中央労働委員会の公益委員の同意人事案について

 中央労働委員会の公益委員の同意人事案についてである。昨年にも調査したが、労働委員会とは労働者が団結することを擁護し労働関係の公正な調整を図ることを目的として労働組合法に基づき設置された機関で労働組合と使用者との間の集団的労使紛争を簡易迅速にかつ的確に解決するためにあっせん、調停、仲裁など労働争議の調整や不当労働行為の審査、労働組合の資格審査を行っており、中央労働委員会は都道府県機関の労働委員会への助言等を行っている。中央労働委員会の構成は公益委員、労働者委員、使用者委員がそれぞれ15名ずつの計45名が任命されている。公益委員は学者や裁判官であり所謂有識者というもの、労働者委員とは主要労働組合関係者、使用者委員とは大企業や政府系団体の関係者、によって占められている。

 事案は不当労働行為がほとんどである。初審の取扱件数は令和5年は786件でそのうち前年繰り越しが531件、終結件数が250件となっている。再審査は取扱件数が165件で前年繰り越しが118件、終結が52件となっている。

 不当労働行為とは、組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉の拒否、労働組合の運営等に対する支配介入及び経費援助、労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱い、など禁止行為を行うことであり、不当労働行為救済制度は労働組合法で定められている。

 労働組合なんてものに加入したければ勝手にすればよいが、毎日のように団体交渉を求めたりする行為は業務妨害にあたるのではないか。暴力団まがいの行為を繰り返す労働組合も多く存在する。実際に暴力団のしのぎとして労働組合を結成し活動している団体も存在する。組合ビジネスは恰も正義のように社会から錯覚されているが実際はその反対である。行き過ぎた組合活動はエセ右翼やエセ同和と同等であり反社会的勢力としてカテゴライズすべきである。経費の援助などは不当行為とされるが私が救済した企業の多くは労働組合が無料で事業所内に事務所を構えていた。家賃のみならず光熱費も払っていない。家賃を払っているとしても非常識に安価であり月1000円とかいうことも多い。今は情報が社会にあふれ、情報を社会に発信するツールもあふれている。昭和の時代とは大違いである。人口減少や職種の多様化から労働者の労働価値は格段に向上している。半永久的な労働者の売手市場が続く。企業規模の大小を負わず労働条件や労働環境は労働者が一人であっても十分に問えるし求められる。それができないのは単なる個人の能力不足である。徒党を組むことはむしろ世間から蔑まれるべきではないのか。

 さて、常勤の公益委員の新任案である荒木尚志氏は東京大学法学部を卒業後、東京大学大学院法学政治学研究科教授を務める。労働審議会公益委員、東京都労働員会委員、東京都労働委員会会長、労働政策審議会委員などを歴任してきた。専門は労働法、労働契約法である。厚労委員会では政府参考人として答弁にたつこともある。荒木氏が組合かぶれの共産学者ではないことは間違いない。よって、荒木尚志氏の常勤委員への新任案には賛成するべきだと考える。

 石井浩氏は常勤の再任案である。東北大学法学部卒業、判事として東京地裁部総括、横浜地裁部総括、東京高裁部総括を歴任し令和5年に定年退官後は本委員会の常勤委員を務めている。この石井浩氏は当時国会議員であった杉田水脈氏が伊藤詩織氏をBBCのインタビューやネット番組で揶揄したとして伊藤氏が杉田氏に対して損害賠償を求めて訴訟し、一審は棄却、二審で逆転勝訴した判決を書いた人物である。判決文で名誉感情を害する意図の下で「いいね」を押したことも賠償に含まれるとしているのは驚かされた。また、一審を覆した理由として杉田氏のフォロワーが11万人もいて影響力が大きいこと、国会議員であることを理由にあげている。石井氏は弱者に寄り添った判決を下したつもりでいるだろうがまるで頓珍漢な判決である。判決は国会議員であることを理由しているのだから明らかに職業による偏見、差別である。フォロワーの多いことと「いいね」を押すことは拡散力という意味での関係は希薄。裁判官には石井氏のように社会性が欠落しているのではないかと疑われる人物がしばしば見受けられる。自分で虚偽をポストしたりリツイートしたりすることによって他人の名誉を傷つけたのならまだしも「いいね」を押しただけで国会議員であることを理由に損害賠償を支払わせる判決に正当性はない、しかも控訴審である高裁での逆転判決においてである。よって、石井氏が公正な判断を維持できるとは到底思えず常任委員の再任案には反対するべきだと考える。

 非常勤委員の再任案である安西明子氏は九州大法学部で上智大学法学部教授である。論文に「団体紛争における広義訴えの利益の具体化」や「決定手続における手続保障の具体化」などがある。民事訴訟法が専門分野。労働紛争とは無縁の学者であると思われる。1期目は期中からの就任であり10か月と短かった。非常勤での再任であることから安西明子氏の任命案には賛成するべきだと考える。

 非常勤での再任案である磯部哲氏は慶応大学法学部卒業後、一橋大学大学院法学研究科博士課程を修了。関東学園大学、獨協大学、慶應義塾大学大学院法務研究科教授を歴任。専門は行政法である。情報公開個人情報保護審査会委員や医薬品等行政評価・監視委員会委員、国家公務員採用総合職試験専門委員、総務省独立行政法人評価委員会統計センター分科会専門委員、厚生労働省厚生科学審議会感染症部会委員、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策分科会臨時構成員、内閣府地方分権改革有識者会議提案募集検討専門部会委員にも就いてきた。まだ52歳と若いのにこれだけの政府系委員会の委員を務めることは稀である。自己顕示欲がよほど強いのか名声が霞が関に轟きまくっているのか、いずれにせよ、御用学者が全員悪いと決めつけることは良くない。差し当たり非常勤での再任案であることから磯部哲氏の任命には賛成することが妥当だと考える。ただし、任期が2年と短いものの4回目の再任となることから今回の再任で最後するべきである。

 非常勤の再任案である小畑史子氏は上智大法卒、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程を修了。富山大学経済学部助教授、京都大学総合人間学部助教授、京都大学大学院人間環境学研究科教授を歴任。専門は労働法である。論文には「裁量労働制の展開」「賃金体系変更により導入された定額残業給と労基法37条」「アイドルグループの一員の労働者性」「労災保険制度における海外派遣者の特別加入」「転落事故に関する注文者の安全配慮義務」などがある。不法労働行為と重なる研究はないものの労働法に関する学識経験は長いことから小畑史子氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤での再任案である鹿野菜穂子氏は九州大学法学部卒業、同大学院法学研究科修士課程を修了。東京商船大学講師、神奈川大学法学部助教授、立命館大学法学部助教授、慶応大学法科研究科教授を歴任。再任されると3期目になるが2010年にも同委員会の公益委員に就いている。内閣府消費者委員会委員長、文部科学省原子力損害賠償紛争審査会委員、法務省検察官・公証人特別任用等審査会委員などに任命されてきた御用学者である。財産法・消費者法が専門で日本消費者法学会理事長でもある。労働法とは畑違いであり、再任されると3期目となること、原子力損害賠償紛争審査会委員や消費者委員会委員長と兼職となることからこの際に後任に席を譲るべきだと考える。よって反対するのが適当ではないだろうか。

 非常勤での再任案である久保田安彦氏は早稲田大学法学部を卒業、同大学院法学研究科修士課程を修了。名古屋経済大学経済学部助教授、早稲田大学商学学術院准教授、大阪大学大学院法学研究科准教授、慶応大学大学院法務研究科教授を歴任。専門は会社法、金融商品取引法である。論文に「取締役会決議による退職慰労金の減額支給決定と会社・取締役の損害賠償責任」「権利能力なき社団の構成員による決議の効力」「取締役の報酬等の相当性をめぐる法的問題点」「利益相反構造の有無を重視する観点からの会社法の解釈論の再検討」などがある。みんなのキャンパス(ネットポータル)での学生からの授業評価も高い。専門分野も遠からずであることから久保田安彦氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤の再任案である小圷淳子氏は慶応大学法学部卒業の弁護士であり横浜家裁調停官、横浜市建築・開発紛争調停委員会、神奈川県海区漁業調整委員会、神奈川県行政不服審査会も務めた経験を持つ。神奈川県行政不服審査会には本委員会委員の磯部哲氏も参加しており役所の御用識者としてポストをループしているのかが気掛かりではあるが非常勤であることから待遇的なメリットはない。子供の権利に関する活動を積極的に行っている。社会貢献に熱心であると感じられることからも3期目ではあるが再任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤の再任案である小西康之氏は東京大学大学院法学政治学研究科修士課程卒業後に明治大学法学部教授と務める。差別禁止法や労働法が専門。障害者雇用、失業保険、雇用政策、失業給付などに関して詳しい。東京都労働委員会公益委員も経験している。厚労省の労災保険の業種区分に係る検討会や解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会の委員でもあった。本委員会の取組と小西氏の専門分野はそのものズバリ該当しており小西康之氏の再任案には三期目にはなるが賛成するべきだと考える。

 非常勤の再任案である鹿士眞由美氏は慶応大学法学部を卒業後、弁護士として活動。日本交通法学会の理事や自賠責保険・共済紛争処理機構紛争処理委員や損害保険料率算出機構審査委員を歴任。交通災害に関わる諸法に詳しいと思われる。なにやら気持ちが遠ざかる日本女性法律家協会なる団体の元副会長という肩書もある。一部気になることもあるが専門分野での一条の活躍は認めるところである。再任されれば4期目となってしまうが任期が2年であることから容認してもよいと考える。鹿士眞由美氏の非常勤での再任案には今回が最後の任命であることを前提に賛成するべきだと考える。

 非常勤の再任案である原恵美氏は慶応大学大学院前期課程を修了。九州大学大学院准教授、学習院大学教授を経て現在は中央大学大学院法務研究科教授を務める。中小企業庁の事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会委員や国連国際商事取引法委員会の担保作業部会の日本政府代表などを歴任している。フランスの不動産関係法にも詳しい。論文には「将来発生する債権の譲渡に関する制限基準」「譲渡制限特約の効力」がある。専門分野は民法で不動産担保関係である。畑違いの学者であるが一期目2年を無難にこなしていると思われ原恵美氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤の再任案である深道祐子氏は成城大卒の弁護士である。東京紛争調整委員会委員や東京地方労働審議会委員を務めた経験を持つ。日本女性法律家学会では会長を務めた。副会長時代には同学会の鹿士眞由美氏と同時に副会長職に就いている。深道氏を本委員会に推薦したのは鹿士氏なのかもしれない。深道氏は夫婦別姓を進める活動をしていることが少々気になるが、それとこれとは別。夫婦別姓制度問題は本委員会での活動とは無関係。特に悪評はないことから深道祐子氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤での新任案である川田琢之氏は東京大学法学部を卒業し東海大学法学部助教授を経て現在はつくば大学ビジネスサイエンス系教授を務める。専門は労働法、労働基準法。論文には「ストライキに参加した単純労務職員に対する懲戒処分の支配介入該当性」「部分スト不参加者の賃金と休業手当」「ハラスメントをめぐる法規制の現状と課題」などがある。厚労省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会家内労働部会委員や国交省の建設業の一人親方問題に関する検討会委員などに任命されている。本委員会については川田氏の専門分野がそのまま合致することから理想的である。よって、川田琢之氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤での新任案である権丈英子氏は慶応大学大学院商学研究科修士課程を修了。アムステルダム大学大学院経済学研究科博士課程を修了。現在は亜細亜大学経済学部長教授を務める。人口経済学、社会保障論、労働経済学、応用経済学が専門。厚労省の中央最低賃金審議会、労働政策審議会最低賃金部会、東京地方労働審議会家内労働部会などの委員を歴任。女性の社会進出や男女共同参画に関する活動が多く若干主張に偏りを感じるが研究分野には最低賃金や年金制度、労働市場に関することであり本委員会と遠からず近すぎずという見識を持ち合わせていると思われる。非常勤であることから権丈英子氏の信任案には賛成するべきだと考える。

 非常勤での再任案である山川隆一氏は東京大学法学部を卒業の弁護士。武蔵大学経済学部助教授、筑波大学社会科学系助教授、慶応大学大学院法務研究科教授、東京大学大学院法学政治学研究科教授を歴任し現在は明治大学法学部教授である。本委員会には常勤勤務を含め8回に渡り任命されてきた。労働政策審議会委員も兼職している。労働法、労働契約法、雇用関係法、労働紛争処理法の専門家。労働紛争に関する研究者としては日本の第一人者の一人。著書に「不当労働行為争訟法の研究」「労働法の基本」などがある。専門分野が本委員会の活動そのものである。典型的な多任ではあるが労働紛争に長きに渡り関り経験と知識を有することから余人に代え難く例外的に任命すべきと考える。山川隆一氏は繰り返し任命を求められる稀有な存在であり相応の理由と事情があると察する。


参考

伊藤詩織さんが杉田水脈議員に控訴審で逆転勝訴 週刊金曜日

https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2022/11/01/antena-1149/

0コメント

  • 1000 / 1000