スリランカの破産について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

 私の政論(セイロン)を世論(セロン)に問う!・・・無理があるな。。。

 さて、東洋の真珠と呼ばれる国をご存じでしょうか。以前、イギリスの植民地時代はセイロンと呼ばれてた現在のスリランカのことです。驚いたことにスリランカでは7月5日に大統領が国家の破産を宣言し政情が混乱しています。

画像:VOI、https://voi.id/ja/bernas/188992/readより

 スリランカはインド洋に浮かぶ島嶼のひとつでセイロン島とも呼ばれます。人口は約2140万人、国土は約6万5千㎢で通貨はスリランカルピー、一人当たりのGDPは約3850ドルです。主要産業は観光や紅茶、砂糖、天然ゴムなどです。16世紀はポルトガルの、17世紀はオランダの、18世紀から大東亜戦争後が終結する1948年まではイギリスの植民地でした。独立時の国名はセイロンでしたが1972年にスリランカ共和国を経て1978年からはスリランカ民主社会主義共和国となりました。国民の四分の三がシンハラ人で残りがタミル人です。国民の七割を仏教徒が占めます。独立後の1983年から26年間に渡ってシンハラ人とタミル人との大規模な民族対立が怒り内戦が続きました。2009年以降、内戦を終結させたマヒンダ・ラージャパクサ大統領が長期政権を敷き、2019年にはマヒンダの弟のゴーターバヤ・ラージャパクサが大統領となり、マヒンダ・ラージャパクサは首相に就任しています。国体は共和制であり、議院内閣制と大統領制が混在し、大統領権限が強まってはいますが、間接民主主義を維持しています。

 1986年以降、長らく最大の支援国だった日本に代わって、2010年頃から中国の一対一路政策において過度の支援を受けるようになり、空港や港湾、高速道路の建設を行い、債務が急速に膨らんでいきました。2017年にはその債務は6兆4000億円にのぼり、政府の全収入の95%を債務の返済に充てても完済まで400年かかるという非現実的な状況にまで陥りました。中国からの多額の債務に対する返済に窮したパキスタン政府は南部ハンバントタ港などを中国企業に99年で租借するなどし、中国の借款を介した進出の許す「債務の罠」の象徴的な事態となっています。

 2020年には新型コロナウイルスの世界的流行によって主力産業の観光の収入が激減しました。2022年2月にはウクライナ危機で穀物や資源の国際価格が高騰し、5月にはついにドル建て債務支払いの7800万ドルを履行できずデフォルトが発生、7月に首相が国家破産を宣言するに至りました。国内政治の混乱からハイパーインフレを引き起こしており、消費者物価は前年比で54%増、食料品は80%増、運輸コストは128%増となっており、今後益々悪化すると見られています。エネルギー不足は殊更に深刻で一日10時間以上の停電が続き、ガソリンが手に入らない為に物流が停滞して物資の供給に深刻な影響を与えています。そうした中、スリランカ国内では10万人規模の抗議デモが頻発し、暴動にまで発展しています。7月15日にはゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領が辞任し、首相だったウィクラマシンハ氏が就任しました。

 スリランカが破産に至った原因を考えてみます。まずは政治的指導者の責任です。2005年からラジャーパクサ家が実質的に国政を支配して来ました。兄のマヒンダと弟のゴーターバヤが大統領と首相に就き、大臣や重要閣僚も一族の関係者を登用して来ました。民主主義を掲げてはいるものの実質的に独裁政治が続いて腐敗が進んだと言われています。マヒンダ・ラージャパクサ氏は内戦時から中国の武器の提供を受けており、政権樹立後も親中的な政権運営を行ってきました。政権は兄弟のみならずその子息も要職に就いていました。時代遅れの内弁慶的な独裁政治が国家運営を窮地に陥らせたのでしょう。

 二つ目の破綻要因として過剰債務に陥ったことが挙げられます。中でも致命傷となったのが中国と進めたプロジェクトファイナンスです。スリランカは中国から14億ドルの資金を借りて、香港やシンガポールのような金融港湾都市の開発を進めてきました。ところが、過剰の借り入れがスリランカの財政を圧迫し、返済が行き詰まるようになりました。その結果、中国からの借り入れの担保となっていた南アジア最大の港であるハンバントタ港を中国政府系企業に99年間租借することになってしまったのです。中国の支援と最大の貿易港を失ったスリランカは外貨調達の主軸を失い破産に繋がったと言えます。中国はスリランカのみならずインド洋の周辺諸国に対して積極的な融資を行っていることから、この地域において中国の影響力を強めようとする意図が現れています。

 一方、日本のスリランカへの援助も実は莫大なものであり、金額ではかると実は中国と同等です。1954年から技術協力を開始、1965年から円借款、1969年から無償資金協力供与を開始し、長らくスリランカにとって最大の援助国でした。2002年から2006年までの累計額は円借款が1323億円、無償資金協力が202億円、技術協力が125億円の実績があります。2004年のスマトラ沖地震の際には80億円の無償資金提供を行っています。円借款によって電力や通信網の整備や鉄道などの交通網整備、産業振興、外貨獲得支援などに投資しています。無償資金協力では、橋梁や水道整備、病院整備や紛争地域への食糧援助を行っています。技術協力としては、保険や医療の支援、孤児に対する基礎教育支援、都市環境整備としての水質改善支援を行っています。上記のように日本がスリランカに行ってきた支援は内戦からの復興支援と平和の定着を図る支援です。日本の支援は見返りを求めない支援ですし、スリランカの財産になる支援です。土木インフラ整備を主眼とした担保価値や資産性に固執した中国の一対一路政策に基づく高利の融資とは明らかに異質です。また、日本の円借款やIMFなど資本主義諸国からの融資に関しては2020年以来のコロナ禍において、債務国に対して返済を猶予し、利払いを免除しています。そのことからもIMFドナー国や日本と覇権主義を翳す中国とのスタンスの違いが明白になっています。

 そして、もうひとつ明らかに破産の要因になったと考えられるのが新型コロナウイルスの影響です。債務過多に苦しむスリランカの主要産業である観光に対して長期間の空白が出来たことは大きなダメージを与えたと思います。多くの中国人やロシア人の観光客が訪れて外貨を獲得出来ていたようですが、急に観光産業が停滞したことは大きなダメージを負うことになりました。本来、大きなダメージに至る前にゴーターバヤ・ラージャパクサ政権は何らかの手を打たなければならないはずですが、それを放置したことで取り返しのつかない状況に至ってしまったのでしょう。2022年の5月には外貨が底をつき原油を買うことすらできない状況になりました。

 上記の3つの要因が破産に至らしめたように考えられます。中でも、多くの報道が中国の外交戦略に嵌り、スリランカは「債務の罠」に陥れられた被害者であるような論調が目立ちます。確かにそのような一面があるのは間違いないでしょう。中国の融資条件などは非開示守秘義務があり明らかにされていないことが多くあります。ただ、現実としてスリランカのように返済不能に陥った場合にはデッドエクイティスワップを設定していることが明らかです。要は、中国の融資には交換条件が設定されているということです。融資を他に借り換えるにも金利が高すぎて容易ではないという事情があるようです。しかも、交換条件を出す以前に融資自体が担保貸付となっています。スリランカではありませんが、中国はモンテネグロに高速道路の建設費を融資した際に、モンテネグロが返済に窮すると返済の代わりにモンテネグロの土地で返せと迫っています。このケースにおいて明らかなのは中国が土地を担保として融資をしていたということです。それと、中国の融資が問題なのはIMFでの借り換えを妨害することです。IMFでの借り換えを中国の債務国が行おうとすると中国は中国への返済額を融資し続けて借り換えを阻止します。そのことがスリランカがIMFに救済を求めることを遅らせて破産に繋がったとも言われています。中国は融資先に対して財政の健全性や事業の経済性や収益性をまともに検討せずに政治的かつ地政学的に判断して融資する傾向があります。そのことが債務国の財政難を生んでいるとも言えます。中国もそのような融資戦略を続けて来たことから一対一路政策は暗礁に乗り上げています。多くの不良債権を抱えていると報じられており、今では融資よりも融資の回収の方が上回るようになっています。このことは中国の投資が行き詰まっているということに他なりません。

 さて、スリランカの破産は「中国の債務の罠に嵌った」ということ以上に大きな問題が実はあったのです。それはスリランカの内政問題です。スリランカの経済の崩壊は膨大な借金やコロナ禍による観光業の壊滅、エネルギーの高騰の他に、無謀な農業政策にも起因しています。

 2019年ゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領は食の安全に対する民衆の権利を確保するために、スリランカ全土の農業で10年以内に有機肥料の使用を促進する方針を示していました。ところが、2021年4月にゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領は唐突に化学肥料と除草剤の輸入を全面的に禁止しました。これは外貨準備金が枯渇するようになり、3億ドルから4億ドルにも上る科学肥料の輸入を制限することによって外貨の流出を防ごうとしました。このことは農家の強い不満を招きました。肥料不足が収穫の減少を招くことは明らかであり混乱を招きました。既に企業化している大半の農業は混合種の種子を使っており、伝統的な品種は使用していません。混合種の場合は有機肥料では高い収量を期待できず、質の良い化学肥料が必要となります。堆肥で代用したとしても畑には使用できますが米作に使用できません。政府の無計画な意思決定によって収穫が大いに減少することは避けられないと状況となりました。10月に慌てて政府は化学肥料の輸入を再開しましたが、農家からの不満と反発は大きなものとなりました。2021年の米の生産量は40%も減少しています。当然、食料の高騰も招きました。政府は慌てて農家の戸別補償に踏み切らざるを得なくなりました。

 国民の健康促進とオーガニック信仰にかまけて、スリランカ政府は外貨の温存を図り、結果的に財政状況を更に悪化させてしまいました。併せて、そのことが国民のフラストレーションを膨らませるという多重苦に陥る結果となりました。

 中国のサラ金商法に嵌るだけでなく、輸入コストの削減を図ったオーガニック信仰に頼ったゴーターバヤ・ラージャパクサ大統領の場当たり的な国家運営がもたらした悲劇は倒産という結末でした。

 1940年から1960年代にかけて高収量品種の採用と化学肥料の使用が農業の生産性を向上させて大量生産を可能にしました。これによって人類の生活水準は大きく向上しました。未だ、日本の米作の99%以上に化学肥料が使われていると言います。有機農業のみを正義だとすることは人類に再び貧困を強いることになりかねません。ブータンやキルギスなどほんの限られた小国では既に完全な有機農業を達成しています。環境保全や安心かつ安全な食料に対する関心は年々増しています。日本の農業においても有機栽培の経験値を順調に積んで行っています。食料の安全保障は国民に十分な量の食料確保が大前提となります。食料の供給に危機を及ぼすような農業政策はあってはならないことです。スリランカの極端な農業政策は政府の財政危機による皺寄せに起因しています。2022年4月に日本政府はスリランカに対して農業生産と農産物の輸入拡大の為に5億円の無償資金協力を行っています。

 最後になりましたが、日本はスリランカに対して大きな恩があります。第二次世界大戦後、連合国のアメリカ、イギリス、ソ連、中国は日本の4分割して統治することを計画していました。そんな中、スリランカ(当時はセイロン)のジャヤワルダナ大統領は戦勝国に対するスピーチで「憎しみは何も生み出さない、憎悪は憎悪によって止むことはなく、愛によって止む」と話しました。このスピーチが厳しい制裁措置を求める戦勝国を動かし分割統治案は消滅したと言われています。また、日本への戦後賠償の請求権を最初に放棄したのもスリランカでした。そんなスリランカは中東から石油を運ぶシーレーン上にあります。新たに就任したジャヤワルダナ大統領も大の親日派と言われています。日本は関係国と連携しつつも積極的にスリランカの経済再建に貢献するべきだと思います。スリランカ産の茶葉の半分は日本へ輸出されていると言います。「午後の紅茶」もスリランカ産の茶葉を使用しているのかもしれません。陶器で有名なノリタケ社も生産のほとんどをスリランカで行っていたそうです。スリランカは日本人にもなじみが深く愛されています。早く正常なスリランカに戻って欲しいものです。

最後までご拝読を賜りありがとうございました。


参考資料:スリランカ、wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AB

全農産物を「有機栽培」にシフトしたばかりのスリランカに暗雲が

https://getnavi.jp/nbi/666139/

     京都新聞 スリランカ混乱

https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/842477

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