大麻取締法改正案と使用罪について
たいま 広がるのは警察の たいま・・・ん?。
2023年6月末に政府が発表した「骨太の方針2023年」の中に「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行う」という一文が掲載されている。医療大麻を解禁しようという政治的な動きは今に始まったものではない。CBC議連などでは2年以上前から議論や調査が行われてきた。医療現場からのニーズも確認されている。大麻から製造された医薬品が米国を始めとする欧米各国で承認されるようになっている。使い方によっては大麻の医療上の有用性が実証されているということである。大麻由来の医薬品は日本でも既に治験が開始されているが現行法では使用が禁止されているため医薬品として承認されても医療現場で使用することはできない。特に難治性のてんかんには有効だとされている。政府がこのタイミングで改正大麻取締法案を出してきたのは治験が進んでいる大麻由来の医薬品の承認にタイミングを計っているということであろう。
大麻の主成分はテトラヒドロカンナビノールとカナビジオールに大別される。テトラヒドロカンナビノールはTHCの略称で知られている大麻の主な向精神性の成分である。カナビジオールはCBDの略称で呼ばれ医療大麻の主成分のひとつでありTHCのような中枢神経作用等はないものと考えられる。日本で2022年から治験が行われているのはイギリスの製薬会社であるGWファーマ製のエピディオレックスという薬である。この薬剤もCBDを主な成分としている。日本国内にはエピディオレックスの使用を検討できる難治性患者が約2万人いると推定されている。エピディオレックスはイギリスをはじめアメリカ、ドイツ、イタリア、韓国など30か国以上ですでに承認されている。日本でもエピディオレックスの承認を望む声も多いが、たとえ承認されても大麻由来の治療薬は大麻取締法によって使用することができない。今回の改正法案は承認されても使用できないという矛盾を正す目的を持っている。
矛盾はこれだけではない。CBDは大麻取締法が改正されていない現在においても既に街で堂々と売られている。CBDを含む医療大麻を使用するにあたり大麻取締法に抵触することはないのではないかという疑問だ。厚生労働省は「現行の大麻取締法においては、大麻から製造された医薬品について、大麻研究者である医師の下、適切な実施計画に基づき治験を行うことは可能ではあるものの、大麻から製造された医薬品の施用・受施用、規制部位から抽出された大麻製品の輸入を禁止していることから、仮に、医薬品医療機器等法に基づく承認がなされたとしても、医療現場において活用することは困難」という見解を示している。厚労省の見解にも疑問が残る。街にあふれるCBD商品はTHCを含まない輸入商品である。国内での大麻草の栽培は法で禁じられているので国産のCBD商品はありえない。大麻取締法によれば大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く)並びに大麻草の種子及びその製品は大麻に該当しないとされている。これにより、これらから抽出されたCBD製品は大麻取締法の規制対象外となるから街中でも堂々と輸入されたCBDオイル等と称して売られているということになる。ただし、国の許可や承認を得ているという販売者の説明は違う。単に輸入の際の通関手続きをしているというだけで当たり前のことである。通関手続きを済ますことと政府のお墨付きとは全く関係のないことである。
CBD製品を輸入する際にはTHCが除去されていることを証明する必要がある。CBD製品の輸入業者はその製品が国や地域の法的な基準を満たしていることを確認する責任がある。その際、THCの含有量を適切に表示し製品が適切にTHCを除去または減少させていることを証明する証拠を提供することが含まれる。
現行の基準でいうと大麻由来の医療薬も輸入薬で、且つTHCを含まないことが証明できれば法改正の必要なないのではないか。確かにそうなのではあるがCBDオイルなどCBD商品には意図してかしないかは別として少量のTHCが含まれていることがある。2020年7月に埼玉県蕨市で実際にTHCが検出されたCBDオイルが回収されるということが起きた。輸入社の代表は「原材料を輸入している海外のメーカーや第三者機関の検査でも問題はなく原因は不明だ」としている。輸出者がTHCを除去した証明書を提出してもこのようなことが起こる。それはTHCの含有量の問題であるとされている。完全に除去しきれていないということだろう。例えばカロリーゼロを売りにした商品でも完全にゼロであるケースは少ない。限りなくゼロに近いということである。大麻由来の商品にも同じことが言える。THCを除去した商品であるとしても微量のTHCが残留することはありえるし、あって然りだ。その微量をどのように扱うかによって合法違法の認識が違ってくるのだろう。
THCを規制している諸外国の基準値は、イギリスは0.03%、オランダは0.05%、スペイン、ドイツ、ギリシャなどが0.2%、アメリカは0.3%、スイスは1%となっている。含有量が多すぎるのか少なすぎるのかは判断がつかないが法律を改正するのであればTHCの含有量の基準値を決めないと本末転倒となる。警察や麻取の匙加減次第というのが一番よくない。その基準値を制定したものの、その基準値が事実上、達成不可能な基準だと荒唐無稽な改正法案となってしまうということを念頭に置かなければならない。
本改正法案には医療大麻の解禁と合わせて大麻の使用に関する規制を強化する方針を示している。CBD議連の取り纏め案でも基本的に医薬での利用を除いてTHCを含む規制成分については禁止とし、麻草の嗜好目的での使用禁止についても徹底すべきであると提案している。政府は薬物の蔓延や乱用対策として大麻の使用を制限する規定を麻薬及び向精神薬取締法に盛り込む方針である。薬物事犯の検挙数は近年減少傾向である。覚せい剤の検挙数は直近10年で半減するペースで減少している。ところが大麻を所持して検挙された者の数は直近8年で約3倍に膨れ上がっている。そのうち45%が30歳未満の若年者であるという。大麻は所持することが違法であり使用は合法であるなどという詭弁が大麻の使用を軽視したり楽観視することに繋がっている。ここでいう大麻とはTHCを含んだものを言うのだが、政府は大麻に含まれるTHCの成分には知覚の変化として、時間や空間の感覚がゆがむ、学習能力の低下として短期記憶が妨げられる、運動失調として瞬時の反応が遅れる、精神障害として統合失調症やうつ病を発症しやすくなる、IQ(知能指数)の低下として短期・長期記憶や情報処理速度が下がるなどの脳などの中枢神経に影響を与えるとしている。また、大麻は酩酊感や陶酔感、幻覚をもたらすため、その感覚を味わった人は再び使用を繰り返す傾向があり依存症になりやすいとしている。依存症になると日常生活に悪影響を及ぼすことから規制するのが妥当だという。それは酒やたばこも同じことではないかという向きもある。しかし、たとえ酒やたばこが同様に日常生活に悪影響を及ぼすものであったとしても嗜好用大麻の使用を解禁する理由にはならない。酒やたばこは今更使用罪などで規制することが現実的ではないだけである。
大麻の栽培や所持は違法であるが、暴力団等の反社会的組織は大麻が違法薬物であるが故にこそ競合が少なく販売に関わることが多い。反社の資金源になりやすいということである。暴力団などの反社は比較的価格が安く利益の薄い大麻を売るよりも高額で依存度がより高い覚せい剤などを売るほうが効率的だ。政府の方針は使用罪を設けることで使用者を減らし、同時に反社会的組織の資金源を断つということである。
2018年に大麻を合法化したカナダはその逆である。カナダでは大麻を合法化する前は闇市などで売られている大麻の売り上げのほとんどがマフィアに流れていたとされる。そのマフィアの資金源を断つためにカナダ政府は大麻を合法化し、生産から販売や所持まで政府が主導することにした。マフィアから大麻販売の売り上げを切り離し、政府の管理のもと税収のアップに繋げるようにした。そもそもカナダでは大麻解禁前に大麻を使用した経験のある国民は41%もいてもはや解禁しているのと変わらない状態だった。罪悪感はないに等しかったと言える。日本は事情が違う。日本では大麻は解禁されていない現在、大麻を使用した経験のある者は1.4%しかいない。(厚労省調べ)やむを得なく大麻解禁に踏み切ったと思われてもしょうがないカナダとは事情と現状が大きく違う。ちなみに日本には外国で行われた犯罪も処罰できる「外犯処罰規定」と呼ばれる規定があり、日本人のカナダ現地でのマリファナの所持は違法となり刑罰の対象になる。
アメリカでは急速に大麻の解禁が進んでおり、23州で嗜好用大麻を、40州が医療用大麻を解禁している。アメリカでは大麻が合法化された後の社会への影響として救急搬送事例 が増加、違法栽培・違法販売が激増、健康被害や交通事故の運転手死亡者数のうちTHC陽性者数が増加しているという。幼児が大麻を誤飲して緊急搬送される例も増えている。米国運輸省道路交通安全局が2019年9月から2021年7月にかけて実施した大規模調査では、交通事故で負傷した運転手の54%強から薬物やアルコールが検出され、中でもTHCがアルコールを抑えて最も多かった。これまで州法での大麻解禁を連邦政府は黙認してきたがバイデン大統領は連邦法での大麻解禁も視野に入れている。カナダ同様にアメリカでも大麻使用者が急増していることが背景にあると思われる。19歳から30歳での44%、35歳から50歳までの28%が過去1年以内に大麻を使用したと答えており10年前から倍増に近いペースで急増しているというNIHの報告がある。
幸いなことに日本ではカナダやアメリカのように大麻取締法が形骸化していない。10年間で検挙者数が倍増しているとはいえ未だ1.4%の使用率に留めているのだから国民にとって罪悪感は大きい。医療大麻は弱者救済、科学的進歩と貢献と認め厳格なルールの下で解禁することに同意する。同時に大麻の使用罪を規定することは誤解を招きやすい現状の大麻使用に関する条文を明文化、明確化するだけのことだと受け止める。日本は大麻が事実上、解禁しているのに等しい状況に陥っているわけでもない。医療用大麻の解禁、嗜好用大麻、産業用大麻の禁止という状態を明快に分けた状態で様子をみるというのがベターだと考える。よって、政府案は現状に即して合点がいくものだと解釈した。
参考
大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法改正議論
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000925329.pdf
大麻規制検討小委員会のとりまとめ参考資料(案)について
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000995182.pdf
CBDオイルから大麻成分 埼玉の商社、厚労省公表
https://www.sankei.com/article/20200728-I2GDEPCUQNJIJE2SOXOAWVC2SM/
今話題のCBDオイル、摂取して逮捕も?!購入や販売時に注意したいこと
大麻取締法 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E9%BA%BB%E5%8F%96%E7%B7%A0%E6%B3%95
医療大麻 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%A4%A7%E9%BA%BB
CBD 製品の規制に関する提言書 CBD議連
https://jcbf.jp/wp-content/uploads/2021/08/CBD%E8%AD%B0%E9%80%A3_%E6%8F%90%E8%A8%80%E6%9B%B8.pdf
厚労省に提出された、大麻取締法改正へのCBD議連「とりまとめ案」とは?
https://forbesjapan.com/articles/detail/47646
薬物乱用防止のための情報と基礎知識 麻薬覚せい剤乱用防止センター
https://www.dapc.or.jp/kiso/31_stats.html
若者を中心に大麻による検挙者が急増!「誘われて」「興味本位で」が落とし穴に。
政府広報
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201806/3.html
カナダにおける大麻の合法化について 在バンクーバー日本国総領事館
https://www.vancouver.ca.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000921.html
テーマ : 「大麻」が合法の国もあるらしい。 大阪府
https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/2470/00447432/_yakuran_jireishuu_tyuugakkou%20(2).pdf
Marijuana and hallucinogen use, binge drinking reached historic highs among adults 35 to 50
悪影響を懸念も大麻解禁へ突っ走る米国の特殊事情とは 猪瀬聖
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/525e074fe3cdd94fd9cc6e17c6ec6804b4697de6
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