オンラインニュースの寡占化について

ニュー、周恩来、ン・・・。

 音楽の曲や詩の作成者から信託を受けて利用の許諾や利用料の徴収、権利者への分配、権利侵害の監視等を行っている団体をご存じの方も多いと思われる。一般社団法人日本音楽著作権協会、通称はJASRAC(ジャスラック)と呼ばれている団体のことである。著作権等管理事業法を根拠法として設立されている。日本においては多くのクリエーターの作品がジャスラックによって権利の管理が為されている。ジャスラックのシェアは99%に上りほぼ独占的に音楽の著作権管理を請け負っている。要は世の中のほとんどの商業的な音楽作品が著作権管理されているということである。

 音楽以外の創造物の権利の管理についてはどうか。出版物や文章に関しては一般社団法人日本書籍出版協会という団体が存在するが著作権の信託を受ける機能は担っていない。日本書籍出版協会は書籍のデータベースの構築や出版文化に係る公益的な活動を行うに留まる。著作権や肖像権などは著作権法に基づいて著作権者か著作権者と契約した事業者が個別に保全している状況にある。そうした状況から記事版JASRACを創設することも選択肢のひとつであることが公正取引員会の調査報告書の中で指摘されている。

 公取委は令和5年9月にニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書をまとめている。調査の前提と趣旨は次の通りである。新聞、雑誌等の既存のニュースメディアの利用が減少する一方であること、ニュースが国民に適切に提供されることは民主主義の発展において必要不可欠であること、ニュースプラットフォーム事業者とニュースメディア事業者との取引や利用状況によっては消費者が質の高いニュースコンテンツを享受することが困難になるおそれがあることを前提としている。令和3年2月に公取委は「デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」を公表し、ニュースプラットフォームにおけるニュースコンテンツ利用の許諾料や検索サイトにおける表示順位に関しニュースメディア事業者から指摘のあった課題について取引条件の明確化や当事者間での適切な交渉の実施等が競争政策上望ましい旨を明示した。しかしながら、改善が進まないことからより実効性がある提言を行うために令和5年9月に再び実態調査を行った。

 近年、消費者におけるニュースの閲覧方法は報道メディアの紙媒体からインターネットを通じたニュースポータルサイトの利用が顕著に増加している。総務省情報通信政策研究所の調べによると、最も利用するテキスト系ニュースサービスはこの10年間で新聞は59%から18%に低下、ニュースポータルは20%から47%に倍増している。新聞発行部数は直近10年間で35%減、雑誌発行部数は55%減、テレビの視聴時間も減少している。一方、ニュースポータルのPV数は2019年から2021年にかけて約25%増加、ニュースコンテンツ利用許諾契約数は2016年から2021年にかけて約2倍となっているとなっている。

 ニュースメディアがニュースポータルとのニュースコンテンツ利用許諾契約によって得られる許諾料収入で収入減を補えているかというとそうではない。新聞業界において2021年の新聞市場の販売収入は8229億円、紙面上の広告収入は3815億円、デジタル広告収入は僅か213億円に過ぎない。ニュースポータルから得る許諾料は213億円のうち22%に相当する46億円である。つまり、収入にうちポータルサイトから得る許諾料はたったの0.37%にとどまっている。

 公取委の調べによる取引実態は1000PV当たりの許諾料の水準は、2021年度は平均値が124円である。ニュースメディアサイトに表示されるデジタル広告に係る1000PV当たりの広告単価の水準は、2021年度は352円である。ニュース記事の仕入れが124円で売上が352円と受け止められがちであるがそう単純な収益構造ではない。許諾料の設定方法としてPV数に契約で規定する1PV当たりの単価を乗じた金額を支払うものがあるところ、「中間ページ」と「詳細ページ」が設けられているニュースポータルでは詳細ページのみがPV数の算定対象とされている場合がある。要するにトップページのみの閲覧や中間ページまでの閲覧に関しては許諾料が発生していないのである。トップページまでしか閲覧しない人は46.1%、中間ページまでしか閲覧しない人は22.7%、詳細ページまで閲覧する人は29.3%となっている。つまり、何らかの形でポータルサイトのニュースを目にした人の全閲覧数の約3割相当分にしか記事の許諾料は支払われていないことになる。このことがニュースメディアの許諾料収入が伸びない要因となっていることは否めない。

 ニュースコンテンツ配信分野に関する問題点は許諾料収入の問題だけではない。一部の配信事業者による寡占状態にあるという問題がある。情報の寡占化が進むと少数のリーディングカンパニーによって恣意的な論調や風潮を醸成することも不可能ではなくなる。民主主義の健全な発展を期すには取引等の公正性、透明性を高め、公正な競争環境の確保を図る必要がある。消費者がニュースコンテンツを探す際に利用するのは、インターネット検索が54.4%、ニュースポータルの利用が34.8%と合わせて約9割を占める。ニュースメディアサイトはたったの2%となっている。ニュースのネット検索のシェアではグーグル検索が28.4%、ヤフー検索が26.1%、ヤフーニュースが18.3%、LINEニュースが3.7%となっている。ヤフーとLINEを48.1%となり圧倒的なシェアを持つ。両社は経営統合しLINEヤフーとなっているのだからニュース配信において例を見ないガリバー企業である。LINE社は中間株式の50%を韓国のNEVER社が保有している。穿った見方を敢えてすれば、外国資本の影響を少なからず受けた可能性を否めない情報コンテンツを、ネットを中心に情報を得ている国民の60%から80%に届けている状態にあるとも言える。そのような懸念を排除して状況を俯瞰しても、やはりリーディングカンパニーであるLINEヤフー社が提供するニュース配信には他を圧倒する拡散力を持ち、その内容が消費者の認識に強い影響力を持つことは容易に察する。健全な民主主義を阻害する要因となり得ることは否定できない状況にある。公取委は公正かつ自由な競争を妨げられることがないように独占禁止法に照らして調査を行っている。

 ヤフーはインターネット検索事業者と併せて運営するニュースポータルという二重の立場を持っている。ニュースメディア事業者はニュースポータルとしては競合関係にあるが、検索事業者とは本来、取引関係、協力関係にあるはずである。だが、ヤフーのように検索事業とニュースポータルの2重の立場にある事業者とは純粋なビジネス競争が期待できない。当然、ヤフーは他社が配信するニュースコンテンツより自ら配信するニュースコンテンツを優遇する。公取委の調査では、ヤフーの検索サイトで他のニュースメディアより意図的にヤフーニュースを優先して表示していることは見られなかったとしている。現状において統計的にヤフーがヤフーニュースを優先するという有意な差異はなかったが、そうすることも不可能ではないのも事実である。

 公取委の見解ではヤフーは取引先であるニュースメディア事業者との関係で優越的地位にある可能性があると結論付けた。併せて、ニュースメディアサイトに一定の送客を行うインターネット検索を運営するインターネット検索事業者はニュースメディア事業者に対して優越的地位にある可能性があるとした。独占禁止法第2条第9項第5号では自己の取引上の地位が相手方に優越している一方の当事者が取引の相手方に対し、その地位を利用して正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは優越的地位の濫用として独占禁止法に抵触するとしている。また、グーグル及びヤフーはニュースコンテンツを探す際に利用するサービスの市場において有力な事業者に該当する可能性があるとした。競争事業者の取引を妨害することにより市場閉鎖効果が生じる場合など不公正な取引方法を用いる場合には独占禁止法上問題となる。

これらを踏まえて公取委は独禁法に係る主な見解を次のように示した。

1. あらかじめ明らかにされている掲載ガイドライン等の範囲を超えてニュースコンテンツの二次配信を制限したり、表現方法等の修正を求めたりすることにより不利益を与えることは独禁法上の問題になる。

2. 一方的に著しく低い許諾料を設定し、又は、無償で取引することにより不利益を与える場合は独占禁止法上問題(優越的地位の濫用)となる。

3. 有力なインターネット検索事業者が自社のニュースコンテンツの表示を優先し他社のコンテンツの閲覧が不利となる配置を意図的に行った場合は独占禁止法上問題(競争者に対する取引妨害等)となる。

独禁法上の問題とならない事項については

1. 許諾料等の取引条件が正しく履行されているかどうかを確認するため、共同してデータの開示を要請する行為

2. ニュースコンテンツの見出し等を無断で利用しているニュースポータル事業者に対し、ニュースコンテンツ利用許諾契約の締結を共同で要請する行為

3. ニュースポータル上でニュースコンテンツの提供元であるニュースメディア事業者が消費者により認知されやすいレイアウトへの変更を共同で要請する行為

を挙げている。記事版JASRACに相当する内容である。記事版JASRACが公平中立な独立機関とするには著作権等管理事業法の改正などの一定の法整備を必要とするであろう。現状においてはニュースメディア事業者や著作権者による権利行使の立場が著しく弱くなっている。不利益を被らないためにニュースコンテンツ提供者は廉価の許諾料に甘んじている可能性が高い。ここ数年のPV数の増加を見ると今後益々インターネット検索事業者やニュースポータルの優越的地位が高まると推察される。公取委による見解の公表は令和2円に続き令和5年で2回目となる。民主主義の堅持と正当な競争施策上、LINEヤフーやGoogleが状況の改善を進めない場合は罰則の強化を含む独禁法の改正と適用を急ぐ必要あると思料する。

 この問題に関する諸外国の取り組み状況に関しては後日、続編として纏めることとする。


参考

(令和5年9月21日)ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書について

公正取引委員会

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2023/sep/230921newcontent.html

新田哲史氏 SAKISIRU

https://x.com/TetsuNitta/status/1704756846979166262

ニュース対価の算定根拠開示を 公取委がヤフーやLINEに 日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA206D00Q3A920C2000000/

日本書籍出版協会 

https://www.jbpa.or.jp/index.html

公正取引委員会「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」に関する見解

日本新聞協会

https://www.pressnet.or.jp/statement/broadcasting/231005_15169.html

巨大プラットフォームとメディア 公取委がニュース使用料をめぐる「共同要請」を認めた背景とは?

https://minpo.online/article/post-158.html

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