別会計の残高は凡そ1500億円であり、国交省はそれを1%で運用して年15億円を捻出する計画です。それに加えて新たな賦課金を国民から徴収し自動車が約80万台として年間約80億円の収入、それに財務省からの返済の54億円を加味すると149億円となり予算が満たされるという目論見です。

 昨年3月12日の参議院財政金融委員会で公明党秋野公造議員が自動車安全特別会計について現状は取り崩して被害者支援制度に使用していることについて、財務省に質疑を下記のように行っています。

○秋野公造君 公明党の秋野公造です。お役に立てるように質疑をしたいと思います。  昨年十二月の当委員会で質疑をいたしました一般会計から自動車安全特別会計のこの繰戻し金について、もう一回お伺いをしたいと思います。令和三年度四十七億円の繰戻しが計上ということで、四年連続の増額ということで、大臣には交通事故被害者の不安に配慮していただいて、そして繰戻しの増額をしていただいたことに感謝を申し上げたいと思うわけでありますけれども、そもそもこの繰戻しの根本的な問題が解決しているでしょうか。この令和三年度四十七億円の繰戻しが行われた場合、積立金の取崩しは必要になりましょうか。その結果、積立金の残高幾らになるか、お伺いしたいと思います。

________________________________________

○政府参考人(山田知裕君) お答え申し上げます。委員の御指摘のとおり、令和三年度予算案では四十七億円の繰戻しが計上されておりまして、本予算案が成立すれば四年連続の増額となります。積立金の取崩し額につきましては、繰戻しがなかった平成二十九年度末の取崩し額が約八十八億円であったのに対しまして、令和三年度末の取崩し額の見込みが約七十七億円と、繰戻し額の増加に伴って着実に減少しているところですが、取崩しは継続的に発生している状況でございます。その結果、平成二十九年度末に約千七百九十四億円であった積立金残高は令和三年度末には約千五百四億円となる見込みでございます。

________________________________________

○秋野公造君 取崩しが七十七億円もまだあるということになりますと、これ、このまま積立金がどんどん減少しますと、被害者救済対策の持続可能性が損なわれることになりませんか。この積立金の将来の見通しについて、もう一回お伺いいたしたいと思います。

________________________________________

○政府参考人(山田知裕君) お答え申し上げます。毎年度の事業費や積立金の運用から得られる収入の変動等がございますことから確定的に見積もることは困難でございますが、仮に事業費や繰戻し額等が令和三年度予算案並みに推移すると仮定いたしますと、十数年後には積立金が相当程度減少した状況になることが見込まれるところでございます。

________________________________________

○秋野公造君 これ、自動車安全特別会計が設けられている理由というのは、これ、長期的に安定的に事故で被害を受けた方々に対して様々な対応をして安心した暮らしにつなげていくということでありまして、今のように十数年後に相当厳しい状況になるということは、被害者の方々に対して不安を与えてしまうことになりかねないということであります。ちょっとお伺いしたいんですけど、国交省では、事故によって遷延性意識障害を起こした方や重度の脊損、脊髄損傷を起こした方、あるいは脳脊髄液減少症の当事者、こういった方々から様々な要望というのは聞いていますか。ちょっとそれをお伺いしたいと思います。

________________________________________

○政府参考人(山田知裕君) お答え申し上げます。例えば、自動車事故によりまして遷延性意識障害となった方の御家族ですとか重度脊髄損傷となった方々からは、介護者となる家族の高齢化が進んでいることから、介護者なき後の生活の場の確保を進めてほしいといった御要望ですとか、身体機能を維持改善するためのリハビリを受ける機会をしっかり確保してほしいといったような御要望をいただいているところでございます。

________________________________________

○秋野公造君 ありがとうございます。事故の被害者の場合、医療で治すことができる場合もありますけれども、これ、長く様々な障害を負いながら生きていかなくてはならない、高齢化の影響なども重なってくる、様々な問題があるわけでありますけれども、私、この平成三十年度から大臣には御英断で繰戻しを再開していただいて、大きな安心の声が広がっているのも一方では事実でありますけれども、まだまだ額としては少ないのではないかという思いでありまして、繰戻しは財務大臣と国交大臣の間の合意ということは承知しておりますけれども、令和四年度までという期限もありますけれども、どうぞこれ、様々な補正の機会や、あるいは来年はちょうど節目の年でもありますので、この取崩しが少なくともゼロになるような状況までは頑張っていただきたいと、改めて大臣にお願いをしたいと思いますけれども、麻生大臣の見解をお伺いしたいと思います。

________________________________________

○国務大臣(麻生太郎君) 令和三年度の予算において、事故の被害者、その御家庭、御家族の不安の声に応えて、先ほどありましたように、一般会計から自動車安全特別会計に対して、二年度の当初予算から七億円の増となります四十七億円を繰り戻すというと同時に、自動車安全特別会計の歳出におきましても、一般病院における病床の拡充などの事故被害者に対策というものの充実にも対応させていただいたところです。また、三次の補正予算においても八億円を繰戻しを行っております。令和四年度予算におけます繰戻し額につきましては、平成二十九年度国交大臣との合意に基づいて、被害者に係る事業を安定的、継続的に実施されるということが安心という意味において大事なところなんで、それを留意しつつ、一般会計の財政事情というのを少々踏まえないかぬ、事情が厳しいものでありますんで、これは引き続き真摯に取り組み、この数年間、この方向でやらせていただいておりますけど、まとめて返せる財政状況にはなかなかありませんのでこういった形をやらせていただき、御心配なきようにさせてまいりたいと思っております。

________________________________________

○秋野公造君 大臣、どうぞよろしくお願いをしたいと思います。

 以上のような質疑です。与党内の質疑ですので強い主張は為されていません。年度ごとに財務省も国交省も財務状況はまちまちなのでおしなべては言えませんが、国民に新たな賦課金を課さなくて済む程度の返済を財務省がすればよいだけだと思います。なぜ財務省が100年以上かかるようなペースでの返済を受け入れて、そのとばっちりを国民の負担に転嫁するのでしょうか。財務省が100年返済をせめて50年返済に改めるだけで問題は解決します。自動車安全特別会計から多額の積立金を財務省に貸し付けたことで自動車安全特別会計の資金が枯渇するということはあってはならないことだと思います。特別会計は特定の事業や資金の運用の状況を明確化するために一般会計から切り離されています。特別会計毎に管理や使い道が決められているのです。過去に起きたことを非難してもしようがないのかもしれませんが、財務省は特別会計から資金調達するのではなく、国債を発行することで予算を満たすべきだったと考えます。

 いずれにせよ、当該法案にある新しい賦課金は財務省と国交省との貸借のとばっちりとして国民が負担させられる結果になっているのだと言っても過言ではないと思います。自賠責保険の加入を怠ると刑事罰を含めた罰則規定があります。つまり、自賠責保険料は税と同等であると言って良いのでしょう。だからこそ、もっと周知され議論を尽くし、自動車ユーザーの声も聴いた上で決定すべき法案なのかもしれません。

 以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。


参考:第204回国会 参議院 財政金融委員会 第4号 令和3年3月22日

   https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120414370X00420210322&current=2

   株式会社カービュー記事(YAHOOニュース掲載)

   https://news.yahoo.co.jp/articles/7394d9b7fd5a1e1ea254cbb0cebcfb04962d2e23    環境再生保全機構、国内の自動車保有台数の推移

   https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/taisaku/01_04.html

   国土交通省、自動車損害賠償保障法及び特別会計に関する法律の一部を改正する法律案

   https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000486.html

   

0コメント

  • 1000 / 1000