政治資金規正法の改正法案について

裏金、天主堂。。。

 2024年6月6日に政治資金規正法改正法案の自民党案が衆議院で採決され賛成多数で可決した。改正の切欠になったのは自民党安倍派を筆頭に5派閥によるパーティー券収入の多額の過少記載や不記載を神戸学院大学の上脇博之教授が刑事告発したことが報道されたことによる。この刑事告発を受けて大野泰正議員、谷川弥一議員、池田佳隆議員が起訴され、安倍派、二階派、岸田派の会計責任者ら7人が政治資金規正法違反で立件された。政治資金規正法で20万円以上の券購入者は収支報告書に記載が義務付けられているが4000万円以上の不記載が発覚したことから告発されることとなった。パーティー券の販売ノルマを超えた収入を所属議員に還流しながら収支報告書に記載せず、議員側が裏金化した疑惑も浮上した。自民党はこのことに関係している所属議員39名に処分を科したが、裏金等が何に使われたのかは明らかにされてはいない。

 これら一連の不正が発覚したことを受けて国会では政治資金規正法を改正することで再発防止を図る流れとなっている。政治家による不祥事であるから議員立法によって措置される。各党が独自案を提出しているのだが、日本維新の会は独自法案を撤回し、採決では与党である自民党公明党案に賛成した。衆議院に限り国民民主党は20議席未満であるから単独での法案提出はかなわず立憲民主党と共同で提出している。参議院では国民民主党単独案を提出している。

 各党の法案は文言の表記こそ違うものの議論の重要な争点は限られているので下記のように表で整理してみた。

 衆議院で可決した自民党案を中心にみていく。連座制については確認書という意味不明なルールを作っている。会計責任者に対して議員が確認書を交付することでその後は議員に対して累が及ばないという免罪符となりえる可能性をあるのではないか。自民党は問題になっている収支報告書への不記載などの責任を会計責任者に押し付ける行為が繰り返されないようにするための手立てだという。収支報告書の作成段階から確認書を取ることで議員に関わらせることとなり、例えば刑事裁判に問われても確認書があることで共謀の証明がしやすくなると主張する。再発を防止したいのなら確認書などという周りくどいことをしなくても、会計責任者が有罪判決を受けたら議員本人も直ちに連座して罰則対象となる、というぐらい厳しい規定を設けることが一番の再発防止に繋がる。これでは厳しくしたのではなく抜け道を作ったのではないかと疑われてもしようがないのではないか。衆議院法制局に質問したところ、会計責任者が政治家(代表者)に不実の説明をしていた場合は政治家(代表者)は罪に問われないということであった。要するに今まで通り虚偽記載や記載漏れなど収支報告書の不実に関して政治家は秘書の責任に押し付けることができてしまう。

 自民党案のパーティー券の公開基準についてはもともと10万円以上としていたところ公明党の案を取り入れて5万円以上に修正した。パーティー券は企業団体献金と同じではないのか疑問に思うところではある。

 自民党案の政策活動費であるが、「項目ごとの使用金額、使用年月を公開」としている。まったく意味がわからない。これでは中身は見えてこない。例えば「人件費、事務所費、光熱費、2024年6月、500万円」「選挙活動費、2024年6月、300万円」「その他経費、2024年5月、200万円」などと公開されても何もわからない。自民党の〝政策活動費をブラックボックスのままで保持したい″という意思が強く感じられる。政策活動費でキャバクラや風俗に行こうが何に使おうが法的には許されるという発言を耳にしたことがあるが、領収書や細目は公開されず、使途に制限もないことから言い様によってはその通りなのだ。政党から政党支部に支給された政策活動費の行く末がブラックボックスになってしまっていることから裏金の温床になったのである。政策活動費の使途がブラックボックスであると使用していない残額の返還も求めることができないし、たとえ政治家個人の口座に流れていても公開されず不明だったら課税もできない。自民党案は自民党が悪用した裏金の温床となる制度を改善するように見せかけて実は温存する案を提示しているのだから罪深い。ただし、政治活動費は公開することとしているが、この政治活動費には実は選挙運動費は含まれていない。素人にはわからない巧妙な手口で抜け穴を作っている。さらに使わなかった政治活動費、つまり残金に関しても公開義務がない。法案では「公開する内容」イコール「会計責任者に対する通知義務のあるもの」としているが、それはあくまで支出に関してだけにしか触れられていない。残った残額に関しては一切の明記がない。ひとつでも穴が開いていたら無意味になる。悪く考えれば自民党にとってひとつでも穴を忍ばせれば十分だということになる。会計責任者での通知義務のない項目や領収書を必要としない項目を残すことで裏金の温床が温存されることになる。政策活動費のうち政治活動費は公開する案となっているが、選挙活動費も公開することを義務付けているのなら条文に明記するべきであるが自民党案はそうなっていないし、そうしない。さらに政策活動費の公開時期であるが自民党は都合よく10年後を主張する日本維新の会の意見を取り入れることで自民党案に維新の会の賛成票を抱き込んでいる。政治資金収支報告書の帳票の保管義務は5年である。10年後には何も残っていない可能性もある。そもそも10年後に公開されて問題が発覚しても、遡って告発できる時期は過ぎている。10年後に公開されて違反していた場合の罰則規定はない。国会の質疑で罰則規定について問われた総理は「今後検討する」と答え検討使ぶりを発揮している。抜け穴だらけで違反しても罰則規定のない政策活動費のルールの改定など何の意味もなさない。国会で10年後の開示時に黒塗りしないか聞かれた総理は一切否定しなかった。10年後、未だ現役国会議員が逃げ道だらけの政策活動費のルールを悪用していた場合はのり弁を公開することができるのかもしれない。公開義務のある書類に黒塗りが可能なら公開義務はないということである。文法的に二重否定は強い肯定に他ならない。政策活動費の残金が個人にプールされた場合は課税対象になるはずだが10年後に発覚しても控訴時効は5年であり裁けない。このことに対して日本維新の会は「抑止力が働くから大丈夫」だという。本当に抑止力が働くなら裏金問題なんて起きないし発覚しない。立法府にいながら抑止力を持ち出して整合性の取れない(10年後の公開義務と控訴時効5年)矛盾した法規定を承知の上で肯定する日本維新の会の姿勢にはモラルを疑う。自民党は政治活動費の一部の公開を10年後に行うことを法案に盛り込むことで日本維新の会を懐柔することに成功したと言える。参議院において審議されるのは自民党・公明党・日本維新の会の共同法案であるが、このようなザル法には到底賛成すべきではないと考える。

 ちなみに政策活動費(2022年)は、自民党は14億1630万円、立憲民主党は1億2000万円、国民民主党6800万円、日本維新の会5058万円となっている。本法案がどうであろうと政策活動費を今後も引き続き利用するのは自民党と日本維新の会だけになりそうだ。それ以外の政党は政策活動費の使用を取りやめるか、そもそも使用していないかである。今後も政策活動費を使用する予定である自民党と日本維新の会が手を組んで抜け穴だらけのザル法を作った上でそれを政治資金改革なんて呼んでいるのだから呆れる。

 パーティー券収入の過少記載、不記載、パーティー券収入のキックバックや政策活動費などを使って裏金工作しているという疑惑を招いたのは自民党である。その自民党こそが疑惑の温床となる制度を温存しようとするのだから盗人猛々しい。少なくとも税金を原資とした資金の使用、税制優遇を受けた資金の使用に関して公明正大であるべきだ。それは調査研究広報滞在費にも言える。その使途は例外なく速やかに公開するべきだ。公開できない李湯なんて存在するはずがない。調査研究広報滞在費は使途を公開し、残額を返納することで自民党以外の政党は意見が一致している。自民党だけがそれを拒んでいる。自民党は使途を公開すらせず、使用目的を限定するだけにとどめようとしている。残額は返還することはない。一度握った既得権益は手放さない。既にさんざん批判を受けたので開き直っているのだろう。自民党が反省していないと感じるのは議場での態度である。政治資金パーティーを禁止する法案を提出した立憲民主党に対して、立憲民主党の幹部が政治資金パーティーを計画していることを自民党議員が大声でヤジっている。ヤジられてもしようがないことかもしれないが自民党が偉そうにヤジるの違う。自民党は議員が3名、関係者が7名も立件されている不正政党である。国民にも国会にも迷惑を存分にかけているし、政治家への不信にもつながっている。自民党議員の当事者意識の欠落と不謹慎さには苛立ちを覚える。

 この法案で今回問題を取り沙汰された自民党議員89人のうちいったい何人の不正を防止できるというのか。参議院でぜひとも本法案を衆議院に突き返すことを願ってやまない。


参考

政治資金規正法の一部を改正する法律案 自民・公明案 可決

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/syuuseian/13_88A6.htm

要綱

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21305013.htm

政治資金規正法等の一部を改正する法律案 立憲・国民案

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21305014.htm

要綱

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21305014.htm

政治資金規正法及び租税特別措置法の一部を改正する法律案 維新案 撤回

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g21305016.htm

要綱

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g21305016.htm

政治資金規正法等の一部を改正する法律案 参議院 国民

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/213/pdf/t1002130112130.pdf

収支報告書に記載すべき支出の区分 総務省

https://www.soumu.go.jp/main_content/000544116.pdf

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