公害健康被害補償不服審査会の国会同意人事について

大丈夫かな、健康、じゃなくて、この原稿・・・。

今回は国会同意人事の中でも特殊だと思われる人事案件を検討してみます。「公害健康被害補償不服審査会」の委員についてです。凄く長いタイトルですが、言葉通りに解釈してみますとこうなります。

「公害によって健康を害する被害にあって行政に補償を求めたけれども却下されたのが受け入れがたく不服に思っている。だから、もう一度、審査し直して欲しいので申請した機関の委員」

ということになるのでしょう。

 公害健康被害補償不服審査会というのは環境省の審議会の一つです。公害健康被害において、障害保障費、児童補償手当、療養手当、葬祭手当の補償等をすることを企業や国、地方自治体が行うことを定める公害健康被害補償法に基づいて環境省が所管する会です。

 公害健康被害補償制度というのは特定地域に一定期間居住して慢性気管支炎になったり、気管支喘息になった場合や特定の病気、例えばイタイイタイ病や水俣病や慢性ヒ素中毒症にかかった場合に保障される制度です。給付されるのは療養費,障害補償費,遺族補償費,遺族補償一時金,児童補償手当,療養手当および葬祭料とされています。認定は都道府県知事、もしくはが独立行政法人環境再生保全機構が行います。1987年以降は大気汚染は公害病とは認定されないことになっています。ただし、既に認定を受けている者はその後も引き続き給付を受けることができるようです。最近ではアスベストによる中皮腫・肺がん・石綿肺・びまん性胸膜肥厚の発症による公害認定が多くなっています。アスベスト被害はアスベスト生産工場に勤務する人だけでなく建築現場や鉄道や造船など様々な用途でアスベストが使用されていたための健康被害が広がってしまったようです。国が規制権限を行使して工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが違法であると訴訟にて判決が確定し保障制度にて賠償を行っています。

 では、公害健康被害補償不服審査会の出番についてですが、例えば慢性気管支炎で公害被害、の認定を受けていた患者が食道癌を発症し死亡に至った場合、公害によって発症した慢性気管支炎の症状によって食道癌の確定診断と治療が遅れたことによる被害を被った、などという二次的な補償を求めたケースもある。自治体では却下された判断が不服審査会で自治体の判断を取り消す決定を行ったこともあります。中皮腫においても、画像診断では中皮腫を積極的に示唆する所見はないことから被害を認定しなかったケースが、病理組織診断では腹膜に浸潤を伴う結節が見られ腫瘍細胞の免疫染色の結果から胸部中皮腫と認定することもありました。

 公害健康被害補償不服審査会の採決は公害健康被害補償法による決定であることから何物にも優先します。令和2年の実績は、大気系疾病の不服審査請求数は352件あり、44件が既決定が取り消され不服申し立てが認められています。石綿関係疾病は279件の申し立てがあり、26件の不服申し立てが認められる結果になっています。1割以上の被害者が救済されていることになります。

 さて、公害健康被害補償不服審査会の委員の顔ぶれですが、裁判所OBと医師で構成されています。現状では常勤が4名、非常勤が2名ですが、今回、非常勤の委員1名が任期満了となり、常勤委員1名を任命する人事案となっています。

 では、委員6名ですべての申請に対応しているのかと言えばそうではありません。実は委員以外に専門委員という委員と同等の審議を行うメンバーが存在します。専門委員は9名で構成されており、弁護士1名と医師が8名です。今回、委員に推薦されている山下直美氏は実はこれまで専門委員だった方です。つまり、既に公害被害の救済に関する判断に関わった経験を持った人物です。要するに昇格人事の提案です。山下氏は呼吸器内科の医師であることや経験を踏まえて委員にふさわしい人物だと思います。ちなみに報酬は年額1824万円です。年間の会議開催数は135回です。医師にとって決して厚遇とは言えませんし、かなり多い会議への出席の負担だけでも楽ではありません。申請に対する審査や裁決にも専門性が問われます。山下直美氏は武蔵野大学薬学部長を辞して委員の職を引き受けてくれるのですから私は高潔で素晴らしい人物だと思いました。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

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