風俗営業法の改正法案について

ロイヤル、ホスト、レートフラッシュ。

 風営法改正法案が昨年に引き続き今年の通常国会に提出された。昨年度に法案を提出したのは立憲民主党。悪質ホストクラブが社会問題化する中で立憲民主党が提出したのは取り組んでいるというポーズだけの中身の空っぽの法案であった。現行の風営法の第18条に

(客が高額債務を負担することの防止)

「第十八条の三 第二条第一項第一号の営業を営む風俗営業者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、その営業に関し、客がその支払能力に照らし不相当に高額の債務を負担することがないようにするために必要な措置を講じなければならない。」

を書き加えるだけのもの。具体性はまったくなく罰則もない。起きている問題を解決しようという意思も感じられない。世間がやかましいから相手にしてやったというアリバイだけを残そうとしたに過ぎないのではないか。そう受け取られても仕方のないしれものであった。そんなものでも政府は無視せず内閣委員会に附したのだからとんだ茶番劇である。その後、継続審議になっていた風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案は今年の通常国会に閣法として改めて提出された。立憲民主党が切欠を作って少数与党となった自公政権にボールを投げた形となる。

 悪質ホストクラブ問題とはホストクラブの利用客が高額な利用料金の売掛による借金を背負い、その返済のために売春する等の事例が生じていることや本人や家族からホストクラブに通う費用を捻出するためにクレジットカード決済や消費者金融を利用し、返済能力を超える借金を抱えてしまうという問題が起きている。これまで問題がそのまま放置されてきたわけではない。労働基準監督署は労働基準法に基づきホストクラブへの立入りを実施するなどを行ってきた。警察も労基署と連携しホストクラブの従業員であった者が店での売掛金の返済名目で客の女性に現金を要求し、スカウトマンを介してソープランド従業員に紹介して売春をさせた事案やホストクラブ経営者らが客の女性に対し、店での売掛金を返済するよう要求し、同女を指定したビジネスホテルに居住させた上で売春をさせた事案、ホストクラブの店長らが店での売掛金を支払わせるために客の女性をソープランド経営者に売春婦として紹介した事案などを売春防止法違反及び職業安定法違反で検挙してきた。

 職業安定法第63条はいわゆるマインドコントロールなどにより精神的自由を不当に拘束して、借金等を返済させるために仕事を紹介すること、性風俗や売春などの仕事を紹介することを禁止している。違反した場合には1年以上10年以下の懲役、又は、20万円以上300万円以下の罰金の対象になる。職業安定法第63条2では公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介、労働者の募集、募集情報等提供若しくは労働者の供給を行い、又はこれらに従事させることを禁じており違反者は一年以上十年以下の懲役又は二十万円以上三百万円以下の罰金に処されることになる。公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務とはソープランドなどにおいて女性従業員に不特定の男性客を相手に手淫、口淫等の性交類似行為をする業務やわいせつビデオ映画の製作販売会社が制作するわいせつビデオの女優として稼働する業務がこれに該当するものとされている。それらの職業を紹介することは職業安定法に違反する。また、恋愛感情の利用など女性を支配下に置く手法、いわゆるマインドコントロールも含め客の正常な判断力を損なう手法を用いて仕事を紹介することは精神の自由を不当に拘束するものとして職業安定法違反となる可能性がある。ホストクラブの経営者が客からの売掛金を回収するためにホストの賃金からその売掛金を控除することは労働基準法に違反する可能性がある。現行法を駆使してこれらの取り締まりを警察は行ってきたのだが状況が改善されることは無かった。これらの状況を打開する為に風営法の改正が行われることとなった。

 政府案として提出された風営法改正法案では恋愛感情にかこつけて高額な飲食をさせたり、虚偽の説明を行った場合は公安委員会が営業停止の措置をとることができるようになる。また、売掛金の回収を目的に脅したりマインドコントロールしたりして性風俗店で働かせたり、斡旋して見返りを得たりする行為を禁止し、違反した場合には6か月以下の拘禁か100万円以下の罰金を科せるようになる。また、無許可営業に関しての罰則も強化され、経営者には5年以下の拘禁または1000万円以下の罰金、法人には3億円以下の罰金がそれぞれ科されるという内容が盛り込まれた。これまでは罰則のハードルが低すぎて法を逸脱した行為の抑止には繋がらないことが指摘されていた。改正案では一応の改善を為すことが期待できるものの内容としては十分とは言えない。

 客が飲食代金をその場で支払えない場合に後払いとすることをツケ払いという。ホストクラブでは酒類が提供されているため客が酔ってしまい飲食した内容を把握できていない状況を悪用し、客が頼んでもいない商品を伝票に記入されてしまうことあるという。ツケによる高額請求の中にはそのような手段による水増し請求が横行していると言われている。客は頼んでもいないものの代金を支払う必要はない。店側は売掛金の内容が事実であることを証明する義務がある。伝票や借用書を店が提示できない場合は請求が認められない可能性もある。売掛金でも発生から5年が経過していたら時効を援用できる可能性もある。ただし、支払いを現に行っていたり、支払う意思を表明している場合は時効期間は更新されてしまう。客が未成年の場合、親権者の同意を得ていないと契約は取り消せる。未成年の客に未成年と知りながら種類を提供すると店側は未成年者飲酒禁止法で罰則を受けることになる。ホストクラブの場合は風営法違反で摘発される可能性もある。

 客は売掛での飲食を持ち掛けてくるホストと関わらないことが重要だ。そのようなホストと関わるとトラブルに巻き込まれる可能性がある。客が自身の落ち度として高額な売掛金を負ってしまったとしてもホストの紹介に乗っかって消費者金融や闇金からお金を借りてはいけない。金融業者から借りてホストに返済しても客の借金の額は増えはしても減ることはない。金融業者から借りて支払うことは客にとって何の利点もなく問題を拗らせるだけ。風俗店で働いて支払うことも良いとは言えない。風俗店で働いて支払おうとする客の多くは益々ホストクラブに嵌ってしまい悪循環から抜け出せなくなるケースがあるからだ。もし、ホストから風俗店を紹介するからそこで働いて支払ってほしいという話をされた場合は警察に相談するべきである。前述のように職業安定法違反にあたる可能性がある。売掛金を払わないと〇〇するなどと脅された場合は直ちに警察に通報するべきだ。売掛金についての相談を警察は受けていないが、犯罪についての相談は無視できないはずである。そして、どんなに売掛金の支払いに困っても闇バイトなどの犯罪には絶対に関わってはいけない。人生が台無しになるかもしれないので。何よりホストクラブの売掛金の支払いに悩むものが第一にしなければならないのは担当ホストとの連絡を絶つことであろう。ホストとの直接のやり取りをせず弁護士に相談することが妥当である。


*恋愛感情などマインドコントロールによる高額な飲食の注文や高額請求を色恋営業は公安によって営業停止に処すことができるようになるが、客に対して恋愛感情を抱かせたり、マインドコントロールしたという状態をどのように判断するのか、判断基準をどのように考えるのかを問う

*高額な飲食代金の請求の元となる伝票などは容易に店側が作成できることから高額な売掛金請求の客観的な証拠にはならないと考える。店側は高額な飲食代の請求に対して客が否定した場合にはそれを証明する義務があるとされるが、それはどうのようにすることで足るのかを問う。



参考

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/213/meisai/m213090213020.htm

風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律案要綱

https://www.npa.go.jp/laws/kokkai/01_r6hoan_youkou.pdf

ホストらへの「スカウトバック」規制 風営法改正へ調整 警察庁 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241003/k10014599191000.html

客に売春や風俗勤務要求、規制へ 悪質ホスト検討会が報告書―風営法改正案を来年提出・警察庁 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024121900420&g=soc

億単位で稼ぐホストクラブに「罰金200万円」は安すぎる…悪質ホスト対策で検討中「風営法改正」の中身 東京新聞

https://www.tokyo-np.co.jp/article/374677

ホストクラブ無許可営業 罰金上限3億円に 政府が風営法改正案 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250107/k10014686261000.html

売掛金が払えない!払わなくていい4つのケースと3つの対処法 法律事務所ラパン

https://lawfirm-lapin.com/cant-pay-to-accounts-receivable-of-host-club/


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