物流業界の2024年問題に対応する法律案について

なんとかなるよ、うん?そう?

 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案についてである。働き方改革に関する法律が本年4月から適用される一方、物流の停滞が懸念される「2024年問題」に直面していることからその対策としての法整備を行う。

 働き方改革の一環として労働基準法が改正され時間外労働の上限が法律に規定され2019年4月から適用されている。自動車運転の業務については長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題があることから時間外労働の上限について適用が5年間猶予されてきたが2024年から適用の対象となる。2024年問題とは年960時間とされる時間外労働の上限規制の適用や月60時間を超えた時間外労働の賃金割増率が50%になることなど厚生労働省がトラックドライバーの拘束時間を定めた改善基準告示により拘束時間等の改善が強化されることによって様々な問題が生じること懸念されていることをいう。

 国土交通省は、具体的な対策を講じなければ2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)不足する可能性が、さらに、その後も対応を行わなかった場合、2030年度には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足する可能性があることを明らかにしている。全日本トラック協会の調べでは時間外労働が年960時間を超えるドライバーが全体の29%を占めるという。規制のみが進むと人件費上昇や扱える物量の減少などにより物流業界の売上と利益が減少する恐れがある。

 物流業界では長時間労働が常態化している。厚生労働省の統計によるとトラックドライバーは全産業と比較して超過実労働時間数が3倍を超えている。時間外労働時間の上限規制はトラックドライバーの長時間労働の是正につながる一方で走行距離が短くなり収入が減少する可能性が高い。宿泊を伴う長距離輸送は週2回に制限されるためドライバーの働き方も変わる。ドライバーの収入が減少した場合、離職が進むことは免れない。賃金が低下すると人材確保がさらに困難となり人材不足が加速することが予想される。

 2024年問題に向けた対応策として業務の見直し、業務の効率化、ドライバーの確保、荷主・消費者への理解促進、DX化の推進が挙げられます。運行計画、勤怠管理、出荷・受入、荷待ち・荷役、日報・月報など多岐に渡る業務を見直すことは必須である。また、ドライバーの大きな負担となっている手荷役やフォークリフト荷役を機械化やパレット化で支援することも重要だ。伝票の電子化は予約アプリの導入なども改善に繋がる。人材不足は深刻である。多くの企業が早出残業や休日出勤で対応している。荷主には物流にとって負担となる荷待ち時間の発生、遅延への罰則、無理な依頼などをしないように理解を促進する必要がある。併せて消費者へ置き配を促進し可能な限り再配達が発生しないようにする一層の取り組みが望まれる。運送ルートのAIによる最適化や入出庫や在庫管理のシステム化、自動配送ロボット、物流倉庫のロボット導入など業務の自動化及び効率化も重要である。

 さて、2024年問題を踏まえて新たに規定される法案の中身を検討する。まず、流通業務総合効率化法では荷主と物流事業者に対して物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し国が判断基準を策定する。物流効率化の基準は後に省令で規定されるが2019年比で一人当たりの荷待ち・荷役時間を年125時間の削減、輸送能力の16%向上が重要業績評価指標とされている。国はその基準に基づき取り組み状況について指導・助言、調査・公表する。荷待ち・荷役作業に掛かる作業時間の2時間以内ルールなど国がこれまでまとめた「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」などを参考に今後内容が決められていく。一定規模以上の事業者は特定事業者として中長期計画の作成や定期報告、荷主企業には物流統括責任者の設置も義務付けられる。中長期計画に基づく取り組みの実施状況が不十分な場合、勧告・命令を実施する。違反の場合、最大100万円の罰金が科される。荷主は上位約3000社、物流は約400社、倉庫は約100社が特定事業者となる想定である。

 貨物自動車運送事業法の改正では元請事業者に対し実運送事業者の名称等を記載した実運送体制管理簿の作成が義務付けられる。また、運送契約の締結等に際して提供する役務の内容や附帯業務料や燃料サーチャージ等を含む対価について記載した書面による交付等が義務付けられる。下請け事業者の運送の利用の適正化について努力義務を課すとともに、一定規模以上の事業者に対して当該適正化に関する管理規程の作成、責任者の選任を義務付ける。軽トラック事業者に対し必要な法令等の知識を担保するための管理者選任と講習受講、国交大臣への事故報告が義務付けられる。国交省HPにおける公表対象に軽トラック事業者に係る事故報告、安全確保命令に関する情報等を追加される。

 これらの法改正によって2024年問題は解消されうるだろうか。改善基準告示によりトラックドライバーの年間総拘束時間が216時間減少する。勤務時間が減少することでトラックドライバーの給料が減少する恐れがある。全産業の平均年収と比較するとトラックドライバーは低賃金といえる。さらに給料が減少すると離職が増加したり人材確保が困難になる可能性がある。トラックドライバーの人員確保を目的に運送会社が運賃を上げると荷主側の輸送費用が増加し利益率は減少する。国土交通省は運送会社に荷主に対して運賃を平均8%引き上げることを提言すると共に「トラックGメン」を創設して長時間の荷待ち、運賃・料金の不当な据え置き、適切な運行では間に合わない到着時間の指定等の違反原因行為が行われていないか監視を強化している。結局のところ売上の原資であるトラックドライバーの労働時間が減り運べるモノの量が少なくなることで運送事業者も荷主も売上と利益の減少に繋がってしまう。消費者への影響も少なくない。労働環境の改善する費用だけではなくエネルギー価格の高騰も無視できない。宅急便も含めて既に運送料金の値上げを決定した企業も多い。トラックドライバーの総拘束時間や時間外労働時間が制限されると今まで通りの輸送ができなくなったり輸送が断られる等不便が生じたりする可能性がある。輸送効率を重視するために当日配達や翌日配達ができなくなったり配達エリアが縮小されることもあり得る。

 これら輸送危機を補うために輸送形態の切り替えも行われつつある。トラックでの輸配送の一部を船舶や鉄道に代替する取り組みである。九州からの輸送はほとんどはトラック輸送であるが、その一部を北九州門司からのフェリー輸送に切り替える試行が行われている。輸送費用は増加するが労働時間は短縮できる。北海道では貨物列車での輸送も盛んになってきたが札幌向けの輸送需要に集中しており札幌発の貨物の積載率が低いことが課題となっている。輸送機能を複数企業で共有する動きもみられる。ローソンは日配を一日3回から2回に減らし、減らした1回分の輸送力を利用してワタミの宅食の配達を行っている。コカコーラボトリングはファミリーマートと提携し自社の配送網でファミリーマートの店舗への配送を一部の地域で請け負う。ユニ・チャームは独自の圧縮技術を使って荷物の容量を10%程度減らすことに成功した。年間にすると10トントラック1000台分の削減にあたるという。大王製紙はパレット輸送化で荷積み、荷下ろし時間を78%削減した。物流業界としては長距離輸送から中継輸送へのシフトを目指す傾向が見られる。日本郵便は高松市、岡山市、それに福島県郡山市にある郵便局を中継地点と位置づけ別のドライバーが運転するトラックにゆうパックの荷物を引き継ぐことで長距離輸送に対応することとした。輸送時間は少し延びるが長時間労働を回避する方策のひとつにはなる。企業の生産性の向上、労働効率の向上、DX化などへの設備投資は問題解決への大きな前進である。並行して民間による業務改善ばかりに頼るのではなく政府のインフラ投資を積極的に進めるべきだ。高速道路網の渋滞緩和策、メンテナンスの迅速化、最高速度の見直し、自動運行レーンの導入試験、海上および鉄道輸送の支援などである。

 物流業界の崩壊の原因は過去の行政改革にある。1990年に運賃の自由化、事業許可制から認可制へ、最低車両台数の削減など行った結果、輸送料金は安くなったがそれ以上にトラックドライバーの収入の低下を招いた。さらに2003年の小泉政権下で営業区域の制限が撤廃され運賃の事後報告制が導入されたことが致命傷となった。物流件数は2倍に膨れ上がったが貨物量は1/3に激減。貨物積載率は40%にまで低下し荷台の半分以上は空気を運んでいる状態を招いた。荷待ち時間は平均3時間となり賃金が低下したにも関わらず労働時間だけは長くなっていった。

 外国人労働者でトラックドライバーの不足を補う政策を続けると物流業界は更なる崩壊に至る可能性がある。AIやドローンの活用、共同運送、中継運送などで業務の効率を向上させ積載率を高める必要がある。設備投資を促進しあらゆる業務の最適化を促すことでインフレギャップを埋める。政府は交通インフラの整備とサプライチェーンの平準化を進める支援を惜しまないことである。より多くの荷物を運べる事業環境を取り戻すことが賃金の復活をはじめ2024年問題の解決に寄与するであろう。 

*働き方改革に応じて運送業界の労働環境を改善すると労働力の不足が益々顕著となるという意見もある。政府の環境改善が物流業界の労働者増が期待できるというのは楽観的すぎないか。

*ドローンの利用には多くの制限エリアがあるが、ドローンを物流や配達業務に活用するには規制の再整備が必要となるのではないか。

*運送業界の人材不足を外国人労働者で補うことは企業の生産性の向上や設備投資を抑制してしまうことになるのではないか。

*民間へのインフラ投資にばかり頼らず政府が積極的に交通インフラに投資すべきなのではないか。

*荷主が強くなりすぎたのはデフレ経済を脱却できない政府の失政に責任があったのではないか。政府の責任で物流キャパの維持と回復に取り組むべきではないか。


参考

「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」国交省

https://www.mlit.go.jp/report/press/tokatsu01_hh_000747.html

2024年3月21日 本会議_流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案について

https://www.youtube.com/watch?v=lU3O_UJKUWQ

政府 物流関連2法一部改正案を閣議決定、業界労働環境改善へ 日本自動車会議所

https://www.aba-j.or.jp/info/industry/21395/

物流2024年問題への対応 国交省

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/torihikimondai/019/dl/008.pdf

規制導入で「物流の 2024 年問題」解決なるか? 渡邉 徹 交通経済研究所

https://www.itej.or.jp/cp/wp-content/uploads/katsudou/kt20240222.pdf

トラックドライバーの10%賃上げに「多重下請」の規制!? 2024年問題で政府が「物流改革」に本腰 FULLLOAD

https://fullload.bestcarweb.jp/news/375702

「2024年問題」物流業界で配送効率高める取り組み広がる NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240401/k10014408481000.html

改善基準告示見直しについて 厚労省自動車運転者労働時間等専門委員会バス作業部会

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000840794.pdf

トラックドライバーの給与

https://note.com/eastcoast/n/n3614a2050c9a

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