航空業務に関する日本国政府とクロアチア共和国政府との間の協定について

クロアチア、ふろあついわ、

 航空業務に関する日本国政府とクロアチア共和国政府との間の協定が2023年7月に署名されている。本協定はクロアチア側から提起されたもので日本とクロアチア間の定期航空路線を開設し運航することができるようにする意図である。定期路線の開設によって貨客の安定的な運搬が行われ両国の経済的な関係や国民の交流が促進され相互理解が深まることが期待される。

 これまでは空路での乗継便、チャーター便、周辺国からの鉄道やバスが主なクロアチアを訪問する手段であった。2003年にはわずか約1万5千人であった日本人の訪問者数が2019年には約15万人まで増加していた。その後、新型コロナウィルスの感染拡大によって約1万人にまで減少していた。コロナ禍も明けて世界経済が活発化する中で日・クロアチア間での定期路線の開設を望む声が高まったことが協定の締結に繋がった。

 日本はEU加盟国であるイタリア、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランドの13カ国と既に二国間航空協定を締結していることからクロアチアとの締結は14カ国目となる。

 クロアチアは南ヨーロッパのバルカン半島に位置する共和国である。人口は約385万人であり日本の約30分の一程度、面積は日本の約6.7分の一、名目GDPは日本の約52分の一、防衛費は日本の約50分の一である。とはいえ、観光業が牽引し経済成長率は日本の1.5倍以上となっている。日本からクロアチアへは自動車や電化製品が輸出され、クロアチアから日本へはマグロが輸入されている。対クロアチア輸出は約123億円、輸入は約95億円。日本からの開発援助は無償が約9.5億円、技術提供が約10億円である。2023年6月時点で在クロアチア日本人は175名、在日クロアチア人は155名となっている。

 クロアチアと日本は嘗て同盟国であった。1941年から1945年にかけて日本とクロアチアは日独伊三国同盟における同盟国であった。クロアチアがドイツの傀儡国であったことによる。戦後はユーゴスラビア共産主義者同盟が指導するパルチザンのチトー氏によって多民族国家ユーゴスラビア社会主義連邦共和国に参加し連邦を構成する一部となった。1980年代半ばからセルビア共和国とスロヴェニア共和国の対立が深まり、クロアチアはスロヴェニアに同調するようになった。1989年に起きた反共産革命以後、自由選挙を認め民主化の気運が高まり1990年にユーゴスラビアでも複数政党による選挙が行われた。その結果、ユーゴスラビアからの自立を掲げるクロアチア民主同盟が勝利し政権を掌握した。1991年には国民投票が実施されクロアチアの独立が承認された。クロアチア領内に住むセルビア人はクロアチア政府による統治に反対していたためにユーゴスラビアに20万人以上が移り住むこととなった。2009年にはNATOへの加盟が承認され軍事的に西側諸国として認識されるようになった。NATO加盟によって日本とクロアチアは日米安保条約下での準同盟国となった。続いて2005年から加盟交渉を行ってきたEUへの加盟を2013年に達成した。旧ユーゴスラビア構成国家での中ではスロヴェニアに続く2例目であった。

 実はクロアチアは観光大国であり主要産業は観光産業である。コロナ禍前の2019年にウクライナを訪れた外国人観光客は1900万人にも及ぶ。ウクライナの人口の4倍以上に上る。「アドリア海の宝石」と呼ばれ気候は温暖で風光明媚である。首都ザグレブは冬には欧州一美しいと言われるクリスマスマーケットが開かれる。セントラルステーションにはかつてはオリエント急行が停車した。ドブロクニクはアドリア海に突き出た旧市街を城壁が取り囲んでおり城壁に上るのが人気となっている。コナヴレ地方は肥沃な土壌と太陽の光に恵まれワイン作りが盛んでワイナリーを巡るツアーが人気である。マカルスカはクロアチアを代表するリゾート地でアドリア海をゆっくり楽しめる。背後にはビオコヴォ山がそびえ立ち麓の自然公園でトレッキングもできる。クロアチア第2の都市スプリットはアドリア海に面する風光明媚な街。街中に城壁が張り巡らされて中世ヨーロッパの荘厳な雰囲気を味わえる。クルカ国立公園にはヨーロッパで最も美しい滝の一つがある。園内の湖をめぐる遊覧船も就航しており、ヴィソヴァク島に浮かぶフランシスコ修道院を訪ねることもできる。古都シベニクには世界遺産の聖ヤコブ大聖堂がある。曲線を描く大きなドームや柱に壁面などはすべて石を削り出して作られており完成まで150年かかったという。イストラ半島は第二次世界大戦までイタリアに属しており、現在も一部がイタリア領となっている。そのため街中にはローマ時代の遺跡も多く残されておりロヴィニをはじめとする海沿いの街はノスタルジックな雰囲気が漂う。コルチュラ島はオリーブオイルやワインの生産が盛んな島でヴェネチア時代の面影を色濃く残す美しい街並みが広がっている。クロアチアにはその他にも多くの人気観光地が存在する。観光立国のクロアチアにとって空港路線の開設は日本以上に重要ということがわかる。

 観光以外のクロアチアあるあるをいくつか紹介する。ネクタイはクロアチアが発祥の地である。17世紀前半の30年戦争の頃、女性は愛する人の首に赤いスカーフを巻いて戦地へ送り出した。「無事に帰ってこられますように」との祈りを込めたものです。それがフランス人の目にとまりルイ14世の時代に世界中に広まったと言われる。現在でもフランス語ではネクタイと呼んでいる。ダルメシアンもクロアチアのダルマチア地方からとられた名前だと言われている。もともとは猟犬だが戦場などで番犬としても有能な働きをしたと言われている。シャープペンシルはクロアチア人のペンカラが発明したもの。万年筆もクロアチアが特許を取得している。クロアチアでは1991年から1995年の内戦時から俳句が盛んになり、俳句の国際大会でもクロアチアの入選率が最も高くなっている。クロアチアの本まぐろは幼少期に漁獲し生簀で養殖しておりそのほとんどが日本に輸出されている。

 近年のクロアチアの動向であるが2023年にはシェンゲン協定を発効している。ヨーロッパの国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定である。シェンゲン協定は既に29カ国が締結しておりアイルランドと北アイルランド、キプロス、ルーマニア、ブルガリア以外のEU加盟国の国境に国境検問所がない。モナコはEU加盟国ではないが事実上シェンゲン協定を締結している扱いである。バチカン市国やサンマリノ共和国、サンドラ公国もEU非加盟国であるが国境は解放されている。シェンゲン加盟国は域外国境管理を共通で行うためクロアチアはボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロの国境管理、監視、入域検査などを担うことになる。

 同時期にEUの単一通貨であるユーロを正式に導入した。ユーロの単一導入国は20カ国目である。クロアチアはユーロ導入で為替変動を通じた調整メカニズムを失う一方、為替の両替コストやヘッジコストを節約でき他のユーロ圏との間の価格の透明性が高まり産業誘致や観光客の増加が期待できる。また、大手格付け会社は同国の長期国債格付けを引き上げ資金調達コストの低下につながった。EU協議会ではクロアチアがユーロ圏独自の政策決定の場で20分の1の投票権を持つことになるがクロアチアは既にEU加盟国のためEUの政策決定に及ぼす影響はない。欧州中央銀行の政策決定に参加するメンバーが1人増えることになる。クロアチアのユーロ導入によって同国国内5銀行が欧州中央銀行の直接監督下に置かれることになる。いずれにせよ単一ユーロの導入とシェンゲン協定を発効はクロアチアへの渡航者にとっては好都合であることは間違いない。

*定期航空便を就航させた場合に日本側にリスクはあるのか。

*NATO加盟国で準同盟国であるクロアチアとの連携を模索できる観光以外の分野ないか。


参考

航空業務に関する日本国政府とクロアチア共和国政府との間の協定 外務省

https://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/st/pagew_000001_00441.html

日・クロアチア航空協定 概要 外務省

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100638476.pdf

クロアチア Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%83%81%E3%82%A2

日本とクロアチアの関係 Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A8%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%82%A2%E3%83%81%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82

世界経済のネタ帳

https://ecodb.net/area/

クロアチア基礎データ 外務省

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/croatia/data.html

クロアチアがユーロ導入 ~単一通貨圏は20ヵ国体制に~ 第一生命総研

https://www.dlri.co.jp/report/macro/228344.html

シェンゲン協定 Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%82%B2%E3%83%B3%E5%8D%94%E5%AE%9A

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