原子力委員会の人事案について
ウラン・・・でる?
原子力委員会をご存じか。2011年の東日本第震災で福島第一原発にて事故が発生して以来、原子力という言葉自体の印象が悪くなってしまった。福島原発の事故を受けて原子力規制組織の信頼回復と安全管理の対策を再構築するために作られた組織は原子力規制委員会であり原子力委員会とは別の組織である。原子力規制委員会は元々あった内閣府の原子力安全委員会が環境省に移行することで発足している。原子力問題特別委員会というのもあるがこれも原子力委員会とは違う。原子力問題特別委員会は衆参両議院内に設置された立法側の組織で政治家によって議論や調査が為されている。原子力発電対策特別委員会というのもあるがこれは全国知事会による国への提言を行う活動をしており原子力委員会とは違う。原子力と名乗る委員会や組織は数多く存在するが本家本元は内閣府が所管する原子力委員会だと言ってよいだろう。
原子力委員会は内閣府がまだ総理府だった頃の1956年に総理府の付属機関として設置された。1955年に成立した原子力基本法に基づいている。2001年の省庁再編によって内閣府の審議会の一つとなるまでの歴代委員長には国務大臣が当てられた。過去には三木武夫氏や中曾根康弘氏や佐藤栄作氏や宇野宗佑氏らの総理経験者をはじめ田中真紀子氏や谷垣禎一氏や山東昭子氏や大島理森氏らも就任している。
原子力委員会の主な役割は我が国の原子力利用の方向性を提示することである。実務を推進する組織ではなく理念や指針を示し内閣に提言することにある。凡そ5年毎に原子力の活用に関する基本的な考え方を決定し内閣の承認を得ている。現在の「原子力利用に関する基本的な考え方」は2017年に作成したものである。原子力委員会では2021年から既に51回にもわたる「原子力利用に関する基本的考え方」の改定の為の会議を開き協議を積み重ねてきた。学術団体、研究機関のみならず電気事業団体やシンクタンクからも意見を聴取している。意見聴取を行った数は55名にのぼる。
今後、原子力委員会で示されるであろう「原子力利用に関する基本的な考え方」の案文からその内容を少し紹介する。
・東電福島第一原発事故をふまえより厳格な安全基準の設定や既存の原子力発電所等の新規 制基準適合性審査、原子力発電事業者自らによる安全対策も着実に進められているが依然として課題が残っている。
・カーボンニュートラルに向けた世界的な動きが加速するとともに想定を上回る電力需要や火力発電所の休廃止、再生可能エネルギーの出力変動など電力の安定供給をめぐる状況の変化が生じつつある。ロシアによるウクライナ侵略により天然ガスを始めとする燃料の供給不安・価格高騰が生じ、エネルギーの安全保障の問題への懸念が増幅されている。
・我が国としても安全性確保が大前提という認識の下、エネルギー供給における自己決定力を確保するためにCO2 などの温室効果ガスを発電時に排出せず準国産エネルギーとも言われる原子力エネルギーの活用を図っていくことが非常に重要である。
・原子力のエネルギー利用に際しては、使用済燃料対策、核燃料サイクル、放射性廃棄物の最終処分、廃炉などいわゆるバックエンド問題や革新炉の開発・建設の検討に伴って出てくる新たな課題等からも目を背けることなく取り組んでいくことが必要である。
・原子力の利用はがん等疾病の診断・治療、工業における半導体製造、橋梁など大型構造物の非破壊検査や農業での品質改良等に革新をもたらしてきておりエネルギー利用以外の側面にも着目していくべきである。
上記5項目が現在の委員会メンバーによるコンセンサスをみた方針である。原子力エネルギーの活用とは原子力発電所の稼働を意味しており原発再稼働に他ならない。カーボンニュートラルの問題やウクライナ・ロシア問題やエネルギー価格の高騰の問題を鑑みると原発再稼働は最も現実的で効果的な方針であろう。
さて、原子力委員会の国会同意人事であるが、上坂充氏の再任は妥当であると考える。上原氏は2021年より「原子力利用に関する基本的な考え方」の改定の為に調査研究を進めてきた責任者であるし、調査研究によって纏められつつある新しい「原子力利用に関する基本的な考え方」は現状の課題に即した適切かつ至当なものであると思われる。最終案をまとめ決定され、さらに閣議において政府の合意を得るまでは現委員長である上坂充氏の存在は必要にして重要である。また、上坂充氏は長年にわたり東京大学大学院工学系研究科原子力国際専攻にて原子力人材の育成に貢献している。よって、上坂充氏の委員長の再任案には同意するのが妥当と考える。
委員の新任案にある直井洋介氏も余人に代えがたい人物である。直井氏は新型転換炉「ふげん」の安全設計に長く関わっている。「ふげん」といえば使用済燃料を再処理して得られるプルトニウムを天然ウランや回収ウラン、劣化ウランと混ぜて発電できる発電炉を開発し日本に「核燃料サイクルの輪」が実現した実績を持つ。その後、政府はプルサーマル計画に移行し「ふげん」は1979年に本格運転を開始し2003年に運転が終了している。その後、日本原子力研究開発機構の核不拡散化学技術センターの設立の計画段階から携わり、設立後はセンター長に就任して今日に至る。同センターからは核燃料サイクル施設等に対する保障措置や核拡散抵抗性向上に資する様々な基盤技術開発、核物質の測定・検知や核鑑識等の核セキュリティー強化に必要な技術が開発されている。直井氏は核物質管理学会の会長も務める核セキュリティー分野では日本の第一人者であろう。専門性や経験を鑑みても直井洋介氏の原子力委員会の委員への就任は適任であり同意人事案は妥当だと考える。
原子力エネルギーや放射線の利用といった技術的領域に長けた上坂充氏と安全性を備えていく強靱なシステムを構築するための研究に明るい直井洋介氏が共に原子力員会の委員であることはバランスがとれて望ましいことだと思料する。
参考
原子力委員会 Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E5%AD%90%E5%8A%9B%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
原子力委員会公式HP
「原子力利用に関する基本的考え方」ポイント
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/kettei230220_2.pdf
原子力利用に関する基本的考え方(案) R5
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2023/siryo06/1-2_haifu.pdf
新型転換炉原型炉ふげん
https://www.jaea.go.jp/04/fugen/guide/
核不拡散・核セキュリティ総合支援センター
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