103万円の壁の引上げだけではない累進課税制度の問題点

ぶる ゾンビ ちえみ。。。

 国民民主党が先の衆院選で大躍進を遂げた。その原動力となった政策が「103万円の壁の引上げ」である。基礎控除と所得税控除の合計額が課税点となるのが103万円である。この103万円の控除を175万円まで引き上げることで所得税減税を行い、かつ労働力不足にも一役買おうという目論見である。引上げ幅の根拠となるのは103万円と決められた1995年から2024年までの最低賃金の上昇率を勘案するというもの。本来ならば物価指数の変化も考慮に入れるべきなのかもしれないが、その間の30年間は自公政権と民主党政権による失政が続きデフレスパイラルから脱出できずにいた。克服すべきデフレ経済を基準としても意味を為さない。

 103万円の所得が障壁となるのは主にパートやアルバイト人員である。もっと広い範囲で所得税制を考えるとすれば税率の区分が問題となる。現在、円安によるコストプッシュ型インフレがおき消費者物価は上昇の一途を辿っている。賃上げが進んではいるものの物価高騰に賃金増加分を食われてしまい実質賃金はほとんど変わらない。それにも関わらず所得税の累進課税だけが増えて実質的な手取りは減ってしまっている状態、所謂ブラケットクリープ現象が起きている。よって、所得税の課税区分の調整を行わないと賃金の上昇が経済成長に繋がらない。

 所得税の限界税率とは複数の税率を適用して所得税を計算する場合における最も高い税率のことをいう。下記の図のように所得が900万円を超えると限界税率は23%から33%に上がる。例えば、給与所得850万円の人は手取りが654万円、同じく給与所得が850万円だった人がベア3%と定期昇給4%の賃上げとなった場合、給与所得は909万円となるが税率は10%上昇し33%となることから手取りは609万円となる。よって、約60万円の賃上げを獲得しても手取りは45万円の減ってしまう。物価対策の賃上げが物価を上回る所得税率のアップで吸い取られてしまう。ブラケットクリープ現象の一例と言える。

下図:財務省作成

限界税率は7段階に区分されている。195万円までが5%、333万円以下が10%、695万円以下が20%、900万円以下が23%、1800万円までが33%、4000万円までが40%、それ以上が45%となっている。この限界税率も実は1995年から約30年間ほとんどかわっていない。その間、物価は約10%上昇している。

下記図:明治安田生命作成

特に目立って上昇しているのは2022年以降である。コロナ禍明けの世界的なエネルギー価格の高騰や円安の影響を強く受けている。103万円の壁がゾンビ税制なのだとするとこの限界税率の区分もゾンビ税制である。限界税率を物価変動に合わせて引き上げると各区分ごとに10%程度の引き上げが適当であると考える。さすがに30年前の最低賃金に連動させて検討すると70%以上の区分値の引き上げになるので非現実的であろう。いっそうのこと、この累進課税制度を見直しによって区分値の税率を固定するのではなく、フッ化変動率に連動して区分値が自動的に上下すること(比例値)にしてはどうか。そうしておけば30年間も放置されゾンビ化する恐れもなくなる。機械的に変動するのであれば行政の事務も政治家も負担が少ない。税制度としてもわかりやすく公平である。一考する価値は十分にあると思うが如何か。ともあれ、所得税制度を改正するのなら103万円の基礎控除と所得控除を引き上げるだけでなく、限界税率に関しても調整しないと減税効果は薄れてしまう。賃上げが単なる増税となってしまわないように政治家や官僚には心して頂きたい。


参考 

期限付き所得税減税の問題点~財政赤字国の減税バイアス~第一生命

https://www.dlri.co.jp/report/macro/285453.html

物価の仕組み解説 明治安田生命

https://www.meijiyasuda.co.jp/dtf/lfm/money/articles36.html


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