国地方係争処理委員会委員の同意人事案について

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 国地方係争処理委員会委員の同意人事案についてである。国地方係争処理委員会とは総務省に置かれた地方公共団体に対する国の関与について国と地方公共団体間の争いを処理する第三者機関である。総務省のHPによると「国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるものについて不服のある地方公共団体の長等からの審査の申出に基づいて審査を行い、国の関与が違法等であると認めた場合には、国の行政庁に対して必要な措置を行う旨の勧告等を行う。」という所掌事務を負う。審査案件はこれまで11件。委員は5名で全員が非常勤。昨年度の会議開催は5回であった。今回は5名全員の再任案である。

 国地方係争処理委員会にされた審査請求で有名なものに沖縄の辺野古基地新設に関する係争である。平成27年、沖縄県知事が行った海の埋立許可の取消処分に対して国交省が取消停止を行ったことに対する沖縄県知事の不服審査である。委員会は同審査請求が国固有の立場で行ったものでないとする国土交通省の判断が違法であると判断できないことから申請を却下している。翌年、沖縄県知事は改めて国交省が沖縄県知事による埋立取消処分を停止したことに対して地方自治法に違反する行為として国地方紛争処理委員会に審査請求した。国交省が停止処分(是正指示)を一度撤回したことから沖縄県知事は審査申請を取り下げた。その後、再度、国土交通大臣が詳細な理由書を付して取消処分を停止処分にしたために沖縄県知事は是正の指示の取消しを求めて国地方係争処理委員会に審査の申出を行った。委員会は申請内容を審議して判断することが国と地方のあるべき関係を両者間に構築することに資することにならないとして是正の指示の違法性及び不当性の判断を示さなかった。結局、沖縄県知事は福岡高裁那覇支部に提訴するが訴えは退けられた。最高裁でも棄却となり沖縄県が敗訴した。埋立地に生殖するサンゴの移植についても沖縄県知事は不許可にしたが農林水産省は知事の決定を覆し不許可処分を停止した。沖縄県知事は処分取り消しを求め国地方係争処理委員会に審査を申請したが委員会は申し立てを退けた。

 同委員会と沖縄県との関係を見るとあたかもスラップ訴訟に利用されたような印象を受ける。沖縄県が係争処理に持ち込むことは勝利を予測できる行為ではなかったはずである。委員会に審査を申請することは工事の時間的な引き延ばしによって国に損害を生じさせること、それによって国交大臣の責任問題を生じさせること、政治的に問題を拡大させ係争の拡大と周知を図ることなどが沖縄県知事の目的であったのだろう。結局は係争の決着を裁判所がつけていることから当委員会が果たした役割は係争状態に引き延ばしに加担したに過ぎなくなったということ。本来、国が自治体に対して審査申請することが政治的にも経済的にも社会的にも圧力とりなりスラップ訴訟となりかねない。沖縄の事案はその逆であるから目的としては稀なケースかもしれない。当委員会が自治体の権利を守る機能を発揮できているかどうかは疑問に思う。

 さて、再任予定の菊池洋一氏は元広島高裁所長で弁護士である。東京高裁部統括も務めた。朝日生命や丸紅の監査役にも就いている。裁判官としての経験もながく係争処理の専門家である。要職を歴任していることから委員には適任であると考える。

 再任予定の辻琢也氏は一橋大学大学院法学研究科教授、政策研究大学院大学教授である。政治学、行政学が専門。総務省ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会座長、岩手県持続可能で希望ある岩手を実現する行財政研究会座長、人口戦略会議副議長、秋田県人口減少時代における持続可能な行政サービスの提供のあり方に関する有識者会議座長、第31次地方制度調査会委員、内閣府行政刷新会議評価者、地方分権改革有識者会議農地・農村部会委員、総務省地方財政審議会専門委員、総務省自治大学校講師、総務省定住自立圏構想の推進に関する懇談会委員、定住自立圏構想研究会委員、総務省広域連携が困難な市町村における補完のあり方に関する研究会座長、総務省地域医療の確保と公立病院改革の推進に関する調査研究会座長、消防庁消防職員の団結権のあり方に関する検討会座長代理、国土交通省社会資本整備審議会委員、国土交通省国土審議会特別委員、国土交通省都市再構築戦略検討委員会委員、文部科学省中央教育審議会臨時委員、東京都東京の自治のあり方研究会座長、公立大学協会公立大学の力を活かした地域活性化研究会委員等を歴任している。とんでもない数の諮問会議や有識者会議のメンバーに任命されてきた。絵にかいたような政府の御用学者である。論文は専ら官庁広報誌、学会は日本学術会議、日本政治学会、日本行政学会、自治体学会である。この人物に限っては賛成しがたい。国と自治体の間でフェアな判断ができるような気がしない。政府や官庁の世話になり続けて今に至っている。国への忖度をしないなんてことは考えられない。よって、委員にふさわしいとは思わない。

 再任予定の小高咲氏は北海道立総合研究機構理事長である。札幌市出身で日本銀行時代には札幌支店長を務めたこともある。北海道二十一世紀総合研究所副社長や北海道経済同友会副代表幹事も務めている。国地方係争処理委員会の委員に向くかどうかは経歴からはわからないが1000名以上の職員と研究員を抱える道総研を率いる北海道を代表する女性リーダーである。国立大学法人北海道大学の外部委員にもなっている。有能なことは間違いない。同委員会の委員にも当然ふさわしいと考える。

 再任予定の勢一智子氏は西南学院大学法学部教授である。行政法、環境法、地方自治法が専門である。北九州市 北九州市政変革推進会議構成員、環境省洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会委員、総務省地方公共団体金融機構 活力ある公立大学のあり方に関する研究会委員、環境省中央環境審議会地球環境部会・気候変動影響評価・適応小委員会委員、福岡市緑の基本計画検討委員会委員を歴任している。論文に「行政争訟制度の新たな地平」というものもあることから当委員会には最適であると考える。

 再任予定の山田俊雄氏は弁護士で東京都立大学法学部教授で専門は民法である。さいたま地裁所長、東京高裁部統括も務めている。一時、退職して国鉄清算事業団に勤務したのちに裁判官に復職している。平成17年には証券取引等監視委員会事務局次長も務めインサイダー取引と実態やディスクロージャー制度を研究した。司法研修所で教官も4年間務めており400人ほどの教え子がいる。最高裁の管理部門にいたこともある。山田俊雄氏の経験は余人に代えがたく当委員会の委員にふさわしいと考える。

 以上、国地方係争処理委員会委員の同意人事案については辻琢也氏の任命には再考を求めたいが他の者全員について賛成することが適当だと思料する。

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