スマート農業を振興する新たな法的枠組みについて

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 センサーやIoT技術を活用して作物の成長状況や環境要因をリアルタイムでモニタリングすることで最適な栽培条件を提供できる。適切な灌水や肥料の与え方、温度や湿度の調整などが可能となり品質の向上に繋がる。適切な収穫時期や出荷タイミングを把握することもでき物の熟度や鮮度を最適化し品質が高くなる。

 農業ノウハウをデータ化し活用することで次世代の農業者や未経験者でも効果的な農業手法を学ぶことができる。収集されたデータや栽培記録を基に過去の成功事例や最適な栽培方法を分析できる。蓄積されたデータは新たな農業従事者への貴重な情報源となる。データ化を活用した農業技術のスムーズな継承と伝達は農業業界の発展に貢献できる。スマート農業は環境保全にも役立つ。センサーやモニタリング技術を活用して作物の成長状況や収穫時期を正確に把握し最適な収穫タイミングを判断できるようになる。予測モデルを活用して需要予測を行うことで過剰な収穫や廃棄を防げる。生産量を適切に調整することで過剰生産や在庫の発生を抑え食品ロスの削減できる。

 スマート農業の導入には先進的な技術や機器が必要となり高額な投資が必要となる。現在は次々と新しい技術の開発や既存技術の進化がしており新たな機器やソフトウェアの導入が必要となることも多い。運用費用や機器の追加やアップデートによる再投資費用も農業従事者の過剰負担となることも考えられる。また、スマート農業導入には高度な知識を持った人材の助けが必要となるが人材が不足している。人材育成には時間と費用を必要とすることから懸念されている。開発時の懸念として機器の互換性が心配されている。機器同士の連携が取れないとスマート農業の導入効果は激減する。

 スマート農業の一連を整理すると、まずは自動運転のトラクターや自動収穫機などで農作業を軽減する。センサーを用いて土壌状態や気候をリアルタイムにモニタリングし適切な栽培管理を行う。集められたデータを解析して土壌状態や気象条件、作物の生育状況などを正確に把握する。適切な施肥や灌漑のタイミング、作物の収穫時期を判断することもできる。カメラで撮影した農作物の画像をAIが解析し病気や虫害の状況を検出する。農業用ドローンを用いて広範囲の畑や田を迅速に調査し病害虫の早期発見や肥料散布を行う。自動収穫機で収穫した生産物を自動選別機が自動分類し品質管理を行う。スマート農業の導入によって生産効率や品質管理が向上し、ロスが削減され経営の合理化が実現する。

 スマート農業に参入する、もしくは転換する為の国の支援は今回の法案以外にも既に複数存在する。それらはあくまでも法律ではなく補助金としての制度である。代表的なものとして「農業支援サービス事業インキュベーション緊急対策のうちスマート農業機械等導入支援」という制度がある。スマート農業機械等の導入を行う農業支援サービス事業体に対しての支援であり農業従事者に対しての支援ではない。スマート農業を農家に売り込む業者向けの支援である。補助率は二分の一で上限は1500万円である。採択状況は公表されていないが採択率は全国平均で30%程度でありハードルは高めである。

 小規模事業者持続化補助金で「ドローンを活用して農業からインフラ整備・点検」が補助対象として採択された実績がある。機械・装置等費が該当する。通常の上限額は50万円であるがインボイス特例枠や創業枠、事業継承枠などで上乗せを受けることも可能である。補助率は三分の二で採択率は50%を超えている。

 ものづくり補助金は中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものである。「農業生産管理を一元化するシステムを構築し、産地ブランド化を確立」という事業が採択されている。農産物の生産から運送までを一元管理できるシステムの構築費用である。通常枠は5人以下の法人で上限750万円、補助率は二分の一である。採択率は通常枠で50%ほど。

 事業再構築補助金では「景気や相場に左右される不安定な野菜生産主体の事業形態から高単価、高付加価値な市田柿を製造しITを利用し直販路線を開拓することにより新たな収益の柱を生み出す」事業が採択されている。成長枠で最大7000万円、補助率二分の一、採択率は50%程度である。農業者が単に異なる作物を育て始めるだけでは事業転換と認められない。農業×DXとしてドローンを使った事業の再構築やIoTを活用した業態転換が補助対象となる。

 その他にも多くの自治体が独自にスマート農業に対する独自の補助金制度を創設している。高齢化と従事者減少が進む農業界はDX化を進め生産性の向上させる好機と捉え革新期を乗り越えて頂きたい。


*スマート農業の高額な導入費用を支援するのみならず通信環境の整備も進めないといけないのではないか。農村地域の一部では通信インフラの整備が遅れているのではないか。

*傾斜地、小区画におけるスマート農機の作業性に関しての対応策は検討されているか。

*スマート農機具のシェアリングに対する導入促進も資金援助と同時に図ったほうが良いのではないか。


参考

スマート農業を振興する新たな法的枠組みの創設に向けた検討

https://www.naro.go.jp/laboratory/brain/hinsyu-kaihatsu-sm/sanko-file_R5.pdf

スマート農業を振興する新たな法的枠組みの創設

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nousui/pdf/20231227_smart.pdf

スマート農業展開について 農水省

https://www.soumu.go.jp/main_content/000775128.pdf

スマート農業の推進について 農水省

https://www.maff.go.jp/j/kanbo/dx/attach/pdf/nougyou_dxkousou-69.pdf

WAGRI, スマートフードチェーン、及びデータ利活用のためのガイドライン

https://www.inpit.go.jp/content/100872174.pdf

スマート農業とは? 仕組みやメリット・デメリットなど 日立

https://www.hitachi-solutions-create.co.jp/column/technology/smart-farming.html

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