金融商品取引法改正法案について

坊主憎けりゃ決算まで憎い?嵐の前のしず決算。。。

 金融商品取引法等の一部を改正する法律案が提出されています。毎年、何らかの変更が伴いがちな法律の一つで今年も大きな改正点から細微なものまで含まれています。

 今回の改正点で最も大きな項目は上場企業の四半期報告書が廃止されて半期報告書の提出義務が新たに新設されることになります。それによって上場企業の業績は半期ごとにしか開示されなくなると投資家にとって不利益な法改正となります。実はそのような心配には及びません。これまでの上場企業の業績開示のルールは金融商品取引法による四半期報告書を開示するだけでなく、証券取引所規則によって四半期決算短信を開示する必要がありました。つまり、4半期ごとに同じような開示を別々に行っていたのです。一見、二度手間であるように思われる現行の規定を改めるのが今回の法改正の目的です。証券取引所規則である四半期決算短信はこれまで通り投資家への速報性を重視する役割を担います。一方、金融商品取引法の改正によって四半期報告書から半期報告書と変更されることによって、速報性ではなく確報性を保つことに対して重点が置かれます。四半期決算短信と半期報告書とはそれぞれの役割を明確した上で情報開示の透明性は維持しているための改正となります。

 四半期決算短信と半期報告書の開示項目の相違点について記します。前提として根拠法が違います。四半期決算短信は証券取引所規則に基づく開示です。半期報告書は金融商品取引法によって規定されています。半期報告書は監査法人のレビューが必要ですが、四半期決算短信は不要です。四半期決算短信では業績予想を含むサマリー情報、継続企業の前提に関する重要事象等、四半期連結財務諸表を開示します。半期報告書では四半期決算短信での開示情報に加えて主要な経営指標、キャッシュフロー計算書や事業リスク、セグメント情報の開示等が必要となります。また、虚偽を記載した場合の罰則として四半期決算短信では証券取引所との契約違約金が課されたり、特設注意市場銘柄の指定されることに過ぎませんが、半期報告書では刑事罰や課徴金が課されることもあります。

 半期報告書の提出期限ですが、一般の上場企業は半期経過後から45日以内、銀行や保険会社などの金融システムに関わる上場企業は60日以内、有価証券報告書の提出義務のない非上場企業は3か月以内となっています。

 また、半期報告書と臨時報告書の開示縦覧期間が現行の3年と1年から両方とも5年に延長されます。半期報告書の虚偽記載に対する課徴金の除斥期間より短いため、課徴金納付命令が行われる際に公衆縦覧期間が終了している事態が生じかねないことから開示期間を延長する改正が行われます。

 施行開始は令和6年4月1日よりとなっているため、4月1日以降に事業年度を開始する会社は改正案が適用され半期報告書を提出する必要があります。事業年度が4月1日以前の会社は現行の金商法が適用され四半期報告書を提出しなければなりません。

 四半期決算短信と四半期報告書が一本化されることで速報性は高まりますが監査人のレビューが必要とされません。情報の正確性を高めるために企業が任意で監査人のレビューをつけることが増えればよいのですがあくまでも任意に過ぎません。セグメント情報やキャッシュフロー情報は投資家の要望の多い情報です。投資家のニーズを踏まえて取引所は規定の改定を検討することも必要になるかもしれません。

 もう一つ重要だと思える改正点があります。不動産特定共同事業法で不動産取引をデジタル化する動きに応じて、不動産取引のトークン化に金融商品取引法の規定を適用するという改正です。不動産のトークン化とは不動産という資産を小分けにしてユーザー間の売買を円滑に行うことができるあり方です。 トークン化により、従来の不動産流動化スキームよりもコストや手間が削減され、さらなる流動性の高まりが期待できます。トークン化による権利は第二項有価証券と同様にみなされることになります。私募債はみなし有価証券と位置付けられていますので第二種金融商品取引業者の登録を行っている業者のみが募集や売買等の取扱いが可能な権利です。今回の法改正不動産特定共同事業での勧誘や契約に際しては金融商品取引法第29条、第63条の規定が適用されます。つまり、金融商品取引業者としての登録が必須となりました。この改正で小口の不動産投資の安全性が高まるとともに、トークン化の進展で課題だった小口投資の管理コストが低減できるようになります。また、二次流通によって期間中でも現金化することができ、小口の投資家が投資しやすい環境が整います。不動産トークンの取扱業者が不動産特定共同事業の許可を得るためには金融商品取引法による登録を必須とすることによって、取扱業者の財務体制、管理体制、資金使途、クーリングオフ制度の活用など投資家保護のための順守事項を明確化することができます。

 そのほか、投資信託委託会社による、その運用の指図を行う投資信託財産についての運用の状況等に係る情報の提供についてインターネットやデータファイルでの提示が可能となります。これまでは目論見書を実本として提供していました。併せて、投資法人の「利益」の算定にあたり、評価・換算差額等の評価額をその算定の基礎から控除するよう規定されます。

 銀行の特定預金等契約等の締結前等における顧客等に対する書面交付義務についてもインターネットでの提示で足りるようになります。また、「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律において顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に業務を遂行する義務に係る規定を新設することに伴い、銀行法等からこれと同趣旨の誠実公正義務の規定を削除するとともに、金融商品取引法又は銀行法における誠実公正義務の規定を適用等していた法律に関し、必要な改正を行うこととする。」と明記し、顧客本位の業務運営の確保を義務付けています。

 さらに、金融リテラシーの向上を図る為に金融経済教育推進機構を設置して金融経済教育を推進しているとしています。教材やコンテンツの作成のほか、学校や企業への講座の展開を行います。ガバナンスは金融庁が認可監督にあたります。このような機構は多数設立されていますが、単なる金融庁の天下り先にならないように願いたいと思います。

 融資型クラウドファンディングをソーシャルレンディングと言いますが、ソーシャルレンディング等の運用を行うファンドを販売する第二種金融商品取引業者に対して、運用報告書の交付が担保されていないファンドの募集等を禁止となります。また、インターネットを用いてソーシャルレンディング等の運用を行うファンドの募集を行う場合について投資型クラウドファンディングと同様の規定を整備していくこととなっています。

 以上、最後までご拝読を賜りありがとうございました。


資料

金融庁 金融商品取引法等の一部を改正する法律案

https://www.fsa.go.jp/common/diet/index.html

2023年金融商品取引法等の一部を改正する法律案の概説 TMI ASSOSIEITS

https://www.tmi.gr.jp/eyes/blog/2023/14503.html

マネックス証券 私募ファンド(二項有価証券)とは

https://info.monex.co.jp/nikoyuka/about.html

坂本雅彦ホームページ

坂本まさひこ  作家 国会議員秘書

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