令和三年税制改正大綱について(参議院浜田聡議員のお手伝い)
今年も無事になんのこっちゃないバレンタインデーが通過しました。コロナ禍で緊急事態宣言が出ているから自粛したのではないと思います。私にとっては例年通りのさびしいバレンタインデーですので通常運転でございます。もう、あばれたいンデー!期待しても浮かばれんタインデー・・・。
さて、昨日、参議院浜田聡議員のお手伝いにあがり下記の件について考証しましたのでここに記します。
昨年12月に閣議決定された令和3年度税制改正大綱が今国会で成立の見込みです。コロナ禍で国民生活や企業活動の環境が悪化している最中だという背景もあり消費税減税に対する期待もあったのですが、公表された内容は実に物足りない政策だと感じました。衆参で与野党がねじれているわけでもないので現実としてこの案が成立するということになると思われます。その具体的内容の一部と私が消費税減税を期待していた理由を下記に記していこうと思います。
【個人所得税】
資料:財務省、令和三年税制改正大綱より
*住宅ローン控除
住宅ローン控除自体は以前から存在する制度です。しかし、2019年10月の消費税増税を受けて、10年だった控除期間が13年に延長されています。ただし、期間延長の対象になるのは、消費税10%で住宅を購入し、2019年10月~2020年12月末日までに入居した場合のみでした。これを今回の法案は令和4年12月31日までに入居した者を対象とするように改正しようということです。控除の額の上限は年間40万円で原則は住宅ローンの年末の残高の1%相当額です。控除の対象となるのは住宅取得年の所得が3000万円以下で住宅ローンの返済期間が10年以上で床面積が50平米以上(年収1000万円以下の者に関しては40平米以上)であることが前提となります。上限の40万円を超えて引き切れなかった額は住民税から引くことも可能です。延長された11年から13年に関しては消費税の増税分にあたる2%を3年間をかけて控除という形で返ってくるということです。つまり、購入金額の2%を3で割った金額が控除されます。
さて、住宅ローン控除に関しては少し気になる点があります。もともとは「住宅ローンを借り入れて住宅を取得する場合に、取得者の金利負担の軽減を図る」という趣旨のもとで設けられた制度です。ローン残高の1%を基準に控除できるとされています。しかしながら、現在の金融市場では概ね住宅ローン金利が1%を超えることは稀なのではないでしょうか。そうであるならば、住宅ローンを利用する必要のない人もわざわざ住宅ローンを利用して差額の利益を得ようとしてしまうのではないでしょうか。制度の目的である金利負担の軽減どころかそれを超える控除を受けることになっているという実態があります。政府は令和4年に見直すとしています。制度の期間延長のみならず制度を実態に即したものにすることも気が付いているのならば本年度に行うべきだったと思います。控除を受ける際には住宅ローン金利の利息の利率を明記するようにして、1%を下回る利率での利息負担にはそれに即して控除するようにすべきだと思います。
【法人課税】
資料:財務省、令和三年税制改正大綱より
*カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の見直し
これには大きく分けて2種類の対象が想定されています。ひとつは、脱炭素効果を持つ製品を生産する設備を導入する費用に対して税額控除10%か特別償却50%を選択できます。もうひとつは、生産工程での脱炭素化と付加価値が向上するエネルギー管理設備などの導入する設備費用に対して3年以内に炭素生産性7%以上向上した場合は税額控除5%又は特別償却50%、3年以内に10%以上向上した場合は税額控除10%又は特別償却を50%できるという制度を想定しています。ただし、DX投資促進税制の税額控除との合計で法人税額の20%が限度となります。
*繰越欠損の控除上限の特例
元来は所得金額の50%を上限とされている繰越欠損金に対して、カーボンニュートラルやDX、事項再構築などに前向きな投資を行う企業に対して、その投資額の範囲内で、最大5年間は繰越欠損金お控除限度額を最大100%とする特例を創設するというもの。
赤字企業が投資する切っ掛けとなるほどの革新的な制度とは思えませんが、むしろ、赤字であっても企業の構造改革に取り組む果敢な姿勢に対しての褒章としては十分な制度であると思います。
代表的なものとして取り上げました上記のもの以外に2年間の延長措置が取られるものとして下記があります。
*中小企業の法人税の軽減税率(所得金額年800万円まで15%)の特例措置
*中小企業投資促進税制(一定の設備投資に対し30%特別償却又は7%税額控除)
*中小企業経営強化税制(経営力向上計画上の設備投資に対し即時償却又は10%税額控除)
*エコカー減税(重量税の免税又は減税)
さて、令和3年度税制改正大綱を見て残念なのは消費税に関しての改正が含まれていないことです。国民生活においても企業の営利活動においても消費税によって阻害されていることは多いと思います。消費税が10%に上がったことに対する軽減措置を講じるのではなく、消費税という存在の効能自体を再考してはいかがでしょうか。消費税が社会保障の財源だというと国民は何も言えなくなってしまいます。しかし、実際には消費税は社会保障の財源としてはそもそも導入された経緯は無いのです。後の2012年に消費税の増税が決められた際には「社会保障制度改革推進法」が可決成立しています。社会保障の定義として
第二条の2
「自助、共助及び公助が最も適切に組み合わされるよう留意しつつ、国民が自立した生活を営むことができるよう、家族相互及び国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援していくこと。」
とあります。これではまるで互助に頼るが如きの前提に受け取れます。さらに、2013年12月に成立した「社会保障制度改革プログラム法」では、
「政府は、住民相互の助け合いの重要性を認識し、自助・自立のための環境整備等の推進を図るものとする。」
と定義しています。政府は環境整備にあたるだけで現実的には国民の自己責任に任せるという規定です。
消費税が導入された1989年から高齢化社会への対応を旗印に税率が3%から5%、5%から8%、8%から10%に繰り返し引き上げられてきましたが社会保障の充実と安定化には一向に至っていないように思います。社会保障費を消費税収は大きく下回っています。それどころか消費税の多くは国債の返済原資になってしまっているのではないかと危惧します。もし、消費税が財政健全化の為の財源だったとしても赤字財政は年々膨らんでいます。そのようであれば政府は社会保障を保証するような消費税の使途を限定した規定を制定することは出来なくて当たり前なのです。つまり、消費税によって社会保障の安定も財政の健全化も成し得ていないという状況なのです。
下記:財務省、税収の推移
消費税が導入された翌年の1990年の所得税は26兆円、法人税は18.4兆円でした。令和元年の所得税は19.1兆円、法人税は11.7兆円です。1990年から2019年の間で所得税は6.9兆円、法人税は6.7兆円、所得税と法人税の合計で13.6兆円の減収となっています。一方、2019年の消費税収は19.1兆円ですのでその差は5.5兆円となります。5.5兆円の増加では膨らむ社会保障に対応することは出来ません。消費税の税率は数度に分けて上がってきましたが、それに反して法人税や所得税は下げられて来ました。結果、大企業の税負担や高額所得者の税負担は大いに軽減されてきたと考えることも出来ます。消費税が導入される前には「一億総中流社会」と言われていたのが「格差社会」と言われるようになったのは消費税導入以降のことだと思います。
また、消費税の大きな欠点は所得階層によって負担感が違うということです。例えば低所得者層の人が200万円の年収から全額の200万円を消費に回すと約20万円の消費税を負担し所得に10%を課税されているのと同じことになります。一方、所得2000万円の富裕層の方が消費に400万円を使い、貯蓄に1600万円を回したとします。消費税は約40万円で所得に対する消費税率は2%で済むということになります。実質的に低所得者は高所得者の5倍もの税率を課せられているようなものと考えることもできます。
このことから、「物を買ったときに誰にでも同じ率で課せられますし、払いたくなければ消費を抑えればよいのだから消費税は公平な税金だ」とする消費税の説明は現実に適っていませんし誤解だと思います。消費税を避ける為の貯金という行為が出来ない低所得者、つまり弱者ほど消費税の課税負担は大きいというのが現実です。
税金の役割には所得の再分配機能があります。消費税は所得格差を是正する再分配機能を果たせていない制度なのです。
下記:財務省、世界の税の国民負担
世界の主要国の国民税負担率を見てみますと日本の水準は相当低いことがわかります。日本が25%、イギリスは36%、ドイツは31%、イタリアとフランスは40%です。圧倒的に低いと言えます。要するに日本は富裕層への課税が少ないとも言えます。日本の富裕層は他の先進諸国の富裕層に比べて納税していないと言えるのかもしれません。高額所得者への課税率が下がったり、大企業の法人税率が下がってきたことのシワ寄せが消費税に来ているとすれば税の公平性に欠くと思います。
また、日本は間接税が少ないという人もいます。間接税とはモノの値段の上に税を加算するのですが当然モノの価格は高くなります。モノの価格が高くなることは国民の消費生活に直結することですので我慢を強いられることになります。日本の物価はスイス、ノルウェー、アイスランドに続いて世界4位となっています。既に日本の物価は世界有数に高い状態になっています。世界有数の物価高にある日本において消費税を課すことは他の先進諸国に比べて負担が大きいということになります。消費税率だけを比較して高低を論ずるのは違います。デフレの状態を脱せずにいるような主張をよく聞きますが、日本は既に世界有数の物価高の国なのですからこれ以上の物価の高騰は容易ではありません。そして、日本において間接税を増やすことは低所得者、弱者を困らせる方策となってしまうのです。
消費税を導入する際は「一億総中流」という国民の意識であったので弱者意識を持つ国民は少なかったはずです。消費税が導入されて30年以上が経過して明らかになったことは格差社会を国民が意識するようになったということです。そして、結果として富裕層と大企業を優遇する税制を導入したということです。
また、消費税言い換えれば付加価値税のことですので課税の対象が人件費と利益に対してになります。顧客に販売した商品に付加した消費税を預かって、商品を仕入れた際に支払った消費税を相殺して支払うのですからその差は人件費等や利益ということになります。そうであるならば、企業は利益を確保するために人件費を抑えようとします。人件費を抑えきらない場合は社会保障を伴わない雇用形態を模索するようになります。企業のそのような行為は営利を目的にすることで存続するのですから当然の指向です。消費税という付加価値税の存在が雇用とは両立しがたい制度なのです。
下記:AVARALA社、赤旗より
随分と税制改正大綱と話がそれてしまいましたが、私はコロナ禍にあるこの機会に期間を限定して消費税を減税し、その間に所得税率と法人税率の議論を行うことで消費税に頼りすぎない税制改革を目論むことが出来たら良かったのに思いました。
消費税率を段階的にでも下げていき、同時に富裕者層への課税を再検討することも必要だと思います。新型コロナ感染症の対策に注力するこの機会にこそ消費税の改善を検討するチャンスがあったと思います。よって、ある意味、残念な気がする今年度の税制改正大綱でした。
最後までご拝読を賜りありがとうございました。
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