憲法第53条および国会法第2条に関する臨時国会の召集期限の明示に関して(参議院浜田聡議員の法制局への相談に対する回答)
今年もあとわずか2か月ですね。今年、やり残したことはないですか。2か月しかないと思えばわずか2か月ですが、2か月もあればできることもたくさんあると考えて前向きに過ごしたいと思います。例えば、寒いけど海水浴、寒いけど浴衣、寒いけどビアガーデン、コロナだけど海外旅行・・・なんのこっちゃ。
さて、参議院浜田聡議員が憲法第53条による臨時国会の召集要求があった場合における召集期限の明示に関する国会法改正について参議院法制局に相談して回答を賜りましたので僭越ながら私よりご報告致します。
下線部分は私が加筆致しましたことをご了承下さい。
第53条 【臨時会】
内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。
参議院浜田聡議員の相談内容
参考:浜田聡議員のブログ https://www.kurashikiooya.com/2020/07/01/post-10052/
【改正の方向性】
いずれかの議院の総議員の4分の1以上の議員(の連名)による臨時会の召集の決定の要求(以下「臨時会の召集要求」という。)があったときは、内閣は、臨時会の召集要求に係る要求書を受領した日から○日以内の臨時会の召集を決定しなければならない旨の規定を追加することとする。
憲法第53条による臨時会の招集要求があった場合における召集期限の明示に関する国会法改正について、改めて法案作成の相談です。いくつか課題を提示していただきありがとうございました。
検討課題については以下のように考えた上で、法案作成して公表に持っていきたいと考えております。
⑴ 召集期限
自民党の憲法改正草案の53条に、20日と設定していました。ひとまずは、これを採用するのがいいと思いました。
⑵ 会期延長の制度との関係 や ⑶ 選挙に伴う召集義務との関係については、「問題が起こった場合に政府と国会で議論の上、適切に対処する」方針などを盛り込んでみる案を考えています。
参議院法制局からの回答((1)については2020年7月に受領)
(1)召集期限
召集期限をどの程度とするのか。
〔国会における召集義務の例〕
・衆議院の解散→選挙の日から30日以内(憲法第54条第1項)〈特別会〉・衆議院議員の任期満了に伴う総選挙→任期が始まる日から30日以内 (国会法第2条の3第1項)〈臨時会〉
・参議院の通常選挙→任期が始まる日から30日以内(国会法第2条の3第2項)〈臨時会〉
〔地方議会における招集義務の例〕
・普通地方公共団体における首長に対する臨時会の招集請求→請求のあった日から20日以内(地方自治法第 101条第4項)
(2)会期延長の制度との関係については、
例えば、会期終了直前に会期延長の動議が「多数」により否決され、その閉会直後に「4分の1以上という少数」で臨時会の招集要求がなされたという場合について、一定期限内での召集が義務付けられるとすると、会期を延長しないという多数の意思を直後に少数の意思で事実上否定することとなるのではないかとの議論がありうるのではないかということです。
内閣は、20日以内の臨時会の召集の決定に応じられない場合は、その理由を疎明しなければならないこととし、その理由の適否を国会が判断するような仕組が考えられるか。
ただし、次のような点についてさらに検討が必要となるのではないか。
①内閣が疎明した後に「政府と国会で議論」をするために具体的にどのような仕組とするか。例えば、内閣による疎明を受諾し得るかどうかを判断する主体及び当該疎明を受諾することができない場合の対応について、どのようにすることが適当か。
②常会の召集や選挙に伴う召集義務との関係については、内閣が裁量を有するものではなく、内閣に説明させるべき事柄として適切かどうか。
③「内閣が提出する議案の準備が整っていないことを理由として、召集期日を遅延させることも相当でない」との指摘もある中で(「注釈日本国憲法(3)」666頁)、②ともあいまって、内閣の疎明を認めるべき具体的なケースとして、どのように考えるべきか。
(3)選挙に伴う召集義務との関係については、
別に定められている選挙に伴う法定期限内の国会の召集義務と先生のお考えになられている臨時国会の法定期限内の召集要求があった場合の召集義務が重なるような場合について、この2つの法定期限の関係をどう整理・調整するのかということです。そういった意味では、先生御指摘の「奇妙なこと」が生じないようにするための法的な整備について、検討が必要ということです。
○国会法(昭和 22 年法律第 79 号)
第二条の三 衆議院議員の任期満了による総選挙が行われたときは、その任期が始まる日から三十日以内に臨時会を召集しなければならない。但し、その期間内に常会が召集された場合又はその期間が参議院議員の通常選挙を行うべき期間にかかる場合は、この限りでない。
②参議院議員の通常選挙が行われたときは、その任期が始まる日から三十日以内に臨時会を召集しなければならない。但し、その期間内に常会若しくは特別会が召集された場合又はその期間が衆議院議員の任期満了による総選挙を行うべき期間にかかる場合は、この限りでない。
第三条 臨時会の召集の決定を要求するには、いずれかの議院の総議員の四分の一以上の議員が連名で、議長を経由して内閣に要求書を提出しなければならない。
第十二条 国会の会期は、両議院一致の議決で、これを延長することができる。
②会期の延長は、常会にあっては一回、特別会及び臨時会にあっては二回を超えてはならない。
第十三条 前二条の場合において、両議院の議決が一致しないとき、又は参議院が議決しないときは、衆議院の議決したところによる。
第百二条の十五 各議院の情報監視審査会から調査のため、行政機関の長に対し、必要な特定秘密の提出(提示を含むものとする。以下第百四条の三までにおいて同じ。)を求めたときは、その求めに応じなければならない。
②前項の場合における特定秘密保護法第十条第一項及び第二十三条第二項の規定の適用については、特定秘密保護法第十条第一項第一号イ中「各議院又は各議院の委員会若しくは参議院の調査会」とあるのは「各議院の情報監視審査会」と、「第百四条第一項(同法第五十四条の四第一項において準用する場合を含む。)又は議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律(昭和二十二年法律第二百二十五号)第一条」とあるのは「第百二条の十五第一項」と、「審査又は調査であって、国会法第五十二条第二項(同法第五十四条の四第一項において準用する場合を含む。)又は第六十二条の規定により公開しないこととされたもの」とあるのは「調査(公開しないで行われるものに限る。)」と、特定秘密保護法第二十三条第二項中「第十条」とあるのは「第十条(国会法第百二条の十五第二項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)」とする。
③行政機関の長が第一項の求めに応じないときは、その理由を疎明しなければならない。その理由をその情報監視審査会において受諾し得る場合には、行政機関の長は、その特定秘密の提出をする必要がない。
④前項の理由を受諾することができない場合は、その情報監視審査会は、更にその特定秘密の提出が我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがある旨の内閣の声明を要求することができる。その声明があった場合は、行政機関の長は、その特定秘密の提出をする必要がない。
⑤前項の要求後十日以内に、内閣がその声明を出さないときは、行政機関の長は、先に求められた特定秘密の提出をしなければならない。
第百四条 各議院又は各議院の委員会から審査又は調査のため、内閣、官公署その他に対し、必要な報告又は記録の提出を求めたときは、その求めに応じなければならない。
②内閣又は官公署が前項の求めに応じないときは、その理由を疎明しなければならない。その理由をその議院又は委員会において受諾し得る場合には、内閣又は官公署は、その報告又は記録の提出をする必要がない。
③前項の理由を受諾することができない場合は、その議院又は委員会は、更にその報告又は記録の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができる。その声明があつた場合は、内閣又は官公署は、その報告又は記録の提出をする必要がない。
④前項の要求後十日以内に、内閣がその声明を出さないときは、内閣又は官公署は、先に求められた報告又は記録の提出をしなければならない。
(1)上記を受けて浜田議員の想定は召集期限の明記に関しては自民党の憲法改正案にあるように20日以内とするのが良いと考えているということでした。
(2)政府が20日以内の臨時会の召集に応じられない場合について、浜田議員は「問題が起こった場合に政府と国会で議論の上、適切に対処する」という方針を暫定しました。
法制局によるとその場合について
①政府の疎明に対する受託の可否の主体は
②常会、選挙の召集義務は内閣の裁量ではない
③内閣の疎明に対する受託の可否の判断基準とするのは
浜田議員が懸念する国会の採決と憲法第54条の整合性を持たせるべく改正にするには憲法改正の高い壁が超えなければならない。そこで、浜田議員の意向として国会法の第二条の改正を提案することで召集期限の明記に繋げるのが良策であるとする。
ここで再度、本問題の所在を明らかにして整理したい。
国会の会期延長案に関する採決を採った上で反対が過半数ということで否決となった場合でも、その後に憲法第54条にあるいずれかの議院の1/4以上の要求があれば内閣は召集しなければならない。とすると、1/4の議員の意思が過半数の議院の意思に優先することなる。
また、政府が召集を決定しても召集期限が明示されていないならば事実上の引き延ばしが可能となり召集の決定の目的を果たし得ない可能性も否定できない。よって、国会法第三条において政府が臨時会の召集を決定する場合は20日以内に国会を召集しなければならないとする(浜田議員案)という条文に改正すること機能的で論理的であろう。また、20日以内の臨時会の召集に応じられない場合に政府は疎明しその受託の可否を図る必要があるが浜田議員は“政府と国会で議論の上、適切に対処する”とすることを提案する。法制局としては判断する主体や基準をどのようにするかという踏み込んだ問題を提起している。
そもそも国会法に対し憲法を優先されるので、憲法上で臨時会の召集は決定しなければならないと規定されているので、政府の疎明の機会とは一体如何なるものかと思います。召集期限を20日以内とする場合は国会法の規定を改正することで適用可能とできる。
注釈日本国憲法(3)有斐閣、土井真一著によると、議院の総議員の1/4の要求があった場合の召集の決定はえい法的義務であり政治的な要請に留まるものではないとある。浜田議員が召集期限の明示の必要性を指摘するのは下記のような事態が実際に過去に起きているからなのかもしれない。
2005年11月1日に行われた召集要求に対して小泉純一郎内閣が翌年1月20日(80日経過)に召集した例、2015年10月21日に行われた召集要求に対して安倍晋三内閣が翌年1月4日(75日経過)に召集した例がある。これらは実質的には政府は臨時会の招集に応じていないのではないか。それぞれ次期常会の招集日に合わせているのは明らかだからだ。これらの例は憲法を軽視しているとされてもしょうがない運用であるし、そもそも社会通念に照らして判断しているとも思わない。政府の誠実な招集期日の決定に期待するのではなく法の下の規定が必要なのは明らかだと思慮する。政府が提出議案の準備が整っていようといまいとそれは理由にならない。なぜならば、国会議員には独自の議案提出権が与えられているのだから。
さて、臨時会の招集の要求が繰り返されることで制度を濫用されないようにする対策も必要になるだろう。国会法第12条には会期の延長は常会は1回、臨時会は2回を超えてはならないと規定されている。しかし、臨時会の召集の要求に対するそういった規定は見当たらない。
現在において内閣が臨時会を適切に召集しなかった場合には政治的責任は生じるが義務を履行することを強制する法的な方法はない。この状況を改善するべきだという提起が浜田議員の意図するところだと考える。
「所定の要件を備えた臨時会招集請求に正当な理由もなく応じない場合、それは違法であっても違法状態を直接是正する方途は保障されていない。」昭和28年5月28日の最高裁判決である。その後、この状況が改善されていないことこそが問題であろう。
さて、最後に皆様がご承知のことと思うが念のためにここに記します。
1)国会において、議長に召集権はなく、憲法により内閣の助言により天皇が召集する。
2)内閣の助言は、内閣が国会召集について、天皇に奏請することにより行なわれている。
(憲法第7条2)
最後までご拝読を賜りありがとうございました。
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