総務省令和5年度補正予算について
予算をよ(こ)さんかい。
師走の恒例行事となっている補正予算の時期が今年もやってきた。令和5年度総務省補正予算について考える。総額は1.1兆円で令和5年度予算に0.6兆円を、令和6年度に0.5兆円を加算する。補正予算は当初の予算で想定していなかった出費や急な経済対策、災害復旧などのための資金を確保するためのものであるが総務省に関する予算でいると急な出費や経済対策の費用はそう多くない。政府は物価高対策や持続的賃上げに向けた投資促進などの経済対策を中心に取り纏めるとしていたが、こと総務省の予算に関しては経済対策となる重点課題にはそのほとんどが当たらない。全体の補正予算が13兆1992億円であるから総務省の割り当ては8%程度である。
近年の補正予算の全省庁の総額はコロナ禍にあって大きく膨らんでいた。令和2年は73兆円、令和3年は36兆円、令和4年は31兆円だった。令和5年が13兆円だとすると前年の60%減ということになる。税収は令和2年は60.8兆円、令和3年は67兆円、令和4年は70兆円となっている。補正予算と税収との関係を比較することは出鱈目かもしれないが、予算規模と税収はこの4年間は同調しているのは間違いない。コロナ禍で積極的な財政出動を行った結果、停滞していた経済活動下であっても過去最高の税収となって帰ってきている。過度な財政出動が行き過ぎたインフレを招くと言われてきたが結果的にハイパーインフレは起きなかった。起きたのはコストプッシュ型インフレであり外因である。経済対策を主に予算と組むのであれば財政出動にブレーキをかけるべきではない。本年度の税収も15兆円以上の上振れが予想される。対して補正予算は上振れ予想の税収額に満たないのだから緊縮財政に逆戻りしたような印象を免れない。これまでの政府の大盤振る舞いをマスコミは批判的に報ずるがコロナ禍において否応なく積極的な財政出動を迫られたことで約30年に及んで継続して来た緊縮財政路線が杞憂の上に成立していたのだということを明示した。
今年の7-9月期のGDPは年率で2.1%減のマイナス成長に転落、個人消費、設備投資、輸出の全てが弱まった。投資と消費と輸出の計がGDPであるのだから本来マイナスにはなりえない。民間消費と輸出が減少しても政府支出で帳尻を合わせれば済む。GDPがマイナスになるということは民間の需要の減少分を公的需要で手当てしなかった結果にすぎない。
前置きが長くなったが総務省の補正予算は令和3年度は6兆4067億円、昨年は2兆500億円なので令和5年度の1.1兆円というのは激減と言ってよい。減少した理由としてはマイナンバーカード関係の予算がほとんどなくなったことが大きい。本年の1.1兆円のうち地方交付税に加算して支給されるのは0.9兆円。このうち地方債償還に0.3兆円、特別会計借入償還に0.3兆円、残りの0.3兆円が紐付けのない地方自治体に配分される経済対策予算となる。これに令和6年予算に0.5兆円を加算する。
政府の標榜する5大重点項目の中で主に総務省が関わるのは5G通信システム基盤強化と宇宙戦略基金、マイナンバーカードの普及促進の3項目である。5G通信システム基盤強化とマイナンバーカードの普及促進は毎年同じ内容をコピペして予算を計上しているだけの常連様である。5Gに基盤整備に関しては一足飛びに国内あまねく整備できるものではないから複数年度に分けて順次整備していくという意味合いであろう。マイナンバーカードの普及促進の予算はそろそろなくなりつつある。通常の予算でマイナンバー関係は激減しているのだから補正予算で更に計上する必要があるのか疑問である。具体的な内容を見ると外国に居住する国民に対してマイナンバーカードの公布できるように在外公館のシステムを改修する予算が主のようで890億円を計上している。その他、救急搬送する時に救急隊がマイナンバーから医療情報を閲覧できるようにするシステムの構築費用等が含まれる。5G通信システム基盤強化の予算は情報通信研究機構、通称NICTへの基金として5Gの実装推進などに190億円、LLM(言語モデル)の開発の為の学習用データの整備に100億円を予算する。令和4年度の補正予算でもNICTに662億円が予算計上されている。事業者や研究者の研究基盤や環境整備、併せてNICTによる直接的な研究開発を行う予算であり、予算規模の過多は不明であるが重要な予算と言える。少子高齢化が進む中で労働人口は急速に減少している。労働力の減少は供給力の減少である。労働人口が回復することは考えられない。よって、供給力の減少を補うには生産性を向上させる他に手段はない。生産性の向上にはDX化が不可欠である。そのための基盤整備を行うために先だって投資することが政府の役割であり使命である。次世代の情報通信インフラにおいて政府は積極的に開発と実装を資金と環境の両面で支えて国際標準と成りうるように後押しするべきである。それが少子高齢化時代を迎えた日本の未来を大きく左右するに違いない。宇宙戦略基金であるが創設にあたり240億円を予算している。なぜ通常予算ではなく補正予算に回ったのか不明であるが、JAXAのスペーストランスフォーメーションを加速する為に必要とあればやむなしである。基金創設でJAXAが、機動的に投資判断ができるようになるのであれば時は金なりである、基金創設を否定しない。衛星データの活用は測量や自治体の固定資産調査など多方面で活用が期待される。小型液体燃料ロケットの開発が進む中、投資スピードは加速しても投資リスクばかりが増えないか危惧する。小型液体燃料ロケットなどを開発するインターステラテクノロジズやその子会社で堀江貴文氏が代表取締役社長を務めるOur stars社も基金の活用を見込むベンチャー企業であろう。願わくば、JAXAの投資は単独ではなくシンジケートファイナンスであることや知的財産権取得もしくは申請したDX技術の活用を判断基準に入れて検討して欲しい。政府はJAXAの宇宙開発基金を10年で10兆円規模にすることを発表している。基金を手始めに米国のNASAを手本に国内宇宙産業を育てるとしている。宇宙産業は国際的に競争が激化している。日本が後塵に拝することは許されない。確実に国際的なイニシアティブを得るためには米国またはフランス、ドイツ、カナダ、インドなどと開発等の取り組みにおいて協調し提携してはどうだろうか。このままでは衛星数が1位のロシアと3位の中国が連携すると宇宙開発では圧倒的に後れを取ることになる。2位の米国と4位の日本が連携すればその危惧も薄れる。そこにフランスやドイツなどのEU勢が加われば鬼に金棒ではないか。
さて、今回の総務省の補正予算の中で物価高に対する支援は僅か1.5億円だけである。具体的には携帯電話の利用料金やサービス本位の競争を促すための公報費用だという。菅政権が行った楽天モバイルの本格参入と格安携帯電話の普及を更に推し進めるというのか。携帯電話の料金が安くなるのはありがたいことだが民業を圧迫するような圧力をかける行為は感心しない。電波行政は総務省のさじ加減一つであるが、政府が値下げを煽りすぎることは民業圧迫になるのではないか。
ドコモやauやソフトバンクの収益を圧迫する前に総務省はすべきことがある。NHKの受信料だ。これこそが総務省の所管でありながら民業を圧迫し続けてきた巨大組織である。放送設備を設置すると公共放送の名のもとにNHKの受信料の支払いを義務付けられる。国内の放送機関はNHKだけではない。北海道から沖縄まで数多の民間放送機関が存在する。同じ電波を利用しながら国民から得た受信料はNHKが独り占めにしている。独り占めにする根拠が公共放送という掴みどころのない建前である。NHKが言い訳にする「公共性の高い分野」のコンテンツとは何なのか。ニュースやドラマ、スポーツ、バラエティなどは公共性が高くNHKだけが取り扱う分野だとは言えない。どの民放業者もそれらを放送している。しかも、地上波と衛星でのチャンネル数もどの民放業者よりも多く保有している。挙句の果てに近年はインターネットを利用した放送も付帯業務と称して開始している。まさしく圧倒的に民業を圧迫し続けているのがNHKといえよう。総務省は携帯会社いじめを繰り返す前に所管するNHKの受信料改革を進めるべきである。たかだか受信料を1割値下げしたところで承服しかねる国民も多い。民放各社が広告料のみで運営出来ていることを考えるとNHKだけが放送法に守られ肥大化してきたのは理屈にも建前にも合わないと言える。
条件不利地域における大容量無線通信を前提として光ファイバー網の整備などを進めるには結構な費用を要することは容易に察せられる。本補正予算でも20億円以上が計上されている。少子化は進み人口減少のトレンドは将来においても変わることはない中で、行政サービスやデジタル基盤整備に関して地域差が出るのはやむを得ないのではないか。行政サービスや行政によるインフラ整備はエリアごとのランク付けして行うことで効率的、かつ高品質な施政を保てるのではないか。コンパクトシティ化を進めて条件不利地域への投資を減らすことでコストと労力のロスを削減するべきと考える。多くの自治体が既に取り組んでいるのだろうが国が予算出動の蛇口を絞っていくこともコンパクトシティ化への進展を図る為に必要ではないか。
一番、予算計上が大きいのが地方公共団体情報システム機構に設置しているデジタル基盤改革支援基金の拡充であり5163億円が計上されている。これは基幹業務システムの移行の準備に必要としている。準備にこれだけの巨額の予算が必要ということは移行時にはいったいいくらかかるのか気の遠くなる話である。住民サービスと税務システム、選挙システムが統合されガバメントクラウドで標準化されるという計画であり令和2年から着手している。既に1800億円以上が使われており、今後、基金を使って計画、選定、移行が本格的に行われる。令和7年度までに完了する予定であり国による補助率が100%である。自治体のシステムがそれぞれ違っている現状を打開するには必要な予算だと認めるがオリンピックや万博のように後々膨らまないように慎重な予算組を願いたい。
参考
税収に関する資料 財務省
https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/a03.htm
令和5年度総務省所管補正予算案の概要
https://www.soumu.go.jp/main_content/000911234.pdf
令和3年度総務省所管補正予算案の概要
https://www.soumu.go.jp/main_content/000779895.pdf
令和2年度総務省所管第二次補正予算案の概要
https://www.soumu.go.jp/main_content/000844488.pdf
INCLUSIVE、宇宙事業支援で新会社–「スペーストランスフォーメーション」推進
https://uchubiz.com/article/new2659/
世界の宇宙開発一覧 Wikipedia
続く巨額補正予算 「平時」への移行遠く
https://www.sankei.com/article/20230926-2C3PE3ZTEBO7JFF6WBV7CCTCNE/
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