運輸安全委員会の国会同意人事Part2

委員はこの人でいいん?

というわけで国会同意人事案についてです。

運輸安全委員会という名称を聞かれたことがある国民は多いと思います。そうです。鉄道事故や航空事故や海難事故が発生すると新聞やテレビで良く持ち出されるあの運輸安全委員会です。その運輸安全委員会の委員の人事について検討したいと思います。

運輸安全委員会の役割は航空、鉄道及び船舶の事故・重大インシデント(事故が発生する恐れ)が発生した際に事故による被害の原因を究明するための調査を行うことです。そして、事故等の調査の結果をもとに、事故・インシデントの再発防止や事故による被害の軽減のための施策・措置について、関係する行政機関や事故を起こした関係者等に勧告・意見を述べることにより改善を促すことです。

最近だと北海道知床で発生した遊覧船事故が記憶に新しいところです。令和4年4月23日に北海道斜里町ウトロを出港し知床半島の沖合を航行していた観光船「KAZU 1」から「船首が浸水し、沈みかかっている」と救助要請の通報があり、その後連絡が取れなくなったという遭難事故です。子ども2人を含む24人の乗客のほか、斜里町に住む豊田徳幸船長と甲板員の合わせて26人が犠牲者となる痛ましい事故となりました。

運輸安全委員会は知床遊覧船事故対策検討委員会を組織し、詳細な現地での調査をもとに令和4年5月11日に第一回知床遊覧船事故対策検討委員会を開催しました。その後、12月に至るまで毎月1回のペースで開催され12月22日の第10回にて経過報告と安全対策が公表されるに至りました。

さて、運輸安全委員会には常勤委員が9名、非常勤委員が4名の合計13名の委員が任命されています。前述のような遊覧船事故が起きた場合には運輸安全委員会の委員が事故対策検討委員として調査検討にあたるのかというとそうではありません。運輸安全委員会委員とは別に新たに14名の事故対策委員が任命されます。多くは大学教授などの学者がその任にあたります。事故対策委員が論点整理をしながら報告書を取りまとめていきます。運輸安全委員会の委員は事故対策委員からの中間とりまとめと最終とりまとめを受けてその内容を確認して承認します。承認された報告書が国土交通大臣に上申されて対策の実施に向けて省令など環境整備が為されることになります。

重大事故が発生して以降の一連の業務フローの中で運輸安全委員会の委員の役割というか実務が実に少ないように感じます。中間報告と最終報告が為されるタイミングでしか関わる場面がありません。常勤委員が9名も本当にひつようなのでしょうか。そもそも常勤委員が必要なのでしょうか。全員、非常勤委員ではだめなのでしょうか。運輸安全委員会が直接的に調査に関わるような重大事故は2021年には2件しか発生していません。最近5年間の平均でも年2.6件ペースです。極めて少ない発生状況です。

では運輸安全委員会の委員の会議出席状況はというと委員長が年間77回でダントツ多いです。運輸安全委員会の会議は航空部門と鉄道部門と海事部門の3部門に分かれています。各委員は専門部門の会議にしか出席しませんが委員長だけは全部門の会議に出席するために77回と出席回数が多いのです。その他の委員はというと最多の委員で年間34回、最少の委員は非常勤委員で26回です。ちなみに給与は委員長が年額2395万円です。常勤委員が年額2068万円です。実務が伴わない仕事としては厚遇と言えると思います。

常勤の9名は兼職ではありません。9名中7名が元公務員です。残り2名が全日空と明星大教授です。非常勤委員の4名は全員兼職者で大学教授です。今回の人事案では元公務員の常勤2名と大学教授兼任の非常勤1名が任期満了となります。

常勤の2名は退任が決定しており新任案となっています。人事案の一人目は伊藤裕康氏で海上保安庁で救難部管理課長を務めた人物です。海上保安庁を退職後は海上災害防止センター理事長に着任していました。今回、運輸安全委員会の委員に任命されると2回目の天下りとなる模様です。伊藤氏についてはあまりにもあからさまな天下り人事なので反対です。海難救助のエキスパートとして有能であることはわかりますが、61歳とまだ若いので本来ならば海上保安庁を退職せずに公務員のまま運輸安全委員会に出向すればよかったのではないでしょうか。連続して天下りポストを渡り歩くことには国民の心象も良くないと思います。

常勤の二人目は上野道雄氏です。64歳まで一貫して海上輸送システムの学者として研究畑にいた人物です。国立の研究機関である海上技術安全研究所で統括監についていました。官僚ではありませんが国の機関ですので準公務員と言えます。この上野氏の前任の田村兼吉氏も海上技術安全研究所の統括監でした。つまり、運輸安全委員会の委員のポストが既得権益化している最たる例と言えるでしょう。よって、反対するのが当然かと思います。

三人目は非常勤の委員です。安田満喜子氏は再任を求められています。関西大学社会安全学部の教授を兼職しつつ運輸安全委員会の非常勤委員を務めて来ました。大阪弁護士会に所属する弁護士でもあります。人間工学に明るいヒューマンエラーの専門家でもあります。安田氏は年間27回開催された会議の内26回出席しており兼職の弊害はほとんどないように思えます。しかも、非常勤委員は固定給ではなく日当です。日額30700円です。毎月2回程度開催される会議の出席に対する報酬がほとんどで年100万円にも満たないと思われます。常勤と比較してあまりにも大きい報酬格差だと思いますが、常勤の報酬を年間勤務日数で割るとその程度になるということなのかもしれません。安田氏は過去に消費者庁の安全調査委員も歴任していることから省庁間を渡り歩く省庁御用達人物の一人とも言えるような気がします。とはいえ、本業を持った上で公に知識や技術の提供を行うことは大いに歓迎すべきだと思います。よって、安田氏の任命には私は賛成です。

一層のこと、常勤委員は廃止して全員を非常勤委員にすればよいのではないかと思えます。非常勤委員は報酬が少ないことから天下りポストとしては物足りなくなりますし、既得権益にもなりにくいと思います。優秀な若い人物が本業において現役でありつつ、兼職として公の仕事にも関わることで十分にその役割を果たせるような気がします。また、元公務員の任命は委員の過半数以下に制限してはどうでしょうか。9名中7名が元公務員というのはあからさまな役人上位思想による偏った人事であるような印象を持ちました。

以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。

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