Arm中国子会社が乗っ取られた件について(参議院浜田聡議員のお手伝い)
傘とかさー、邪魔イカ・・・でも、じゃ、まぁ、イッカ。
昨日は参議院浜田聡議員のお手伝いに上がり、半導体関連の国際的なガリバー企業のArm社(英国)の中国の子会社が乗っ取られた事件について検証してみました。
中国での外資合弁企業のトラブルが絶えません。ソフトバンクグループも例外ではなかったようです。その内容をわかる範囲で検証してみたいと思います。
Armという会社をご存じでしょうか。イギリスに本社を置くArmホールディングスは省電力の小型プロセッサやシステム基盤を設計するファブレス企業です。Armアーキテクチャと呼ばれるArm社によってライセンスされたプロセッサを含む商品はAppleやファーウェイやSAMSUNGなどの携帯電話や任天堂switchなどのゲーム機、テレビやデジカメ、ネットワーク機器、ハードディスク制御回路、日本が誇るスーパーコンピューターの富岳などあらゆる先端機器に採用されています。出荷数は2000億個を超えており同業のインテル社に迫る勢いで成長する企業です。子会社はアメリカのシリコンバレーと東京と中国にあり、子会社では取引先のニーズに合わせたプロセッサやシステムの設計やデザインやプログラミングを行い、製品の生産は外部企業にライセンスしています。そのようなファブレス形態であることも急成長の要因であるのかもしれません。また、フランス、アメリカ、ベルギー、ノルウェーなどの開発企業を買収し、GPUやDSP Optimo DE、マイクロコントローラ向けプログラミングツール、通信用チップ設計などの開発などプロダクト領域を買収に拡大してきたことも成長に寄与したのだと思います。
2016年には日本のソフトバンクグループがArmホールディングスの全株式を3.3兆円で取得しオーナーとなっています。その後、2020年にソフトバンクグループはアメリカのNVIDIAに全株式を4.2兆円で売却しています。(2021年9月現在、英国公取委の承認待ち)2016年当時、多くの投資評論家からぼったくりと揶揄された買収でしたが、さすがにArm社は全世界の携帯電話のCPUの約95%のシェアを持っているだけあって高付加価値企業です。全株式の売却が承認されるとソフトバンクグループはたった5年足らずで莫大な利益を出して売却することになります。半面、世界有数の有望企業であるArm社をなぜソフトバンクグループは手放したのか不可解ですらあります。中国市場、インド市場のみならず世界中の産業機器、通信端末において更なる半導体のニーズが拡大されると予想される中で業界の牽引企業の一つであるArm社の全株式を手放すことは買収した時のインパクト以上の衝撃的な判断ではないでしょうか。
さて、ソフトバンクグループがArm社を手放すことにした原因となったのではないかと考えられる要因を後述します。ひとつは独禁法の適応を恐れたのかもしれません。中国政府がソフトバンクグループの投資先であるアリババに対して独禁法を適用して巨額の罰金を科したことがありました。そのトラウマがソフトバンクグループにはあったのかもしれません。また、Arm社にとって重要な巨大市場である中国での出来事です。すでに中国国内で流通する携帯電話の約99%がArm社のアーキテクチャが採用されています。そうなると中国政府の外資規制や中国国家の要求も強くなることが予想されます。ソフトバンクグループはArmの中国子会社株の過半数を中国政府系投資企業にArmにとって優位な条件で売却することで中国市場でのポジションを維持するのみならず、中国政府のバックアップも期待したのだと思います。さらには中国証券市場でのIPOも期待していたのではないでしょうか。いずれ到来するであろうIoT時代にはArm社のアーキテクチャは数兆個の販売も夢ではありません。中国子会社を中国政府との合弁企業とし国家プロジェクトにすることで製品が中国国産化することが出来、協業によって双方の利益を確保できると考えたのだと思います。ソフトバンクグループは子会社株を売却するにあたり、子会社での利益の多くをこれまで通りArmホールディングスに還元することを条件として中国政府と合意しています。中国側も携帯端末の心臓と呼ばれるチップの知的財産を管理することが出来、ライセンス認証のイニシアティブをとることできるようになります。同時にArm社のグローバルイノベーションシステムの一員になることが出来、様々な集積回路の設計、開発、販売に携わることも可能となります。中国にとってArm社のグローバルな産業システムはモバイルネットワークやモノのインターネット(IoT)、人工知能など多くの基幹分野で潜在力を秘める先端技術を得る絶好の機会であったのでしょう。もちろん、外資企業が中国で内需ビジネス(ホールセール事業者として)を行うには中国企業の51%以上の出資が必要です。ソフトバンクグループが中国を半導体の生産拠点もしくは製品開発拠点という位置付けだけではなく、中国をIPの巨大市場とみなして進出するための投資とビジネスリスクだったとも言えます。
しかし、ソフトバンクグループの誠意ともとれる中国政府系企業への子会社株の売却がArm社にとって大きな禍をもたらすことになります。中国子会社の株式比率は中国側投資会社が51%、Armホールディングスが49%です。Armの中国子会社が合弁会社になってまもなく当該合弁会社で大きな問題が発生しました。合弁会社のCEOであるアレン・ウー氏がArm Chinaとは別の法人を立ち上げ、その法人に自身のみならず投資会社からもエクイティ投資を受け入れたのちにArmからのライセンス認証を受けて技術移転や優先的なプロダクトを行うような契約行為をしたのです。また、アレン・ウー氏はArmのライセンス認証の対価を割り引く代わりに自身の立ち上げた法人に投資するように誘導していました。これは紛れもなく背任行為ですのでソフトバンクグループもこのアレン・ウー氏を解任するのですがここで更なる問題が発生します。当該企業の公的書類や印鑑をアレン・ウー氏が所有しているために解任が出来ないことが判明します。おかしなことに中国では正式な法人の印鑑を持った者の権限が他を超越することに法律上なっています。このことに対してソフトバンクグループやArmホールディングスは当然抗議するのですが中国側の投資会社は静観しました。中国当局もこれに関して一切の動きを見せていません。その後、Armホールディングス本社はアレン・ウー氏に近い役員3名を解任しますが、解任された役員3名をアレン・ウー氏は再任してしまいます。止む無く、ArmホールディングスはArm Chinaへの新規ライセンスの提供を報復として中止しました。新たな製品情報、設計情報が止まることでアレン・ウー氏の暴走も止まるものと思われていました。
下記画像:www.gamecast-blog.comより
ところが、2021年8月31日、アレン・ウー氏は正式に会見を行い、Arm ChinaのArmホールディングスからの独立を宣言しました。独立を宣言するとともにArm Chinaが中国国内最大のIPサプライヤーであることを強調しました。また、Arm Chinaは独自のIP商品のリリースも発表しました。アラン・ウー氏が率いるArm Chinaは現在、当該法人を乗っ取り、旧来の製品のライセンス認証と新商品の提供を旧来からの顧客に対して続けています。
下記画像:robotstart.infoより
ソフトバンクグループはNVIDIA(アメリカ)にArm株を売却していますが、国際的な企業の権利の移転は国際機関の承認を受けなければなりません。Arm社の本店所在地の英国の公取委の裁定が待たれている状態です。どうやらArmの取引先の数社がNVIDIAとも取引があるということで時間がかかっているようです。英国の承認だけでなく中国の承認も得なければなりません。ArmとNVIDIAの両社は中国の企業ではありませんが、両社ともに中国で4億ドル以上の収益をあげており、中国の独禁法の対象となるからです。中国の独禁法に違反すると罰金が科されるのですが、その額は中国政府の気分次第です。両社が中国での販売を諦めない限り独禁法の対象となることは避けられません。現在はその判断がまだ下っていませんが、NVIDIAとの株式取引が無効となるとソフトバンクグループに大きな損害が発生する可能性が高いと思われます。
出来ることであれば、ソフトバンクグループは経済産業省とも密に連携してこの問題の解決にあたって欲しいと思います。アメリカと中国の覇権争いに巻き込まれることは地政学上、避けなければなりません。アメリカは安全保障上の問題などで一部の中国製品の受け入れを停止しています。製品のみならず一部の中国企業への投資も禁じています。それに対して中国政府はアメリカの自己陶酔による内政干渉だと対立を強めています。
さて、上記のような外資系企業の乗っ取りか容易に且つ合法的に実行できるのでしたら中国は成熟した法治国家とは言えません。信用に値しないどころか犯罪を容認する国家とも受け取れます。中国は中国共産党一党独裁の国家です。経済を開放しつつも社会主義を前提とした国家運営を行っています。米国に次ぐ経済大国にもかかわらず法外な行為を後押しするようなことがあれば、国際的に正義(アメリカ)と悪(中国)の対峙のようなレッテルを世界から貼られることにもなりかねません。ソフトバンクグループが巻き込まれた今回の問題はソフトバンクグループのみならず、ソフトバンクグループに多額の資金を融資するみずほ銀行にも影響が及ぶかもしれません。殊更に中国のこの問題(合弁企業の乗っ取り行為)に対する姿勢を非難するばかりではいけませんが、中国での外資企業内の綱引き、もしくはコンフリクト企業間での不合理な条件での闘争で解決が不可能な状態であれば日本国として経産省の介入は必要不可欠な多国間取引の問題になろうかと思います。
なぜならば、IPチップは携帯電話、車、パソコンなどIoT社会における情報を蓄積することができ、それは軍事産業に同様に使われます。Arm Chinaの顧客を通じて中国製のチップが世界に流通することは国家の安全上でも機密に関しても大きく危惧される問題だからです。
遡ること20年ほど前に私の会社でもこのような事態に直面したことがあります。簡単に言うと我社の中国子会社(衣裳生産工場)が日本の本社からの発注を断ってきました。随分と驚きました。親会社の発注が子会社に断られる、わけがわかりません。しかし、中国ではそんなことが起きるのです。中国の子会社(中国政府51%、自社49%株式保有)は日本の親会社に設備とランニング費用を負担させておいて、中国の同業他社の仕事をこっそりと請負い、その利益で現地の董事長の懐を温めているのです。そして、その収益の一部を出資した政府系の投資家にも還元しているのです。もちろん、抗議しましたが通用しませんでした。理由は、Arm社と同じようなことです。現地の代表者の印鑑がないと税務上、事業が継続できないので、親会社の意向を無視することが可能だということでした。それでは何のために中国に生産拠点を置いたのかわかりません。こんな目にあったのは私だけではありません。私が懇意にする婚礼衣装メーカーの同業者たちの工場も中国にありましたが同じような目にあっています。よって、同じような目にあった多くの日本企業(婚礼衣裳メーカー)がベトナムやインドネシア、フィリピンに生産拠点を移転しました。だから、Armの問題に対して私は「中国は相変わらずだな」と思いました。中国において合弁企業の乗っ取りや解任された董事長の居座りは常套手段で日常的に起こりえることなのだと思います。
Armの問題は「中国だからしょうがない」では済まされません。多国間企業だからです。世界のビジネスの秩序を脅かす可能性があります。中国で合弁企業を擁する世界的に影響力の大きいガリバー企業はたくさんあります。携帯はApple、自動車産業ではゼネラルモータースやフォード、化学ではハルツマン、ホテル業界ではハイアットとスターウッド、小売りではウォルマートやスターバックス、金融ではシティバンク、エンタメではドリームワークスなど上げればきりがありません。日本からも多くの大企業が現地に合弁企業を保有しています。日立、パナソニック、鹿島、トヨタ、日産、ホンダ、マツダ、三菱、三井、JFE、東芝、NEC、資生堂などほとんどの大企業が進出しています。Armの問題は多くの現地の合弁企業に影響を及ぼす問題です。アラン・ウー氏の行いが肯定されるようでは外資系の合弁企業の権利は担保できないということになります。第二のArm社やソフトバンクグループにならないとも限りません。あまりにも大きな事業リスクだと判断して中国でのビジネスに否定的になる外国企業も多く出て来るでしょう。外資系企業の多くは多国籍企業です。世界を牽引する国家の一つである中国も国際的なビジネス秩序を維持するために必要な倫理観を備えることが急務です。
今回の問題のようなビジネスマナーの悪さも、暴挙の容認も社会道徳上許されることではありません。もし、このようなことが許されるのでしたらそれはその国家の悪しき思想が反映されているとしか思えません。そして、それが中国であれば中国共産党一党独裁の悪影響であることに相違ないと思います。つまり、独裁というひとりよがりでわがままな体質が表面化したにすぎないのだと思います。企業の乗っ取りは窃盗です。それが許されるのなら、法よりも独裁者の胸先三寸で対応する国家だと言われても仕方のないことです。世界の経済界のみならず国際社会が見守る中、中国は正当で冷静で当然の幕引きを用意しなければなりません。そして、アラン・ウー氏は自身の置かれた立場とビジネスマナーを見直す必要があるでしょう。アラン・ウー氏のしていることは世界では全く評価もされなければ認められることもない忌々しき行為です。このまま、平穏無事にArm Chinaの運営が維持できるとは思えません。
ソフトバンクグループは出来ることなら経産省と情報を密にし、WTOへ事態の収拾を働きかけることについて協議することも一案だと思います。また、Arm Chinaの残りの保有株式(49%)を手放してアラン・ウー氏に乗っ取られた合弁会社と縁を切ることも有効でしょう。その上でArmホールディングスは中国市場でのライセンス認証契約を行うビジネスを仕切りなおすこと良いのかもしれません。半導体業界においてArm社の設計力、企画力、蓄積したノウハウはずば抜けており、圧倒的な支持を得ています。Arm社がArm Chinaの株を切り捨てて事業を仕切りなおすことは多くの中国国内の顧客も望むことである可能性も高いでしょう。泥棒やものまねで本家本元を超越することは不可能であろうし、市場もそれを認めないと思います。「中国が倫理的であることは難しい」などと言っていられる時代は過ぎ去ろうとしているのではないでしょうか。
最後までご拝読を賜りありがとうございます。
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