銀行法等の一部を改正する法案について(参議院浜田聡議員のサポート)
東日本大震災から早いもので10年が経ちました。改めまして亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。震災発生時は私は自社で経営する青森のホテルにおりました。JR青森駅がすぐさまシャッターを下ろすと私のホテルに数えきれないほどの行き場を失った人々が押し寄せました。私のホテルが青森市内で一番背が高いビルであったために津波を恐れた市民もホテルに押しかけました。9つある宴会場やロビー、各階のフロア、客室、レストラン、ホテルの入れる場所はすべて開放して一人たりとも追い返さないようにしました。青森駅前の唯一のシティホテルでしたので想像を絶するたくさんの人々でホテルが埋め尽くされました。新幹線も東北自動車道もストップして観光客の数百人のお客様は帰れなくなってしまいました。お客様は朝ホテルを後にし飛行場へ行きますがほとんどのお客様が飛行機に乗れず夜には戻ってくるのを繰り返す毎日です。電気もガソリンも食材も不足する中で一生懸命お世話しました。すべてのお客様が無事に帰られるまで努力しました。客室に残されたお客様からのお礼が書かれたメモ書きが私たちスタッフの折れかけた気持ちを支えていました。被災地の惨状を知るにあたり、自分たちは勿怪の幸いだと歯を食いしばって耐え忍ぶしかなった日々が忘れられません。以来、司馬遼太郎の作品に通ずる無常観を意識するようになりました。
さて、昨日は参議院浜田聡議員のお手伝いに伺い銀行法改正案について一考致しました。
新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図る為の銀行法等の一部を改正する法律案という長い題名の法案を検討してみたいと思います。
この長い法案名ですが、つまり、単なる「銀行法等の改正案」でして、まるで新型コロナ感染症等対策に関わる金融支援法案であるかのように表題を謳うことに関しては強い違和感と抵抗感を私は持ちました。この法案の骨子は新型コロナウイルス感染症が発症してから社会情勢を見て作られたものではありません。
第二次安倍政権時の日本経済再生本部の産業競争力会議にて提案されてきたものを2020年に菅政権下の成長戦略会議においても継続して提起されてきた事項です。中身は一緒であるがタイトルをコロナ対策のように思われるように変えて法案として提出されたのがこの銀行法等の改正案です。
提案の中心的な人物としてはパソナグループやオリックスやSBIホールディングスの役員を務める竹中平蔵氏があげられます。同一賃金同一労働を議論する際に「正社員を無くせばよい」とか高度プロフェッショナル制度に関して「残業代は補助金」と表現し決められた時間内に仕事を終えられず残業をすることでそれを補うことを生産性の低い人への補助金と評しました。また、2010年には「日本経済は余命3年」と発言し、1100兆円を上回る政府の国債発行残高になると国内貯蓄で吸収できなくなり、債券、株、円がトリプル安に陥ると予言していましたが、現実にはどうでしょう。
竹中平蔵氏の他にもデイビット・アトキンソン氏も菅政権下で戦略会議のメンバーとなっています。バブル崩壊時に日本の過多な不良債権を指摘し有名になった方だと記憶しています。この方は元々アクセンチュアやゴールドマンサックスに勤務していた金融マンです。アトキンソン氏は日本の生産現場において技術革新が進まず、海外展開に対応できる人材の不足を指摘し、最低賃金を上げることで競争力が乏しく経営力のない中小企業を淘汰することで生産効率の向上を為せると主張しています。果たして、そうでしょうか。日本国内の全企業のうちの99.7%が中小企業なのです。その中小企業の淘汰を時の政権が図るとどのような状況に陥るか明々白々であろうと思います。
さて、具体的に今回の銀行法等の一部を改正する法律案の中から代表的な事項について考えてみます。
1.法案の背景について
資料:金融庁、新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案に関する説明資料
この説明資料から銀行法等の改正とその背景についてコロナ案件であるということに理解を示す人はいるのだろうか。少子高齢化コロナや生産人口の減少は新型コロナ感染症に起因しているのでしょうか。資金需要の減少と新型コロナ感染症は何か関係があるのでしょうか。むしろ、コロナ禍の中、資金需要は増しているのではないでしょうか。資金の貸付に関しては銀行の本業であるから、銀行法の改正を必要とはしないはずです。業務のデジタル化は従前から他分野で進められて来ました。テレワークなどは確かにコロナ下で推進された就業スタイルではありますが、銀行法を改正するような要因であるとは思えません。
2.業務範囲規制の見直し
資料:金融庁、新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案に関する説明資料
これまでの銀行の他業の認可は業務はデジタル通貨やQRコード決済、クラウドファンディング、リース、M&Aなどのフィンテックと呼ばれるものが代表的なものを列記して制限してきましたが、具体例の列記を無くすと共に高齢者の見回りやアプリ開発、人材派遣などを追加して内閣府令として明確化するように提案されています。従属業務会社に関してはこれまでは親会社やグループ内で50%以上の収入があることに限定されていました。従属業務の数値基準を削除することで本業の付帯業務としてだけではなく市場での競争力を高めることが可能になります。このことは随分と前から未来投資会議や成長戦略フォローアップ会議から引き継いできた案件だと思います。前述しました竹中平蔵氏や成長戦略会議と名前が変わってからはデービット・アトキンソン氏も名を連ねています。この案は安倍政権からの既定路線であった思われます。
3.出資規制、外国子会社、外国兄弟会社の業務の見直し
資料:金融庁、新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案に関する説明資料
地域活性化事業会社とはなんぞや、と思いました。当該銀行のサービスを提供しているエリアにある顧客は全てということではないでしょうか。法に触れない限り如なる事業活動においても地域活性化事業と言い換えることができるのではないでしょうか。これまでは事業会社に出資する場合は50%までに制限されていたところを100%にまで拡大されたにすぎません。ただし、出資先は非上場に限られます。ですが、日本の法人の99%は非上場です。つまり、対象は無限大に拡大されたと思っています。ただし、銀行が優越的な地位を濫用したり、利益相反になる取引を強いたりしないように投資専門会社がコンサルティング業務を負うことを内閣府令事項で明確にする案となっています。投資専門会社のコンサルティングが出資の前提となる場合、出融資先の顧客企業は投資専門会社の顔色をうかがうようにならないでしょうか。出資も融資も投資専門会社次第だという概念が顧客企業に生まれると健全な事業活動や正確な事業判断を阻害する恐れもあるのではないでしょうか。
外国金融機関の子会社等が邦人企業の買収を行った場合は原則5年以内に売却する必要があったのですが、10年間に変更され、必要があれば継続保有も可能となるということです。また、外国のリース会社や貸金業者が邦人企業を買収することは出来ませんでしたが、迅速な買収が可能となります。これら、外国金融機関への日本企業の売却は日本の技術や人材の売却にもなりかねないと思います。
4.グローバルな拠点再配置の加速への対応
資料:金融庁、新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案に関する説明資料
海外のファンド運用業者が5年間の時限措置として簡易な手続きで日本市場へ参入できるように対応したということです。日本が国際金融センターになろうとするには遅きに失したという印象もあります。
5.資金公布制度の創設
資料:金融庁、新型コロナウイルス感染症等の影響による社会経済情勢の変化に対応して金融の機能の強化及び安定の確保を図るための銀行法等の一部を改正する法律案に関する説明資料
地方都市における金融機関は経営は厳しくなることが予想されます。地域経済を支える為にも合併や統合を行う局面は訪れることも十分に考えられます。その際に必要なコストの一部を国ではなく預金保険機構の剰余金から交付するという制度を創設しようということです。ここで気になるのは資金が国からではないということです。この資金交付制度の案を銀行法等の一部を改正する法律案に入れることによって予算関係の法案として優先して審議されるようにした金融庁のテクニックを駆使したに過ぎないような気がします。しかし、この制度の予算は国ではなく、預金保険機構の資金です。国会で言う予算関係の法案ではないことは確かだと思います。銀行法等の改正法案を是が非でも通したいが為に取り入れた交付金制度なのではないでしょうか。
以上、法案を見てきました。少し私の私見を記させて頂きます。
私は銀行が顧客の法人に100%の出資をするのは反対の立場です。銀行は通称5%ルールのような商習慣があって顧客企業に多くを出資することはありませんでした。銀行が銀行業務として預金や融資を基軸に事業を展開するのが本分であり当然と思っています。経済的な活動として融資と債権の回収をしっかりとやっておくべきです。事業は地域の事業者に任せて銀行は融資でビジネスに寄与すればよいのです。事業再生に関しても企業コンサルも多様に存在しており銀行の直接的な事業運営、つまり100%出資による議決権行使が有効だとは私は思えません。事業範囲の拡大や中小企業への100%出資が可能とする背景には金融機関が目利きであるという思い込みがあるのではないでしょうか。私は銀行が目利きだとは思いません。金が金を生むことを生業にする銀行と商ビジネスは明らかに違います。金を使ってモノや生み提供することで満足を与えることで対価を得る、金と労力を使ってサービスを組み立て提供することで満足を与えることで対価を得る。つまり、商売はその過程が事業者としての役割の殆どであり、入り口と出口の金は掴みどころのない結果なのです。銀行が一連の過程に長けていることはありえないはずです。中小企業にとってはそれをシステマチックに継続することが容易ではない市場での競争もあります。不満足、普通、満足、大満足とあるように商品や役務は市場の評価に晒されます。銀行界にも過当競争はあるでしょうが商業的なポジションが違うのです。銀行は築いてきた信用と経験によるデータの蓄積をもって正確な判断を目指し融資の実行と確実な回収に注力するべきです。銀行が融資のみならず多くの出資により経営権を持つことは融資先の企業風土、文化、求心力など様々な無形の財産を棄損しかねませんし、活かしきれない可能性もあります。さらに、投資専門会社を介しながらも銀行が融資先のエクイティを持つことに抵抗がなくなってしまったら、融資の回収がエクイティでもって行ってしまうことも可能だと思います。つまり、回収がままならない債権の一部を株に置き換えることが通常化しないとも限らないのではないかという疑問です。特に企業のB/Sが債務超過に陥る可能性が危惧される場合は銀行は債権の一部を株に振り替えることで経営への影響力を得ることが出来るということです。負債過多の企業は陰ひなたにおいて銀行の顔色を見るようになってしまうと思います。融資の取引のある銀行が経営権を持つことは銀行の債権回収が優先されて正常な事業活動が出来なくなるのは火を見るより明らかです。そして、デービット・アトキンソン氏が唱えるように中小企業の淘汰を推し進める結果となるでしょう。無形の財産や換価できない技術などは急速に失われているのではないでしょうか。
やはり、エクイティ投資はベンチャーキャピタルなど投資機関に委ねているのが妥当だと思います。銀行は融資の90%は以上は確実に回収しないといけません。しかし、ベンチャーキャピタルはそうではありません。IPOを前提に投資しているのがキャピタルですからPER20倍以上などは当然の出口となっています。その反面、投資先の90%以上はIPOには至っていないベンチャーキャピタルが多いのではないでしょうか。銀行はその傘下にベンチャーキャピタルを擁していることが多いのはリスクの違いから事業分野を分けているからです。銀行が銀行の事業分野を拡大したり、銀行が100%の出資を行ったりすることは銀行にとっても中小企業にとっても良いことはないと思えてなりません。
私は24年間に渡り事業を行ってきた道中で事業継承案件や吸収合併案も複数回経験してきました。継承した事業所には債権者である銀行からの出向者がいることも多かったです。では、その出向者が事業再生に寄与したかというとそのような話はほとんど聞いたことがありません。私が生きる婚礼業界やホテル業界ではリアル半沢直樹に出会うことはありませんでした。銀行からの出向者は例外なくセミリタイヤしたかのように働かず、人によっては出勤すらせず、セミリタイヤしているかのような状態でした。それでも、事業所内では大口債権者であり、メインバンクとの窓口でもあります。高額な給与をむさぼりながら優越的地位の濫用を極めているというのが現実なのだと思います。受け皿となる企業は歯を食いしばって我慢するしかないのです。このような実態の中で銀行が取引先の多くの出資をすることが自由に行えるようになってしまうと外資をハゲタカと揶揄している場合ではなく、明日は我が身と身構えてしまう事業家も多いと思います。
20年前のネットバブルと呼ばれていた頃には銀行系ベンチャーキャピタルが多く私の元を訪れていました。ライブドアの堀江氏やUSENの宇野氏らがもてはやされていた頃です。ベンチャーキャピタルの担当者は決してITに詳しいわけではなく他のキャピタルの動向を見ながら横並びに投資を実行していたに過ぎなかったと思います。私の会社は婚礼事業者で○○ホールディングス株式会社という昔ながらのありがちな社名でしたがベンチャーキャピタルから多額の事業資金を調達している多くの友人の若手事業家からは「君の会社も社名を〝サイバーウエディング.com″に変えたらびっくりするほどお金が集まるのに」と良く言われたものです。銀行家なんて決して目利きだとは思えないのはそうしたことがあったからです。最近では社名や企画内容に無理やり〝AI″を絡めたり明記すると投資を受けやすいようです。金融機関は今も昔もこのように事業者に思われてしまっている実態があるのです。
最後にもう一度言いますが、新型コロナ感染症対策と銀行法の改正とは元来は関係なかったのです。この法案の骨子は安倍政権時代から竹中平蔵氏や新浪剛史氏やデービット・アトキンソン氏らが主張し続けていたことであり今回新たに提案されたわけではありません。サイバーウエディングドットコムように新型コロナ感染症対策と冠するとなんでも許容されてしまう昨今の風潮を利用して法案成立を図っているのではないかと思います。
そして、交付金制度を潜り込ませることで予算関係の法案のように思わせて優先して審議にあたるように仕向けているはずです。この予算は国ではありません。預金保険機構の剰余金です。よって、予算関係の法案ではないはずです。
この法案に対する周知が進み多くの事業者団体の意見表明が為されることを願ってやみません。
最後までご拝読ありがとうございました。
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