成年後見制度について

冬~そう、ではない・・・。

 成年後見人という制度を聞いたことがある人も増えてきただろう。最近、映画でもテーマとして取り扱われていたらしい。「親のお金は誰のもの、法定相続人」という映画だが、一見タイトルだけ見ると相続争いの映画だと勘違いするが、実際は成年後見制度について描いたストーリーである。この映画では成年後見制度を通じて「家族の大切さ」を伝えているのであって制度の是非と説いているわけではない。

 成年後見制度について簡単に紹介する。そもそもは禁治産・準禁治産制度というものであったが2000年に成年後見制度としてそれに代わって新たに制定されている。制度を大枠で分けると法定後見と任意後見がある。また、後見には未成年と成年がある。法定後見は民法に基づいており、任意後見は任意後見契約法に基づいている。

 成年後見制度がつくられる切掛けになったのが介護保険制度の発足である。行政が福祉サービスを提供するにあたり「措置」として行うのではなく受益者の意思決定が尊重される「契約」に移行するために制定された。福祉サービスを提供する事業者と受益者との間で交わす契約行為に関して認知症の人の法的行為を支援する必要に迫われたことによる。よって、成年後見制度と介護保険制度は時期を同じくして開始している。当時の小渕内閣は介護保険制度の制定を急いだことから連動していた成年後見制度は議論が尽くされないまま成立した。そのことから禁治産制度の条項をそのまま移した規定が多く残ってしまっている。

 禁治産士制度から成年後見制度に移行することで改善されたことも多い。禁治産者という言葉が使われなくなった。本人の保護と自己決定権も明確にされ、身の上が配慮され戸籍にも明記されることはなくなった。配偶者が保佐人や補助人になることを強要されることもなくなり浪費者を対象から削除した。日常生活に関する行為は取り消しうる行為から除外された。保佐人、補助人の取消権も明文化された

 制度としては精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者を対象とし、家庭裁判所の審判により後見人(保佐人・補助人)が決定され開始する。申請は本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人。なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされている。家庭裁判所に後見人を付すとして任命された成年後見人は本人に代わって代理権と取消権、財産管理権、療養看護義務をもつ。必要がある場合には裁判所の審判が出るまでの間に裁判所の命令により財産の管理人をおくなどの審判前の保全処分が行われる。申立ての際に申立書、財産目録、判断能力に関する医師の診断書等の書類の提出が求められる。裁判所は本人や後見人候補者と面接を行う。その後、本人の判断能力に関して医師による鑑定が行われる。鑑定が行われるのは全体の1割程度でほとんどは医師の認知症などの診断書によって済まされる。それらを踏まえて家庭裁判所の裁判官の判断で開始の決定、又は申立ての却下決定が行われる。開始決定された場合は本人にも通知される。法定後見の種類、後見人の氏名、住所、被後見人の氏名、本籍、が登記され登記事項証明書に記載される。この証明書は本人、後見人等、相続人、公務員以外は交付請求できない。成年後見人には意思尊重義務と身上配慮義務がある。また、本人と成年後見人との利益相反行為に関しては特別代理人の選任を家裁に申請しなければならない。裁判所が特に必要と認めた場合は後見監督人を選任することがある。後見人が報酬を得ようとする場合は裁判所に申し立て、裁判所が財産の状況や事務の内容を勘案して決定する。監督人の報酬も同様である。職業後見人の報酬は月3万円から5万円であることが一般的である。

 任意後見は法律による決定ではなく契約行為である。後見人と本人が契約の当事者として公正証書を作成する。任意後見人は定期的に裁判所の選定する後見監督人に報告する。任意後見は法定後見に優先される。任意後見人になった者が裁判所に後見監督人の選任を申し立て、監督人が決定した時点で任意後見人契約が発効する。

 契約には本人の判断能力が不十分となったときに任意後見契約を発効させる将来型と判断能力が十分な間は見守り契約とし、判断能力が落ちた場合に任意代理契約を終了させ任意後見契約を発効させる移行型と任意後見契約を締結したあとすぐに任意後見監督人選任申立てをして任意後見契約を発効させる即効型がある。任意後見人は無報酬である。発効後は後見登記がされる。

 成年後見人と本人との関係については、令和4年の最高裁の調べによると親族が19.1%、司法書士が36.8%、弁護士が27.1%、社会福祉士が18.3%などとなっている。職業後見人は各団体において研修を受けた者のリストから家裁が選任している。職業後見人は不足気味であるが法に明文化されているのは弁護士と司法書士だけであり、社会福祉士は身上監護の面から業務を行えることから選任しているという運用を家裁が行っている。税理士、社労士、行政書士は専門職として法律上行える業務という規定はない。

 後見人不足を解消することを狙いに最高裁判所家庭局は後見制度支援信託制度が開始して一定の財産を信託することで本人に比較的大きな財産がある場合でも親族後見人が就任できるようにした。また、都道府県の中には第三者後見人として一般市民に対する養成講座を開講するところもある。職業後見人に比べて市民後見人に対する能力の担保については課題が残されている。

 成年後見制度を利用することでの欠格事由は様々あった。国家公務員、地方公務員は欠格事由にあたる。弁護士や会計士、警備業にはつけなかった。2019年に成年後見制度を利用していることを理由とする欠格条項を含む法律188本を一括改正する法案が可決し多くは解消した。会社法及び一般社団法人及び一般財団法人に関する法律に関しては欠格事項として現在も残されている。

 成年後見制度によって成年後見人がついた者は選挙権を有することが2013年に公職選挙法改正案が、国会で成立したことによって認められた。

 医療の現場では手術、輸血、人工呼吸器装着などの高度な延命措置など不可逆的な医療行為の前に本人に代わって成年後見人が説明を受け同意を求められるケースがあるが、治療に係る同意に関する権限は成年後見人にはないとされている。

 自治体の長による身寄りの無い認知症患者の高齢者の財産を保護する目的で家庭裁判所に成年後見を申し立てるケースが急増している。行政が独居高齢者を見つけては本人の意思に反して首長申立てで後見人をつけてしまい本人を高齢者施設に強制的に入所させる事案が続発している。人権侵害にあたるのではないかという声もあるが、その背景には家庭内での高齢者虐待や親族が財産管理を拒否することが多いことがあるという。自治体の長が成年後見制度を申し立てた場合において家裁は本人との面談や医師による鑑定の実施を慎重に行わなければならない。本人の意思を尊重する制度の理念に反することになるからである。

 成年後見制度を利用した背任や不正も後を絶たない。本人の年金を後見人である家族が生計の一部として流用していること多いとされる。不正の多くは親族後見人によるものであるが、職業後見人にも例外なく不正が発生している。司法書士が契約額を大幅に超える報酬を引き出していたり、弁護士が被後見人の口座から4200万円も着服した例もある。成年後見制度を利用した不正行為を防ぐために後見制度支援信託が利用されるようになった。被後見人の資産のうち、日常使う分は親族などの後見人が管理し、残りは信託銀行に信託する。大きな支出が必要な場合は、後見人が家裁に申請してチェックを受けるという仕組みでありコストも専門家に頼むよりも安く親族後見人による不正も減らすことができると期待されたが、驚いたことに弁護士の団体、司法書士の団体、社会福祉士の団体は相次いで制度の利用に反対している。既得権益が脅かされた仕業団体のわかりやすい反応である。後見人による不正事件の件数は10年前の2014年には総数で831件(うち専門職18件)に上っていたが令和2年には185件(うち専門職30件)となっている。後見制度支援信託によって不正件数は激減している。ところが弁護士や司法書士や社会福祉士らによる不正は減るどころか増えているのだから呆れる。不正とは言わないまでも職業後見人の横暴は多くの利用者が声を上げている。職業後見人の報酬は被後見人の預金額によって算定されるといわれており、職業後見人は被後見人の出費を嫌う傾向にある。被後見人の浪費を防ぐのではなく職業後見人の報酬を維持するためにそうしているという。中には職業後見人が被後見人の財産を売却して預金を増やして自身の報酬を釣り上げる事例もある。不動産を売却したり施設への入居手続きを職業後見人が行うと追加報酬を得られることから無理に押し進めるケースもある。以前は親族後見人の問題に焦点があてられていたが現在においては職業後見人の行為だけではなく性質も含めた問題が大きくなっている。職業後見人の報酬についての判断基準はきちんと規定し公明正大である必要がある。仕業が正義であることは絶対ではない。性善説が通用しないことは残念であるが仕業においても性悪説を無視できない。職業後見人の価値観だけで被後見人に必要な出費の可否を判断することは果たして正当なのだろうか。価値観などという正体不明のものに被後見人の生活が支配されて良いのだろうか。職業後見人が振りかざす正義感という主張も同様であり、それを声高に言えば言うほど訝しく聞こえることを本人は気が付いていない。とはいえ、被後見人の理解不足によるトラブルも結構あることも否めない。

 前述の映画「親のお金は誰のもの、法定相続人」には実務とは違いがあるという指摘がある。司法書士の野村真美氏は自身のブログの中で指摘している。

1. 成年後見人に裁判所が選任した弁護士がいきなり本人や申立者のところに現れることはなく事前に通知される。

2. 三重県伊勢志摩に居住する人の成年後見人に東京の弁護士が選任されることはない。

3. 後見人には家裁から事前に財産目録の写しが渡されているので後見人が閲覧に出向くことはない。

4. 申立者は裁判所との面接時に本人の財産が保全されることについて説明を受けている。

5. 成年後見人の報酬が年間数時間の仕事で36万円もらえるというのは違っていて、再文書に報告する書類作成以外にも本人への訪問や親族との面談など他にも仕事はある。

6. 本人と同居していた家族が、本人が施設に入居した後に後見人によって家を売却され、家から追い出され、さらに同居していた際の賃料を何百万円も請求されるということはない。同居時に賃貸契約はない。

7. 後見人が本人の財産を自由に処分して報酬を得るとしているがこれは違う。重要な財産を処分するには処分の必要性や相当性を検討して裁判所にも相談する。

以上のような指摘である。確かに7あたりは視聴者の勘違いを招き成年後見制度の信頼が損なわれ、併せて職業後見人への偏見を増長する恐れがあるのではないだろうか。



参考

成年後見制度 Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%88%90%E5%B9%B4%E5%BE%8C%E8%A6%8B%E5%88%B6%E5%BA%A6

成年後見制度の問題点8つ!回避方法と対処法をわかりやすく解説

https://green-osaka.com/online/problems-with-guardian-of-adult-system

成年後見制度がひどいと言われる8つの理由を解説!メリットから家族信託まで紹介

https://caresul-kaigo.jp/column/articles/9462/

成年後見関係事件の概況 最高裁

https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/kouken/index.html

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/20230317koukengaikyou-r4.pdf

後見人等による不正事例 最高裁判所事務総局家庭局実情調査

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/r03koukenhuseijirei.pdf

映画「親のお金は誰のもの」と成年後見制度 野村真美

https://ameblo.jp/maminomura/entry-12823467539.html

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