NHKスクランブル法案の行方について(参議院浜田聡議員のお手伝い)

 あーキツイ。でもあきらめたらダメですね。

 今年の通常国会の衆議院において気になる法案が提出されていました。「日本放送協会改革推進法案」というものです。気になるので少し考証してみました。

 令和4年3月24日に衆議院に提出され6月14日に総務委員会に付託されています。6月15日に継続審議となっています。要するに審議されることなく持ち越しとなり改めて今国会の衆議院の議案となっています。提出者は日本維新の会の中司宏議員、足立康史議員、守島正議員です。賛成者は提出者以外の日本維新の会の所属議員全員の38名です。法案を提出するには衆議院は20名、参議院は10名の賛成者が必要です。予算を伴う法案は、衆議院は50名、参議院は20名の賛成者が必要です。本法案は衆議院先議の議員発議の議案なので否決されると参議院での審議は行われないのだと思います。

 法案の内容として大きく2点が挙げられています。一つは「協会の業務の全般にわたる不断の見直しを行い、協会の業務の重点化を図ると共に、協会の組織の合理化を図ること」です。国内放送、国際放送、衛星放送において「報道番組、教育番組、福祉番組等に重点を置いたものとなるよう必要な措置を講ずる」というものです。要は、ドラマ、スポーツ、音楽、娯楽などのエンタメ番組を制作せずに報道・教育・福祉番組の制作放映に特化するべきだということです。そして、特化する番組以外の制作放映をNHKから分離分割した法人に継承し委ねることでNHKの組織の整理を図るとしています。

 もう一つは受信料の国民負担についてです。業務の重点化と組織の分割によって大幅に支出が削減されることを前提に二つの運営費の国民の負担方法の案を明示しています。

 ひとつは、「協会の放送番組を視聴した分量に応じて受信料の額を定める仕組みを構築すること」です。所謂、スクランブル放送を採用する案です。スクランブル放送とは映像や音声を暗号化して送り出す放送です。暗号化された信号を攪拌することで通常では視聴ができないようにしておき、料金等を支払うことで元の状態に戻すことが出来るシステムの構築が可能となります。デジタル放送に完全移行されて以来、CASと言われる限定受信方式によってデジタル放送が管理されるようになりスクランブル放送の導入が可能となっています。B-CASカードを使用して視聴者の受信方法によって区分することが出来ます。

 二つ目は「現行の受信契約及び受信料に係る制度を廃止し、協会の放送を受信することのできる受信設備の設置の有無にかかわらず協会の運営に要する費用を国民が負担する制度を導入する」ことです。こちらは簡単に表現するとNHKの運営費用を税金で賄うということです。フランスは地方税として徴収されています。フィンランドも税金で運営されています。スペイン、ロシア、シンガポール、ベトナム、インド、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ブラジル、南アフリカ、ガーナなどは政府の補助と寄付や商業活動からの収益や広告収入とバランスさせているようです。当法案では全額を税金として国民が公平に負担するという案だと受け取れます。

 以上、本法案が提議する内容についてNHKの見解を見ていきたいと思います。まず、スクランブル放送についてのNHKの見解です。NHKはスクランブル放送を導入しないことを明言しています。その理由としていくつか挙げています。一つは「特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています」ということからスクランブル放送はそぐわないとしています。NHKは企業のコマーシャルを流していないことから特定の利益に左右されるような番組作りは行っていないことは確かにそうだと思います。ただ、NHKは相当に視聴率に拘っていると思います。豊富な資金力を背景に国際的なスポーツ番組や連続ドラマ、大規模イベント並みの音楽番組などを制作し、民放各社と熾烈な凌ぎを削っているように思えます。必ずしも公共放送に必要不可欠なコンテンツとは言えないように思います。民放のそれらをNHKが圧倒するようなことがあれば、それは紛れもなく民業圧迫に他ならないように思えます。

 二つ目の理由として、「緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることの出来ない番組も数多く放送しています」という主張です。NHKのネットワークは民放とは比べ物にならないくらい国内外に網羅されています。定点カメラや人員配置も民放とは比較にならないくらいの体制を敷いています。緊急災害時にはNHKの情報量が最も早くて多く、国民の信頼を得ているようです。だからと言ってスクランブル放送を否定する絶対的な理由とはなりません。緊急災害時に即座にスクランブルを解いてすべての受信設備で視聴が出来るようにすれば良いだけのことだと思います。また、テレビは電源が断たれると視聴が不可能になりますが、昨今はスマーフォンの普及が進んでいますので、SNSやニュースアプリなどからの情報を得ること出来るようにもなっています。ただし、SNS情報は裏付けのない情報も多く、情報の受け取り側のリテラシーが求められます。

 三つ目の理由として、「NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題がある」というものです。国民があまねく視聴できるように整備することがNHKに課されて来た役割であったと思いますが、既にほぼあまねく視聴できる体制を確立していると思います。それは、受信料制度とはまた別問題であり、スクランブル放送を導入しても見たい人が対価を支払えばあまねく視聴できるのです。

 四つ目の理由として、「スクランブルを導入した場合、どうしても「よく見られる」番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう「健全な民主主義の発達」の上でも問題がある」としています。「よく見られる」は単なる人気番組であって現在のNHKにも存在します。たとえ人気番組であっても内容が画一化されていくと人気を失うでしょう。よって、NHKが危惧する番組視聴の選択肢が狭まるというのは杞憂だと思います。番組の人気を維持する為のブラッシュアップなどの努力を継続することはスクランブル放送の導入とは関係なく必要なことです。むしろ、みたい人が見たい番組を選択して見た分だけ支払う制度こそが「健全な民主主義」と言えるのではないでしょうか。

 次に財源を税金に出来ないかという提案に対するNHKの見解です。「運営資金を国家権力に依存するということになり、財政面で時の政府の大きな影響を受けることになります。そうなると、NHKの事業運営の自主性が損なわれ、表現の自由を守るべき言論報道機関としての役割を十分に果たせなくなるおそれがあります」つまり、財源を外部に依存することで外部干渉を受けるきっかけとなり、公平公正・不偏不党の報道機関としての役割を果たすことが出来なくなるという主張です。政府の予算によって運営すると政府の干渉を受けやすくなるというということですが、それは前提から違っていると思います。現在においても公共放送として総務省の許認可の元に運営しているのであって、既にNHKの運営に関して干渉は受けているのだと思います。何より、政府がその気になれば現状においても強く事業運営に干渉することも可能だと思います。私の概観で申しますと、税金で運営されようが、放送法上の契約義務による受信料収入で運営されようが立場的にはそう変わらないような気がします。そもそも政権は主に政治家によって構成されており、政治家は選挙によって選ばれています。政権の意向は国民の意向とも言え、民主主義を蔑ろにすることにはあたらないと思います。もちろん、表現の自由は万人に保障された権利ですので政府が侵害することはないはずです。

 さて、NHK改革推進法案の中身とそれに対するNHKの考え方を検討して来ましたが、衆議院総務委員会で審議され採決に至った場合の自民党以外の野党の対応に注目したいと思います。近年、国内でのインターネットの普及は〝あまねく″に近い状況となり、テレビ離れが進むと同時に情報ツールとしてのインターネットの活用が進められてきています。放送法においても旧来のままでは現状に即しない状況となることは明々白々であると思います。

 本議案ではNHKを分社化して重点とする報道・教育・福祉以外の放送を移すと言う案を出しています。分社化することは社屋や放送設備の使用を共用することもあって容易ではないように思います。代替案として、報道・教育・福祉以外の番組に関してはスポンサーを募集して広告を流しても良いのではないかと思います。そうすることでNHKが民業を圧迫しているという批判を避けられるようになるはずです。併せて、受信料を大幅に減額することが可能になります。報道・教育・福祉以外でスクランブル放送を導入することも良いと思います。WOWWOWのように娯楽性、専門性、付加価値を追求したコンテンツに特化できると思います。全面的なスクランブル放送の導入には慎重になる必要があるでしょう。劇的な受信料制度の変更に視聴者の対応と理解が追い付かないケースも予想されるために大幅なNHKの収入の減少に見舞われる可能性があります。場合によっては事業が立ち行かなくなることも考えられます。1万人の雇用を擁すNHKですので極端な改革はリスクが高いので避けるべきだと思います。

 NHK党の役割は色々とあります。国民に公共放送の在り方について議論を高める、具体的な放送法改正案を示す、国政において賛同する議員の輪を広げる、他党との連携を模索するetc。民主主義は多数が正義とされます。率直に言ってNHK党議員が議会多数を占めることは現実的ではありません。浜田聡議員が孤軍奮闘するにも限界があるでしょう。活動において敵対を避け、問題課題の周知を図り、議論を深め、多くの賛同を得て、支援のネットワークを広げ、政治に反映させないといけないはずです。NHK問題は他党にとっては是々非々のミクロの課題ではあるでしょう。しかし、NHK党にとっては最重要施策なのです。与野党を問わず政治的な融和、連携、折衝、協調、結束を図ることが大切なのではないかと思います。国政選挙で100万票以上の国民の負託を受けた以上、NHK問題に関しては一定のイニシアティブをとれるような立ち位置と活躍が期待されて然りでしょう。

 別件ですが、NHKの値下げの計画について少し触れておきます。10月11日にNHKは受信料の値下げの計画を発表しています。令和5年10月より地上契約が月額125円、衛星契約が220円の値下げを予定しています。NHKの令和3年度の決算では繰越剰余金が1960億円あることになっているのですが、何故か値下げの計画は総額700億円程度のものになっています。繰越金は次年に繰り越されるのですから小刻みに値下げの原資とするべきではないと思います。NHKの値下げの金額の根拠を明らかにしてもらいたいと思います。

最後までご拝読を賜りありがとうございました。


参考資料

NHKは高い?世界の公共放送と比べてみた

http://jigyou-tax.hajime888.com/m0003.html

財源を税金にすることはできないのか NHK

https://www.nhk.or.jp/faq-corner/2jushinryou/01/02-01-07.html

日本放送協会改革推進法案 参議院

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/208/meisai/m208090208017.htm

法律案審議の流れ

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_gian2.htm

NHK受信料、過去最大の値下げへ…「衛星契約」220円・「地上契約」125円

読売新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/dd1a50be8e42acb9c51cab7e8352e09562288bfa

NHKは高い?世界の公共放送と比べてみた

http://jigyou-tax.hajime888.com/m0003.html

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