GX脱炭素電源法案について

ウラン、売らん、、、いらん、閣議わく。

 脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案が国会に提出されています。いわゆるGX脱炭素電源法案です。この法案の中身は大きく分けて2つあります。ひとつは広域送電網の推進とその為の費用の貸付ができるようにすることです。電気事業法、再エネ特措法を改正する必要があります。もうひとつは原子力発電所の再稼働の促進と運転期間の延長する法案です。原子力基本法、炉規法、電気事業法、再処理法の改正が必要です。

 一つ目の広域送電網の整備に関しての改正法案です。ロシアがウクライナに侵攻して以来、世界の電力市場は混乱をきたしています。国内でも電気料金は高騰し、電力事情もひっ迫しています。東日本大震災が発生した折には東北地方の電力は供給が追い付かない事態に見舞われました。広域での送電網は敷かれていませんでしたし、西日本からは周波数の違いもあり210万キロワットしか融通できませんでした。震災前、東電の供給能力は5200万キロワットでしたが、震災発生時は3100万キロワット、その後、回復しても4650万キロワットに留まります。首都圏の夏場の電気需要は5500万キロワットにも及ぶことから十九ギャップは850万キロワットと想定されます。首都圏で時々起きる電力のひっ迫時にも西日本からの送電で対応はできません。九州では再エネの需給調整をするくらい電力が余っていることもあるのですが、それを必要とする大阪や愛知や東京へは送電できていません。エリアごとの電気を互いに補完しあう為の送電網を整備するには巨額の投資が必要となります。各地域の電力事業者は先行投資となる広域送電網の整備に係る費用負担には腰が引けてしまっている状態です。一方、各地に容量の大きい蓄電施設を整備するには送電網以上の投資が必要となる可能性があります。蓄電池は未だに高額であり現実的ではありません。

 経済産業省は脆弱とも言える広域送電網を早期に整備する計画を昨年12月に公表しました。再エネに適している北海道や九州から東京や大阪に送電できるようにするのは脱炭素に向けて重要です。政府の計画によると北海道から首都圏へ海底送電線を敷き200万キロワットを供給、東北から首都圏へ1028万キロワット、北海道から東北へ120万キロワット、九州から本州へ556万キロワット、東西の連携線で300キロワットを計画しています。この計画には巨額の費用を擁します。北海道から東京へ約2.5兆円から3.4兆円、東北内の増強費用が約6500億円、東京内増強が約6700億円、中部地域の増強が約520億円、九州から本州への海底送電線が約4200億円、中国地内増強が約1000億円、四国地内増強が約1600億円、九州地内増強が約100億円、九州から四国への送電線が約4800億円から5400億円、周波数の変換施設に約4000億円から約4300億円、これらを合計すると6兆円から7兆円規模の事業投資となります。

 これらの投資を各エリアの電力事業者が先行して負担するのは大変です。投資額を回収できるのは整備が完成して利用を開始してから料金に上乗せされることになります。あまりにも事業者の負担が大きいために中々進まないのが現状です。そこで政府は上記のような広域送電網の整備計画を立てるとともに着工時より資金を回収できるような仕組みを作り投資を後押しする計画を作りました。電力広域的運営推進機関に政府の認定を受けた整備に必要な事業費を貸し付ける制度を創設するというものです。具体例として、中部国際空港の事業モデルがあげられます。中部国際空港株式会社が空港建設の為の約6000億円の資金調達の為の社債を発行する際に政府が保証しました。ほかにもリニア新幹線の整備費も一例です。鉄道・運輸機構を設立し財政投融資から長期かつ低利の貸付を行い、同条件でJR東海に3兆円を融資しています。このような政府保証はブリッジファイナンスの一種となります。計画の遅延や整備コストの増大などのリスクを伴います。東京オリンピックの会場整備に係る費用が急速に増大した過去もありますので政府や電力事業者は民間金融機関も交えてリスクヘッジの徹底と責任の所在を取り決める必要があります。最終的には利用者の利用料に転嫁されるわけですから電気利用者の負担予想や、負担軽減のための施策も検討されなければならないと思います。また、必ずしも北海道から九州までを広域送電網でつなげる必要は無いような気もします。北海道と首都圏、九州と関西だけでも良いかもしれません。海外では広域送電網を単体の事業化して送電事業で収益化している国もあります。イギリス東部とドイツは海底送電網で140キロワットを両国で融通するプロジェクトが進んでいます。EUでは広域送電網事業の運営会社に収入を保証する制度があるために事業化がしやすい環境が整っています。日本のメガバンクや日本生命も投融資しています。確かに一案ではありますが、私は現行の電力事業者が送電網の整備を行う方が良いと思っています。送電網を電力事業と分けて単体で事業化すると収益事業が新たに一つ生み出されてしまいます。現行の電力事業会社でもそれは同じかもしれませんが、電気事業法で電気料金は認可制となっており、統括原価方式に審査されます。部署ごとに収益を個別に算定し電気料金の価格設定は行えません。エネルギーインフラは国民の生活に密着し必要不可欠なものであることから収益レベルの妥当性は絶えず監督されて然りだと思います。たとえ、事業会社の政府保証分の借り入れや機構からの転貸を完済したとしても電力インフラは国民共有の財産という一面があることは否めないでしょう。

 二つ目の原子力の活用について検証します。法案では、安全を最優先することと原子力利用の価値、国と事業者の責任の明確化を著しています。また、運転期間が現在の30年から40年に延長されます。さらに40年を経過後に20年の延長が可能となります。原子力事業者へは廃炉拠出金の負担が義務付けられます。

 現状エネルギー供給では再エネのシェアは20.3%となっています。化石燃料による火力発電が72.9%を占めています。原子力発電は6.9%に過ぎません。政府の第六次エネルギー基本計画ではパリ協定への取り組みとして2030年までに二酸化炭素排出の削減目標を46%に設定しています。そのための具体案として原子力発電のシェアを東日本大震災前の水準の20%から22%にする計画となっています。今回のGX法案では原発再稼働と稼働中の原発の廃炉の延長を目的としています。

 昨今の電気料金の高騰は国民生活や企業の商業活動、工業活動に大きな負担となっています。コロナ禍明けの需要増で景気の上向きを期待していた折のエネルギ価格の高騰は経済活動に水を差しかねない懸念事項となっています。

 そうした中で最も現実的で政府指針に沿ったエネルギー政策が原子力発電所の再稼働です。クリーンエネルギーであると共に相対的に安価です。日本のエネルギー自給率の向上にも寄与します。2022年8月に読売新聞社が実施した世論調査では原発再稼働に賛成が58%、反対が39%でした。賛成が反対を上回ったのは東日本大震災後では初めてだそうです。国民の世論は変化していると言うことです。

 原発が再稼働することで電気料金が安くなることの他にも、電気の供給量のひっ迫を回避できます。極寒や猛暑時に電気供給のひっ迫が怒りやすくなります。再エネをもっと増やせばよいだけだという意見も散見されますが、再エネを無暗に増やすと再エネ賦課金等を通じて国民の負担が更に増える結果となります。また、太陽光発電などの再エネは天候の影響を受けやすく不安定です。原子力発電はコストも安定しており天候の影響を受けません。太陽光の出力が弱まると経済活動も弱まるなんていう国なってしまっては困ります。

 一方、原発は核のゴミ問題が残されています。既に1.9万トンの核のゴミが保管されています。イギリスとフランスに再処理を7000トンも委託しています。合計で2.6万トンの核のゴミを抱えています。核のゴミの処分方法を正式に決定する必要があります。

2011年に発生した福島第一原発事故では太陽の放射性物質が漏れだし、今でも汚染水問題などを抱えています。原発の安全基準は世界最高基準の新規性を設けています。その基準をクリアした原発のみ再稼働できるとしていますが、自然災害に対して完全に安全な基準なんてあるのだろうか」と不安を抱く人もいます。

 私見としては国民負担の軽減と安定した経済活動の環境整備を目的に原子力発電所の再稼働を積極的に進めつつ、地熱発電、核融合発電、バイオマス発電等の積極的な開発と設置を進めて行くべきだと思います。それらの生産量が思いのほか多くなり、原発への依存率が減り、廃炉を進めることが多くの国民の望むところだと思います。人と屏風は直ぐには立たず、というように与えられた状況でいかに効果を最大化するかを考えるしかないように思います。

 最後に法案が成立するにあたり以下の懸念も申し上げたい。与党は経済産業省の政策に白紙委任をしてはいけません。そして、国民がおしなべて費用負担し、特定の企業が利するようなことにならないようにしないといけません。さらに、資金が不透明にならないように監督し、検証することができるようなスキームを構築する、以上を念頭に置いて頂きたいものです。

最後までご拝読を賜りありがとうございました。


資料:

GX脱炭素電源法の概要 

https://www.cas.go.jp/jp/houan/230228/siryou1.pdf

電力ネットワークの次世代化

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/047_01_00.pdf

原発再稼働「賛成」58%・「反対」39%、初めて賛否が逆転…読売・早大世論調査

https://www.yomiuri.co.jp/election/yoron-chosa/20220824-OYT1T50195/

「政治課題の私的論考」(新政界往来社)坂本雅彦

P60~

日本のエネルギー政策について、坂本雅彦HP

https://masahikosakamoto.amebaownd.com/posts/33868839

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

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