公務員の選挙への立候補の制限について(参議院浜田聡議員の法制局への相談に対する回答)

しわっす!早いものでもう師走に突入しました。今年もあと僅かですが、どうしわす?どうか、皆さん、おしあわすに!

さて、参議院浜田聡議員が公務員の選挙への立候補の制限についての法案について参議院法制局に相談して回答を賜りましたので下記のようにご報告いたします。

下線部分は私にて加筆致しましたことをご了承ください。


参議院浜田聡議員の相談内容

公務員が選挙に出馬する際に辞職しなくてすむような法改正の相談です。

ここでの公務員というのは地方公務員や国家公務員などです。議員や首長など選挙で選ばれた者ではない公務員を指します。現職の議員や首長が選挙の出馬の際に辞職(自動失職)する必要があるというのは理解ができるのですが、そうでない公務員が出馬の際に辞職する必要があるのか、疑問です。公職選挙法 第89条~第91条あたりが改正のターゲットになるのではないかと考えています。

法制局からの回答

公務員の在職中の立候補制限の見直しについて 次のような点について考え方を整理する必要があるのではないでしょうか。

1.公務員の政治的中立性の確保との関係

○ 国家公務員法・地方公務員法は、公務員の政治的行為を制限しているが、これは、「公務員の政治的中立性の確保」を図るためのものである(国家公務員法第102 条、地方公務員法第 36 条)。

→ 在職中の立候補を認めると、この「政治的中立性」が損なわれることとなるが、その点をどう考えるか。

例えば、ある政策に反対の立場で立候補・選挙運動をした者が、落選した後、引き続き公務員としてその反対した政策に関する事務に従事するといった事態 も生じ得るが、どうか。 * 公務員の政治的中立性の確保が求められる理由については、次のように説明されている。 ① 公務員の「全体の奉仕者」としての性格(憲法第 15 条第2項。特定の政治的グループの 利益のために奉仕することは、この性格に反する。)

② 行政の中立性と安定性(政治から中立で専門性を持つ職業公務員集団を維持し、公正な行政の執行に対する国民の信頼を保護)

③ 政治的影響からの公務員の保護(政治と密接な関係を有する者だけが、政党等から政治的活動を求められ、その結果によって身分取扱いが左右されるおそれ

○ 全ての公務員について、一律に考えることができるか。

→ 例えば、選挙管理委員会の職員や裁判官等については、一般の公務員とは異なり、一切の選挙運動が禁止されている(公職選挙法第 136 条)。こうした公務員について在職中の立候補を認めると、ある党に所属していることを明らかにし、その政策を支持することを主張したが落選し、その後、選挙関連事務に従事したり、裁判をするといった事態が生じるが、職務の性格上よいのかどうか。

→ その他、教育公務員などについても、検討が必要ではないか。

2.公務員の職務専念義務との関係

○ 国家公務員法・地方公務員法は、公務員に対し「その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職務遂行のために用い」る義務を課している(国家公務員法第 101 条、地方公務員法第35 条)。

→ 立候補を認め、公務員が勤務日にも選挙運動を行うこととなると、上記の職務専念義務を果たすことが困難になるのではないか。そのことをどう考えるか。

→ 仮に、職務専念義務の免除等を検討するとしても、公務員の職務が国民・住民 の信託に基づくもので、その費用が国民・住民の租税負担によって賄われるものであることからして、免除等を認めることが適当かどうかが問題となるのではないか。

※ なお、政府の地方制度調査会では、「地方議会の人手不足の解消」という観点から、第 28次の調査会(平成17 年)以降、公務員の立候補制限の緩和を行い得るのかどうか議論されていますが、これまでのところ結論に至っていないようです。


さて、上記、浜田議員の問うところは現職の公務員であり選挙によって選ばれた者以外においての在職中の被選挙権の行使を指しているわけですが、地方公務員法において一部の公務員に対して在職しながら被選挙権を行使することができる条項があります。

地方公務員法第57条において単純な労務に従事する一般職の公務員公営企業に従事する企業の職員、特定地方独立法人の課長又はそれに相当する職以上にある主たる事務所に職の在る者以外の者については在職中に公職の候補者になりうることができます。

公職選挙法にあっては公務員の選挙への立候補の制限について下記の通り規定しています。

(公務員の立候補制限)

第八十九条  国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人(独立行政法人通則法 (平成十一年法律第百三号)第二条第二項 に規定する特定独立行政法人をいう。以下同じ。)、特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法 (平成十五年法律第百十八号)第二条第二項 に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)若しくは日本郵政公社の役員若しくは職員は、在職中、公職の候補者となることができない。ただし、次の各号に掲げる公務員(特定独立行政法人、特定地方独立行政法人又は日本郵政公社の役員及び職員を含む。次条及び第百三条第三項において同じ。)は、この限りでない。

一  内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣(法律で国務大臣をもつてその長に充てることと定められている各庁の副長官を含む。)及び大臣政務官(長官政務官を含む。)

二  技術者、監督者及び行政事務を担当する者以外の者で、政令で指定するもの

三  専務として委員、顧問、参与、嘱託員その他これらに準ずる職にある者で臨時又は非常勤のものにつき、政令で指定するもの

四  消防団長その他の消防団員(常勤の者を除く。)及び水防団長その他の水防団員(常勤の者を除く。)

五  地方公営企業等の労働関係に関する法律 (昭和二十七年法律第二百八十九号)第三条第四号 に規定する職員で、政令で指定するもの

上記のように国家公務員においても地方公務員において一様に在職中に選挙に立候補すると自動失職するというわけではありません。政令で指定するものとは下記の通りに規定されています。

(立候補できる公務員)

第九十条  法第八十九条第一項第二号の規定によって、在職中、公職の候補者となることができる者は、地方公営企業等の労働関係に関する法律 (昭和二十七年法律第二百八十九号)附則第五項に規定する単純な労務に雇用される一般職に属する地方公務員とする。

第九十条

3  法第八十九条第一項第五号 の規定によって、在職中、公職の候補者となることができる者は、地方公営企業等の労働関係に関する法律第三条第一号に規定する地方公営企業に従事する職員又は特定地方独立行政法人の職員で、課長又はこれに相当する職以上の主たる事務所における職に在る者以外の者とする。

上記にある単純労務職員については、公営企業の職員の場合と同じく、これらの職員は公務員ではあるが従事する職務内容が民間の類似の職種の勤労者と実質的に共通していることから、公務員としての基本的な規制は別として、できる限り民間と同じ取り扱いをすることとされたためです。つまり、職務を執行するにあたり政治的な中立性が損なわれたとしても国民に不利益を伴わない場合においては立候補を制限していないと解釈できると思います。職務専念義務は政治的な中立性とは隔して保持できる労務に従事していることから果たされると解することができると考えます。但し、それは地方自治体職員であるか特定地方独立法人の職員が例外的に認められているにすぎません。

参考に諸外国の状況を少し調べてみました。

フランスでは公務員のまま選挙に立候補することのみならず当選した場合には身分を有したまま議員に就任することが可能となっています。その場合は休職扱いとすることができます。フランスでは国会議員や地方議員を得て国家公務員が政治家としてキャリアを形成することは一般的です。国家行政学院の卒業生が政治家と公務員の主要ポストを占めておりエリート主義的であると多くの批判を受けている状況にあります。

ドイツでは休暇を利用して選挙に立候補することを認めています。当選した場合には公務員の地位を保持したまま議員に就任することができます。議員に在職している期間を公務員における在職期間に参入することと規定されており、議員の任期を終えたら復職することが前提が前提となっています。また、選挙に出る場合、無休ではあるが選挙前2か月の休暇を取得することができる規定があります。州によっては議員と公務員の兼務を認めていて議員活動の為に就業時間を短縮することができる制度も存在します。逆に州によっては議員と公務員との兼職を禁じているケースもあり、一時休職も認められないこともあります。基本的に立候補と兼職を広く認めていますが州によって規定はまちまちとなっています。

イギリスでは現業職員(非権力的職員)の国会、欧州議会、地方議会への立候補が可能となっています。逆に、現業職員以外は選挙への立候補ができません。現業職員以外の者は国や地方自治体などの各団体ごとに明示されています。議員の任期後の復職に関しても各団体がその判断を委ねられています。また、現業職員以外の者は政治的な活動や政治的な発言、執筆活動も禁止されています。

アメリカでは公務員が立候補する場合は公務員を辞職することが原則となります。したがって公務員が議員を兼職することは出来ません。行政権と立法権を明確に分けているということです。公務員が勤務時間外に政治活動を行うことは認められています。

日本でも1925年の衆議院議員選挙法改正以前は、フランス、ドイツにならい広く立候補と兼職を認めていたことがありました。しかし,普通選挙の実施に伴い、政務官を除く議員との兼職が禁止され、戦後改革では立候補も禁止されることとなっています。

公務員の政治的中立性はGHQが求めたものでした。GHQ は日本の民主化の象徴として、国会の地位向上を目指し、公務員には労働基本権の制限や政治的行為の制限を課すなどして、政治家と公務員の役割を明確にしようとする意図を持っていたようです。したがって、議員が公務員となる政務官を除いて一般の公務員はできる限り試験で採用することとしたのだと思われます。当初は、公務員が選挙に立候補した場合は、当選した場合に限って辞職することで足りるという案もありましたが、結局は、国家公務員は一律に被選挙権が与えられない現在の仕組みとなりました。それには、1948年のマッカーサー書簡によって、職員の労働基本権が厳しく制限されたためだと考えられます。組合活動はときに政治的行為との区別が難しくなり、双方ともに強化する必要性があると考えられていたことに起因しているのでしょう。

上記のように日本の公職選挙法、各種公務員法には色濃くアメリカ流の民主主義思想の影響が伺えます。

公務員による政治的中立性とは如何なるものなのかを特定して定めていません。よって、議員の任期に合わせた休職を可能としうる制度や兼業を可能としうる規定を設けることは政治的中立性の不安定な観点から鑑みますと克服しがたい課題であると思います。

最高裁判決でも行政の政治的中立性は国民の信頼を維持することを憲法で要請するものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは国民全体の利益にほかならないとされています。

一方、昨今、地方議会においては無投票選挙が多くみられている状況です。公務員の存在が地方議会にとって人材供給を担うということは欧州諸国の考え方を見ましても有力であることは確かです。行政府が立法府を侵食するのではないかという懸念ばかりを持っていても状況を改善することは出来ません。公務員の立候補を容易にする規制緩和をもって地域によっては慢性的となりつつある無投票選挙において選択肢を提供することは有効であろうと思います。一方、公務員としての兼職においては議員の専業化、専門家の観点から一定の制限を設けることは有権者の要求に適ったことであろうと思います。世界的な潮流としても議員、公務員はそれぞれの職務に専念すべきとの考えが浸透してきたことを受けて現在の法規制があるのだと理解しています。その中で立候補のハードルを下げる方法を検討し、公務員が政治の途に進めるような制度や慣行によって選挙に民意がより反映される機能を発揮するプロセスを確立するような改善を模索することは有意義なことだと考えます。

いずれにせよ、現行法において、公務員のままで選挙に立候補し、落選したら月曜日に何食わぬ顔をして出勤することは可能だということが判明しました。単労職務の人や公営企業の管理職以外の者に制限はされていますが。該当する公務員の方は被選挙権を行使して勝負に出てみてはいかがでしょうか。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

0コメント

  • 1000 / 1000