食品安全委員会委員の同意人事について

安全と共に去りぬ。

 食品安全委員会委員の同意人事についてである。食品安全委員会は国民の健康の保護が最も重要であるという基本的認識の下で規制や指導等のリスク管理を行う関係行政機関から独立して科学的知見に基づき客観的かつ中立公正にリスク評価を行う機関である。

 直近の委員会の議事のメモと議題の資料に目を通してみた。一つの議題に関する資料だけでも14枚もあった。専門家でないと結構時間を食う。食品中のオクラトキシンAの規格基準の設定についての会議であった。オクラトキシンAなんて初めて聞く単語だ。マジンガーZなら覚えがあるが。世界中で検出されているかび毒で穀類、コーヒー、ココア、ビール、ワイン等の様々な食品の汚染が報告されているとのこと。健康影響評価は食品安全委員会が独自に行いOTAの安全基準値の設定の必要性を政府に具申していた。この会議では設定値の数値を決定するための報告が行われた。食品規格部会では小麦及び大麦に対して5 µg/kgの規格基準を設定することが妥当という結論に至っていた。食品安全委員会ではその結論を元に規格の設定、規制の在り方を検討している。違反率を1.5%以下程度に抑えることを確認し部会の決定と同じ5 µg/kgとすることが適当であることを決定した。

 食品安全委員会では委員が出席する会議を年40回程度開催している。多少、予習が必要とされる会議である。もちろん専門性とデータや統計の解析力も備えていないといけない。委員会では食品含有物の成分の規制だけではなくリスクの評価も行っている。そのフィールドは限りなく広い。食品添加物、農薬、医薬品、化学物質、包装、微生物、肥料などである。それらの健康影響評価を実施したうえで食品の安全性の確保のため講ずべき施策について通知や勧告を内閣府、消費者庁、環境省、厚生労働省、農林水産省などに行っている。

さて、食品安全委員会の委員は委員長を含め7名が任命されている。5名が学者、1名が医師、1名がジャーナリストで構成されている。今回は2名の再任と4名の新任を行う人事案である。

 常勤で再任予定の浅野哲氏は元国際医療福祉大学薬学部教授で残留農薬の安全性確保のためのリスク評価に長けていると思われる。学会では若年健常者を対象とした緑茶摂取による生活習慣病予防効果-終末糖化産物を指標とした検討などを講演している。WHO残留農薬合同会議毒性専門委員も兼務している。環境省中央環境審議会土壌農薬部会土壌環境基準小委員会臨時委員や経済産業省化学物質審議会安全対策部会委員も務めた経験を持つ。毒性病理学では第一人者の一人といえる人物であることから当委員会にはうってつけの知識を持ち合わせていることから再任することは適当であると考える。

 常勤で新任予定の頭金正博氏は名古屋市立大学薬学研究科レギュラトリーサイエンス分野教授で元厚生労働省国立医薬品食品衛生研究所医薬安全科学部室長である。機械学習による薬物性肝障害の予測手法の開発やアバカビルによるHLA-B*57:01を介した特異体質性副作用を発表しフォーラムでの受賞歴も多い。分野、能力、実績共に申し分なく新任にふさわしい人物であると考える。

 常勤で新任予定の祖父江友孝氏は大阪大学大学院医学系研究科環境医学教授で日本肺癌学会評議員や日本公衆衛生学会査読委員、日本がん疫学研究会幹事を歴任してきた。衛生学、公衆衛生学分野が専門である。児童生徒の突然死の実態解明と発生予防に向けた疫学研究や子育て期の女性と子どもの健康に影響を与える子育て環境要因を把握する社会疫学研究に取り組んできた。疫学や衛生学を専門とする学者の起用は最適であり有用であることから新任することは適当と考える。

 非常勤で新任予定の小島登貴子氏は埼玉県産業技術総合センター北部研究所研究員である。埼玉県中央環境管理事務所 (大気水質課)や埼玉県大久保浄水場 (水質課)に勤務してきた。食品化学分野の専門家で水質や麺類など詳しいものと思われる。他の委員の経歴が強烈であることから小島登貴子氏の実績にほんの少し見劣りを感じるが非常勤の委員に任命するには値する人物だと考える。

 非常勤で新任予定の杉山久仁子氏は横浜国立大学教育学部教授で学校教育課程家政教育を担当している。一瞬、文系の方かと思ったが農学博士であるから理系だった。食品化学、家政、生活科学を専門分野としている。中学校新学習指導要領の展開技術・家庭分野編という著書もある。先生たちが読んで授業方法を得るのだろう。「炭火焼がおいしい理由」なんていう論文もある。コンベクションやオーブンなど加熱調理に関する論文が多い。研究歴も長く当委員会の委員に十分な知識見識をお持ちだと思われ任命にすることは妥当であると考える。

 非常勤で再任予定の高原和紀氏は化学ジャーナリストという肩書を持つ。「あやしい健康情報とニセ科学」「食卓の安全学」「効かない健康食品」「お母さんのための食の安全教室」等の著書がある。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会・乳肉水産食品部会食肉等の生食に関する調査会委員、環境庁中央環境審議会委員、内閣府の消費者委員会食品表示部会委員も歴任している。農芸化学の食料、環境に対するアプローチを現実に沿って修正しながら情報発信に努めている。ジャーナリストとしての探求心と役割を明確に持った人物であり当委員会においても活躍が期待できることから再任することが適当であると考える。

以上のことから食品安全委員会の同意人事案には賛成するべきであろうと思料する。

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