ガソリン税軽減法案のからくり
あんしん年、明けましておめでとうございます。
揮発油税等の税率の特例の廃止及び脱炭素社会の実現等に資する税制の構築等のために講ずべき措置に関する法律案が先の臨時国会に提出されていた。本年3月末で現行のガソリン価格を抑えるために措置してきた燃料価格激変補助金が終了する予定であることからそれに応じた法案である。
揮発油税と地方揮発油税とをあわせてガソリン税と呼んでいる。この税金はガソリンのエンドユーザーに課税されるものではない。ガソリンの精製者もしくはガソリンを保税地区から引き出した者に課税される。その後、ガソリン税を課税されたガソリンは各々の流通過程を経てガソリンスタンドでエンドユーザーに小売りされる。小売価格には当然の如くガソリン税が含まれた価格が表示されて販売価格に更に消費税が課される。税金が含まれた小売価格に消費税を上乗せすることから二重課税であることが問題視されてきた。財務省の見解は「ガソリンを精製する段階で課税するものでありガソリンの原価を構成する一要素に過ぎないことから二重課税に当たらない」という認識を示している。これを聞いて納得する国民がいるだろうか。エンドユーザーからするとガソリン税も消費税も税金である。ガソリンに課税されるのがガソリン税で、ガソリンとガソリン税に課税されるのが消費税であることには変わらない。1物に2回課税されているのは紛れもない事実だ。
本法案はこの2重課税を解消することを目的にした法案ではない。揮発油税及び地方揮発油税並びに軽油引取税の税率の特例を廃止しようとする法案である。ガソリン税には現在特例措置として一定の税額を上乗せして課税されている。元々のガソリン税は24.3円/ℓであるのだが特例措置として当分の間は48.6円/ℓに増額されて課税されている。これは1974年に始まり租税特別措置法改正の改正を繰り返しながら徐々に金額を上げて今に至っている。2008年に一度は廃止されたがわずか1か月で復活している。特例措置は当分の間とされていて期限が決まっているわけではない。この特例措置を開始してかれこれ約50年を経ようとしている。
本法案はこの特例措置を廃止しようという法案である。廃止する目的はガソリン税の重税感が強いためではなく、ガソリン税と消費税の関係が二重課税であるからでもない。尤もガソリン価格の高騰し国民の負担が増し日常生活に大きな影響を及ぼしていることには一切触れられていない。もちろん、法案だから現実的な事情は明記しないのであろう。この特例措置は過去に廃止されてすぐに復活したという経緯がある。廃止したのちに再び同法が復活することを防ぐ一文を明記する必要があると思う。
ガソリン税は従量制であり原油高騰に対して連動しない。これに対してガソリン価格が全国平均が3か月連続で160円/ℓを超えた場合は特例措置分の25.1円/ℓの課税を停止する、いわゆるトリガー条項というものがある。軽油取引税に関しては17.1円/ℓが軽減される。このトリガー条項は東日本大震災の発生後、復興財源を確保する必要から以降の条項の適用を停止さることとなり現在に至っている。
法案上のガソリン税の特例措置の廃止の理由は、脱炭素社会の実現のための具体的な取組が求められるようになっていること等の社会経済情勢の変化への対応するためとされる。ガソリンを燃焼させて稼働する自動車などは二酸化炭素を放出する。ガソリンの販売量が増えれば増えるほど二酸化炭素の排出量も増える。ガソリン税とガソリンの使用との相関関係を鑑みるとガソリン税が減額されるとガソリン消費が促進されるというという相対的な関係にあると推測される。脱炭素社会の実現のための取り組みとしてガソリン税の減額を行うことは一見矛盾しているように思える。
実は本法案にはもう一つ大きな論点がある。ガソリン税の特例措置を廃止する前提として新たな税を導入することを謳っている。ガソリン税を軽減するとガソリンの消費量が増えてしまい脱炭素社会の実現に向けては相反する行為となるので、社会経済情勢の変化への対応に資するよう新たな税制の構築を行うことで行って来いになるように提案されていると解する。そして、新たな税制の導入は令和7年に施行することが明記されていることから特例措置の廃止と新税の施行に1年間のタイムラグが生まれるようになっている。タイムラグが生まれる約1年間は公債の発行や日本銀行が保有する国債の一部について償還期限の定めのないものとすることやその他の手法を活用して確保することが明記されている。
この1年間のタイムラグこそ減税による経済対策という位置づけなのだろう。現在は円安が続きガソリンのみならずエネルギー価格や輸入食品の価格高騰が続いている。原材料や資源価格の上昇による資源インフレの状態にある。供給サイドの要因によるインフレであり輸入物価の上昇などその原因が自国にはない。そのような場合は賃上げや所得向上が連動していないので国民の景況感には反映されない。輸入物価が落ち着いて円高基調になりコストプッシュ型のインフレが終息する転換期間と考えることもできる。問題の本質は為替の問題ではない。アメリカの金利の問題でもないだろう。国内のインフレの質の問題である。労働力不足は低賃金にある。労働力が不足すると需給ギャップが生まれインフレに振れる。賃上げが性急すぎると企業の業績が追い付かない。賃上げと生産能力のバランスは繊細かつ複雑なテーマである。需要がインフレを引っ張るようになるには長期的な投資が必要とされる。いわゆるデマンドプルの状況を生むと賃金は自ずと上昇するはずである。需要増により賃金が上昇するサイクルが生まれれば経済の好循環に乗る。本法案にあるたった1年のタイムラグでデマンドプル型のインフレの循環に乗せるには期間が短すぎるのではないか。つまり、本法案でのタイムラグは一時的な減税(特例措置の廃止)とその場しのぎの物価高に対する緊急対策を想定しているのだと理解する。それはそのまま選挙対策になるから好都合なのだろう。国民にはガソリン税の一部廃止をアピールできるし、それのみならず所得税減税なども実現したことをアピールできる。その裏、実は新税を制定することが前提となっているのだからいただけない。緊急対策もあくまで緊急であるから一時的であることが前提だ。
ガソリン税の税収は減少傾向にある。10年前には2兆6千億円以上あったものが令和3年には2兆円ほどになっている。10年で20%くらいの減少となる。車の燃費性能は年を追うごとに向上している。自動車の登録台数も直近10年間で20%程度減少している。ガソリン税の減税の受益者は減少傾向にある。自動車の数は減りながらもハイブリッド車や電気自動車の普及は進んでおり、それらエコカーのシェアは伸びている。カーシェアリングの普及も目覚ましい。ガソリン税や自動車税や重量税は減少している。そこで歳入確保のために財務省が検討しているとされるのが走行税だ。走行税とは車の走行距離に応じて税額が決定される税金である。もちろん、未だに導入されていない。さすがにこの税は問題が大きい。地方都市ほど車の必要性と需要は高く走行距離も長い傾向がある。また、物流業者や観光業者の走行距離は一個人の移動距離とは比較にならないほど長い。業者に対して高額になる納税コストがそのままエンドユーザーの負担に転じる。方や都会では自動車の保有者も地方都市ほど多くない。自動車を持っていても地方都市ほど走行距離は長くないと考えられる。よって、公平な課税の観点からみても問題がある。
本法案(国民民主党提出案)におけるガソリン税の一部軽減については大筋賛同するが、予め新税を創設することを前提にすることには違和感を抱く。需要を喚起して社会経済全体を緩やかなインフラに上手く誘導できれば抜けた税収の補填を新税で補う必要などない。経済成長による税収増には被害者も反対者もいない。経済成長は只管に国民に富をもたらす正義である。
参考
揮発油税等の税率の特例の廃止及び脱炭素社会の実現等に資する税制の構築等のために講ずべき措置に関する法律案
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/212/meisai/m212100212001.htm
揮発油税 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%8F%AE%E7%99%BA%E6%B2%B9%E7%A8%8E
租税特別措置法 第89条 揮発油価格高騰時における揮発油税及び地方揮発油税の税率の特例規定の適用停止
https://www.zeiken.co.jp/hourei/HHSOZ000000/89.html
四輪車生産台数は784万台
https://www.jama.or.jp/statistics/facts/four_wheeled/index.html
自動車の走行税とは?
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