関税定率法改正案について

関税懲悪?

 今年も関税定率法等の一部を改正する法律案が財務省より提出されている。この法案も毎年提出されるレギュラーメンバーと言える法案である。一昨年と一昨々年に同法案についての記事を書いた記憶がある。当該法律案にざっと目を通したが劇的な変更はないが一応、変更点をまとめる。

 しょ糖を50%含んだ食品の関税が21.9%から20.9%に変更となった。併せて、砂糖が加わった調整食料品の関税が23.4%から22.3%となった。しょ糖とは砂糖の主原料で果糖とブドウ糖からなる。甘未が強い果糖が多く含むほど甘くなる。砂糖はしょ糖を原料として作られた甘味料であり総称である。砂糖は米などと同様に自由貿易協定を結んだ国家間であっても関税撤廃の対象から除外されて保護されてきた。砂糖の生産はブラジルやタイ、オーストラリア、インドが多い。ほとんどの国の砂糖の価格は日本の五分の一程度となっている。生産者一人当たりの耕作面積の違いが大きい。日本では一人当たり約0.8haであるがブラジルはその80倍である。もし砂糖類の関税が撤廃されたら瞬く間に国産のしょ糖は市場から姿を消すことは間違いない。歴代政府は砂糖の保護政策を継続し今に至っている。以下、農畜産業振興機構の説明によると

「砂糖の価格調整制度は昭和40年の糖価安定法の制定以降、その必要性や機能性をその時々の社会情勢に照らして見直し改正を重ね、今日に至っています。法制定以前の買い上げ、備蓄方式から買い入れ後に直ちに売り戻す現在の瞬間タッチ売買方式に改め、57年には砂糖と競合する異性化糖を調整金対象に加えました。その後、平成12年には、支援の基準となる価格水準の決定に需給動向や関係者のコスト削減努力が反映されるよう改めました。さらに、直近の19年の改正では、WTOなど国際的なルールとの整合性をとるためにでん粉についても砂糖と同じ調整金で支える仕組みを同じ法律の下で開始するとともに、世界的な農政の流れに即して生産者への直接交付金で経営を支援する方式に変更しました。」

 世界の多くの国が砂糖の自給率を高く保っている。日本の砂糖の国産割合は34%ほどである。当然、内外価格差の影響を受ける。政府は国内産糖交付金、甘味資源作物交付金等を支給することで生産者や製造事業者を保護している。交付金は1トンあたり16860円となっている。国産品の生産者及び製造業者に対し、生産・製造コストと販売額の差額相当の交付金であり、この交付金の原資が輸入品に課税している関税によって賄われている。つまり、国内産業を保護しつつも政府の財政には影響を及ぼさない。ただし、最終的な消費者である国民は関税を付加した価格で砂糖および加糖食品を購入し消費税も支払うことになるが、国産の砂糖および国産の砂糖を使用した食品を買うと実際の価格より関税分が安く購入できるという仕組みである。良いのか悪いのか判断しづらい制度であるが現状の砂糖の生産体制だと国際競争力は弱すぎると言える。このような状況にあるのは日本だけではない。ブラジルやオーストラリアを除くほとんどの国が砂糖類の保護政策として輸出入の調整や生産を促進するための価格調整を行っている。

 とはいえ、砂糖の国内消費量は減少傾向にある。一人当たりの消費量は世界で13位、アメリカの二分の一に留まる。てん菜やさとうきびの作付面積はやや減少傾向にあるが生産量は増加傾向にある。栽培技術の向上と品種改良が進んだ結果と言える。政府は生産した砂糖の糖度によって交付金の多少が決まる制度にするなどして品質の向上にもつながるように工夫している。今回、糖類の関税率を引き下げたのは輸入を促進してより多くの税収を得て交付金の原資を増やすためである。

 さて、法案のその他の改正点であるが、ビニール製手袋がコロナ禍で関税が0%となっていたが4.8%に戻された。十分な流通量が確保されていると判断したことからの措置である。あと輸入品目の分類にルイボスが新たに加えられたが関税率は元々0%であり変わりない。この措置は他国の分類変更に合わせて行ったに過ぎない。

 沖縄型特定免税店制度が3年延長される。3年毎の延長を既に8回行われている。特区制度を利用した沖縄における県外来訪者向けの免税制度である。沖縄地区税関長の承認を受けた小売業者から購入し、携帯して沖縄県以外の本邦の地域へ持ち出す輸入商品について、一人20万円の購入金額を限度として関税が免除される。空港内の旅客ターミナル施設、港湾内の旅客施設及び市中の特定販売施設で購入し沖縄県から沖縄県以外の本邦の地域へ出域する旅客に対して適用される。沖縄を海外旅行に仕立てた制度である。沖縄県は経済的にも文化的にも発展し成長する為のポテンシャルに溢れている。離島群を擁するということもあろうが困窮する要素は大幅に減少している。沖縄振興特別措置法に頼ることなく自立できる素地を過分に備えている。観光分野におけるインバウンドの集客は益々向上することが見込まれる。沖縄型特定免税店制度は国内向けのサービスであるが継続することに異議はない。沖縄には東アジア随一の観光リゾート地になって欲しい。

 特例輸入者による特例申告の納期限延長において必須とされている担保について関税の保全のために必要があると認められる場合にのみ提供を求める取扱いに緩和される。これまでは関税を後払いにしたり分割払いにするには例外なく担保提供が必須であった。今回の改正によって2カ月を期限に税関の判断によって担保を供することなく後払いが可能となる。税関の事務手続きも軽減されることから改正を歓迎すべきだと考える。

 関税を軽減する、もしくは逃れるために品名を偽ったり、仮装・隠蔽していることが発覚し、更生して輸入者に請求する場合を関税の重加算税の対象とする改正であるが、意図に悪意が窺われることが明らかであるので当然の措置であると考える。重加算税の率は本来の税額に35%が付加されることになる。以上が令和6年度の関税関係の改正法案である。


*沖縄に関する優遇措置は何を基準にどこまで続けるのか。政府は沖縄を今でも貧困の概して貧困の状態にあると認識しているのか。

*特例輸入者による関税納付期限の延長に係る担保提供の免除であるが、輸入者によって遅延しての納税があった場合などにはその後もその事業者に対して担保提供の緩和措置は続けるのかどうか。特例輸入者の認定を外すのかどうか。

*日本が締結している経済連携協定(EPA・FTA)はシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルー、オーストラリア、モンゴル、TPP12(署名済)、TPP11、日EU・EPA、米国、英国、RCEPの21本に上る。お米(関税率280%)、こんにゃく(関税率1706%)、チーズ(関税率30%)、砂糖(関税率35%)、バナナ(関税率40%〜50%)、革靴(関税率30%〜60%)、サラブレッド(関税400万円)、牛肉(関税率25.8%〜50%)など関税率の高い品目において国内産業を保護する方向性に代わりがないのか、一部全部を問わず政府の志向を聞きたい。


参考

関税定率法等の一部を改正する法律案

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/213/pdf/t0802130042130.pdf

わが国の関税制度の概要 財務省

https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/summary/index.html#:~:text=%E9%96%A2%E7%A8%8E%E3%81%A8%E3%81%AF,%E3%82%92%E5%8D%A0%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82

農畜産業振興機構

https://www.alic.go.jp/content/000075772.pdf

沖縄型特定免税店制度 沖縄地区税関

https://www.customs.go.jp/okinawa/11_tokumen/index.htm

令和5年産さとうきび・でん粉原料用甘藷に係る生産者交付金の単価の決定について

農水省

https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/chiiki/221201.html

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