認定NPO法人サラブリトレーニング・ジャパンの違法性を検討する

競馬、行けいば~。

 認定NPO法人サラブリトレーニングジャパンの第二弾である。岡山県加賀郡の吉備中央町という人口1万人ほどの小さな町だ。歳入は約120億円で財政状況は健全な自治体である。

 つい先日、経済産業省のデジタル田園都市国家構想のレクを受ける機会があった。特区の中でも一般的な特区ではなくより高度な革新的事業連携型国家戦略特区のデジタル田園健康特区の代表例として吉備中央町が長野県茅野市と石川県加賀市と共に指定されていることが説明された。デジ田というと地方創生事業の道の駅を想像するが吉備中央町の特区の指定は医療分野である。岡山県の高原地帯に位置する吉備中央町は発病後に救急車を呼んでも病院への搬送に時間がかかる。そこで救急車の中での救命救急措置の範囲を拡大しエコー検査やアドレナリンの静脈注射などを行えることを特区として規制緩和を受ける。特区では岡山大学と連携し母子手帳の電磁化や予防医療のAI活用などで官学が協働することとした。

 吉備中央町は令和3年に公表した第二次総合計画でメンタルヘルスタウン構想を策定しこれまで蓄積してきた医療体制と医療情報を活用した健康管理体制を構築することを目指している。吉備中央町の健康特区指定やメンタルヘルスタウン構想に恰も親和性が高いように見せかけて同調することで各制度を資金調達のツールとして利用したと疑われる事業者いる。それこそが認定NPO法人サラブリトレーニングジャパンであり、関連する岡山乗馬倶楽部である。総務省はこの事業をふるさと納税制度の具体例としてHPに次のように掲載している。

『馬との触れ合いを中心としたセラピーリゾート事業を広く国民に対し行い、社会教育の推進及び社会福祉の増進、地域振興並びにスポーツの振興に寄与することを目的としています』

『多くの現代人が抱えるストレスを解消する、癒しのまちづくり「メンタルヘルスタウン構想」の実現に向けて、吉備中央町に訪れた人にとって心の癒しとなり、ひいては、動物愛護の観点から、生きものに優しい町づくり、命を大切にする町づくりが期待できる』

という説明を附して、行政として高く評価していることが感じられる。総務省のHPによると事業資金の8割以上がふるさと納税による寄付であることが明かされている。

 一見すると素晴らしい事業であるように思える。引退した競走馬に有意義な一生を送って欲しい。総務省HPによると毎年7000頭の競走馬が生産され5000頭が引退するとのこと。確かにその行く末を想像すると怖くて聞けない。これを知ると一頭でも救われて欲しい気持ちになるのは多くの国民が同じであろう。だから、頭ごなしにこの取り組みを否定するつもりはない。素晴らしい取り組みであればあるほど、税金や税控除対象になる寄付を受けて行う事業であるからこそ、公明正大であり高潔でなければならないし、疑う余地がないくらいのガラス張りの運営を求められるのではないだろうか。

 残念なことにサラブリトレーニングジャパンに関してはいくつかの不正や不当が疑われる声が寄せられている。前回に書いた記事では行政のメンタルヘルスタウン構想に乗じてサラブリトレーニングジャパンがホースセラピー事業に取り組むとして総務省地域循環創造事業交付金2500万円を受け取っている。確かに交付金で施設整備を行っているが肝心のホースセラピーはほとんど行われていない。それは診察を行う予定であった医師が名言している。整備した施設は他の事業に流用されているのではないかという疑いがある。

 寄せられている声はホースセラピーに関してだけではない。サラブリトレーニングジャパンが引き受けた引退馬の半数以上がサラブリトレーニングジャパンの理事長の関連する団体や理事がオーナーである馬であることに関してだ。

 NPO法人法第 45 条には「役員、社員、職員若しくは寄附者若しくはこれらの者の親族等に対して特別の利益を与えていない」及び「特定の範囲の者に便益が及ぶ活動の占める割合が 50%未満」、第 23 条の「特定の者と特別の関係がないものとされる基準」に違反しているのではないかという指摘がされている。

 サラブリトレーニングジャパンは2016年設立以降158頭の引退馬を受け入れている。理事であるO氏所有の24頭がサラブリトレーニングジャパンに引き取られている。その他、当該NPO法人の代表理事である角居氏が代表である他の一般財団法人への寄付者から52頭、角居氏に調教依頼をした事がある馬主から引き受けた馬が16頭を加えると92頭が理事や理事の関係団体への寄付者がオーナーである引退馬を引き取っている。それらは58%にも上りNPO法人法第45条の基準を大幅に超えていると思われる。

(頭数についてはネットで確認した限りであり正確であるとは限らない)

 指摘は更に続く。サラブリトレーニングジャパンのふるさと納税に寄付した者がオーナーになっている引退馬を当該NPO法人が引き取った場合、地方税法第314条の7第1項第1号の「特別の利益が当該納税義務者に及ぶ」に該当するのではないかということである。要は、引退馬を飼養することは多くの費用を必要とする。引退馬を引き取るNPO法人にふるさと納税することで優先的に馬を引き取ってもらうことで納税義務者は馬の飼養負担が軽減されて利益を得ることができ、さらに寄付金控除も受けられるということになる。それを防止する法令に抵触しているのではないかという指摘である。

 少なくとも前述の内容を踏まえるとサラブリトレーニングジャパンの受け入れる引退馬の選定基準には疑義があるのは確かであろう。毎年数千頭の引退馬がいる中で理事や理事の関係する先、寄付者の馬が半数以上選ばれることは偶然であるはずがない。NPOを設立し、ふるさと納税の交付金や寄付金を受けることで、それまで多額の費用がかかっていた自分たちの所有する引退馬の経費を削減したとしたら制度を悪用した行為のように思える。サラブリトレーニングジャパンの理事には山本雅則吉備中央町長や元吉備中央町職員2名も名前を連ねている。ふるさと納税からの交付金がNPO法人サラブリトレーニングジャパンの収入の8割に上る。その資金の大部分が委託費として理事が務める企業に支払われている。

総務省は「ホースセラピーは実施されている」という上辺だけの回答でごまかそうとする。岡山県庁はチャリティーでは決してない馬のオークションを特定非営利活動であると断定する。その根拠は定款だという。あまりにお粗末である。参議院調査室だけが客観的な回答をしている。山本町長が当該NPO法人の理事になっていることが長の兼職にあたるかどうかに関してである。NPO法人が吉備中央町の請負行為を行っており報酬を法人から長が得ていたらアウトだと個人的には理解した。

いずれにせよ、当該NPO法人の事業のロジック、資金の流れ、共に釈然としない。理事や理事の関係者に係る馬の費用を公益の名のもとに調達するロジックをNPOやふるさと納税と絡めて構築したに過ぎないように映る。

今回、記述した新たな疑義に関しては行政に問うた後に回答が得られたのでここに記す。

 引退した競走馬を飼養するには馬のオーナーは多額の費用を要します。

特定NPO法人が自分の所有する引退した競争馬を引き取ってくれたら経済的に労力的にも非常に助かるとのことです。

例えば、特定NPO法人がふるさと納税を利用して引退馬を引き取って世話をする費用を募った際に、それに寄付した者がオーナーになっている引退馬を当該NPO法人が優先的に引き取ることが地方税法第314条の7第1項第1号の「特別の利益が当該納税義務者に及ぶ」に該当するのかしないのかの判断もしくは見解をお聞かせください。

また、ふるさと納税等で募った寄付金を利用して引退した競走馬を引き取って再調教して譲渡するという事業を行う認定NPO法人が、理事や理事の関係する団体、寄付者から引き取った馬が全体の引き取った頭数の58%にも及ぶ場合は、NPO法人法第 45 条には「役員、社員、職員若しくは寄附者若しくはこれらの者の親族等に対して特別の利益を与えていない」及び「特定の範囲の者に便益が及ぶ活動の占める割合が 50%未満」、第 23 条の「特定の者と特別の関係がないものとされる基準」に違反するのかどうかの判断もしくは見解をお聞かせください。

参議院総務委員会調査室の回答

  特定NPO法人によるふるさと納税の利用について、地方税法の観点からは、当室より回答いたします。お示しいただいた地方税法第314条の7第1項第1号については、国税においても、所得税法第78条第2項第1号(寄附金控除)に同旨の規定があり、

基本的に同じ考え方となっております。その趣旨を、大蔵省(当時)の政府委員は以下のように説明しています。

>…寄付をした者にその特別の利益が返るものを指定寄付とすることは適当ではな

いのではないか、

>こういう趣旨であらためて入れたわけでございます。おっしゃったような業者が

出しまして業者が利用できる、これはだめなんです。

>あるいは聞くところによりますと、寄付はいたしましたが実は自分の銅像ができ

たというような話もあるわけでございます。

>そんなようなことをひとつ排除する意味でここに書いたわけでございます。

○第55回国会衆議院大蔵委員会(昭和42年5月18日)

https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=105504629X01419670518&spkNum=158&current=1

ただ、大変恐れ入りますが、御依頼の件を含む個別の事案について、

同条に該当するかしないかお示しすることは難しいところでございます。

【坂本コメント】

総務委員会調査室の回答では違反であるという確信は持てない。寄付者に利益が返ることは適当ではない、さらにそのようなことを排除する意味、とまで政府委員が国会で発言していることから容易に解釈が変更されるとは思わない。その馬主がそのNPOに寄付行為を行い、その馬主の引退馬をそのNPOに引き取ってもらうことは寄付した金で銅像が立つ行為と変わらないのではないか。地方税法第314条の7第1項第1号に抵触する可能性があると解釈することが出来ると考える。だが今回の場合はサラブリトレーニングジャパンへの直接の寄付ではない。サラブリトレーニングジャパンの代表理事である角居氏が代表を兼務する別の団体に寄付している者に関してである。もし打算的に寄付を迂回しているのなら非常に悪質だし、そうでなく偶然なのだとしたら違反に問われることはないだろう。何より、サラブリトレーニングジャパンが寄付者を公開すればすべてが明確となる。自発的な説明をサラブリトレーニングジャパンには期待したい。

 参議院内閣委員会調査室の回答

  調査室総合案内を通じてお問合せのありましたNPO法に係る御質問に関しまして、当室より,②について回答いたします。

  ご指定の要件であるNPO法第45条第1項第2号ロ及び第4号ロの解釈について、内閣府の手引きを添付いたします。

  (添付の書面の内容)

  特定非営利活動促進法に係る諸手続の手引き/内閣府政策統括官(経済社会システム担当)付参事官(共助社会づくり推進担当)

 活動の対象について

  実績判定期間における事業活動のうち、次に掲げる活動の占める割合が50%未満であること。特定の範囲の者に便益が及ぶ活動という規定が存在する。

  事業活動について役員、社員、職員若しくは寄附者若しくはこれらの者の親族等に特別の利益を与えないこと及び営利を目的とした事業を行う者に寄附を行っていないこと。

  その役員、社員、職員若しくは寄附者若しくはこれらの者と親族関係を有する者又はこれらの者と特殊の関係のある者に対し特別の利益を与えないことその他の特定の者と特別の関係がないものとして一定の基準を満たしていること。

一定の基準とは

a 当該役員の職務の内容、当該NPO 法人の職員に対する給与の支給の状況、当該NPO 法人とその活動内容及び事業規模が類似するものの役員に対する報酬の支給の状況等に照らして当該役員に対する報酬の支給として過大と認められる報酬の支給を行わないことその他役員、社員、職員若しくは寄附者若しくはこれらの者の配偶者若しくは三親等以内の親族又はこれらの者と特殊の関係のある者に対し報酬又は給与の支給に関して特別の利益を与えないこと。

b 役員等又は役員等が支配する法人に対しその対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額に比して著しく過少と認められる資産の譲渡を行わないことその他これらの者と当該 NPO 法人との間の資産の譲渡等に関して特別の利益を与えないこと。

c 役員等に対し役員の選任その他当該 NPO 法人の財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。

d 営利を目的とした事業を行う者、イの①から③に掲げる活動を行う者又はイの③の特定の公職の候補者若しくは公職にある者に対し、寄附を行わないこと。

なお、御参考となり得るような類似例は、お探しした限り見当たりませんでした。

【坂本コメント】

寄せられた声の通りにNPO第45条に抵触する可能性がないとはいえない。個別の案件に対して適違を調査室が判断することはない。だが役員や寄付者への利益となる行為が50%を超えていることはNPO法人の認定基準を侵すこと現わしている。ただし、現状ではサラブリトレーニングジャパンへの寄付者の氏名は公開されていない。サラブリトレーニングジャパンの代表理事である角居氏が兼任する別の団体に寄付した者の馬を含めると50%を超過するのではないかという疑義である。また、当該NPO法人が総務省地域循環創造事業交付金2500万円の交付を受けてホースセラピーのために整備した施設を当該NPO法人の前代表理事で現在も理事である西崎純郎氏は自身の経営する岡山乗馬倶楽部にて無償で使用している疑義もある。とすればそれは取りも直さず役員に特別の利益を提供していることとなろう。認定NPO法人サラブリトレーニングジャパンの収入の8割以上がふるさと納税を利用した寄付によるという。非営利事業には税制優遇措置もある。自身や自身の事業の資金調達や引退馬の飼養や再調教という課題の解消等に公益に関わる制度を専ら利用することは随分と身勝手な行為に映る。この際、サラブリトレーニングジャパンには疑義を完全に晴らすべく自発的な説明を期待したい。

岡山県県民生活部県民生活交通課県民協働推進班の回答

→地方税法第314条の7第1項第1号に抵触するかどうかは寄附者が住んでいる市町村の税担当部署の判断によるものと考えます。

→ まず法第45条第4号「その役員、社員~特別の利益を与えない」及び施行規則第23条(特定の者と特別の関係がないものとされる基準)につきまして、特別の利益を与えているかどうかは、頭数のみではなく、NPO法人と理事が関係する団体等の間でどのような契約がされているかで判断するものと考えます。具体的には金額が適正か、法人にとって不利益な契約条件になっていないかなどが想定されます。次に法第45条第2号「特定の範囲の者に~割合が50%未満」につきまして、「特定の範囲の者に便益が及ぶ活動」とは、例えば経済的理由等により就学が困難な学生に対し奨学金を支給する事業を営むNPO法人が、「○○学校出身者向け奨学金」のように条件を付すと、その便益の及ぶ者が特定の範囲の者である活動に該当します。今回ご照会のケースで、結果的に引き取った頭数が50%を超え、これが特定の範囲の者に便益が及ぶ活動に該当すると仮定しても、引き取った頭数の割合ではなく、(共益的活動に係る事業費の合計)/(管理費を除く総事業費の合計)<50%など総合的な判断が必要であると考えます。当法人は、馬の引き取りのみをしているわけではなく、不特定多数を対象とした乗馬スクールやイベント(公益的活動)を実施しているため、そうした公益的な事業も含めた総事業費での総合的な判断が必要であると考えます。また、

【坂本コメント】

「特定の範囲の者に50%以上の便益が及ぶ活動」というのが確かに馬の頭数に限定しているものではない。県の指摘も一理ある。ただし、2021年の事業報告書によると収入6998万円のうち返礼や事業報告者作成やPR費用に4464万円を支出しておりと莫大である。NPO法人としての定款事業は4464万円を控除した2534万円。これが実質的な事業費と言えよう。そのうち2061万円が引き取った馬の再調教の委託費となっている。実に81%を占めている。県が回答する馬の頭数が全てではないというのは一理あるが、引き取った馬の再調教が全てに近いくらいに当該NPO法人の事業費の中でシェアを占めていると言っても過言ではない。その再調教を理事が経営する企業に丸投げし、引き取った馬が理事がオーナーであった馬や代表理事が関係する団体やその団体への寄付者の馬が多数を占める状況は異常にも思える。また、馬が人に与える影響に関する研究やホースセラピーは実施されていないという声も寄せられている。疑わしい何かが明るみになると他も疑わしく思えてくる。公的な優遇を受けるにあたり当事者は自分を厳しく律しなければならないのではないか。疑義が生じるなどあってはならないことだ。


参考

内閣府「特定非営利活動促進法に係る諸手続の手引き 」(令和3年6月)

https://www.npo-homepage.go.jp/pamphlet-tebiki

岡山県 吉備中央町 引退した競走馬のセカンドキャリア支援 総務省

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/case_study/okayama_kibichuo.html

そのほか、情報提供者様あり。

0コメント

  • 1000 / 1000