官報に関する法律案について

今日も書く仕事・・・(隠し事)。

 官報に関する法律案が今臨時国会に提出されている。この法案は改正案ではない。新法の制定を目指している法案である。官報なんて呼んだことは無いが聞いたことはあるという人も多いと思われる。いわば政府の公報の為の機関紙のようなものだ。官報に関する法律はないのだが内閣府令で掲載内容だけ規定して来た。この法案はこれまで日刊紙として販売していた官報と付属物としてインターネットで記載内容を公開していた。新法でそれを逆転させることになる。つまり、インターネット上の官報が正式なもので印刷物の官報は付属物とする。時代に即した変更と言えよう。

 官報には法律や政令や条約、国家の決定事項や外国との間の決定事項、内閣官房令や府令や省令、各府省の決定事項、国会に関する事項、大臣や各省庁などの人事異動、叙位・叙勲・褒賞、最低賃金や国家試験に関する事項、国や各府省、特殊法人、地方公共団体などからの告知、入札公告・落札公示、裁判所公告、高速道路の料金の額の変更や国家資格の登録者など、教育職員の免許の失効や墓地の改葬、行旅死亡人の告知など、会社その他決算公告等、といった内容が記載されている。

 行政の休日以外の毎日に発行されており全国に48か所ある官報販売所にて購入できる。その他12か所の取次所でも購入が可能となっている。一部税込み143円、一カ月の定期購読は税込み1641円で送料は別途(送料込み3841円)である。決算公告を載せる場合は2枠で税込み74331円、4枠で税込み148662円となる。企業の電子公告は株式会社の定款に記載していることが多く多くの需要がある。株式会社の決算は会社法で開示義務が定められている。顧客や取引先にとっては重要なディスクロージャーである。官報に決算を掲載する場合はBS等の主旨だけでよく日刊紙と比較すると廉価なことから経費も節約できる。

 官報の由来は奈良時代後期から時の為政者が庶民に藩または国としての取り決めを知らせる方法として人通りの多い道に高札に記載し建てたことから始まる。明治時代になって諸外国に倣い官報となって引き継がれた。太政官正院文書局が1868年から1877年にかけて発行していた「太政官日誌」であった。同局の廃止後は東京日日新聞が「太政官記事」として7年間にわたって掲載を代行した。ただし、この時期は鉄道も新橋から横浜までしかなく自動車もないことから印刷して各都道府県に届けるまで二カ月以上かかる。よって太政官記事に法令の公布は掲載されず高札にて公布することが併用されていた。1883年、井上毅は山県有朋らの協力を得て正式に官報を発行する。編集は太政官に新設の太政官文書局が、印刷は大蔵省印刷局が、配送は農商務省駅逓局(日本郵便)が担当することになった。1885年第23号が正式な最初の官報となり制度が確立した。

 憲法改正、詔書、法律、政令、条約、内閣官房令、内閣府令、省令、規則、庁令、訓令、告示は日本国内においては著作権法による保護の対象にならない。裁判所の決定や国や自治体の編集物や翻訳物も著作権法で保護されない。官報で著作権が保護されるのは決算等の公告等である。個人情報は個人情報保護法で護られる。2020年には官報に掲載された自己破産者の個人情報を転載した2つのウェブサイトに対して閉鎖を求める停止命令を発出した事件が発生したが両サイトは2020年中に閉鎖された。

 さて、今回の法律でインターネット版官報が政府機関紙としてのメインになるわけだが、法律の施行や政令の公布など各日の閲覧可能時間は8時30分となる。昨年までは過去30日間のインターネット版官報を遡って閲覧することができたが、今年になって利用者の利便性に配慮し90日まで拡大して閲覧を可能にしている。また、同一性の確保の為にタイムスタンプの付与を開始した。昭和22年から当日発効までの官報をインターネット上で検索できる有料会員サービスを月額2200円で国立印刷局が行っている。令和5年4月時点で契約数は12000件に上るという。

 過去の官報を閲覧できるサービスと過去から現在までの官報を永久保存する取り組みとは一線を画す。官報は法令の公布を担うなど政府が発行する非常に重要な文書である。その時々の政府としての重要な意思決定を始め国の機関に係る情報等が掲載されている。こうした官報の性質や重要性に鑑み一定期間が経過すれば廃棄するのではなく永久に保存することが必要であると考えられる。一方、官報に掲載される記事のうち、例えば特定の名宛人を対象とする処分等に関するものについては、各制度の趣旨に鑑みそれぞれ官報をもって公にする必要がある一方で永続的にインターネットにより公衆の閲覧に供し続けることは、プライバシーへの配慮の観点から望ましくない場合もあり得る。90日間の公開が妥当なのか、その後、有料検索サービスで期限の定めがない状態で閲覧が可能である状態が個人情報保護の観点から問題がないのか、一定期間が過ぎると個人情報が閲覧できないように加工して公開するのか、などプライバシーに関する課題もある。国立国会図書館ではインターネット資料収集保存事業を行っており、官報のデータも収集後に閲覧が可能となっているがプライバシーにどこまで配慮できているかは不明である。

 解決しなければならない課題はあるにせよ官報がインターネット版に主軸を移すことは妥当であると考える。インターネットを利用できる環境は国土99.7%に至っている。人口カバー率は99.9%である。2021年の情報通信機器の世帯保有率は、モバイル端末全体で 97.3%である。スマートフォンは88.6%、パソコンは69.8%となっている。さらに過去1年間の実際のインターネットの利用の有無に関して総務省の通信利用動向調査によれば2021 年のインターネット利用率は82.9%となっている。このように現在では大多数の国民がインターネットを利用することができる環境(ネットワークへの接続及び機器の所有)にあるとともに多数の国民がインターネットを利用している実態にありインターネットの利用は広く国民に浸透しているといえる。

 インターネットでの閲覧が可能な環境にあるものの機器の使用が不得手な国民がいることも否定できない。その者に対して官報の入手が可能な手段を一定期間残すことになっている。デジタル社会形成基本法では、全ての国民がインターネットなどを利用できるような社会の実現を旨としてデジタル社会の形成を行うこととされている。他方、同法の附帯決議においては従来の機能を求める国民のニーズに十分配慮することとされている。官報の内容を電磁的ではない状態で閲覧を可能とする特定の場所を設置することが望ましい。これまで官報の販売を行ってきた各都道府県にある販売所に閲覧場所を設置することが現実的であると思われる。

 情報化技術は日々目覚ましい進歩を遂げている。今回の新法の整備においては将来の技術革新にも対応が可能となるように特定の技術を明記することなく他の技術によって代替えが可能となるような規定をしなければ瞬く間に条文が陳腐化する恐れがある。

  官報の主要な役割の一つである法令等の公示であるが、8時30分に当日の官報が閲覧可能となるのと同時に実物の閲覧を可能にする特定の場所にも掲示できるのであればその時点を法令の公示の始点にすることで問題はないと考える。官報を電子化してインターネット上で閲覧することを主にすることは法令の公示に関しても政府と国民の両方の利便性を高めることが出来ると言える。法令の公布に関する公的安定性を考えると紙媒体としての官報での公示よりもインターネットでの公示の方が適当であることは明らかであろう。

 以上、インターネット版官報を主とし、印刷物の官報を付属物とする法律は時代に即した改革であり、その為の必要な法整備には妥当性があると思料する。

賛成を前提として、憲法上の頒布の解釈について改めて政府に問う必要がある。


参考

官報 Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%98%E5%A0%B1

インターネット版官報

https://kanpou.npb.go.jp/

官報のご案内 国立印刷局

https://www.npb.go.jp/ja/books/index.html

官報、電子版が基準に 政府検討、行政効率化狙い 共同通信

https://www.rosei.jp/readers/article/85424

0コメント

  • 1000 / 1000