自殺対策基本法の一部を改正する法律案について

 議員立法の自殺対策基本法の一部を改正する法律案が今国会に提出されている。平成28年以来の改正である。本法は全会一致で賛成を旨をとした議員立法であるが、基本法は凡そ理念法であるから反対するような規定は別段見当たらない。本法は政府に届きにくかった自死遺族の声を結集して超党派の国会議員を動かして平成18年に立法を全会一致で実現した。具体的な施策は自殺総合対策大綱にて規定されている。かつて自殺者の数は毎年3万人を超えることが当たり前となっていたが直近の約20年間は減少の一途を辿り2024年には約2万人となっている。恐らく金融機関の融資における個人保証(連帯保証を含む)が社会問題化して改善が進んだことで減少に転じたのであろう。一方、懸念されているのが小中高生の自殺者数である。平成30年と比較して43%も増加しており昨年は527人となり過去最高を記録している。こどもの自殺の内訳は小学生15人(前年より2人増)、中学生163人(同10人増)、高校生349人(同2人増)。性別では、男性が239人(前年より20人減少)、女性が288人(同34人増加)となっている。こどもの自殺の増加傾向を鑑み文部科学省、厚生労働省、内閣府、こども家庭庁などの関係省庁は連絡会議を開催し連携して対応してきた。専門家で構成される「こども・若者の自殺危機対応チーム」を都道府県等に設置し市町村では対応が困難なケースを支援する。本法の改正はこどもが自ら命を絶つようなことのない社会の実現という理想に向けて行われる措置である。所管は内閣府からこども家庭庁に移される。

 令和7年度の政府予算ではこども・若者の自殺危機対応チーム事業の予算として38億円が計上された。内訳は厚労省の地域自殺対策強化交付金が32億円(前年31億円)、調査研究等業務交付金が6億円(前年同額)である。令和6年度は補正予算で20.3億円が更に措置されている。重点施策は「こども・若者の自殺危機対応チーム」の全国展開である。自殺未遂歴がある、自傷行為の経験がある、自殺をほのめかす言動があるなど市町村だけでは対応しきれないケースに助言等を行うチームを全国に設置する事業であり、精神科医、心理士、精神保健福祉士、弁護士、NPO法人等で構成される。この事業は令和7年に開始されたわけではない。既に2年が経過している。令和5年は4自治体、令和6年には新たに12自治体がこども・若者の自殺危機対応チーム事業を設置している。地域自殺対策強化交付金による自殺対策の予算32億円が投じられているが、国と自治体、国と民間団体、ともに交付率は10分の10である。事業の実態は電話・SNSを活用した相談体制等の強化や拡充を行うことが主となっている。自殺対策に関する調査研究等に6億円の予算が使われているが厚生労働大臣指定調査研究等法人「いのち支える自殺対策推進センター」に全額が支給されている。自殺対策を総合的に推進するため、社会学、経済学、応用統計学等の学際的な調査研究や、多様なデータ等を活用した自殺対策の検討等の調査研究を行う費用としている。代表理事の清水康之氏は立法の基盤となった議連である「自殺対策を推進する議員の会」にも関わっている。もともと清水氏の団体が提言した「自殺総合対策の実現に向けて自殺対策の現場から国への五つの提言」が本基本法の基礎となった経緯がある。

 文科省、厚労省、こども家庭庁、それぞれのこども自殺対策についての施策を確認すると内容は3省庁で一致している。当然である。この3省庁は「こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議」にて合同で協議を行いつつ連携して施策を進めている。よって対策の中身は「こども・若者の自殺危機対応チーム」一辺倒である。果たしてこのチームの有識者の対応チームに果たして即応性はあるのだろうか。自殺願望を持ったものSOSは緊急性を帯びたケースが多いと察するが危機対応チームが24時間体制で応じているわけではない。市町村や民間団体の職員がSOSを発しているこどもを待たせておいて危機対応チームの助言を得るなどということをするのだろうか。一層のこと、SNS対応や電話対応は危機対応チームが直接行えば良いのではないか。各都道府県にチームを設けるのではなく一か所に集約して対応時間や対応人数を拡充した方が効果的なのではないか。そもそも危機対応チームを全国展開するという発想は少々時代遅れのようにも映る。インターネットが普及しSNS全盛期の現代ではSOSの発し方も変化しているだろう。SNS等を活用した相談体制の整備に対する支援がより直接的であるはずだ。10代のコミュニケーションツールはそのほとんどがSNSかメールの利用によるもの。スクールカウンセラー(令和7年予算約60億円)やスクールソーシャルワーカー(令和7年予算約23億円)を配置する事業も有効性があるのかもしれないし、自殺に対する一定の抑止効果もあるだろうが、やはり現実的にはLINEやウェブチャットなどのSNSを活用した相談の方が多くなるはずである。自殺対策を強化するとすればばらばらに広がり過ぎたSNSでの相談窓口の集約と相談体制の整備に集中的に投資することではないか。効果的な窓口の告知と対応力の強化というシンプルな施策に戻すことが必要だ。こどもの自殺問題に長年に渡り取り組めば取り組むほど問題を複雑化してしまう。方策も年を重ねるごとに積み重なり多岐にわたることになる。類似した策を言葉を変えつつ繰り返してしまう。迷ったら原点に帰れというではないか。

 こどもの自殺原因は、進路問題、不登校、学業不振、友人関係、異性問題、いじめ問題、保護者との不和、家庭の困窮、両親の離婚などである。原因は今も昔も大きくは変わらない。多額の費用と労力を割いて調査し統計をとっているが、結局は学校要因と家庭要因と個人要因に集約される。自殺総合対策大綱においては基本認識として、自殺は追い込まれた末の死であること、自殺は防ぐことができること、自殺を考えている人は悩みを抱え込みながらもサインを発していること、を挙げている。当たり前のことだが、自殺に追い込んでいる原因を無くせば自殺は防止することができる。大綱では家庭や職場で国民一人ひとりの気づきから精神科医等の専門家につなぎその指導を受けながら見守って行くことが自殺予防に繋がるとしている。

 これまで内閣府が所管していたとことをこども家庭庁に移管するという。こどもの自殺に関して文科省は学校が関わる児童生徒の自殺には関与するが、各家庭に由来する問題は所管外とするケースが多い。こども家庭庁が所管することでそのようなケースに関して踏み込んだ対応ができるようになるとしたら大きな前進となる。こどもに関わる大人の一人一人がこどもに対する大人の責任だと認識して体制づくりを考えることが望まれる。学校だけではなく、家庭だけでもない、多くの大人がこどもたちを支える仕組みづくり、社会の構築に向けて取り組む必要がある。日本にはこれまで大人の自殺を減らすことが出来てきたという輝かしい実績がある。こどもの自殺を減らすこともきっとできるはずだ。いや、出来ないはずがない。政策だけでは解決しない課題であるからこそ理念法が重要になってくる。綺麗ごとだけではない居心地の良い社会にしていかなければならない。


*カウンセラーやソーシャルワーカーの配置に偏らずSNSを活用した対策にもっと予算を投じ注力するべきではないか。

*こども・若者の自殺危機対応チームの設置の全国展開を進めるほどのニーズと効果があるのかどうか政府の認識を伺う。

*文科省とこども家庭庁の連携の具合はいかがか。こども家庭庁と教育委員会との連携の具合はどうか。


参考

自殺対策基本法

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/063_6/shiryo/attach/1369741.htm

令和6年の児童生徒の自殺者数(暫定値)の公表を踏まえた児童生徒の自殺予防に係る取組の強化について(通知) 文科省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1414737_00014.htm

自殺対策概要 いのち支える自殺対策推進センター

https://jscp.or.jp/overview/course.html

自殺対策基本法の成立と行政の役割 柴田雅人 社会と倫理

https://rci.nanzan-u.ac.jp/ISE/ja/publication/se31/31-09shibata.pdf

R4自殺総合対策大綱の見直し 警察庁

https://www.npa.go.jp/laws/notification/seian/seiki/jisatsutaikouminaoshi.pdf

こどもの自殺対策緊急強化プラン こども家庭庁

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/58d5e45b-0e25-4171-bc0d-4d02537d89c7/91763cd7/20230401_policies_kodomonojisatsutaisaku_01.pdf

児童生徒の自殺対策について 文科省

https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001079460.pdf

職場における自殺の予防と対応 厚労省

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/03.pdf

「自殺総合対策大綱」のポイント 厚労省

https://www.mhlw.go.jp/content/001000843.pdf

なぜ、子どもの自殺対策は進まないのか? WEDGE

https://news.yahoo.co.jp/articles/a2d3106a4b1db63cb95ab366a622c4ceb124f07a?page=1

こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議 こども家庭庁

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba92e084-2fe9-4901-a7bd-a48d0f183222/7c8a2b10/20250225_councils_kodomonojisatsutaisaku-kaigi_ba92e084_15.pdf

文部科学省における自殺対策の取組について 文科省

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba92e084-2fe9-4901-a7bd-a48d0f183222/65af0136/20250131councils-kodomonojisatsutaisaku-kaigi-ba92e084-05.pdf

第8回こどもの自殺対策に関する関係省庁連絡会議 厚生労働省提出資料

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba92e084-2fe9-4901-a7bd-a48d0f183222/3aeb0842/20250131councils-kodomonojisatsutaisaku-kaigi-ba92e084-06.pdf

内閣府 孤独・孤立対策推進室提出資料

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba92e084-2fe9-4901-a7bd-a48d0f183222/2f61b069/20250131councils-kodomonojisatsutaisaku-kaigi-ba92e084-04.pdf

こども家庭庁における自殺対策の取組について 

https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ba92e084-2fe9-4901-a7bd-a48d0f183222/0f183214/20250131councils-kodomonojisatsutaisaku-kaigi-ba92e084-03.pdf

子供の自殺等の実態分析 警察庁

https://www.mext.go.jp/content/1422639_004.pdf

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

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