日本原産のシャインマスカットなどの海外流出の現状

マスカット、食べマスカット?

 今年9月、農水省がニュージーランドの企業に日本原産のシャインマスカットの栽培権(ライセンス)を供与する方向で検討を進めていることが報じられ、山梨県をはじめとした国内産地の生産者から強い反発を受けたことが大きな話題となった。

 ニュージーランドへのシャインマスカットのライセンスの供与は実は合理的で理に適った判断と言えなくもない。ニュージーランドは南半球に位置し赤道を挟んで日本と対極に立地する。よって、日本でぶどうが収穫できない時期にニュージーランドでは収穫時期を迎える。日本からの輸出に加えて現地での生産を進めることで年間を通じてシャインマスカットを供給できる体制を整えることができる。日本の生産者からは農産物の輸出機会を逸することへの懸念の声が上がったが決してそのようなことはない。

 ライセンスの供与には別の観点から懸念されることがある。ライセンス先から苗木が不正に流出しない為の管理をどうするかという問題である。不正流用が疑われる農産物のDNA鑑定の期間は2週間ほどに短縮されたが、一度コピー商品が流出し広く市場も出回るとその制限や回収は容易ではない。農水省はライセンス供与を不正流出の防止、品種の質や競争環境を守るための政策の一環だというがそうとは限らない。外国でオリジナルを生産する以上は流出のリスクを多少なりとも伴うことは避けられない。

 ひとたび流出すると瞬く間にそれは市場を席巻する。中国に苗木が流出したシャインマスカットはَ陽光バラや陽光翡翠の名称で日本原産として広く流通し人気を得ている。同様に日本原産のシャインマスカットは韓国でも生産され流通している。中国産や韓国産のシャインマスカットは香港やタイ、ベトナム、マレーシアにも輸出されて販売されていることが確認されている。

 このような状況にあるのはシャインマスカットだけではない。イチゴも同様である。日本原産のイチゴは無断で韓国でも栽培されている。今では韓国のイチゴ栽培のシェアの8割を占めると言う。種子産業法でイチゴを含む全植物が保護対象となったのは2012年。韓国に日本原産のイチゴの種子が流出したのは2006年であることから日本の育成者の権利が守られることは無かった。さらに2012年には韓国は日本原産のイチゴを韓国品種として登録する行為に及んでいる。

 2021年に状況を打破すべく改正種苗法が切り札として施行された。海外への種苗の持ち出しの制限、国内の栽培地域の指定、登録品種の自家増殖は許諾が必要、登録品種の表示を義務化などが主な内容である。育成者の許諾なしに海外に種苗を持ち出すことはできないし、育成者は余程の理由がない限り許諾することは考えられない。不正に種苗を持ち出した場合は刑事罰や損害賠償の対象となり大きなリスクを伴うことになる。ただし、在来種は許諾の必要はない。国や自治体が開発して登録している品種のみが許諾の申請の対象となる。

 いずれにせよ、人口減少が進む日本において経済成長を維持するためには様々な産業のあらゆるテクノロジーに関する研究開発において成果を生まなければならない。その上でオリジナルの権利を保護し、正当に保証された流通を確立し、市場の優位性を確保すること、先駆けて政府はその整備を進めなければならない。

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