道路整備特別措置法改正法案について

道路公団は泥棒団?高速道路は料金の拘束道路か。。。

 道路整備特別措置法及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法の一部を改正する法律案が今国会に提出されています。凄く長い法案名ですが簡単に言いますと、高速道路の債務の返済期間の延長と将来無料になると言って造った高速道路の料金徴収期間を延長しますという法案です。では、法案の中身を具体的に見ていきます。内容は大きく分けて4項目あります。

 一つ目は高速道路の造成や維持管理や運営を行うために起債した債務の返済期間を現在は2065年までとなっていますが、2073年までに延長する案です。債務返済機構法では返済期間は45年以内と規定されているのを今回の改正案で50年以内ということに法改正して2073年までに返済期間を延長する案となっています。返済期限が延長されるとそれに合わせて高速道路利用者の通行料負担の期間も自動的に延長されます。今回の返済期限の延長で料金徴収の期限も2115年9月30日まで延長されることになります。今から92年後までです。皆さん、生存している自信はございますか。私はもし生きていたら144歳です。生きられるとも生きようとも思わない年齢です。現在、この世に生を受けている人々にとって高速無料化なんていうのは夢物語です。もはや高速道路を無料化する約束は反故にしたも同然だと思います。起債しては返済を延長する法改正ばかりを恒例行事のように繰り返して来たことからこのような非現実的な現実逃避的な資金繰りになっていたのです。道路整備特措法上で判断すると高速道路の無料化なんていうのは構想段階での絵空事であり空論でしかなくなってしまっています。政府も国交省も高速道路の無料化なんて忘れ去っているのでしょう。

 このような起債と返済猶予の堂々巡りになぜ陥ってしまったのでしょう。それは貨幣価値や物価上昇が目論見に追いつかなかったからではないでしょうか。日本のGDPの実質成長率は1960年代は平均9.3%で推移していましたが、70年代は平均4.3%、80年代は平均4.0%に低下しています。そして、バブル経済が崩壊した90年代は平均1%に、2000年代は平均0.2%にまで急失速しています。2010年代以降も平均0.8%に留まっており低成長で推移してきました。要するに高速道路の計画が本格化し、国土開発縦貫自動車道建設法や高速自動車国道法が成立した昭和30年代、1955年ごろから1960年代は高度経済成長の真っ只中でしたので、その後の経済成長の急降下は思いもよらない事態だったのだと思います。一度、狂った歯車を元に戻し、再び高度成長路線に復帰することは困難を極め、気が付けば先進七か国で断トツの低成長となりました。物価指数でいうとアメリカ、フランス、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツは直近35年間で2倍から2.5倍の物価になっていますが、日本は2倍どころか20%しか物価指数は上昇していません。むしろ、デフレを抜け出せず、デフレと戦い続けた35年間だったと言っても過言ではありません。

 コロナ明けの世界経済はウクライナ問題もあり高い物価上昇に見舞われています。日本も例外ではなく物価上昇は続いていますが、諸外国と比較すると上昇率は低く抑えられています。今後、2%程度の安定的な物価上昇の軌道に乗せられるか、また以前のように緩やかなデフレを迎えてしまうか、政府の舵取りは重要な局面を迎えています。

 そもそもですが、高速道路公団はすでに民営化されており2004年の第二次小泉内閣において道路関係四公団民営化関係法が成立しています。2005年には高速道路株式会社(東日本高速道路株式会社・中日本高速道路株式会社・西日本高速道路株式会社・首都高速道路株式会社・阪神高速道路株式会社・本州四国連絡高速道路株式会社)と独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が設立されました。日本高速道路保有・債務返済機構は保有する高速道路を高速道路会社に貸し付け、高速道路会社の料金収入を貸付料として受け取り、債務を返済するというスキームになっています。高速道路を新規に建設する際は、会社が債券や借入金を調達して道路を建設し、完成後に資産と債務を機構に移行することになります。これ以外にも高速道路会社はサービスエリアやパーキングエリアの整備と運営、駐車場やトラックターミナルの整備と運営、不動産業などを行います。民営化時には40兆円もの負債があるとされ、債務超過ではないかという報道もありました。しかし、高速道路会社の事業収支自体は黒字であることから必ずしも健全性を損なっているという状態とは限らないという意見もありました。

 民営化スキームから読み取れるのは、本改正法案にあるように日本高速道路保有・債務返済機構の債務の返済期間は50年と決められているとしたら、返済額に合わせて否応なしに通行料が決定しまいます。デフォルトするわけにいきませんので、残った債務を返済期間で逆算して分割することで通行料が自ずと決まります。高速道路という財産の保有と高速道路自体の貸付を国の機関である日本高速道路保有・債務返済機構が行っており、民間会社の位置づけである高速道路会社から道路の貸付料を徴収しているのですから純粋な民営化とは思えません。民家企業に単に運営委託をしているだけのようにも映ります。事実、民営化すると高速道路の無料化はありえません。通行料を徴収できないと機構に貸付料を支払うことができません。民営化して国民の負担、車利用者の負担が減ったわけでもありません。一部の高速区間で高規格道路との接続で無料化された高速道路もありますが、それはほんの一部です。要するに民営化によって国民が得るメリットはそう多くはないということです。

 国民の通行料負担を軽減するには究極のところ過去に行った巨額の投資を経済成長、物価成長で飲み込んでしまうしかないのではないかと思うのです。せめてG7と同等の経済成長を達成して債務の数字的圧縮を図るべきです。プッシュ型インフレに苦しむ現状にありますが、政府は積極的に財政出動し、物価高騰に国民の可処分所得が遅れを取らないように誘導しなければなりません。高速道路の整備に対する費用は将来よりも過去においての方が圧倒的に多いと思われます。物価高騰によるこれからの費用負担の増加よりも、すでに負っている債務負担減の方が多いであろうと考えます。

 そうは言うものの将来に大きな入用が発生することもあります。ライフスタイルが劇的に変わるような、例えば、移動手段の主流が自動車ではなく、空飛ぶ自動車に変わるとか、どこでもドアのような空間移動ができる装置が開発されるとか。なんせ、本改正案は高速道路の料金徴収が今から95年先まで設定されている勘定です。そのような建付けは意味を成すのでしょうか。結局のところ、高速道路の民営化自体が国民の為にならない、言い換えれば、国民の負担を増しかねないことだったのではないかと思います。国鉄もJRになったのだから高速道路もネクサスになって当然だという判断は間違いだったかもしれません。高速道路も国道として政府が直接保有して運営することで国民の負担増を回避することができる場面は多くあると思っています。

 とはいえ、現状において高速道路の管理維持の費用の手当てはのっぴきなりません。本法案には賛成するしかないにしろ、将来的には高速道路は国道として国の保有管理下であることが望ましいような気がします。

 さて、本改正案の二つ目の項目です。高速道路の料金の不払いがあった場合は、運転者だけではなく車検証に記載されている使用者にも請求できるようにするという案です。軽自動車においては軽自動車検査協会から情報を取得できるようになる法案です。当然、賛成です。車の使用者は登録事項なので容易に判明しますが、運転者を特定することは困難を極めます。確実に通行料を徴収するためにも本改正案は現実的だと思料します。

 三つ目の事項は独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が高速道路会社にEV充電施設などサービスエリアやパーキングエリアの機能の設備高度化を図る為の資金を無利子で貸し付けることができるようにする法案です。この法規定も必要なものだと思います。高速道路会社が民間金融機関から資金調達することは可能ですが、その場合は無利子ではありません。当然のこととして高速道路会社が負担した利子は通行料に付加されて利用者の負担増になります。カーボンニュートラルは行政がリードしていることからもSA/PAの設備の高度化にかかる費用を無利子で事業会社へ貸付ることはは政策に適うことであると考えます。

 四つ目の事項は国道ではなく地方自治体が管理する高速道路、有料道路についても独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構が整備促進や適正管理ができるように財源の確保ができるようにする改正案です。これも当然賛成です。高速道路と密接に関連する道路を一つの道路として合算徴収するプール制を導入することができるようになります。有料道路利用者にとってしばしば通行料を徴収されるより合算して徴収される方が便利だと思います。

 本改正法案は以上の4事項が主となり構成されています。高速道路の債務先送りと通行料徴取の延長を主目的としていますが、本質的には政府の経済成長戦略の成敗や高速道路民営化の成敗が深くかかわっているように感じます。高速道路行政に関して正解の見えない挑戦を繰り返す状況を続けながらも一旦総括する必要性はあると思います。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。


参考

「道路整備特別措置法及び独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構法の一部を改正する法律案」を閣議決定 国土交通省

https://www.mlit.go.jp/report/press/road01_hh_001630.html

日本の高速道路、Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E9%AB%98%E9%80%9F%E9%81%93%E8%B7%AF

第154回 日本の物価は35年前と比べて約2割上昇したが、世界に比べると・・・日本生命

https://www.nissay.co.jp/enjoy/keizai/154.html

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

0コメント

  • 1000 / 1000