国際復興開発銀行の特別引出権の増額について

BANKーバー。

 国際通貨基金及び国際復興開発銀行への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正する法律案が今国会に提出されている。法案には賛成するべきだと考える。国際復興開発銀行への出資額と出資比率に応じて特別引出権が増減するだけのことであり、新たな制度を設ける案ではない。この法案は国会のレギュラーメンバーであり、昨年は戦禍に塗れたウクライナ支援として6850億円もの債務保証を行っている。本法律は政府が国際復興開発銀行(以下、IBRDという)の特別引出権(以下、SDRという)を引き上げる改正法案である。特別引出権とはIBRDの発行する関係国間で使用できる仮想通貨みたいなものである。IMFが加盟国に出資比率に応じて配分し、加盟国は自国が通貨危機などで資金不足になった場合、他の加盟国にSDRを譲渡して必要な外貨と交換することができる。SDR全体の規模は3000億ドル程度(約37兆円)。SDRの通貨バスケットは米ドル・ユーロ・英ポンド・円・中国人民元の5通貨で構成されている。日本のSDRが462億となると日本円にして約9兆円に上る。IBRDの加盟国は189か国、IBRDへの出資比率はアメリカ16.8%、日本7.2%、中国6%、ドイツ4.3%、イギリス3.9%、フランス3.9%などとなっている。IBRDは世界銀行グループの一つで「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標の下、2030 年までに絶対的貧困層を 3%以下にすることと低所得者層にも裨益する経済成長の実現を目指して発展途上国への融資を行っている。IBIDの融資条件に合わない国はIDAから融資を受けることが多い。IBRDの融資額が多いのはインド、フィリピン、トルコ、インドネシア、エジプト等である。債権の格付けはAAAである。IBRD債を発行して各国のプロジェクト単位で融資することが多いが現在までに債務不履行となったケースはない。

 かつて日本もIBRDの融資対象国であった。日本がIBRDに加盟したのは1952年。最初の融資は火力発電プロジェクトに­対するものだった。その後1950年代の融資は主に鉄鋼、自動車、造船、ダムを含めた電力開発に向けられ、1960年代に入ると経済発展に合わせて輸送セクターが主な­対象となった。1964年に開催された東京オリンピックに向けて整備された東海道新幹線にIBRDのプロジェクト資金が活用されている。日本は31プロジェクトで8億6千万ドルをIBRDから融資されている。その甲斐もあって日本や本格的な復興に歩みだし凄まじい経済発展を成し遂げた。1990年に日本はIBRDからの融資を完済している。

かつてのIBRDによる日本への復興支援に感謝しつつ、現在、日本は窮地に立たされているウクライナを救済する為に50億ドルの保証以外にも5億ドルのグラントをIBRDを通じて行っている。一方、ロシアへはIMFやIBRDなど主要多国間金融機関からの融資はストップしている。

 ウクライナでは200万世帯の住宅が破壊され、8400キロの道路や290か所の橋がロシア軍による被害を受けたままになっているという。ウクライナ国内では多くの労働者が徴兵されており修復作業の人材不足は深刻だ。たとえ住宅や道路や橋を復旧してもロシア軍が再び侵攻してくることが懸念される。

 日本では先日(2月19日)に日本・ウクライナ復興会議が開催され、岸田総理大臣やウクライナのシュミハリ首相ら政府関係者に加えて両国の企業およそ130社も参加して官民一体で復興を支援するため農業やインフラ整備など7つの分野を柱に協力文書を交わした。重点支援を行う7分野は、地雷除去・がれき処理、医療など人道状況・生活改善、農業、バイオなど新産業創出、デジタル、電力や交通インフラ(社会基盤)整備、汚職対策となっている。協力文書は重工大手IHIによる道路復旧事業への協力や農業機械大手クボタによる農業機械の供与などが交わされた。外務省が出す危険レベルは最高レベルのままである。日本・ウクライナ両政府の共同声明では投資協定を見直す交渉の開始やジェトロのキーウ事務所の設置などが盛り込まれた。

 世界銀行グループはIBRDをはじめとして1966年に日本が主導して設立したアジア開発銀行(ADB)、アフリカ開発銀行(AFDB)、米州開発銀行(IADB)が互いに補完的な役割を担ってきた。2015年には中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立した。日本やアメリカがAIIBへの加盟を見送っていることからAIIBがADBの補完的な機関であることはない。2021年末にはADB加盟国が68か国である一方、AIIB加盟国は103か国となっている。AIIBには域外のアフリカ諸国も加盟している。世界各国がチャイナマネーに群がっている状態にあると言える。

 2013年に中国の習近平国家主席が提唱した巨大経済圏構想「一帯一路」に基づいてAIIBは設立された。一対一路とはシルクロード経済ベルトとしてアジアとヨーロッパを陸路と海上航路でつなぐ物流ルートを構築することで経済成長を目指す構想である。実現に必要な調達資金としてAIIBが推進力となって下支えする。

 AIIBの設立にはアメリカに対抗する意味もある。第二次世界大戦後はヨーロッパも焼け野原となっておりアメリカが世界で断トツの経済大国となっていた。圧倒的な経済力を背景にアメリカはアメリカにとって有利な国際経済秩序を構築していった。国際通貨基金(IMF)はアメリカだけが拒否権を持つ。ADBは日本とアメリカの両国だけが拒否権を持つ。戦後、75年以上が経過し中国は目覚ましい発展を遂げる。名目GDPは世界2位となっている。当然、中国は国際的な金融機関での存在感を発揮したい。中国はIMFやADBでの議決権の変更を申し出るがアメリカはそれに応じない。業を煮やした中国はアメリカとは一線を画した経済圏の形成を目的としてAIIBを創設するに至る。このような経緯からAIIBがADBの補完的役割になることはない。むしろ対抗的な存在になっていると言える。

 AIIBにはアメリカを裏切る形でイギリス、ドイツ、イタリア、フランスが参加している。日本はアメリカへの配慮として未だに参加していない。AIIBは常駐理事会を設置していない。常駐理事会がないということは中国当局の裁量で意思決定が行われる可能性が高い。またAIIBの活動は中国共産党の言論統制を受ける。透明性という観点から課題は山積していると言える。

 ADBの調査ではアジアの新興経済は成長を維持するには今後10年間でインフラ投資を最大26兆ドル(約2,930兆円)必要としている。本来、ADBとAIIBは対抗する存在であるがアジアでの資金需要があまりに膨大であるために極端な競合には至っていない。ADBとAIIBが全開で投融資に取り組んでも足りないくらいのニーズである。懸念されるのは日本企業がプロジェクトの受注が可能かどうかである。ADBにおいては十分な実績と評価を得ている日本企業であるがAIIBでの案件は未知数である。幸いなことにAIIBは参加国以外の企業にも入札の機会を与えている。よって、日本企業にとって日本政府がAIIBに参加しようがしまいが関係ないと言えるかもしれない。ただし、入札時に中国によって日本企業が不利益に扱われなければであるが。

 中国はアメリカなどの先進国の目線ではなく同じ途上国であるという立場から経済発展を目指す国々に働きかける姿勢をとっており受入国側からの歓迎を得やすい。既存の国際開発金融機関への期待感が低下していることも影響しているのかもしれない。中国は参加国や投融資対象国に親近感を与えつつ徐々に中国に有利にスタンスを構築していくのではないないか。AIIBの利点を自国の経済に有効に寄与するように誘導できる体制を構築することは中国にとって難しいことではない。AIIBは中国が単独で拒否権を持っている組織であるからだ。戦後、国際金融経済のルールを作ってきたアメリカは中国に対抗する新たな国際金融の枠組みを提示できるかどうか注視していきたい。日本はAIIBのガバナンスを注視しながら世界銀行やADBとの協調を橋渡ししていく役割を担うことも重要であろう。その場合は必ずしもAIIBに参加する必要なない。アジア・アフリカ地域のインフラを提供していく使命は中国と日本で共通している。


*日本はGDP4位であるが増資に際して米国に次ぐ2番目の出資を強いられるのは疑問

*AIIBに将来的に参加する意向があるのかどうか政府の現段階での認識を問う

*米国と共に新たな国際金融の枠組みを模索する必要性について政府の見解を問う

*ADBの運営に対して長年にわたり深くかかわってきた立場からAIIBの組織運営に対する政府の概観を問う


参考

国際通貨基金及び国際復興開発銀行への加盟に伴う措置に関する法律の一部を改正

する法律案

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/213/pdf/t0802130052130.pdf

財務書 国際開発金融機関を通じた日本の開発支援

https://www.mof.go.jp/policy/international_policy/publication/mdbs_pamphlet.pdf

国際通貨基金及び国際復興開発銀行への加盟に伴う措置に関する法律

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000191_20230414_505AC0000000012

特別引出権(SDR) 国際通貨研究所

https://www.iima.or.jp/abc/ta/4.html

アジアインフラ投資銀行の船出 知花 いづみ

https://www.jstage.jst.go.jp/article/asiadoukou/2016/0/2016_37/_html/-char/ja

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

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