オンラインニュースの利用料の攻防(海外編)

おなかGoogle。

 諸外国でのニュース記事の著作権に係る法整備は徐々に進みつつある。2019年にEUではコンテンツ使用に対するメディアの報酬請求権を盛り込んだEU著作権指令が成立した。そのことを受けてフランスメディアはグーグルに記事使用料の支払いを求めたがグーグルは拒否してきた。両社になかなか妥協点が見いだせない中、EU競争委員会は2020年4月に「グーグルの対応が支配的地位の濫用に当たる」と認定し、メディアとの交渉に応じるよう暫定措置命令を出した。しかし、グーグルは不服申し立てを行った。その結果、2021年にEU競争委員会は遂にグーグルに対して著作権侵害で約700億円という巨額の賠償金を支払う措置を確定するに至った。この巨額支払い措置の裁定を受ける以前の2014年にはスペインの著作権法改正でニュース使用料支払いの義務化が盛り込まれたことからスペイン版グーグルニュースを閉鎖していた。権利保護の為の規制に対してグーグルは長い戦いを行ってきた結果として巨額な賠償金を支払うこととなった。著作物への大手メディアのタダ乗りに対する法によるしっぺ返しによって「誠実な交渉」「報酬額評価の透明性に必要な情報の通知」など多くの重要事項をグーグルは学んだはずだ。

 EUに続いてオーストラリアでもオンラインニュース法が成立している。この法律はメディアとの使用料支払い契約を義務付けて上でメディアとITプラットフォーム運営大手とのニュース使用料交渉が不調な場合には公的機関が調停を行うことになるという法律である。この法律が成立するまではグーグルはオーストラリアからの撤退をちらつかせたり、ファイスブックはニュースの表示を停止したりして報道機関に対して揺さぶりをかけていた。同法の成立以降に調停に至った事例はなくIT事業者とメディアとの契約率は89%に上っている。よって、グーグルの瀬戸際交渉はここでも敗北している。

 2023年にはカナダでもニュースを配信した場合、報道機関への対価として、カナダ国内での年間の売り上げの最低4%を支払うことを義務づけるなどとするオンラインニュース法が成立した。その結果、グーグルはメディア各社に年間合計約108億円を支払うことで合意した。ただ、META社はこの法律に反発しインスタグラムやXでのニュースの配信を停止したままとなっている。

 国会図書館の調べによると、ニュース記事等の著作権等を管理する集中管理団体の例としてドイツのコリントメディアがある。コリントメディアは政府組織ではないがドイツ特許商標庁から集中管理団体としての許可を受けた団体の1つで民間テレビ、ラジオ放送局、報道関連出版社の577社が会員となっている。報道関連の映像及び出版を対象に複製権、公衆送信権、プレス隣接権の集中管理を行っており、同団体がデジタルプラットフォームとの交渉、仲裁申立て等を行っている。おおよそ文字版ジャスラックと言える組織である。公取委の見解では独禁法にも抵触しないということなので集中管理団体の設置が最も摩擦の少ない共存方法であるかもしれない。

 いずれにせよ、世界の趨勢としては検索サイトやニュースポータルの運営会社はニュースメディアに一定の使用料を支払う契約を義務つける法整備を進める方向性にある。日本も世界有数のニュース消費市場であるし、巨大IT市場である。弱い立場に置かれがちなニュース提供者であるメディア各社を保護しつつ健全な民主主義の発展を維持するためにも早期に需給双方のネゴシエーションを整理しルール作りに取り掛かるべきである。


参考

ニュース対価支払い法制化「非常に成功」 元オーストラリア政府高官 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASR83777RR81UHBI00M.html

カナダ SNSでニュース配信 売上げの最低4%支払い 法律案発表 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230902/k10014181851000.html

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「著作権法改正状況及び関連政策動向並びに拡大集 中許諾制度に関する諸外国調査 報告書」

https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/tokeichosa/chosakuken/pdf/93867701_02.pd

0コメント

  • 1000 / 1000