技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設について

が偉人。

 日本の実質的な移民政策が特定技能2号という外国労働者向けの制度である。この特定技能2号というのは安倍政権時に創設されていたが事実上の移民政策であるかことから特定技能2号に認定される外国人労働者は僅かであった。特定技能1号は家族の帯同が不可で通算5年間であるが、特定技能2号は熟練した技能を持ち指導的立場を負える者であることが必要となるが在留期限は無期限であり家族の帯同も可能となる。岸田政権は2023年8月に特定技能2号の対象分野をそれまでの建設、造船の分野の2分野に介護、農業、漁業、ビルクリーニング、外食、航空、自動車整備、食品製造、宿泊、産業機械、電子情報の11分野を当たらに加えた。それでも2023年10月末時点で2号認定者は29名のみであった。特定技能1号は2023年5月時点で16万人以上いることから鑑みると実質上の移民である2号がいかに抑制されていたかがわかる。一転、政府は更に林業、木材産業、自動車運送、鉄道の分野を加えると当時に今後5年間で延べ82万人を受け入れる目算を表明した。29人から82万に増やすというのはあまりに極端な計画であるがそれにはわけがある。特定技能2号の拡充を図る一方で技能実習生制度が廃止される。2023年10月末時点で約41万人いる技能実習生を3年間の移行期間を設けて特定技能に誘導する方針である。政府は現在の外国人技能実習制度の廃止に伴って新たに育成就労制度を創設する。激変緩和措置として育成就労制度の開始から3年の移行期間を設ける。現在いる技能実習生約41万人と特定技能1号約16万人の合計約57万人を順次特定技能2号に移行しつつ新たな特定技能1号や育成就労生も受け入れていくというスキームだ。

 新しい制度である育成就労制度は3年の育成期間で特定技能1号の水準の人材に育成することを目的とする。受入れ対象分野は特定技能制度における特定産業分野の設定分類に限定される。分類まで限定されることがこれまでとは違う点である。「主たる技能」を定めて育成し、開始から1年以降から育成終了時までに試験を義務付けられる。受け入れ人数に関しては有識者会議の意見を踏まえる。育成就労制度から特定技能1号への移行は技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験合格し、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4合格等)合格を基準とした上で可能となる。特定技能試験に合格し日本語能力A1相当以上にも合格し1年以上の育成就労に従事した者は同一業種内において本人の意向による転籍も認められる。育成終了前に帰国した者はそれまでの新制度による滞在が2年以下の場合は前回育成時と異なる分野や業務区分での再入国を認められる。国や自治体は入管、機構、労基署等が連携して不適正な受入れや雇用を排除することが規定される。日本語教育の適正かつ確実に実施しなければならない。継続的な学習による段階的な日本語能力向上を目指すとし、就労開始前にA1相当以上の試験(日本語能力試験N5合格等)合格又は相当講習受講、特定技能1号移行時にA2相当以上の試験(日本語能力試験N4合格等)合格を必達とする。特定技能2号移行時にB1相当以上の試験(日本語能力試験N3合格等)合格を目標とする。日本語支援に取り組んでいることを優良受入れ機関の認定要件とする。日本語教育機関認定法の仕組みを活用する。外国人就労者の負担軽減を図るために送り出し機関や仲介者に払う手数料等を日本の受入企業側も分担する仕組みも盛り込まれるとのこと。これらが育成就労制度の概要である。

 これまでの技能実習生制度と大きく違うことは転籍が可能なことである。日本語能力A1以上という前提条件のハードルは高いものの受け入れ先の企業や団体を変更できることは育成就労者が失踪する事案の抑制につながるであろう。令和5人には技能実習生の失踪者は9000人を超えたという。転籍が可能である特定技能での失踪者76名(令和3年)にすぎない。雇用者には技能実習生が転籍できないことから甘えや傲慢さを生んでいた可能性もある。失踪した技能実習生は不法在留外国人になるケースが多い。就労育成制度によってハードルは高いとはいえ転籍を可能としたことの意義は大きい。ただし、転籍が可能となると就労育成で在留する外国人労働者は首都圏に集中し地方都市での労働力不足はより深刻になる可能性もあるのではないか。最大の意義は技能実習生を発展途上国へ人材育成を通じて国際貢献をすることなどという欺瞞に満ちた目的を標榜していた。看板と目的と中身の違いが国際的に批判されることもあった。育成就労制度は人材育成に加えて就労を目的とすることが明確に提言されている。制度が人材確保の為の一環でることと特定技能1号に繋ぐ制度であることを明確にしたことで標榜と実態の乖離を無くすことができる。技能実習生制度から育成就労制度、特定技能1号に移行する緩和措置期間を3年間とされていることから育成就労制度の開始は2026年の4月以降と考えられる。以降は緩やかに行われるので現行制度の受け入れを制限する必要はないであろう。

 日本の技能実習生制度はその目的とは裏腹に外国人を単純労働力とみなして賃金不払いやパワハラ、暴力といった人権問題も孕んだ劣悪な環境で働かせる事案が相次いだ。労働力に優劣をつける概念が日本人の意識の根底にはあるということか。だとすればその意識の解消が一番大きな課題であり障壁なのである。日本人の周りを思いやる気持ちや振る舞い、自分のことだけでなく相手のことも考えて協調性を大切にする国だということが海外から、特に訪日外国人から賞賛されてきた。それは羊質虎皮だったのか。外見は立派だが中身が伴わないのだったら外見も中身も良くないままの方が正直でよい。新興国の賃金水準は上がっている。日本人の賃金水準は他の先進国と比較して高いということはない。日本で働く金銭的なメリットは年々小さくなっている。人手不足を外国人労働者で補っていく方針を強めても当の外国人にとって魅力的に思える日本でなければ選ばれない。労働不足を低コストの外国人労働者で補おうという発想はもはや通用しないということを産業界、経済界において広く認識されなければならない。

 さて、そもそも人手不足を外国人労働者で補うと施策は正しいのだろうか。人口減少が進む中で生産年齢人口の減少は顕著であること確かである。技術の熟練性が浅く賃金が低く抑えられている業種、肉体労働を主とする外仕事などは労働人口に余裕があっても供給が追い付かない。今に始まったことではなく1980年代からその傾向は続いているだろう。政府は高度な専門性を持った人材を前提にしていた外国人労働者から技能実習生を受け入れることで事実上の方針転換を行った。単純労働を含めた不足分野へ低賃金の外国人労務者を宛行うことは正しかったのだろうか。

 もし人手不足を補う人手がなかったら事業者や生産者はどうするのか。労働効率を改善するか生産性の向上に取り組むしかない。日本は奇跡的な高度経済成長を経験してきた。その道中において成長する市場規模にあわせて生産活動や供給活動の労働力不足を外国人労働者に依存することはなかった。依存しなくても高度成長ができた。それは生産性の向上に取り組み、結果的に賃金が上昇したからである。

 単純労働は賃金が安いから嫌われて労働力不足が起きる、その不足した労働力を同じく安い技能実習生で補うこと、それは正にデフレスパイラルに突入することを意味する。資本主義とは資本を投じて生産性が向上することにより成長していく経済モデルである。やってみないとわからない生産性向上のための投資を繰り返し行ってきたことが日本経済の成長に繋がってきた。バブル崩壊後、事業者のマインドは、生産性向上の投資はやりたくない。賃金の高い日本人を雇用するのも嫌、とにかく安く働く労働者が欲しいという風潮に変わった。そんな事業者のニーズに政府が答える為に創設された制度が技能実習生制度や特定技能制度である。もはや国際貢献とはかけ離れた奴隷労働制度のようなものである。高賃金を払うのが嫌だから賃金の安い外国人の入国を許し働かせること、それは国民を貧困化させるデフレ政策に他ならない。何より、外国人差別そのものである。貧困化させられた日本人が子供を産まなくなるのは当然の結果である。外国人労働者の永住化を図るだけでは真の経済成長は望めない。資本を投じ生産性を向上させ従業員一人当たりの付加価値を向上させることを伴わないと果てしない外国人労働者依存のスパイラルに陥るだけである。今となっては一定の外国人労働力の維持は必要であるとは思うが経済成長の鈍化という問題解決には繋がってはいない。


*5年で82万人となる目算根拠を開示されたい。

*育成就労で在留する外国人労働者の転籍を認めると首都圏への転籍に集中し地方都市での就労者が不足するのではないか。

*家族を帯同する場合の行政の生活支援など計画があるか。外国人が住居を借りるのは比較的ハードルが高いと思われることから。


参考 

特定技能、5年間で最大82万人受け入れ見込み 外国人依存強まる 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/b0afaa0ce7cb957b047a4ac9efa18864025d5e4f

「日本人と同等」に 外国人労働者の権利保護 毎日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/2dd23f6ac3886d6d4cb0dd96d4654575c095b102

「育成就労」3年の移行期間 激変緩和、技能実習生在留可に―27年開始後も・政府調整 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024030200397&g=pol

専門卒留学生の就職先拡大 入管庁、在留資格の運用見直し 時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024022900412&g=pol

増える特定技能在留外国人~外国人との共生のため、さらなる整備が必要~

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76027?site=nli

育成就労制度 最終報告書たたき台(概要) 法務省

https://www.moj.go.jp/isa/content/001405723.pdf

技能実習に代わる新制度「育成就労(仮称)」とは NBC

https://www.nbc.or.jp/blog/20231214_6777/

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