選挙での投票の義務化について 後編
オーストラリア、、、ット。
目覚ましいインターネットの普及によりあらゆる情報の入手が容易になり、ファクトやフェイクを問わずネット上にはコンテンツが氾濫しています。政治の世界でも同様です。選挙時には正偽を問わずネット上でも多くの議論が為され、多くの主張が展開されます。なにより政治家はインターネット上にホームページを開設して自身の広報を発信しています。とりわけ政治家の選挙区に該当するエリアにはSNSを利用した有料広告が発信されているのをしばしば目にするようになりました。元来は、駅前やショッピングセンターなどの人の多く集まるところで演説を行ったりチラシを配ったりすることが主流でした。選挙区内の住居にポスティングしたり2連ポスターを貼らせてもらったりすることもありました。こうした元来からのアナログな活動が無くなったわけではありません。広報する手段やツールが進化して多様化しているということです。政治家にとっては出費も手間などの負担は増大しています。自治体選挙では選挙期間になると多くの選挙カーが大音量で狭い選挙区を走り回ります。朝の駅前には多くの立候補者が所狭しと並び立ちひたすらに挨拶をし続けています。その様子をいかにも多くの有権者に受け入れられているかの如く見える写真を撮りXなどのSNSにアップロードします。駅前や商店街に設置された選挙事務所では究極のアナログ作戦とも言える電話掛けのローラー作戦を実施しつつ、候補者は電子メールを使って投票依頼をします。電子メールだけではなく公選はがきも多くの自治体議員選挙では2千枚発送することができます。
このように現代の選挙では従来からのアナログな活動と並行してインターネットを利用したデジタルな活動も当然のこととして積極的に行われています。リアル空間とバーチャル空間の双方で同時並行的に政治活動や選挙運動が行われていますが、その活動にはそれぞれターゲットが違います。明らかに違うのは年齢層です。60代、70代は比較的アナログなアプローチに呼応するようです。リアルな情報を求め、握手などの対面やチラシやはがきなどの現物が投票行動に結びつくようです。10代、20代はそもそも政治に関心が薄い層ですがSNS等で所謂バズった(注目を浴びた)情報や影響力のある人物(インフルエンサー)との関わりがある情報などに左右されるようです。例えば、ひろゆき氏やマツコ・デラックス氏、橋下徹氏はそれにあたるかもしれません。
有権者がリアルから情報を得ようとネット上から情報を得ようとどっちでも良いし、情報が充実することは良いことだと思います。問題なのは双方の支持が選挙結果に反映されているのかどうかということです。
前編で掲載した選挙ドットコムとNHKのデータから判断すると電話で世論調査に応じた人たちの回答と選挙結果がある程度リンクしているように感じます。逆に考えればネットで世論調査に応じた人の回答と選挙結果はあまり反映されているように感じません。それは当然の傾向です。普段からネットで情報収集しているとされる10代、20代、30代の投票率は比較的低く、情報収集の主な手段が新聞や雑誌である人が多いとされる50代、60代、70代の選挙での投票率は高くなっています。
放送業界を中心にアナログとネットの融合は進んでいますが、選挙のように投票するためには実際に投票所に足を運ばなければならないようなケースでは決して双方の融合は進んでいないということです。理由はご承知の通り“インターネット投票できないこと“にあります。インターネットはパソコンなどのネット端末を介して利用しますが、端末の前に座って誰が利用しているか、別人がなりすましていないか、隣に誰かがいて投票に影響を及ぼしていないか、ハッカーに回線が乗っ取られていないかなど解決すべき問題が残されておりインターネット投票は未だ実施されていません。
ではどうすればネット民に選挙の投票に行ってもらえるようになるのか。ネット民だけではありません。投票に行っていないアナログ層の人も含めてどうやったらインターネット投票の導入をすることなしに投票率を上げることができるのかを探ってみました。結局、これしかないのではと思う方法は“投票の義務化”です。憲法上の問題を指摘する人がいるかもしません。投票しない自由も尊重しないといけないとは思いますが、それは白票を投じることで補完できるのではないでしょうか。白票を含めた選択という投票行為が民主主義の精度を上げることは紛れもない事実でしょうし、選挙制度としては現状よりも前進するものと考えられると思います。
参議院比例代表制の選挙では比例ブロックが分かれていないことから全国比例となります。選挙区が日本全国となると候補者が自身を広報するリアルな(アナログな)活動をするのは至難の業です。選挙期間中に選挙カーで日本全国をくまなく回ることも難しいし、47都道府県を演説して回ることも容易ではありません。はがきを出すのも凄まじい枚数(15万枚)に上りそれだけの名簿を保有していることも稀です。よって、参議院全国比例の候補者は必然的に著名人が有利となりタレント候補が多く立候補することになります。著名人でなくても労働組合や業界団体を代表する者や支持を受けている候補者が有利です。たとえ有能な候補者であっても、志が高くても、有名人ではない、特定団体を代表する者でもない一個人が当選を目指して広報することは並大抵のことではありません。そうしたバックボーンを持たない候補者の一縷の望みを託せるのがネット戦略です。インターネットは地球規模に張り巡らされたネットワークワークなのでエリアを問わずアクセスが可能です。ネット戦略が有効に機能すれば日本全国が対象エリアとなる参議院選挙の比例代表においても効果的に周知を図ることが出来るかもしれません。タレント候補にも有能な方はいるし、組合や団体を代表する者も当然に有能な候補者がいます。ただ、それ以外の候補者は能力以前の段階で選挙ではハンデキャップがあるように感じるのでそこを少しでも解消するべきだと思うのです。知名度や団体支援を持たない候補者が努力を積み重ねネットでの周知活動が進みネットでの高い支持を得られるようになってもネット民が投票に行かなければ当選には繋がらず民意は政治に反映されません。リアルのネットの双方の民意が反映されてこその民主主義ではないでしょうか。民主主義の成熟を図る上でも選挙での投票の義務化は有効な一案だと考えます。せめて国政選挙だけでも投票を義務化すると自治体選挙においても少なからず投票行動に良い影響をもたらすのではないかと思います。
選挙での投票を義務化している国は32か国あります。そのうち24か国に罰則規定があります。とりわけ9か国は厳格な罰則規定を提要しています。そのうちキプロス、フィジー、ギリシャは入獄を科される規定となっています。投票の義務化で有名な国のひとつにオーストラリアがあります。投票に行かないと20〜50豪ドル(日本円で約2,000円〜5,000円)の罰金が科せられます。罰金の規定を設けたことで投票率が50%くらいから90%以上にまで上がったということです。オーストラリアが投票を義務化したのは第一次世界大戦で多くの犠牲者を出したことから選挙の代表性と正当性を高めるために導入したといいます。投票の義務化によって民主主義の精度が高まる一方で注意しなければならない事もあります。政治に詳しくない者も投票を強いられることから人気投票に陥りやすい面もあると思われます。大衆扇動が助長され現実離れした施策が強行される可能性も否定できません。投票を義務化するには教育の充実、報道の正確性、選挙の公平性をうまくバランスさせる配慮と人権を尊重するコンセンサスが図られることが必須であり前提となるでしょう。
参考
無意味もとい勘違い 南那珂支会代表 吉岡陽向
https://www.pref.miyazaki.lg.jp/documents/86403/86403_20240220102158-1.pdf
義務投票制を採用している国
https://www.city.sakata.lg.jp/kurashi/senkyo/school.files/w-gimu.pdf
主な投票義務制採用国
https://www.mext.go.jp/content/20210305-mxt_kyoiku02-000013239_2.pdf
投票に行かないと罰金?選挙の義務投票制について分かりやすく解説
https://blog.smartsenkyo.com/2308/
若者に投票させたい?隣国と豪州に見習え!
年代別投票率の推移 | 公益財団法人 明るい選挙推進協会
調査結果発表!2022年6月の政党支持率・内閣支持率・参院選の比例投票先は?選挙ドットコムちゃんねるまとめ
https://go2senkyo.com/articles/2022/06/15/68764.html
比例代表 党派別得票・獲得議席 NHK
https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/00/hsm12.html
民主主義の原則 – 多数決の原理と少数派の権利
https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3080/
国政選挙における投票率の推移 総務省
https://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/ritu/index.html
強制投票の普通選挙 倉田玲 立命館
https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/17-3/002kurata.pdf
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