職務質問と警察手帳の提示について(参議院浜田聡議員の法制局への相談に対する回答)
早いもので師走も半ばです。令和2年も残すところあと2週間となりました。そこで一言。
「覚えよう、左がマナで右がカナ」
一人一人にそれぞれの役割がある尊い存在なのですよ~という意味でございます。
さて、参議院浜田聡議員が支援者様から警察官職務執行法第二条の改定についての提案と相談を受けて参議院法制局に相談をして回答を頂戴しましたのでここにご報告いたします。
尚、下線部分は私にて加筆しましたことをご了承下さい。
参議院浜田聡議員の相談内容
警察官職務執行法2条の改正について相談です。
職質の要件として、
1:警察手帳を相手方に見せる
2:緊急の場合を除き、相手方になぜ職質をするのか具体的に説明してから行う
3:職質を終えたら、どのような問題があったのか?または問題がなかったのか?を説明する
などを全国共通ルールとするような改正案を検討しています。
参議院法制局からの回答
1 警察手帳の呈示について
○ 警職法において職務質問の際に警察手帳を呈示する旨の規定はないものの、国家公安委員会規則において、警察官の職務執行に当たっての警察手帳の携帯義務及び証票・記章の呈示義務が定められている。また、都道府県警察においてもこれらについて定めている例がある。
罰則規定はないものの施行規則において職務質問の際に相手の求めに応じて警察手帳及び証票・記章の提示義務があること当然のことではありますが、それを快く思わない警察官も多数存在することも事実だと思われます。その乖離こそが問題のファクトではないでしょうか。
* 警察手帳規則(昭和29年国家公安委員会規則第4号)
(証票及び記章の呈示)
第五条 職務の執行に当たり、警察官、皇宮護衛官又は交通巡視員であることを示す必要があるときは、証票及び記章を呈示しなければならない。
(警察手帳の携帯)
第六条 警察手帳は、その取扱いを慎重にし、警察庁(警察庁内部部局、警察大学校及び科学警察研究所をいう。)にあっては警察庁長官、管区警察局にあっては管区 警察局長、皇宮警察本部にあっては皇宮警察本部長、都警察にあっては警視総監、道府県警察にあっては道府県警察本部長が特に指定した場合を除き、常にこれを携帯しなければならない。
* 警視庁警察手帳規程(平成14年訓令甲第34号)
(警察手帳の呈示)
第5条 職務の執行に当たり、警察官であることを示す必要があるときは、本体を開いて証票及び記章を呈示し、身分を明らかにしなければならない。
* 警視庁警察手帳規程の運用について(平成14年通達甲(総.装.装1)第7号)
第2 運用上の留意事項 3 警察手帳の呈示(第5条関係)
「警察官であることを示す必要があるとき」とは、職務の執行に当たり、相手方から身分証の呈示を求められたとき、又はあらかじめ相手方に警察官であることを知らしめる必要があるときをいう。
〇 このように、警察手帳の携帯義務及び証票・記章の呈示義務が定められているところ、更に法律(警職法)において義務付けるに足りる事実があるかどうかや、法律で義務付ける理由について検討する必要があると思われる。
警察の職務は最も厳格性が求められるものの一つです。法に基づいた公権力の行使を代表するものです。よって、曖昧な規定は看過されるべきではないと思います。国家公安委員会で規定する施行規則ではなく警察官職執行法で法規として規定するべきだと考えます。それは規定の曖昧さ除去することと警察官を装った犯罪の防止にも効果があると思います。
〇 また、警職法上では、強制力のある立入において証票呈示義務が課されているところ、あくまで任意の職務質問についても証票呈示義務を課すことについては、立入における場合との整理も必要になると思われる。
強制力のある、つまり、捜索差押令状等を開示して行う立ち入り等に関しては証票提示義務を課す必要はないのかもしれません。令状を真偽を疑うのであれば証票の真偽も疑われるのであって被疑者の抗弁にはなりないと思います。
2-3 職務質問における事前・事後の具体的な説明について
○ 職務質問を行う場合には被疑事実の嫌疑までは必要なく、様々なケースが想定され、犯罪捜査の端緒となり得る場合もある。また、職務質問の理由・結果について相手方に告げることによって、逃走や証拠隠滅のおそれが生じる場合もあると考えられる。このようなことから法律をもって一律に義務付けることについては、慎重な検討が必要ではないかと思われる。
* 警察官職務執行法(昭和23年法律第136号)
(質問)
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既 に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。
〇 なお、警察法には、警察官の職務執行についての苦情処理制度が設けられているところである。
* 警察法(昭和29年法律第162号)
(苦情の申出等)
第七十九条 都道府県警察の職員の職務執行について苦情がある者は、都道府県公安委員会に対し、国家公安委員会規則で定める手続に従い、文書により苦情の申出をすることができる。
2 都道府県公安委員会は、前項の申出があったときは、法令又は条例の規定に基づきこれを誠実に処理し、処理の結果を文書により申出者に通知しなければならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 申出が都道府県警察の事務の適正な遂行を妨げる目的で行われたと認められるとき。 二 申出者の所在が不明であるとき。
三 申出者が他の者と共同で苦情の申出を行つたと認められる場合において、当 該他の者に当該苦情に係る処理の結果を通知したとき。
上記のような苦情処理制度は多くの管制機関に規定されています。行政サービス、運送業法、旅行業法、放送法にも規定がある形式条文であると思います。ただ、苦情の当事者、該当者以外の苦情に係る処理の結果を明らかにすることを否定するような規定が存在することに疑問を感じます。国民の知る権利は憲法で保障された権利です。警察官の職務執行についての苦情は国民である第三者に対して開示できないということは憲法に反する指向ではないかと思えます。原則は開示できるべきだと思いますし、当該事案に対する捜査等に支障をきたす場合等に限って苦情処理にあたらない、などという例外的な措置を設けることで十分に足るのではないでしょうか。
上記を踏まえて少し考証したいと思います。
警察法第2条
警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする。
(2) 警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきものであつて、その責務の遂行に当つては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法 の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。
警職法第二条
(1)何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足る相当な理由のある者(犯罪容疑者)
(2)既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者(犯罪の目撃者等の参考人)。
地域警察官が職務質問を行う場合、上記の警職法第2条に該当する者に限定されています。平成27年の記録によると刑法犯の検挙数は34万件以上に上りますが、職務質問を契機に検挙したのは3万5千件に過ぎず約10%に留まります。地域警察官の定員は約25万人ですが、警部補以下の現場で働く地域警察官は全国で約14万人います。よって、職質による検挙は一人につき0.25件ということになります。これでは警察官の職務質問が国民の期待するような成果を上げていないことは明らかだと思います。職務質問は警察にとって有力な犯罪検挙の手段であることは察します。しかし、それが思うように検挙の端緒に繋がらないことから職質の能力の向上を図る研修を繰り返し行っています。それでも、判然とした効果を見ないのは、現代社会において暮らしの中での他者との会話が減っており、人と人のコミュニケーションの取り方が多様化していることが影響しているのではないかと思います。それは職質をする警察官にも職質をされる国民にも言える事です。端的に言うと警察の職質は対象者の協力を要するものであるから、対象者が協力しやすいコミュニケーションが要求される。それにも拘わらず、コミュニケーション能力に劣る場合はうまく疎通できない職質対象者に対して職質に協力的でない者は疑わしき者という思い込みが働いてしまうのでしょう。そのような心理が態度に現れる警察官がいるということです。
そのような行為は検挙の端緒になるかどうか以前の問題として、対象者から嫌悪されてしまうのです。嫌悪感を抱いた者にとっては警察への協力心は生まれません。
職務質問を行う警察官はその身分を証するものを示したうえで対象者の協力を乞うことは当然のことでありますが、それを怠る警察官が相当数いることも現実だと思います。この状況を改善するためにも職務質問を行う上で対象者からの警察手帳や証票の提示を求められたら警察官には応じる義務があることを国民に広く周知することを徹底するべきだと思います。質問する側もされる側も双方に立場があり権利を有することを認識することで現状の改善を試みることができるのではと思います。いろいろな試行錯誤を行った上で、警察官がそれに応じないケースが多数見受けられたりする場合においては施行規則ではなく法律上の罰則のある規定を設けることも検討する必要が出てくるのかもしれません。
また、警察官の応答態度や職務内容について国民からの疑義も多いのも事実だと思います。これらを都度に明らかにし罰則を検討することは現実的ではないと思います。現代社会では情報化も進んできておりカメラ付き携帯電話や防犯カメラ、ドライブレコーダーなどが広く普及しています。SNSでの状況証拠の拡散も多く見受けられます。そのような状況下であることを認識することで警察官の日常業務における応答態度の改善も自然と図られていくような気もします。警察官は緊張感を持った不偏不党の業務態度を心掛けないと糾弾や告発の対象とされる可能性があり、その是非を広く社会に問われかねません。それでも、警察官の不当な権力の行使や高圧的な態度による苦情が減少しないということであれば法規定を図る必要があるとは思います。関係がないかもしれませんが、警察内での検挙に対する実質的なノルマ設定も雑な職質が発生することに繋がっているのかもしれません。全体対比何%という全く根拠のない検挙目標数値を設定し現場に達成を課しているのが実態です。そのようなオペレーションが正当であるかどうかも見直す必要があろうかと思います。
余談ではありますが、2003年頃から犯罪は年々減少して2019年と比較すると6割以上(交通事故を除く)も減少しています。にも関わらず警察官の数はこの2019年までに17000人も増加しています。警察官の増加で防犯防止効果が出たということでしょうか。それにしては、この15年で交番や駐在所は約1500か所も減少しています。その因果関係は定かではないのですが、検証を行う必要があるように思います。
昨今は人口の減少が進んでいます。特に若年層は特にです。犯罪の減少と人口の減少に則して組織や予算の見直しを行う時期に差し掛かっているのではないでしょうか。
警職法が施行されたのは1948年です。72年が経過し社会の様相は一変しています。国民の意識も変わっています。古くなった住宅がリフォームするように、法、組織、予算の総合的な見直しが必要な時期に来ていると思います。
以上、最後までご拝読を賜りありがとうございます。
0コメント