シン・フェイン党とイギリス議会について(参議院浜田聡議員のお手伝い)


山はいいねぇ、いやぁ~まったく。今日は山の日です。

画像:Flickr;Sinn Fein

 シン・フェイン党というご存じでしょうか。イギリス議会にある少数政党です。イギリス議会は上院(貴族院)と下院(庶民院)の2院制です。運営は両院と王位によって為されますが、イギリスの憲法で「王位は君臨すれども統治せず」とあり、王位は儀礼的な存在となっています。日本と同様に議院内閣制を布いており、行政権を有する内閣が立法権を有する議会の信任を必要とし、連帯責任を負うという仕組みになっています。国家の主権は議会にあります。採決に関しては貴族院に対して庶民院が優越されます。定員は貴族院が、785名、庶民院は650名です。主要政党は、与党は保守党365名と労働党202名の567名です。対する野党はスコットランド国民党47名、自由民主党11名、民主統一党8名、その他9名の75名です。そして、与党でも野党でもないのがシン・フェイン党の7名です。

 与党でも野党でもないシン・フェイン党は各議案に対して是々非々で対応しているのではありません。真の意味で与党でも野党でもないのです。つまり、すべての議案に関して棄権しています。採決を棄権するだけではありません。議会に登院すらしておらず欠席しています。さらには義務付けられているイギリス国家元首であるエリザベス2世女王への宣誓を拒否しています。その代わりと言って良いのかわかりませんが、シン・フェイン党の所属議員は歳費を受け取っていません。

 シン・フェイン党とは如何なる政党なのでしょうか。また、何のためにイギリス議会に議席を確保しているのでしょうか。シン・フェイン党とは主にアイルランドと北アイルランドで活動する政党です。1905年に結党されたアイルランドのナショナリズムを主張し、一つのアイルランドを目指す活動を行っています。アイルランド共和国議会であるウラクタスの上院で7議席、下院では野党第一党ととなる37議席を擁しています。北アイルランド議会では最大議席の27議席となっています。北アイルランド議会は一院制でユニオニスト(英国派)とナショナリスト(アイルランド派)に分かれており、英国派は民主統一党など37議席、アイルランド派はシン・フェイン党など35席で拮抗しています。

 シン・フェイン党はアイルランド民族主義を主張し、イギリスの支配を排し、北アイルランドとアイルランド共和国の統一を目指す政党です。シン・フェイン党のイギリス議会での議席獲得は英国支配を拒絶するという意思表示の為です。イギリス政府は分離独立を公約とする勢力が議会内に存在することから、緊張感を持った議会運営を行っています。シン・フェイン党はイギリス議会において民族問題や領土問題を孕んだ根深い問題に関わる政党であり、少数議席であっても対処を誤ると紛争を引き起こす可能性があります。

 アイルランドの歴史は短期間に複雑な経緯を辿っています。凄く簡単に著しますと、19世紀にアイルランドはイギリスに併合されました。その後、1920年に南北に分割され、内戦状態に陥り対立が続きました。対立の要因になっているのはカトリックとプロテスタントの対立です。カトリックはナショナリスト派であることが多く、プロテスタントが多い英国派と対立しています。英国の統治方法への不満や政策に関しての不和や異議ではなく、対立の原因となっているのは英国派と言われるプロテスタントによるアイルランドの宗教的文化を批判する主張に起因しています。

 1920年にアイルランドから北アイルランドが分離されてから、北アイルランドにおいて多数派のプロテスタントと少数派のカトリックとの間での宗教対立が激化しました。プロテスタントの多くは英国王室を崇拝しており、カトリックの多くは民族派としてイギリスからの分離とアイルランドへの併合を望んでいます。シン・フェイン党は民族主義のカトリック教徒を基盤としていますので、英国王に対して宣誓は決して行いません。

 シン・フェイン党はナショナリストの強硬派としてアイルランド共和国軍暫定派(IRA)と深い関係を持っています。1970年から80年代には激しいテロ活動を繰り返しました。IRA暫定派の強硬な武装闘争に対してイギリス軍も警備活動を過剰に強化するようになり、IRA暫定派とイギリス軍は北アイルランド内で内戦状態に陥りました。

 1989年のベルリンの壁開放から1991年のソ連崩壊に至る激変で、冷戦が終結したことが北アイルランド紛争の鎮静化をもたらすことになりました。長く続いていた北アイルランドでのプロテスタント系の統一党による一党独裁政権をイギリスが否定することでIRA暫定派側も無期限の停戦に応じました。1998年にはイギリスとアイルランドと北アイルランドで北アイルランド和平合意が締結されました。北アイルランド代表としてシン・フェイン党も参加しています。内容は下記のようになります。

1. 比例代表制による北アイルランド地方議会の新設。

2. 北アイルランド地方議会とアイルランド共和国議会の代表による南北協議会の設置。

3. イギリス、アイルランド、北アイルランド、スコットランド、ウェールズの各議会代表による協議会を発足させる。

4. アイルランド共和国は北アイルランド領有をうたった憲法を修正する。

5. テロ組織の武装解除は2年以内に実施する。

国民投票では和平反対も半数を占めましたが、イギリス内で高度な自治を認められたことから紛争が停止したまま安定を保つことができていると言えます。その後、テロは徐々に減少し、IRA暫定派は2003年に武装解除を宣言し、2005年には完了しました。イギリスとアイルランドは共にEUに参加して、経済は統合され、自由に国境を行き来し、関税もなくなったことから事実上の統合が進み紛争は完全に終結したと言って良い状況となりました。ところが、2016年にイギリスは国民投票を行いEU脱退を決めました。2020年2月にイギリスはEUを脱退したためにアイルランドと北アイルランドの間に再び経済障壁が復活する見通しとなり、紛争が再燃するのではないかと危惧されました。イギリスが関税ゼロを維持した為にEU離脱による大きな混乱は起きませんでした。しかし、経過的措置として経済活動は従来どおりとしていますが、2020年末に経過措置が切れた後にどのようになるのか予断を許さない緊迫した状況が続いています。

 シン・フェイン党がイギリス議会に登院もせず、宣誓もしないにも関わらず長年に渡り議席を維持できているのかは推して知るべしなのです。50年にも及ぶ宗教紛争を続けてきた経緯があり、イギリスとアイルランドと北アイルランドの3ヶ国の政治的主張の対立が絡んでいる問題でもあるのです。

 さて、日本においても東谷義和氏(通称ガーシー)が参議院選挙で当選したにも関わらず国会の開会時に登院せず、議会にも欠席したことが大きな話題となっています。選挙期間中から当選しても国会には出席しないということを公言していたので後出しじゃんけんではありません。ガーシー氏に投票した有権者はそれを了解しての投票行動だと理解して良いと思います。国会を欠席していることを非難している方々はガーシー氏に投票していない人たちでしょう。ガーシー氏は自身に投票してくれた方々の声は聞くがそれ以外の者は関係のない部外者であると発言しています。第一義的にはそうなのかもしれませんが、広義的には国会議員は国民国家におしなべて奉仕することが望ましいと思います。一方、逮捕される危険性や危害を加えられる危険性の問題は別問題です。取沙汰されている詐欺容疑での逮捕される可能性によって帰国して出席しないのはガーシー氏の個人的な問題であり、国会での活動に影響が出ることについて国民から異議が出るのはやむを得ないことだと思えます。ただ、被害者との和解を進め、警察とも話し合いを講じつつ解決を図っているとすれば、国民も議会もその結果を待つ寛容さをもっていただきたいと思います。

 いずれにせよ、日本で起きているガーシー氏の国会の欠席とイギリス議会でのシン・フェイン党の登院拒否の問題は明らかに異質です。ガーシー氏の問題は日本の国会運営の問題(法的な問題も含めて)と個人的な事情が相俟っていると思います。一方、イギリス議会でのシン・フェイン党の登院拒否は50年に渡る宗教を介した国際紛争によります。イギリス議会内においても一定の緊張感が漂っており、イギリスの北アイルランド併合の余波がイギリス議会にも及んでいるということの証左でもあります。イギリス議会が超法規的にシン・フェイン党の行為を黙認することもやむを得ないことなのでしょう。

 余談ですが、コロナ禍の中、地方議会の委員会でオンライン開催が徐々に導入されるようになりました。現在では135市町村、全体の7.5%に上ります。PCの操作に不慣れな議員のサポート体制の整備も進めて、国会や地方議会における委員会でオンライン開催が積極的に導入されるようになれば良いと思います。将来的には国の制度改正を行い本会議もリモート出席を可能にすれば各議員の活動量や活動範囲も広がり効率的で効果的な活動に繋がると思います。

以上、最後までご拝読を賜れましてありがとうございました。

参考資料:Wikipedia シン・フェイン党

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%85%9A

     Wikipedia 北アイルランド議会

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%97%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E8%AD%B0%E4%BC%9A

     Wikipedia イギリスの議会

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%AD%B0%E4%BC%9A

     Wikipedia ドイル・エアラン

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A8%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3

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