地方税が減ると交付金が増える仕組み
8時だよ、税金シューゴー。
「103万円の壁」の引き上げによる税収減が地方自治体の税収減にも及びけしからんと自治体の長が次々と声を上げている。地方自治体の首長は省庁上がりの元官僚が就いていることが多いのは今も昔も同じ。
国民民主党が10月17日の衆院選で大躍進を遂げ忽ち政界のキャスティングボードを握るに至った。国民民主党は自公とも立憲とも連立は組まず与野党にプレッシャーを掛けながら政策の実現を図る道を選択した。来年7月に参院選が迫っていることから国民民主党の選択は妥当である。衆院選では自民党も立憲民主党も国民の支持を伸ばせていない。よって、スターダムに躍り出た国民民主党が不人気の両党と与するメリットは存在しない。
不安定ながらも自民党は政権を維持している。が、政権運営に欠かせない存在となった国民民主党の政策実現も図らなければならなくなった。国民民主党の基礎控除額と給与職控除額の引上げは実質的には大幅な恒久減税となる。これまで財務省は国民に対して事あるごとに財政危機を煽ってきた。財政危機を過大に唱えて国民を脅すことで増税を可能にする環境を醸成してきた。この財務省による洗脳は多くに国会議員やマスコミにも感染しており広く浸透してしまっている。
たとえ選挙で多くの支持を得て躍進したと言っても財務省が国民民主党の税制改革を指をくわえて傍観することは決してない。すかさず、103万円の壁の引上げによって政府の税収が7~8兆円減り運営に支障をきたす可能性をマスコミを利用して伝播させた。国民民主党への国民からの熱狂的期待に冷や水を掛けつつ、総務省が地方自治体に向けて地方税収入も3~4兆円の減収となることを伝える。官僚が放ったプロパガンダに地方自治体の多くの首長が飲み込まれ国民民主党バッシングを始める。中央省庁の反撃が面白いほど的を射る。多くの自治体の首長が国民民主党バッシングを始める。財政の破綻を危惧する首長まで現れる始末だ。中には大蔵官僚でノーパンしゃぶしゃぶ接待に興じたスキャンダルが発覚した人物であるにも関わらず国民民主党は受け入れ、国会議員、その後、和歌山県知事になった岸本周平氏まで国民民主党のバッシングを始めてしまう始末である。
岸本知事は「県も市町村も財政運営ができなくなるため、当然、国で補填してもらえるものと思っている。政策を提案するなら、財源も提案するのが責任政党の姿だ。大変遺憾だ」と国民民主党の政策提言を無責任だと切り捨てる。何もわかっていないのは岸本知事の方ではないか。減収となる7~8兆円はそのまま消滅するのか、それとも減税の恩恵を受けたほとんどの国民が一斉に全額を貯金に回すとでも言うのか。地方税を含む7~8兆円の減税による所得増加分は国民を通じて多くが消費に回る。消費の促進が企業に収益をもたらし法人税の増収に繋がる。消費税は一部が地方税となる。
仮に当初、地方税収が落ち込めば総務省の一般財源総額実質同水準ルールに基づいて地方交付税が増額され一般財源総額実質同水準は維持できることになっている。いずれにせよ、地方自治体は国と違って通貨発行益は得られないので国の補填に頼るしかない。多くの首長がこうしたセーフティネットがはられていることを認識できていない。そして、そのことを総務省も財務省も地方自治体に示さずに敢えて不安を煽っている。このほかにも地方特例交付金等の地方財政の特別措置に関する法律というものがある。これは住宅控除等での税収減を補填することになっていることから、その縛りを外す改正が必要となるが、地方税税収減を国が補填する制度ではある。減収補填措置は過疎法、沖縄振興法、奄美振興法、離島振興法、半島振興法、山村振興法、原発地域振興法、水源地域対策特措法、地域未来投資促進法、地域再生法にも規定されているが事業税、不動産取得税、固定資産税に紐ついていることから範囲を拡大するか特例を規定する必要がある。
地方自治体は控除額引上げによる減収分を国に補填してもらうことばかりを要求しがちではあるが、自治体の中には財政に余裕があるところも存在するはずである。マクロでいえば地方自治体の税収はこの10年で20%も増加している。プライマリーバランスは黒字が継続している。地方公債の残高も減少を続けている。国と同様に税収は大いに上振れていて好調を維持している。減税当初の税収減を受け止めることができる地方自治体は多いはずである。
マスコミは多くの自治体が地方税の減収を懸念して国民民主党の103万円の壁の引上げに対して否定的もしくは無責任だと非難しているように報道しているが、実はそうではない。多くの自治体の首長はこの政策に理解を示している。政策自体は国民の手取りが増えることから歓迎しているが、地方自治体の財政状況にも慮った推進を図って欲しいというスタンスにある。つまり、マスコミは相変わらずの偏向報道をしている。地方自治体の論調としては所得税控除額の引上げを歓迎しつつも税収減に関する対策を要望している段階であるということ。
ただ、地方自治体は本来そのような心配は不要であるはず。各自治体によって行政サービスの質は若干の隔たりがあり、その格差を是正する為に地方税交付金が支給されている。地方税の税収が減り行政サービスが支障をきたす場合においては国からの地方税交付金が増える。よって、地方税が減収になっても地方交付金が減ることはなく、むしろ、増える可能性があるということ。地方税が減ると交付税が増えるのは制度の目的上、然りである。
ただし、単純に機械的に地方税収の減収分をそのまま国が補填するとはいうことはない。地方交付税の法定率分等で不足する財源を特例加算(国)と臨時財政対策債(地方)により折半で負担するというルールが存在する。近年は不足が生じない状態が続いていた為に不足分の折半ルールは利用されていなかった。だが、今回の大幅な控除額の見直しは国も地方自治体も施行当初は多額の税収減に見舞われる可能性がある。そうなった場合は地方自治体の税収も無傷ではいられない。現行のルールでは不足分の半分が地方自治体の減収となる。それを補う経済効果が直ちに生まれない限り税収減は避けられない。折半の対象財源は臨時財政対策債を発行するか、財政調整基金か、減債基金か、その他特定目的基金かを取り崩すことも検討の必要性が出てくるかもしれない。過去10年間で基金全体の残高は約4.8兆円増加し、基金に積み立てを行わない地方団体の手元流動性といえる実質収支の黒字額も同期間の単年度黒字の累積により約1.5兆円増加している。これらを利用することで国への支援の多寡を検討することも必要である。今国会では地方交付税法改正案が出されている。政府が何らかの措置を事前に行うことも考えられる。法案の中身は現時点(11月27日)ではわかっていない。もしかしたら、今年既に行われた定額減税を、規模を縮小して再び実施するのかもしれない。確かに非課税世帯等に3万円を配るという案が出ていた。住民税を利用した減税として配るなら地方交付税法の改正が必要となる。
つらつらと書き綴ったが、基礎控除と給与所得控除の引き上げは30年ぶりとなる見直しなのだから政府も地方自治体も前向きに取り組んで欲しい。30年間にわたり賃金は上がらずデフレ経済は企業の体力を奪った一方で、税負担だけは上がり続け国民は貧困化した。今を起点とし国も自治体もピボット能力を発揮し失われた30年を取り返すべく前向きかつ全力で取り組んで頂きたいものだ。
減収補填制度の概要 総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000685092.pdf
地方特例交付金等の地方財政の特別措置に関する法律
https://laws.e-gov.go.jp/law/411AC0000000017
一般財源総額実質同水準ルール 財務省
令和6年度地方財政審議会(7月9日)議事要旨 総務省
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