大阪万博、危ぶめば道はなし?

大阪ハンバーグ、じゃなくて万博。

 かつて万博でうまれたもの。1853年のニューヨーク万博ではエレベーターが、1876年フィラデルフィア万博では電話が、1970年大阪万博ではファミリーレストランやワイヤレス電話、電気自動車、歩くエスカレーターが、2005年愛知万博ではICチップ入り入場券、AEDが生まれた。2025年にふたたび大阪での万博が予定されている。万博とはその名の通り万国博覧会なのだが、海外旅行が身近になり、インターネットが普及し、世界中の情報を容易に得ることができるようになった。遠い国の文化や言葉や風景もパソコンやスマートフォンを少し検索すれば瞬く間に提供される時代となった。この数十年で国同士の距離は縮まり、地球は一気に狭くなった気がする。

 2025年日本国際博覧会協会の公式サイトによるとSDGsの達成への貢献とSociety5.0の実現を目指すという。物を生み出すのではないのでなんだか掴みどころのない目標である。

 SDGsについては17ものテーマについて理念と具体的取組が混ざっているので取り留めもない。参加企業はSDGsの17のテーマから1つ以上のテーマを選択する必要がある。そういえば2022年3月末まで開催されていたドバイ万博でもSDGsがテーマになっていた。2回連続でテーマの一部が被るというのはいかがなものか。

 Society 5.0 とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会だと記されている。メタバースという言葉も最近のよく耳にするようになった。仮想空間と現実空間の融合とはどんな世界なのだろうか、確かに興味は沸く。一層のこと2025年の大阪万博は仮想空間で開催すれば未来感があり、話題性もあり、来場者の利便性も高く、オペレーションも楽で、何より費用が少なくて済む。だが、それだともはや大阪万博ではなくなる。現実空間での経済効果も半減する。テーマはSociety5.0でも開催するのは現実的な工業社会、つまりSociety3.0ということになる。Society3.0から見る未来の展望である。

 さて、大阪府と大阪市が万博の開催を望んだのは大阪のブランディングの促進と高い経済効果を期待してのことである。開催決定後に公益社団法人2025年日本国際博覧会協会という法人が設立され主催者となっている。名誉総裁は秋篠宮皇嗣殿下である。会長は十倉雅和経団連会長、役員には大阪府知事、大阪市長、商工会議所会頭、経済同友会代表幹事、連合会長が名を連ねる。オリンピックの主催は都市であるが万博の主催は国である。ちなみに何人の人が万博担当大臣が存在すること知っているだろうか。現在は自見英子参議院議員が務めている。

 世界153か国と25の国際機関がパビリオンから展示まで様々な形で参加する予定になっている。日本企業のパビリオン出展数は13社となっている。2022年8月時点で協賛パートナーで15億円以上を協賛している企業は2社、10億円以上が7社ある。そのほかに23社が決定している。

 経済3団体が参画し多くの大企業が協賛する目的は経済効果を目論んでのことである。大阪府が経済波及効果について試算している。建設・運営・消費支出に経済波及効果を加えると11279億円になると試算。これに更に間接的な効果や誘発した効果を加味すると28859億円にまで膨らませた試算を発表している。この試算の根拠となっているのが愛・地球博での実績値である。実績値を基にして出した実数に1.30を積して波及効果としている。仮に30%を減じても2兆円を超える経済効果を予想していることになる。想定来場者は2200万人で愛・地球博と同等程度で想定した試算である。

 2兆円の経済効果をもたらすかどうかは来場者数による。大阪万博の入場料は7500円、ユニバーサルスタジオが8600円だから大きくは変わらない。愛・地球博は20年前だが4600円だった。大阪万博を大きく上回る192か国が参加し2022年3月まで開催されていたドバイ万博の入場料は約2850円で半年間で約2410万人が来場している。コロナ禍が明けて海外渡航が活発になっているのでドバイ万博の時より大阪万博は時期的に条件が良い。7500円は少し高めの設定かもしないが入場者数はドバイ万博より増える可能性もある。協会の来場者予想は2850万人と発表している。決して不可能な予想ではない、と言いたいところだが大阪万博には東京オリンピック・パラリンピックの余波を食らい悩ましい問題を抱えている。集客の為の宣伝を国内外で行うには大手広告代理店のネットワークが必要となる。それにも関わらず大阪府と大阪市は最大手の電通とそれに次ぐ博報堂を起用できない。東京オリンピック・パラリンピックでの談合事件を受けて両社は入札の停止処分を受けているからだ。もちろん他にも有力広告代理店は存在するのだが少し懸念を抱くのも致し方ない。特に電通は大規模イベントの運営実績も多い。大阪万博の運営は電通のノウハウを使うことは難しい状況にある。

 それにも増して問題となっているのがパビリオンなどの施設の建設費だ。建設費は当初約1250億円と想定されていたが2020年に約1850億円に増額されている。そして、2023年10月には最大2350円億円まで増える可能性があることが明らかにされた。二度にわたる増額で当初の予想の1.9倍の額に膨れ上がったことになる。建築費が膨らむ原因となっているのが資材の高騰などの物価の上昇と人材不足による人件費の高騰である。建設費用は国と自治体と企業が三等分して負担することになるが、2020年の一度目の増額を受け入れる際に大阪府と大阪市は今後の増額が発生した場合は国が負担することを意見書として可決していた。意見書であるから国がその旨を確約したということではない。

 2023年7月の段階では建設の着工はおろか着工するための建築確認申請すら1件も出されていないという。焦った日本政府はゼネコンに諸外国の建築の一部を協会が代わって発注するから工事を進める為の協力を仰いだ。解釈のしようによっては参加予定の諸外国の設計や確認申請が遅いことが殊更に問題視されているというように受け取れる。しかし、そうとは限らない。日本館の確認申請もされていないし、もちろん着工していない。外国だけではなく日本も進んでいないというのが現状である。日本館の遅れについては競争入札が不成立になったことが起因している。国土交通省は日本館の競争入札を諦めて随意契約を結び予定価格の9億円上回る77億円で清水建設に発注した。

 日建連の認識として今年中に着工すれば2025年4月には間に合うとしていることから決して手遅れになっているわけではない。価格高騰の問題、参加する諸外国の協力、人手不足の問題などが複合的に絡み合っていることから危機感が高まっているのである。日建連の宮本会長は「間に合わせないと日本の恥だ」と発言し危機感を持ちつつも開催期日に間に合わせる強い意志を示した。

 大阪万博の開催を求め推し進めた当時の松井知事と橋下市長は政界を退いている。安倍首相は非業の死をとげた。責任追求はもはや無駄なことである。建設費がほぼ倍増していることに国民が不満を抱くことは当然だが、急速な経済環境の変化が起きているのも事実である。先を読む力が不足していたことは否めない。当初の維新の会の計画では大阪万博と並行してIR構想の実現、それに続いてリニア新幹線の開業で東洋のマンチェスター、天下の台所は都市として大躍進することを描いていたのだろう。

 日本共産党はここにきて声高に大阪万博の中止を訴えている。東京オリンピック・パラリンピック時のように更に費用が膨らみ続けることを懸念し「『身を切る改革』と言っている維新の会は、大阪府民や市民の身を切って大規模開発を進めているのではないか。今、事業を止めないと国民もさらなる負担を強いられることになり、大阪・関西万博は中止すべきだ」

と主張する。

 中止を求める声には費用負担の対する懸念がほとんどである。費用とは効果を得るためのものであることを忘れてはならない。経済効果が大小によって費用に対する評価を得る。費用が膨らんでいることは事実であるがイベントへの集客や波及効果、その後の定着、展示や研究の社会実装などを経て結果の良し悪しが決まる。撤退国が雪崩式に出てこない限り計画を進めるべきだと考える。

 これを言ってしまうとおしまいですが、中止や延期は日本が決められることではない。万国博覧会国際事務局はパリの本部内にあります。170か国が参加しているが中止するには満場一致の賛成が必要となる。延期するには三分の二の賛成が必要である。中止も延期も容易いことではない。資材高騰や輸送費の高騰などで万博開催と断念するとなると日本は発展途上国に逆戻りしたと言われるのではないだろうか。大阪万博以降二度と日本での万博は開催されないだろう。少なくとも開発型のイベントとしては。

 「この道を行けばどうなるものか。 危ぶむなかれ、危ぶめば道はなし。 踏み出せばその一足がみちとなり、その一足が道となる。 迷わず行けよ、行けばわかるさ」この世を去ったアントニオ猪木の声が聞こえてきそうだ。「これが最後だ、バカヤロー」


参考資料

開催概要

https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/themes/expo2025orjp_2022/assets/pdf/overview/overview.pdf

EXPO2025公式HP

https://www.expo2025.or.jp/

国際博覧会大阪開催検討データ収集等調査より中間報告

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/25447/00207317/siryou3_dai3kai.pdf

「万博建設費の増額分は国が負担を」 大阪維新の議員が大阪府に要望 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASRBN4TMQRBNOXIE024.html

博覧会国際事務局

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%9A%E8%A6%A7%E4%BC%9A%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E4%BA%8B%E5%8B%99%E5%B1%80

共産 小池書記局長 “費用さらに増 可能性 万博は中止すべき” NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230925/k10014206461000.html

「図面を早く出して」日建連会長、万博協会に苦言…海外パビリオンの建設準備遅れで 

読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230721-OYO1T50007/

大阪万博が失敗確定な「4つの理由」、世界もあきれる“驚きの開催目的”とは?

https://news.yahoo.co.jp/articles/97a60259f3339c3ed293166caacf466a5a9036c5?page=1

0コメント

  • 1000 / 1000