令和5年度所得税法の改正案について
重いけど、背中に、しょっとくぜぃ、重くて、ぜぃぜぃ。
令和5年度の所得税法の改正法案は個人所得課税と法人所得課税の多く分けて2つに分かれます。まずは個人所得課税についてです。個人所得課税の改正点ですがNISAに関しては5項目あります。一つ目は、一般NISAは2023年まで、積立NISAは2042年までとなっていましたが、その期限が撤廃されて恒久的に利用が可能となります。2024年には新NISAに移行されます。二つ目は、一般NISAの非課税保有期間が5年から無期限に変更となります。三つめは、積立NISAが年40万円までが120万円まで引き上げられました。一般NISAは成長投資枠として120万円から240万円に引き上げられました。併用も可能となり年360万円まで投資上限が引き上げになりました。四つ目は一人当たりの非課税限度額が1800万円までと規定されます。この1800万円は生涯利用の限度額となります。1800万円の成長投資枠は1200万円までとなります。要するに保有が積立に限定されることがないので柔軟に幅広く株式に投資できるようになります。五つ目は、2023年末までの一般NISAや積立NISAとは別枠として新たに新NISAの枠が与えられることになります。すでに保有しているNISA枠は現行の非課税措置が適用されます。以上の5項目に関して令和6年より利用が開始されます。
NISA以外にもスタートアップへの再投資に係る非課税措置が創設されます。特定株式を取得した費用を一般株式や上場株式の譲渡所得から控除することができます。さらに、譲渡時には20億円までは取得価格として控除することができます。特定株式の対象企業にはいくつかの要件があります。設立から1年未満の中小企業であること、出資金が販売費や販管費の30%以上に上ること、特定の株主が持ち株比率99%を超えないこと、上場企業ではないこと、特定の企業が株式の三分の二以上を保有する子会社や特定の企業が株式の二分の一以上を保有する関連会社ではないこと、風俗営業や性風俗関連の事業を行う会社ではないことが規定されます。
併せてエンジェル税制が拡充されます。内容はスタートアップへの再投資に係る非課税措置がエンジェル税制にも同じ内容で適用されます。つまり、投資時に取得費用を譲渡益から控除でき、譲渡時に20億円を上限として取得価格を控除できます。エンジェル税制の対象企業は未上場の設立5年未満の企業で売上が発生していない、もしくは出資金のうち研究費が30%を超えている企業、損益が赤字、外部資本が二十分の一以上である必要があります。
ストックオプションに関しても少し緩和されました。現行はストックオプションの権利付与から10年以内の権利行使について行使時の所得が給与所得、行使以降の上昇分の所得を譲渡所得とされて課税されてきましたが今回の改正案では、付与から15年の権利行使ついて行使時の所得を譲渡所得、行使時以降の株価上昇分の所得は非課税となりました。
極めて所得の高い人の所得税が増税されます。3.3億円を超えた部分の所得に対して22.5%の所得税が課せられます。適用時期は令和7年を予定しています。納税者約650万人の内の約1.9万人が対象となります。日本の所得税制は超過累進課税制度ですが、1億円までは所得税負担率が右肩あがりに増えていきますが、1億円を超えると所得税負担率は下がっていきます。高額所得者の多くが株式など金融商品での所得が多くなっていることが考えられます。岸田政権は投資を促進して所得の向上を図る方針を示していますが、一方で極端な高額所得者には一定の上限ラインを設ける仕組みを導入するということになります。
良く取りざたされている防衛力強化のための所得増税は当分の間、新たに1%が付加されることになります。同時に復興特別所得税が1%引き下げられます。課税期間の違いから総額では増税であると言えるでしょう。
続いて法人所得税に改正案についてです。まず、オープンイノベーション促進税制が拡充されます。これまではスタートアップ企業への新規株式の現金による取得費用の25%が損金算入できましたが、改正案では発行済み株式の取得によるM&Aも対象となります。株式の保有期間は3年から5年に変更となります。5年経過後は益金算入することになりますが、一定の要件を満たすと益金算入が不要となり6年目以降も繰延効果を継続できます。また、株式取得下限額が1億円以上から5億円以上に引き上げられます。損金算入上限額も12.5億円から50億円に引き上げられます。
研究開発税制に関しても変更があります。これまであったコロナ対策による控除は廃止されます。その上で試験研究費を控除率に乗じて法人税から控除できる制度が拡充されます。オープンイノベーション型は法人税額の10%を上限とします。ただし、相手方が民間企業の場合は20%、研究開発型ベンチャーの場合は25%、大学の場合は30%が上限となります。一般型と中小企業技術基盤強化税制の対象の場合は法人税額の25%を上限として控除できます。当年度の試験研究費が過去3年の試験研究費の平均より12%以上増加している場合は法人税の控除率が10%から25%に引きあがるインセンティブが設けられました。
博士号取得者や外部の高度研究者などを雇用して人件費が3%以上増加した場合、人件費の20%を税額控除できるようになります。
子会社が分離独立をする時に親会社との一定の関係を保持し続ける独立をパーシャルスピンオフと言いますが、要件を満たせば受けられる特例措置が創設されました。親会社が子会社の株主に子会社の株を現物支給したときは子会社の株式の配当を受け取ったことになり課税対象となります。親会社も子会社の株式を株主に譲渡することから譲渡損益課税の対象となります。今回の改正案では親会社が引き続き子会社の株式を20%を限度に保有し、綾会社が産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受け、スピンオフ後も従業員の90%以上が引き続き雇用される場合は譲渡損益や配当に対する課税は対象外となります。株式の譲渡を受けた株主は譲渡を受けた時点では課税対象とはならず、当該株式を売却した時点で課税対象となります。
DX投資促進税制も見直されます。デジタル要件としてデジタル人材の育成と確保が盛り込まれ、フォーメーション要件として売上高が10%以上の増加が見込まれ、一定の海外売上があることが条件となります。適用期間は2年に延長され対象設備の特別償却30%か税額控除3%が認められます。
中小企業投資促進税制が2年間延長されます。30%の特別償却もしくは7%の税額控除が受けられます。中小企業経営強化税制も2年間延長され、対象設備の即時償却または税額控除10%が受けられます。対象設備は機械装置160万円以上、工具30万円以上、器具備品30万円以上、建物付帯設備60万円以上、ソフトウェア70万円以上が対象となります。
地域未来促進税制や中小企業防災減災投資促進税制も適用期間が2年間延長されます。また、法人所得税が年800万円以下の中小法人に対する法人税軽減税率15%の適用期間も2年間延長されます。
最後に防衛力強化の為の税制措置として法人税額の4%から4.5%の付加税が課されることになります。中所企業に配慮する観点から課税標準となる法人税額から500万円を控除することとなっていますが、こちらは紛れもない増税となります、
以上、令和5年度の所得税法改正案はコロナ禍に設けられた優遇措置は廃止となり、個人も法人も株式投資に係る税制に優遇措置が新設されたり、拡充されることが目立ちました。雇用や賃上げに関する措置が少し減少しているようにも感じました。コロナ禍が収まったにせよ、エネルギーコストの急騰などプッシュ型インフレに見舞われている国内経済にありながら、不労所得の増加を図ることに傾倒するよりも、賃上げを促進する政策と経済活性化の為の積極的な財政出動が必要なのではないと思います。インフレに後れを取らない加速的な賃上げによる可処分所得の向上が日本の経済成長への回帰と定着を可能とするでしょう。
最後までご拝読を賜りありがとうございました。
資料
財務省 所得税法等の一部を改正する法律案要綱
https://www.mof.go.jp/about_mof/bills/211diet/st050203y.pdf
財務省 「所得税法等の一部を改正する法律案」について
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