下水道事業のコンセッション方式導入について(参議院浜田聡議員の調査室への依頼に対する回答)
二十四節気で申しますと、処暑を過ぎて白露に至りました。高校野球も東京オリンピック・パラリンピックも隅田川の花火も青森ねぶた祭りもない今年の夏が過ぎ去ろうとしています。一層のこと、コロナ禍も一緒に過ぎ去ってもらいたいものです。
さて、参議院浜田聡議員が参議院調査室に下水道のコンセッション方式の導入について調査依頼され、国土交通委員会調査室より回答を頂戴いたしましたので、僭越ながら私より下記のようにご報告させていただきます。下線部分は私が加筆致しましたことをご了承下さい。
浜田議員による調査依頼の内容
2018年水道法改正による、各自治体での水道事業の現状を知りたいと思っています。以下の調査を依頼させていただきます。
・浜松市の水道事業の現状、特に下水道コンセッション方式導入による効果(利益の有無や水質の変化等)は?
・袖ヶ浦市の水道事業の現状、特に水道法改正前後での事業形態の変化があれば教えてほしいです。
・浜松市以外に水道(上下水道別で)のコンセッション方式導入した自治体はあるか?
下記写真:MIZU DESIGN
国土交通委員会調査室からの回答
○浜松市における下水道コンセッション方式導入の効果
選定された事業者(ヴェオリア・JFEエンジ・オリックス・東急建設・須山建設グループ)の提案によれば、20年間で約86億円のコスト縮減効果が見込まれます。
(上記資料、浜松市提供)
上記事業者が設立した浜松ウォーターシンフォニー株式会社(運営権者)は、本事業を行うに当たり、法令や要求水準を遵守し、汚水や汚泥を適正に処理するように、自らセルフモニタリングを実施しております。また、浜松市によるモニタリングのほか、第三者機関(日本下水道事業団)がモニタリングを実施しています。
御指摘の放流水質等につきましては、要求水準を満たしております(ただし運営権者が外部委託により実施した環境測定において、不適合が1件生じている)。
以下、資料:浜松市モニタリング結果年次報告書(令和元年度)令和2年6月発行
浜松市上下水道部
【令和元年 5 月に運営権者が外部委託により実施した環境計測において、放流水の BOD が 16mg/L(うち、有機物に起因するC-BOD は 2mg/L、窒素分に起因する N BOD は 14mg/L)となり、放流水質基準 15mg/L を超過した。C-BOD は低いことから、処理場内で汚水中の有機物は問題なく処理されていた。放流水質基準を超過した原因としては、N-BOD が高かったことから、採水地点である暗渠内に発生した硝化細菌によるものと考えられた。この件に関して市は、モニタリング基本計画書に基づき、運営権者に対し是正勧告を行った。 17 運営権者は是正勧告を受け、硝化細菌の影響を抑えるため、消毒剤である次亜塩素酸ナトリウ ムの注入率の変更を行い、放流水の BOD は速やかに 3.2mg/L まで改善された。改善後についても運営権者は次亜塩素酸ナトリウム注入率や注入方法の検討による対策を中心に実施しており、同様の水質基準超過は見られなくなった。なお、市からは今後も同様の未達が発生しないように、N-BOD の抑制に有効である硝化促進を進める運転を推奨することや、次亜塩素酸ナトリウムの対策時には放流水の残留塩素濃度について周辺環境への影響が出ないよう注意することを提言した。また、その後放流水に関して適正に処理できていることを報告書及び市の検査より確認した。】
浜松市による放流水質モニタリング結果において全ての項目において適合判定を受けていますが、環境項目で不適合が1件生じて上記のように対応し改善したとのことです。
下記資料:第三者モニタリング結果年次報告書(令和2年5月22日)
日本下水道事業団
【財務状況収入及び支出の状況並びに資金残高について確認を行った。各報告書類間の内容 の不整合、予算に対する実績(進捗率)の大きな乖離、会計処理における仕訳の確認を要する場合には、会議体にてその理由の説明を求めた。予算に対する実績(進捗率を四半期業務報告書に記載する改善及び資金繰りの妥当性を確認するための月次資金繰り予定表を 6 月次業務報告書から添付する改善が図られたこともあり、財務状況の透明性が向上したことを確認した。会議体で求めた説明及び改善に基づき、事業の安定性や継続性を保つための態勢 を整えており、必要な一切の資金が確保されていること、収支の見通しが適切で明確かつ確実なものとなっていることについて報告書類及び会議体にて確認した。】
経営部門におけるモニタリング結果に不適合事項はありませんでした。各種法令に適合した事業運営されていることが確認されています。
ただし、月次残高試算表の資金繰りの妥当性を図る資料について運営権者は見直す必要があるとしています。
下記資料5点全て:国土交通省の「下水道事業における公共施設等運営事業等の実施に関するガイドライン(H31.3)」
コンセッション方式の活用により想定されるメリットが記載されており、こちらにも浜松市の事例が紹介されております。
コンセッション方式では需要リスクや資金調達リスクをはじめとした主要なリスクを運営権者に委ねることができること、それが効率的で効果的な運営を行う動機付けになることが期待されます。
コンセッション方式を実施することで下水道利用者にもメリットが生まれることが期待されています。それは、民間事業者による創意工夫や革新的技術の導入により、質の高いサービスと料金負担の抑制が期待されています。
包括的な発注によってコンセッションの導入効果は官民の相互補完と効率化が図れます。リスクが分担されるのみならず利用者の費用負担も軽減することが期待できます。
浜松市の先行事例によると市直営の場合より86.6億円もの事業予算を縮減でき、且つ、運営権対価として浜松市が25億円を受け取ることが見込まれています。包括的委託と比較して職員増員の抑制やコスト削減効果が高いと見込まれてコンセッション方式が採用されました。浜松市は行財政改革の一環として組織のスリム化に取り組んでいます。
袖ヶ浦市について調査室からの回答は得られていません。
○浜松市以外の下水道コンセッション方式を導入した自治体
浜松市のほか、高知県須崎市が下水道終末処理場及び下水道管渠の経営、企画、運転維持管理について、コンセッション方式を採用し、令和2年4月から事業を開始しています。
詳細は以下のURLを参照していただければ幸いです。
https://www.city.susaki.lg.jp/life/detail.php?hdnKey=3701
人口80万人の浜松市に比べて高知県須崎市は人口2.2万人であり事業規模のスケールメリット生まれにくいと思われます。下水道管渠を含む汚水系の施設に公共施設等運営権を設定するコンセッション事業で、下水道利用料金とサービス対価で構成する混合型事業ですが、公共下水道事業と関連するインフラ維持管理業務を組み合わせた事業です。小規模事業体のモデル的な事業になるであろうと期待されています。因みに1万人以上5万人以下の都市の下水道事業の経費回収率は78.5%であり、利用者負担では賄い切れていない実態があります。経費回収率の全国平均は98.3%です。黒字にできている自治体は政令指定都市32団体がほとんどです。よって、高知県須崎市のPFIが成功したら革新的であり、下水道事業の運営形態のリノベーションが進むことと思われます。
なお、宮城県、奈良県奈良市、神奈川県三浦市、山口県宇部市、宮城県村田町がコンセッション方式の導入に向けて具体的な検討を進めております。
(上記資料:浜松市HPよ資料、須崎市HP資料、国土交通省資料より抜粋)
下水道におけるPFI(コンセッション方式)は、空港などのPFIと比較して進捗が遅れています。2016年までに政府が立てた6事業案件という目標も下回っている状況です。下水道事業には「分水型」と「合流型」があり雨水や汚水を別々に流す方式と一緒に流す方式があり、それぞれによって管理や運営の方法や負担が違います。また、台風や豪雨などの自然災害も想定され、その対策も必須となります。災害時における判断は自治体が負うとしましても、平常時からの備えの為のインフラ投資は、事業権者の負担が非常に大きくなる可能性もあります。経年劣化による下水管の老朽化や人口減少による利用料の減少など、今後の事業の継続可能性については制約のある財政面から考えても改革が必要とされています。
半面、下水道処理においては下水熱を利用したエネルギー供給や汚泥処理によって発生するバイオマス発電など技術革新による成長の余地があり、一括りでのコンセッション方式にはそぐわない一面も考慮しないといけないように思います。PPP(public private partnership)による施設や敷地を利用した事業もすでに開始されています。神戸市では下水処理からでるガスを利用したバイオガス事業と太陽光発電を併設しダブルエコ発電事業に取り組んでいます。また、長野県では下水熱と地中熱を複合した再生可能エネルギーを諏訪赤十字病院に熱供給しています。コンセッション方式は長期契約に及ぶものが多く将来の役割の社会的要請と技術的な可能性は増すばかりだと思います。契約途中と言えども技術革新に対して柔軟に契約内容の見直し等の対応することが必要だと思います。下水処理とエネルギー分野との関わりにおいては良いビジネスモデルの構築を可能とする分野だと思います。また、再生エネルギーの供給と並行して下水道事業の運営を図るテクノロジーは発展途上国等への技術やプラントを輸出できる将来性のある取り組みのように感じました。その合理性は世界でも支持されると思います。
ご拝読ありがとうございました。
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