水道コンセッション方式について~上水道編(参議院浜田聡議員の調査室への依頼に対する回答)
9月中旬に差し掛かり穏やかかで過ごしやすい季節となりました。女心と秋の空と申しますが、男心と秋の空でもあります。そして、N国党と秋の空・・・かもしれません。もちろん、良い意味で想いや考えはうつろうのです。そうでなければ進歩や向上が望めくなるかもしれません。
さて、前回は水道事業のコンセッション方式の導入に関して下水道についての回答をご報告致しました。下水道については既に静岡県の浜松市においても取り組みを開始しております。ところが、同じ浜松市でも上水道に関しては未だに進んでいません。下水道と上水道で大きな隔たりが生まれています。浜田議員も仰っていましたが、上水道に関しては人が飲用したり肌に触れるものですので可否や是非に慎重になる必要があるということだと思われます。世論の影響を受けやすいのも上水道でしょう。今回はその上水道に関してのコンセッション方式の導入について参議院浜田聡議員の調査依頼に対する参議院厚生労働委員会調査室から回答を賜りましたので、僭越ながら私よりここにご報告いたします。
下線部分は私が加筆しましたことをご了承下さい。
参議院浜田聡議員の調査の依頼内容です。
2018年水道法改正による、各自治体での水道事業の現状を知りたいと思っています。
以下の調査を依頼させていただきます。
① 浜松市の水道事業の現状、特に下水道コンセッション方式導入による効果(利益の有無や水質の変化等)は?
② 袖ヶ浦市の水道事業の現状、特に水道法改正前後での事業形態の変化があれば教えてほしいです。
③ 浜松市以外に水道(上下水道別で)のコンセッション方式導入した自治体はあるか?
下記:浜松市HPより 水道事業スキーム
参議院厚生労働委員会調査室の回答です。
① について現時点において、浜松市は上水道事業のコンセッション方式について、検討も含め導入を延期しています。
引用資料:朝日新聞、平成19年2月1日
【“上水道の民営化、浜松、導入を延期”上水道の民営化を検討してきた浜松市の鈴木康友市長は31日「導入を延期する」と発表した。理由として、上水道の運営権を民間に長期売却するコンセッション方式について「市民、国民の理解が進んでいない」と述べた。同市は昨年4月、全国で初めて下水道でコンセッションを開始し、上水道でも検討していた。鈴木市長はこの会見で「コンセッションが有効という判断に変わりはない」とする一方、「風当りが強く、特別目的会社の設立など具体的な事業化の検討が難しい」と説明。検討再開の時期は「わからない。市単独では対応は難しい」と述べた。】
上記の新聞報道では浜松市の世論に沿った形で延期を決めたように窺えます。
しかし、浜松市のウェブサイトによると違った側面も見えてきます。
【“浜松市水道事業の運営委託方式(コンセッション方式)検討状況について”
本市においては更なる人口減少が想定され料金収入減少が見込まれますが、老朽化や耐震化対策の実施等で更新需要は増大していくことから、将来の経営への大きな負担が懸念されます。今後の更新等に必要な事業量の把握のために策定した浜松市水道事業アセットマネジメント計画(アセットマネジメント計画)では、将来の更新投資については平準化や長寿命化も進めていくことを想定しましたが、それでも投資規模は策定時(過去10年間の実績平均(41億円))の1.4倍程度を要することが分かりました。アセットマネジメント計画を前提として、本市が今後も公営により水道事業を継続した場合について財務シミュレーションを実施すると、本市水道事業において経営健全性を維持するためには、令和46年度までの間に60%程度の値上げが必要になるものと試算されました。また、現状と比較して1.4倍程度の事業量を実施するためには、体制面での強化も必要となりますが、職員の高齢化や特に技術職員の確保の状況から困難が予想されます。一方、アセットマネジメント計画を履行しない場合には、施設の老朽化等が進行し、本市水道事業の継続性に著しい影響が生じるものと予想されます。こうした状況のもと、上下水道部では、水道事業における経営課題への対応策の一環として、民間の有する経営や技術などのノウハウなどを活用した運営委託方式(コンセッション方式)導入の可能性などについて研究・検討を行ってまいりました。
現在、市民や国民の皆様の運営委託方式(コンセッション方式)へのご理解が十分に進んでいない状況であり、本市水道事業への運営委託方式(コンセッション方式)について、検討も含め導入を延期しています。】
新聞報道では具体的には延期理由を示さず、市民の理解が進まないという説明でしたが、浜松市のウェブサイトにおいては上記にように具体的な説明が為されています。つまり、延期理由は事業者側の事情によるところが大きいと推察されます。
具体的には水道管の老朽化が進んでおり、且つ、耐震化対策も求められることから、事業会社への負担が大きいということです。資産に対する投資は現在のペースよりも加速していくことが予想され、健全な経営の維持することが難しいということが延期することになった要因だとしています。
② について袖ヶ浦市の現状、特に水道法改正前後での事業形態の変化について下記に記します。
現状について↓
→袖ケ浦市の水道事業は、「かずさ水道広域連合企業団」によって運営されています。同企業団は、袖ケ浦市、木更津市、君津市、富津市の4市で行っていた水道事業と君津広域水道企業団で行っていた水道用水供給事業について、君津地域の水道事業の効率化を図るため、同一の事業体で行うことを目的に平成31年1月に設立された広域連合で、同年4月から事業が開始されています。←
関連資料:君津地域水道事業統合協議会『君津地域水道事業統合広域化基本計画』(平成29年10月)
https://www.kazusa-kouiki.jp/wp-content/uploads/2019/10 /kouikika-kihonkeikaku.pdf
かずさ水道広域連合企業団ウェブサイト
https://www.kazusa-kouiki.jp
統合の経緯については、上記の君津地域水道事業統合協議会『君津地域水道事業統合広域化基本計画』(平成29年10月)より以下抜粋
“袖ケ浦市水道事業”
【昭和36年に袖ケ浦町長浦簡易水道として、昭和39年に平川町簡易水道として供給を開始し、それぞれ拡張及び統合を重ねて上水道事業へ転換し、両町合併により昭和46年度に袖ケ浦町水道事業として創設された水道事業である。
事業創設後、給水区域の拡張、給水人口・給水量の増加に伴う拡張事業を経て、現在、計画給水人口82,200人、計画一日最大給水量49,230m3/日として供給を行っている。】
↓
【平成19年2月に千葉県県内水道経営検討委員会が「これからの千葉県内水道について」の提言をしたことを契機に、君津地域を貫流する小櫃川を単独水源とする地域特性などから独自の検討ができると考え、同年6月に「君津地域水道事業のあり方検討会」を発足させ、統合について協議を開始し検討を進めてきた。
平成25年10月17日、四市首長及び企業団企業長は統合・広域化の方向性に合意し、基本計画の策定、協議検討を進める覚書を締結した。】
上記のとおり、袖ケ浦市を含む周辺自治体の水道事業の広域化は、御指摘の平成30年の水道法改正前から既に検討が進められており、同法改正が直接の契機となったものではないと考えられます。かずさ水道広域連合企業団を設立済みです。
水道法の改正は民間連携の推進を奨めることだけを目的としていません。水道の需要の変化に伴う措置、施設の老朽化に伴う措置、人材不足に対する措置を基盤強化を図る為の法改正です。袖ヶ浦市においては従前より水道事業の広域化を図っており、袖ケ浦市、木更津市、君津市、富津市の4市での広域事業を開始していました。
参考:改正水道法概要(厚生労働省ウェブサイト)
https://www.mhlw.go.jp/content/000505471.pdf
梶原健嗣「改正水道法と新たなる広域化 -千葉県における水平統合の意義」『愛国学園大学人間文化研究紀要』(2020.3)
梶原健嗣氏の論文によると千葉県下において水道法に先行して集権的広域化は進んでいたということです。厚生労働省は2014年から水道事業に国庫補助金が交付されており、水道整備基本構想を基に都道府県水道ビジョンの広域化を対象にした補助金です。総務省においても2014年に公営企業の廃止を検討する姿勢を見せたりしていました。その際にも水道事業に関しては事業廃止や民営化を目論むのではなく広域化や民間活用を検討することを基本方針としていました。よって、水道法改正に先行して厚生労働省の水道広域化に対する交付金、総務省の水道サービスの広域化の基本方針などが先行して進められており、2018年の水道法改正による官民連携に注目するあまり、広域化の議論が緩やかなっていることを指摘しています。
③ 宮城県(ただし上水道、下水道、工業用水の“上工下水”一体)及び大阪市の事例がありますが、どちらも2022年4月の事業開始予定となっております。
下記資料:厚労省令和元年度全国水道関係担当者会議資料より
資料:日本経済新聞「宮城県、水道3事業の運営権を売却へ 国内で初めて」
(2019.12.17)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53458420X11C19A2EE8000/
【宮城県議会は17日、同県の水道事業の運営権を民間企業に売却する「コンセッション方式」を導入する条例改正案を賛成多数で可決した。上水道、下水道、工業用水の3事業を対象とするコンセッションは全国初。人口減や施設の老朽化が進む中、民間ノウハウでコストを削減し、将来的な水道料金の値上げを抑える。宮城県は2022年4月から導入する方針だ。3つの事業は現在は県が運営しており、上水道は仙台市など県内25市町村に水道用水を卸売りしている。下水道は26市町村を対象に市町村から流れてきた下水を処理。工業用水は68社に供給している。浄水場などの設備は引き続き県が保有し、運営権を民間企業に売却する。受託した企業は設備の運営や管理、修繕を手がけるほか、薬品や資材の調達も担う。契約期間は20年間。水道料金は県議会の議決を経て決める。県は20年3月に運営企業の公募を始め、21年3月に売却先を決める。県の試算では、従来方式で3事業を20年間運営する総事業費は3314億円だが、コンセッション導入で247億円を削減できるという。受託企業にはそのうち200億円を削減してもらう計画だ。村井嘉浩知事はコンセッションにより「水道料金の値上げを抑える」と説明する。20年後に2割増えると予想される水道料金の引き上げ幅を、コンセッションで1割程度に抑えたい考えだ。国内の水道事業は基本的に地方自治体が手掛けており、老朽化や人口減による収入低下で赤字を抱えているところも多い。18年に下水道事業にコンセッションを導入した浜松市は上水道にも導入を検討。ただ、市民の理解を得られていないとして、導入に向けた議論を棚上げしている。】
・橋本淳司「水道「コンセッション」方式、国内1号が年内誕生か」(2019.12.4)
https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotojunji/20191204-00153592/
【コンセッション契約の終了する20年後には、水道事業を経験している職員の多数が退職している。コンセッション契約を更新せざるを得ない状況になり、民間企業に有利な契約内容になる可能性もある。人口も大きく減る。宮城県の人口は、平成29年10月から30年10月までの1年間に8800人減少した。それが20年間続くとすると17万6000人減少することになる。1人当たりの水使用量を250リットルとすると4万4000トンの水使用量減になる。水道施設のダウンサイジングをしなければ、料金は上昇しているだろう。】
橋本氏が指摘するのは長期契約の終了後のことである。20年も経過すると自治体の水道事業に従事した熟練した実務や技術を持つ職員の多くが既にいなくなっており、民間事業者の優位な契約を図ることができる状況になることが危惧されるとしています。併せて、自治体に当該事業を熟知した職員が少ないことで契約を更新せず再度自治体が水道事業を行うことが困難となるのではと危惧しています。
下記資料:厚労省令和元年度全国水道関係担当者会議資料より
2022年4月から水道管の交換事業について導入する方針
大阪市ウェブサイト(https://www.city.osaka.lg.jp/suido/category/3516-8-1-0-0-0-0-0-0-0.html)
資料:毎日新聞「水道管交換事業 民間に運営委任 22年度から大阪市」(2020.1.30)
【大阪市は29日、水道管の老朽化対策として水道管の交換事業を全国で初めて民間に任せることを正式に決めた。事業の運営権を一定期間、民間に設定できるようにした改正水道法に基づくもので、2022年4月から導入する。2月議会で関連議案を提案する。市の水道管の総延長は計約5200キロで40年を経過した老朽管は約48%(18年度末)。全国の約16%(17年度末)を大幅に上回る。耐震化も遅れており、市は学校や病院などにつながる重要な水道管を含めた計約1800キロの更新を民間事業者に運営権を一定期間移す「コンセッション方式」で急ぐ。従来は年60-70キロのペースで25年はかかるとされた更新を16年間に短縮化。事業費も10%程度の圧縮を目指し、20-21年度に事業者を公募する。水道料金は現行水準を維持する。人口減による水道事業の収益悪化や水道管の老朽化は全国的な課題だ。】
大阪市は浄水や維持保全は現状の体制を維持し、老朽化した水道管の交換業務をコンセッション方式で民間事業者に任せる官民が連携した事業モデルです。官による収賄事件や不正を防ぐことに効果も見込めるそうです。契約期間は10年間で市議会の抵抗もないといいます。水道事業が赤字転落が見込まれる中で10%の予算の圧縮が可能となれば画期的で救世的な取り組みと言えるのではないでしょうか。
資料:橋本淳司、水ジャーナリスト、https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotojunji/20190220-00115343/
大阪市の水道管工事で大規模な不正が起きた。
【2012~17年に完了した1175件の工事の約9割で、業者の不正が発覚するという異常事態だ。関わったのは300社以上とみられ、同市の吉村洋文市長は、「不正が恒常化している」「不正業者には厳しく対応する」「入札資格を停止し、損害賠償請求も行う」と強調した。】
大阪市が発注した工事の9割に不正が見られるなんていうことはただごとではありません。不正が常態化しているのはもちろんのこと、大阪市の職員も分かっていて見過ごしていたのではないでしょうか。そうでもしない限り、1175件のうちの9割で不正が行われるようなことは不可能であるように思えます。当時の吉村市長は不正を無くすためにも水道管交換事業のコンセッションを進めると言います。しかし、冷静に考えてみますと大阪市の職員にコンセッション方式での契約後に監視能力があるのかどうか、聊か訝しく思います。全体の中で9割にも達する不正が行われしまっていた大阪市です。その抜け目だらけ大阪市の職員に管理監督することが果たして可能なのでしょうか。
以上、上水道のコンセッション方式での運営権譲渡に関してみてきましたが、水道は全国的に需要が減少する方向にあります。その要因として人口減少が一様に言われていますがそうではありません。東京都ではこの20年間で200万人も人口が増えていますが、逆に水道使用量は25%も減少しています。国や自治体は繰り返し右肩上がりの需要予測を立てて水源開発を行って来ました。それが原因で施設稼働率の低い不要な水道施設が出来過ぎたのだと考えます。そして、国はそのような無駄な施設が原因で水道料金が高騰したり、事業赤字が増す可能性が高いと予想される水道事業体を交付金を出して広域化を進めることで、地域による極端な価格差、品質の違い、管理体制の違いなど薄めようとしてきたに他ならないとではないでしょうか。現在の社会ではトイレや洗濯機やシャワーなど多くの利用器具で節水の機能が進化しています。飲料水も市販のものが多く利用されるようになりました。
国や自治体は水道事業の広域化を進めることで遊休化や不良債権化の影響を薄めたいのではないかと推察します。一方、事業規模が大きな自治体においては民間事業者の参入の可能性が高く期待できるために官民連携の一環として解決案が見越せるという意味においてコンセッション方式で一定のリスク回避を目論むことができるのであろうと思います。つまり、浜田議員が調査依頼した2つのケースは規模による違いを調査しようとしたのではないでしょうか。浜松市は事業規模が比較的大きいケースでコンセッション方式を進めようとした自治体、方や袖ヶ浦市は事業規模が小さく将来的に水道料金が高額化する可能性が高いため、周辺自治体と共に広域化の道を選んだ自治体です。広域化については生活基盤施設耐震化等交付金などより交付金が配分され小規模自治体にとっては取り組み易い制度です。
結論としてふさわしくないかもしれませんが、人口減、需要減は水道に限らず多くの公共サービスにおいて影響が出てくるのは当然です。よって、時代の要請として官民連携を図る必要は年々増すのであろうと思います。現状の公共サービスは質が落ちるか高額になるか、そのようなことになるのが当然の状況になりつつあると思います。
ご拝読ありがとうございました。
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