復興委員会でのALPS処理水海洋放出に係る質疑について

タカアンド年の瀬。

 本年8月24日以降、東日本大震災で被災した福島第一原子力発電所ではALPS処理水の海洋放出が開始された。ALPS処理水とは東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水についてトリチウム以外の放射性物質を安全基準を満たすまで浄化した水のことである。これまでALPS処理水は敷地内のタンクで貯蔵されてきたのだが、その量は13億m³以上に上り、タンクの数は1046基となっている。敷地内に設置されたタンクの97%が既に使用された状態となっていることから政府は海洋放出を決断することとなった。

 ALPS処理水の海洋放出を受けてれいわ新選組の山本太郎氏が東日本大震災復興特別委員会で質疑に立った。以下、そのやり取りの骨子を検討する。

山本氏「大臣、ALPS処理水のことをトリチウム水と呼ばれることがありますけれども、これに違和感を感じますか、感じませんか。」
土屋品子復興大臣「ALPS処理水という理解でありますので、余り感じません。」

 トリチウムを少しでも含む水をトリチウム水と呼ぶのであれば水道水も雨水もトリチウム水ということになる。トリチウム(三重水素)は日々自然に発生しているもので水道水や雨水、人間の体の中にも含まれており自然界にも広く存在する放射性物質である。トリチウムが出す放射線のエネルギーは非常に弱い。トリチウム水と呼ぶことに違和感を感じないという土屋大臣の回答は少し雑なのではないか。ALPS処理水はトリチウムを除去できないことからトリチウム水と呼んでも違和感がないという意味で違和感を感じないのか、トリチウムは自然界に広く存在することから水をトリチウム水と呼んでも違和感がないのかは不明である。一言で答えよという山本氏の注文があったら中途半端な回答となったのであろう。ならば、土屋大臣は「一言ではお答えできません」と回答するべきだと考える。

山本氏「ALPS処理で濃度を減らせる核種は、セシウム、ストロンチウム含む62種類。その濃度を減らし、基準値未満にするが、放射性物質そのものが消えてなくなるわけじゃない。一方、海に放出する前、測定は約30核種に限定。海洋放出は、トリチウムだけではない様々な核種が混ざり合った汚染水である。海洋放出、セシウム換算で総量どれくらいになりますか。計算していますか。端的に結論だけ教えてください。」

政府参考人「お答え申し上げます。通告なかったものですから今手元にデータありませんが、ファクトだけ申し上げますと、放出、全期間を通じての計算しておりません。1回1回の放出については総量を公表しております。」

山本氏「1回1回の総量なんて聞いていませんよ。全体でどれぐらいの総量になるかということを聞いていて、それを計算していないというのが日本政府だということになるのです。」

 ALPS処理で放射性物質が完全に除去されるわけではないのは事実であるが、自然界にも微量の放射性物質は存在する。放射性物質の総量を明らかにせよという山本氏の要求であるが測定している30種に関しては総量の開示は本来可能なはず。海洋放出前には必ず線量の測定を行っている。ALPS処理水の放出量も開示されている。放出したこれまでの開示データを足し合わせるだけで総量は容易に把握できる。ただし、山本氏のこの質問は事前通告がされていなかったようで政府参考人は積算された数値を急に求められても答えようがないのは当然である。政府参考人が答えられないのは事前に通告しなった山本氏の落ち度に過ぎない。また、山本氏は30種の核種の線量を図るだけでは足りないという。そもそも、セシウムを含む多くの核種が検出限界値未満であることが多い、よって測定データが数値化されないことは物理的に当然である。

山本氏「大臣、1回ごとの放出の話は聞いていません。全体的な話を聞いています。一言でお答えください。被災地の100年後、1000年後を考えても、総量を把握する必要ってあると思いますか、あると思いませんか。一言でお願いします。」

土屋大臣「それは規制委員会等で管理しているので、私ちょっと答えられません。」

山本氏「答えられなかったら困るんですよ。復興大臣なんでしょう。どうして被災地に寄り添わないんですか。被災地に将来的にどのような影響が出るかということは、先回りして、それやっていかなきゃ駄目なことでしょう。総量分からなくて、どれぐらいの環境影響が起こるかってことを予測しなきゃ駄目なんですよ、それがなされていないんだから。それがなされなければならないことだという答えが一番の最適解じゃないですか。」

 ALPS処理水の海洋放出に含まれる核種の総量を把握していないことが被災地に寄り添っていないと山本氏は言う。海洋放出をせずに被災地に膨大な量のALPS処理水を貯蔵することの方がよほど被災地軽視ではないか。れいわ新選組の声明を見るとタンク貯蔵の継続と貯蔵可能地の探索をすると主張されている。貯蔵の継続こそが危険の放置であり、問題の先送りである。質問通告を怠った総量値に関しては人様に聞かず山本氏がご自身で電卓を弾けばよいだけのことだ。

山本氏「海洋放出する際、1リットル中に含まれる様々な核種を足し合わせた合計、総和で考え、それが一、1未満なら海に流されるルール。一を下回る水を流すから安全というのが政府の基準値未満の意味なんですね。この告示濃度限度比の総和は、人体影響を何年間考慮していますか。」

政府参考人「原子力規制委員会が放射線審議会の指針に示した算出式を用いて、人が生まれてから70歳になるまで告示濃度限度の放射性核種を毎日摂取し続けたときを仮定をいたしまして、年平均線量が実効線量限度1ミリシーベルトに達する量として算出したものでございます。」

山本氏「告示濃度限度比の総和以外で、今の70年以外で、はっきりと年数示して人体影響又は環境影響を見積もったものありますか。なければないとお答えください。」

政府参考人「ございません。」

山本氏「汚染された水、毎日2リットル生涯70年間飲み続ける人なんていないんですよ。評価すべきは、長期の放出により食物連鎖、生体濃縮、どのような影響があるかを評価しなければならない。それには何が必要ですか、総量が必要なんですよ。」

 毎日2リットルのALPS処理水を70年間飲み続けても大丈夫という基準を設けているという回答。それに対して山本氏は毎日2リットルのALPS処理水を70年間飲み続ける人なんていないと発言。そんな人はいないというくらいの基準を設けられているのだったら政府が回答した安全基準は万全であるということになる。それを認める発言を山本氏はしているということになる。ALPS処理水を70年間飲み続ける人なんていないというのだから総量を図ったところで意味はない。

山本氏「処理水の放出、1リットル当たり告示濃度限度比が最も高い核種ベスト3を教えてほしいんです。」

政府参考人「ヨウ素129、炭素14、セシウム137でございます。」

山本氏「海洋放出1リットル当たりで最も比率が大きいものがヨウ素129。大臣、放射線の威力が半分になる半減期なんですけれども、ヨウ素129の半減期は御存じですか。」

土屋大臣「存じておりません。」

山本氏「1570万年、1570万年です。この方、御存じですか。」

土屋大臣「我々の祖先です。」

山本氏「そうなんですよ。人間の祖先なんですね。700万年前の人、サヘラントロプス・チャデンシス。人間の祖先誕生から700万年、その倍以上の時間を掛けて、ようやくヨウ素129の放射能がやっと半分になるんです。今放出されているヨウ素129、100年後も1万年後も繰り返し、何万、何億回、生物被曝させ続けるんです。」

 山本氏はここで議論をすり替える。トリチウム水だと言っていたALPS処理水に関してヨウ素の議論に置き換えている。原子力研究所はヨウ素129を「半滅期が1570万年と極めて長いため危険性がほとんどない」と表現している。ヨウ素129は自然界にも存在する。火山活動やガソリンや石炭の燃焼でも発生する。1570万年も人類が被ばくさせられてきた危険核種であるのならとうの昔に人類は滅びているのではないだろうか。サヘラントロプス・チャデンシスの写真を提示して大臣に何者かを聞くのは無礼千万である。土屋大臣は怒らずによく答えたものだ。私なら「あなたの兄弟か奥さんのお写真ですか」と答えていただろう。

山本氏「たった70年程度の影響評価で基準値以下だから大丈夫ってごまかしているのは日本政府なんですよ。いいかげんにしろなんですよ。環境テロなんですよ。もう犯罪ですよ、これ、やっていること。ALPS小委員会が言う実績ある現実的な選択肢って何ですか。通常原発、通常原発~中略~1リットル当たり告示濃度限度比が最も高い核種のベスト3、その中のセシウム137、事故を起こしていない運転中の通常原発から排出されていますか、いませんか。」

政府参考人「セシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素などが通常の原発では燃料棒の中にとどまっており、その排水からほとんど検出されません」

山本氏「過去にトリチウムの海洋放出、トリチウムの海洋放出は通常原発でも行われてきたという実績について述べたにすぎないんですよ。通常原発からヨウ素129、炭素の海洋放出実績があるとは言っていない上に、それらがどう環境に影響を与えるかというのは議論されていないんです。だからこそ、現在も、トリチウム水とか、トリチウムは基準値以下でしたとか、これ印象操作でしかないんですね。問題を矮小化し続けているんです。」

 原発の通常運転においてセシウム137、ストロンチウム90、ヨウ素は検出されないが福島第一原発のALPS処理水にはそれらが含まれるのは事実である。だからと言って危険だと断定するのも違う。それらは自然界に存在するものであり、一定の量的基準を設けて放出している。ALPS処理水は毎日2リットルを70年飲み続けても大丈夫とのこと。セシウム137の半減期は30年である。山本氏は1570万年も生き続けるつもりなのか。1570万年にわたってALPS処理水を海洋放出し続けることも絶対にない。海洋内に融和して微量が存在するだけのことである。もちろん気化もするし他の物質を触媒にして変容することもありうる。政府が問題を矮小化しているとは思えない。問題を水増しし拡大して解釈しているのは山本氏ではないだろうか。政府に反論の余地を与えず自論に結び付けることは悪意あるレッテル貼りに他ならない。印象操作をしているのはどちらなのか。

山本氏「大臣、ヨウ素129などの長寿命核種の影響について、内外の独立した立場の専門家を交え、それこそ数百万年を視野に入れた環境影響評価やり直すべきなんです。やっていただけますか。」

土屋大臣「この件に関しましては規制委員会に対応しておりますので、規制委員会の方にお任せします。」

 数百万年を視野に入れた環境影響評価とはどのようなものなのか。数百万年先を見通すなどという無責任な仕業を政府に求めるのだから聞いて呆れる。土屋大臣"がいう〝この件"とは環境影響評価のやり直しのことではなくALPS処理水の海洋放出のことを指しているのであろうから規制委員会に任せるという回答は妥当である。

 ちなみに近隣国でも核廃棄物の海洋放出や大気中への放出は既に実施されている。韓国では120兆ベクレル、台湾は31兆ベクレル、中国は522兆ベクレルを2021年中に処分している。近隣国ではないがフランスは11400兆ベクレルもの大量のトリチウムを年間に処分している。フランスは他国から再処理を請け負っていることから核廃棄物の処分量が群を抜いて多い。日本における今年のALPS処理水の海洋放出に伴う線量は22兆ベクレルを予定している。日本の放出量は決して多くはない。日本の20倍以上の核廃棄物を放出している中国は日本の海洋放出を非難して海産物を禁輸措置を執っている。

 日本におけるALPS処理水の基準は他国より厳しい基準を設けたうえで放出している。IAEAからもALPS処理水の放出は人及び環境に対して放射線影響は無視できる程であると認められている。

 福島第一原発の廃炉の取り組みを進めるにあたりALPS処理水が入った貯蔵タンクが邪魔になっている。今後、燃料デブリや被爆した建屋を撤去する作業が見込まれる。着手するには隣接する大きなスペースが必要となる。貯蔵タンクが日々増え続けて隣接地を埋め尽くしている間は廃炉作業やがれきの撤去はままならない。福島第一原発内には860兆ベクレルの核廃棄物が存在すると見込まれている。仮に22兆べクリルを毎年海洋放出し続けたとしても40年以上を要する。問題を先送りする猶予はないのではないか。福島第一原発の事故処理には相当な年月を必要とする。現状は貯蔵タンクに廃炉作業を阻まれて多くの危険を孕んだままの状況にあるということを忘れてはならない。被災地に寄り添うということは事故処理を着実に前に進めるということでもある。


参考

【山本太郎】どうして被災地に寄り添わないんですか 2023年12月6日 参議院・東日本大震災復興特別委員会【国会ダイジェスト】

https://www.youtube.com/watch?v=MHAIgvV9EZQ

2023.12.6 東日本大震災復興特別委員会 山本太郎 全編&文字起こし

https://www.taro-yamamoto.jp/national-diet/14070

トリチウムの年間処分量 ~海外との比較~

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r4kisoshiryo/r4kiso-06-03-09.html

【声明】「汚染水」の海洋投棄を撤回し議論のやり直しを求める(2023年8月23日 れいわ新選組)

https://reiwa-shinsengumi.com/comment/18546/

トリチウムって何? 経産省

https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/shirou_alps/no2/

水道水中の放射性物質の影響 浅見真理

https://www.jstage.jst.go.jp/article/taiki/46/6/46_A100/_pdf

放射線の基礎知識と食品中の放射性物質 福島県立医科大学 佐藤久志

https://www.maff.go.jp/j/syouan/johokan/risk_comm/r_kekka_radio/attach/pdf/h20181112-3.pdf

ALPS処理水の状況 東電

https://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/alpsstate/

福島第一原発の処理水海洋放出で紛糾するも…世界では多くの量が海洋に放出 東京MX

https://s.mxtv.jp/tokyomxplus/mx/article/202308110650/detail/

諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について

https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/nuclear/rw/library/2020/2fy_kaigai_high.pdf

ALPS処理水とは これ以上タンク増設の余地はない。 外務省

https://www.mofa.go.jp/files/100521832.pdf

トリチウム以外の核種 環境省

https://www.env.go.jp/chemi/rhm/r3kisoshiryo/r3kiso-06-03-08.html

[原研] 放射性ヨウ素129、迅速な定量化可能に

https://www.jaif.or.jp/news_db/data/2001/1025-14-1.html

ヨウ素とりまとめ 食品安全委員会

file:///C:/Users/user/Downloads/kai20110630so1_120.pdf

福島第一原発「燃料デブリ」取り出しへの挑戦 資源エネルギー庁

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/debris_1.html

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

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