防衛省の職員の給与の引き上げについて
給料にキュリョ(苦慮)してUP。
防衛省職員の給与を引き上げる法案が今国会に提出されている。給与が上がるのは防衛庁だけではないのだが自衛官は特別職国家公務員ですので国家公務員法とは別建てで防衛省の職員に関する給与の法律という法律がある。令和5年度の給与の改定案は高卒新卒が14500円増加し19万9880円、防大と防医大の学生が11100円増加し13万1300円、陸自高等工科学校生徒は11000円増加し11万7900円となる。その他の自衛官・事務官に関しては一般職給与法に連動して改定される。ボーナスに関しては学生、生徒、自衛官、事務官が共通して年間0.1月分が増加し年間3.4月分となる。テレワークを中心とした働き方をする職員には手当として月額3000円が支給される。例えば、20歳の士長で年間約26万円の増額、35歳の二曹で年間約11万円の増額となる。
これらの賃上げの根拠となるのが人事院勧告である。人事院勧告とは人事院が内閣・国会に対して行う「国家公務員の給与その他勤務条件の改善および人事行政の改善に関する勧告」であり民間企業の社員と国家公務員の給与水準を合わせる目的で行われる。令和5年度の人事院勧告では初任給を高卒は約8%の12000円、大卒は6%の11000円の賃上げを勧告している。初任給以外の職員の月給に関しては初任給を始め若年層に重点を置いて俸給表を引上げて改定する。行政職では月給を前年比0.96%にあたる3869円の増額を勧告した。ボーナスについても年間0.1月分を引き上げ年間4.5月分にすることを勧告している。また、テレワークにて勤務する職員に光熱・水道費等の負担軽減のため月額3000円の手当を支給することを勧告した。行政職では平均して前年比1.6%にあたる年間10万5000円の増額となる。今回の賃上げは1994年以来29年ぶりの高水準な賃上げとなる。
防衛庁職員の給与を引き上げる法案は令和5年度の人事院勧告に凡そ沿っている。公務員は労働基本権が制約されていることから社会一般の情勢に適応した適正な給与の確保が労使交渉では行えない。労働基本権制約の代償措置として人事院勧告制度が設けられている。民間賃金と公務員の賃金の差が5%以上になると人事院は国会および内閣に適当な勧告をしなければならない義務を負っている。勧告を受ける内閣は人事院勧告尊重の義務を負っている。
防衛庁職員の給料が人事院勧告通りの賃上げ案となっているのは人材確保の為である。防衛庁に限らず人材不足は顕著で自治体の7割で採用応募者が減少している。一方、国家公務員の離職率は徐々に上がっていっている。これまでは増えた業務量を効率化で補ってきた。効率化は今後ますます進みAIの導入も期待される。予算が人材に投下されない場合は行政の人材不足は更に顕著になるだろう。DX化を急速に推し進めても行政サービスに個別対応せねばならないケースは多い。高齢化や過疎化に対する対応は残る。人口が減っても行政の業務はそう簡単には減らない。
公務員の賃上げは人材確保以外でも不可欠な理由がある。公務員給与に鑑みて保育士、教員、福祉士、介護士、看護師など賃金の上昇を連動させたい職種も多くある。補助金で補うばかりが政治ではない。岸田首相は政治主導で人事院勧告を上回る思い切った賃上げを行ってはどうか。賃上げ分は近い将来税収との上振れとなって戻る。人事院勧告のような民間企業との賃金格差を是正するような後発的な賃上げではなく、公務員給与の圧倒的な上昇が民間企業の賃上げを牽引し誘発するような状況に転換してはどうか。少額の給付や小手先の経済対策よりも効果があるかもしれない。少子化対策にも繋がる可能性もある。
岸田首相は国民の所得を倍増させるのではなかったのか。公務員の給料がたかだか1%上がったところで倍増なんて夢のまた夢の絵空事だ。消費者物価指数が3%上昇したら実質的な家計はマイナスである。毎年1%ずつ給料が上昇しても10年で10%の上昇に過ぎない。それは連合などが力んで騒ぐ春闘なんかでも同じことが言える。3%アップを要求して満額回答を得て10年繰り返しても30%の上昇にしかならない。
官民で一緒に小幅な賃上げを祝福しているようだと日本はアジアの小国に落ちぶれてしまう。気が付いた時には発展途上国に舞い戻っているかもしれない。政権交代後の民主党の菅直人政権が公務員給与の一律2割カットを言い出し、事業仕分けなどでコストカットを進め官僚のやる気と社会的地位の低下を招いた。それは民主党から自民党政権に移った後も人事権を中心とした政治主導の状況が続いている。裏返せば官僚の影響力は低下したままと言ってよいのかもしれない。
そもそも政治的には素人で知識も経験も不足した歌手や俳優やスポーツ選手などが国政選挙に立候補して、まるでアイドルの人気投票のように国民が投票し、案山子とよばれる議員が誕生してしまう背景には国民の官僚に対する信頼があったからなのではないか。今では優秀な若者が官僚を目指さなくなっているという。このような状況が今後も続けば日本の未来に影を落とす。
民間の賃金水準が先導する人事院勧告制度を改める時期に差し掛かっているのかもしれない。公務員の思い切った賃上げが効果として民間給与の水準や景気マインドに波及するようなロジックを検討してみていかがか。
防衛庁に関しては特に人事院勧告に沿った地上げに若干増やして支給しても良いくらいだ。世界の安全保障は不安定な時期を迎えている。ロシアのウクライナへの進行、ハマス・イスラエルの戦争状態、台湾海峡の緊迫、北朝鮮の挑発など日本は地政的に危機に隣接している。自衛官は長い拘束と危険な任務など体力だけでなく精神的にも負担の大きい職務である。自衛官の処遇に万全を期さないと日本の安全保障に支障をきたす可能性がある。自衛官は離職者も多い。各地で自衛官の募集の公報を行っているがそれにも限界がある。今国会に日本維新の会が防衛出動手当の支給を定める法案を提出している。与党は審議に応じて速やかな成立を目指し自衛官の士気の低下を防がなければならない。
参考
国家公務員の月給約4千円アップを勧告 29年ぶりの引き上げ幅に 朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/ASR8761FJR87ULFA00T.html
令和5年度人事院勧告 人事院
https://www.jinji.go.jp/kankoku/r5/r5_top.html
「一般職の国家公務員の任用状況調査」の実施 人事院
https://www.jinji.go.jp/hakusho/r3/1-3-01-3-2.html
防衛出動の手当額決定を 維新、給与法改正案提出 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA26AU60W2A021C2000000/
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