社会保険料の引き下げは可能かどうか(参議院浜田聡議員のお手伝い)

 令和4年を迎えて最初のブログの更新になります。寅年ということで、私もタイガーになりたいがー、です。今年も頑張っていきタイガーと思います。

 社会保険料の引き下げの可能性について考えてみました。結論から申しますと理論的には可能なのでしょう。しかし、社会保険料の引き下げが国民の利益に繋がるかどうかを考えると一律に論じることは困難です。

 さて、社会保険料とは厚生年金と健康保険と雇用保険、介護保険、労災保険の総称として使われています。社会保険料は、税金ではありません。税金とは、「国や自治体の財源」として、国民が納める必要があるお金のことです。税金には、物やサービスを購入した際に課される「消費税」や、所得額に応じて課される「所得税」、住んでいる自治体に納める「住民税」などがあります。一方、社会保険料は「保険給付を受けるために」労働者が納める必要があるお金です。社会保険料と税金では、その目的が異なります。

 厚生年金は18%程度の負担になります。健康保険は10%程度です。介護保険は一律1.8%、雇用保険は0.9%、労災保険は0.3%の負担です。そのうち、厚生年金と健康保険と介護保険と雇用保険は事業主と折半での負担になります。労災保険は全額が事業主の負担です。社会保険料全体では給与に対して31%程度の負担となりますが労働者の負担は16%程度になります。

資料:保険料率の変遷、協会けんぽ、厚生年金保険料率の変遷表、日本年金機構

 戦後、厚生年金も健康保険も導入当初と比べて3倍の負担率になっています。戦後の日本の経済成長に合わせて社会保険料の料率が上がっただけと言えるのかもしれません。賃金に対して料率が設定されているので一概に高いとは断言できません。

資料:厚労省、平均給与(実質)の推移

https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-08-02.html

 バブル崩壊以降は社会保険料の上げ幅ほどには給与所得が増えていないことから、額面給与に対する社会保険料の割合が大きくなり、以前よりも社会保険料を「高い」と感じる人が多くなっているのではないでしょうか。

資料:財務省主計局、国民負担率の国際比較(OECD加盟35ヵ国)

 平均年収や各種保険の給付内容も異なるため、単純比較はできないものの、日本における国民負担率(※)は、諸外国に比べるととくに「高い」とは言えないようです。外務省のデータによると、2018年の国民負担率は日本が44.3%なのに対し、アメリカは31.8%、フランスは68.3%でした。

 国民負担率はその国の社会保障がどれだけ充実しているかを示すため、一概に低い方がいい、高い方が悪いとは言い切れません。「低負担・低福祉」のアメリカ、「高負担・高福祉」のヨーロッパ諸国のどちらが望ましいかは、個人や社会の状況、考え方によって異なります。

 賃金が低く、税や社会保障の負担が大きい状況では日本の将来を背負う優秀な人材が海外に流出してしまうという意見も散見されます。ですが、例えばアメリカでは公的な医療制度自体が存在しません。米国の年金額も$2000÷(勤務月数÷420)ですから決して多くありません。年金制度が最も優れていると世界で評価されているのがオランダやベルギーですが、両国共に消費税は20%を超えています。マクドナルドのビックマック指数で比較すると日本が390円であるのに対してアメリカは約624円、ベルギーは約550円、オランダは約495円です。要するに内容や物価を勘案すると日本の社会保険料は世界の中ではまだマシな方ということなのかもしれません。

 欧米諸国の年金制度に倣い、物価に応じた支給水準となるように見直しをする場合は社会保険料を値上げする余地があるということになります。一方、赤字国債を発行することで社会保険料の料率を引き下げる場合は、可処分所得が増加することで物価高、つまりインフレが見込めることになります。購買意欲が高まることは消費税収の増加に繋がることから底堅な財政出動であると思います。消費税がビルトインスタビライザーの役割を果たすことになるとインフレ効果も抑制されます。よって、願わくば、赤字国債を発行して社会保険料の引き下げを行う場合には消費税率の引き下げも並行して行うことが必要だと思います。その場合は、金融所得や不労所得、一時所得などへの課税を強化しても良いのではないでしょうか。インフレ効果をより底堅にするには資産の流動化を促す必要もあると考えます。

資料:共同通信、ベーシックインカム

 さて、社会保険料の引き下げのもう一つの方法として、現在の社会保障制度と並行してベーシックインカムを導入するという考え方です。社会保障制度の一部をベーシックインカムで相殺することで制度全体を小さくできます。将来的には公的な社会保障制度を廃してベーシックインカムに完全に移行すると国民の財産も生命も自己責任ということになるかもしれませんが、社会保険料の負担はなくなります。同時に政府の役割も小さくなります。私は完全なるベーシックインカムの体制への移行や実現を望みません。国民全員が不労所得を得たとしてもセーフティネットは必要だと思うからです。経済活動が継続される状況下で成否も貧富も避けては通れません。完全なるベーシックインカムに移行することは即ち国民の生存権も脅かされることになるのではないかと危惧します。年金も健康保険も生活保護も整備せず、小さな政府による最低限の行政サービスとすることで貧富の格差は益々広がり、治安や衣食住、教育や外交防衛に至るまで心許ない体制になるのではないかと思います。

 ベーシックインカムの導入を図るとすれば対象範囲を限定するべきだと考えます。例えば、芸術などの分野です。芸術における才能と収入はバランスされにくいと思います。才能は個性によるところが大きいので価値を見出すための物差しが一定ではありません。それでも芸術は国の文化的価値を高める存在でもあることから、その振興を計ること不可欠です。よって、認定された芸術家にベーシックインカムを適用することは文化の継承や発展や創造を促進し、その保護にも振興にも寄与すると思われます。芸術分野においての米シックインカムと社会保障制度の廃止は有効に機能する可能性があると思います。

 バランスをとる案として、社会保険料の引き下げと社会保障制度の縮小を考えてみます。医療制度に関して考えると加入期間が原則20歳から60歳です。介護分は65歳までです。その後は75歳までは国民健康保険、75歳以降が後期高齢者医療制度です。収入に応じて負担額が変わることから収入がある人だけが引き下げの可能性を図るターゲットとなります。

 社会保険料を引き下げた分だけ受益が減るとか、医療保険の自己負担率が上がるとか、損得が偏らないように負担と受益をバランスする案です。全加入者一律で社会保険料を引き下げる代わりに年金受給額を減額し、健康保険の窓口負担を引き上げるということも可能だと思いますし、社会保険料を減額するかどうかを加入者による選択制にすることも可能だと思います。いずれにせよ、自己責任が前提となる案です。

 では、社会保障制度の内容を維持したままで社会保障料を引き下げることについてです。MMT理論上では可能です。MMT理論が「自国通貨を発行できる政府は、インフレにならない限り、大量の国債発行をある程度許容する」という主張ですから財政は破綻しません。社会保険料を引き下げること可処分所得に上向きな効果をもたらしますが、もっと効果的な経済対策は他にもありますので社会保険料の引き下げに拘る必要はないと思われます。

 社会保障制度の改革や方針転換を目的にするのではなく、デフレ脱却を図る経済対策を目的としての施策であるならば、社会保険料の引き下げではなく消費税の引き下げを検討した方が効果的であることは明らかです。

 そもそも消費税増税はこれ以上、労働世代の社会保険料の負担を引き上げることが困難だという判断から、年金受給者にもその財源の負担を強いる為でした。つまり、消費税の減税効果は消費生活に関わる全ての人々に効果を及ぼすことからターゲットを限定しませんので実効性が高いです。法人にとっても消費税の負担は大きいものです。それは、法人で働く労働者の不利益にも繋がります。それは消費税が付加価値に対して課されるからです。具体的には人件費と利益に対して消費税が課されます。利益を減らそうとする企業はありませんから、消費税によって人件費が抑制される要因となります。消費税の減税は国民の消費生活のみならず、企業の収益構造にも大きく影響するのです。消費税の減税は社会保険料引き下げよりも大きなインパクト持っています。赤字国債の発行を容認され易いのは社会保険料引き下げよりも消費税の減税なのだろうと考えます。

 金本位制は1816年にイギリスで始まった通貨の価値基準ですが、1931年にイギリスで、1971年には米国が管理通貨制度に移行しています。管理通貨制度では通貨の発行が金銀の保有量に拘束されないので柔軟な景気や物価調整が可能です。政府の信用を棄損しないようにインフレ調整することが必要ですが、政府が「償還しない」と決定しない限り、自国通貨建ての国債においてデフォルトは概念的にあり得ません。MMT理論について詳述はしませんが、社会保険料の引き下げも消費税の減税も理論的には可能です。国債は信用創造の一環でもありますので、財政支出の拡大と民間資産の増大となり、それを棄損しないように政府は正しく認識ないといけません。現在において金利が高騰しないのは日本政府の信用によって適切に維持されていることによると考えます。

*本文で明記したベーシックインカムは財源を税金ではなく政府紙幣を前提としています。

 以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

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