特定地域づくり事業協同組合制度について

組 あいーん。

 地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律が施行から5年を迎えようとしている。令和元年12月に成立した議員立法で5年を期限としている。よって、本国会においてさらに5年延長する法案が提出されている。

 地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業内容は特定地域づくり事業協同組合制度のことを指している。特定地域づくり事業協同組合制度とは「人口急減地域において中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合が特定地域づくり事業を行う場合について都道府県知事が一定の要件を満たすものとして認定したときは労働者派遣事業(無期雇用職員に限る)を許可ではなく届出で実施することを可能とするとともに組合運営費について財政支援を受けることができるようにする」という制度である。

 人口流出の要因やUIJターンの障壁となっているのが安定的な雇用環境や供与水準の低さにある。対策として地域の複数の仕事を組み合わせて年間通じた雇用の確保をする、組合で雇用し組合職員とし組合員である事業者に派遣することで一定の給与水準を保つ。違う仕事を組み合わせることと組合が一定の給与水準で雇用し派遣する形態をとることで労使双方のニーズが満たされるのならば明暗と言える。派遣期限は原則無期となる。給与水準において被雇用者の希望を叶えることは本来容易ではない。組合において一定水準の条件で雇用し派遣することによって組合の運営収支が赤字に陥ることは言うまでもない。特定地域づくり事業協同組合制度を利用することで当該組合は公の財政支援を受けることができる。総務省の説明資料によると組合の運営費の1/2は派遣先からの報酬、1/4が国費、1/8が国からの特別交付税が充てられる。残りの1/8が制度を利用する地方自治体の負担となる。

 地域の人口急減の原因が安定的な雇用と給与水準に起因することが明らかなのであればこの制度によって地域社会の一定の維持は可能となる。UIJターンも増加するであろうし区域外からの人材が呼び込めるはずである。好循環に至れば地域経済は活性化する。

 現状はどうなのか。5年間で認定された組合は110市町村となっている。全国の市区町村は1718か所あることから6.4%の制度利用率となり非常に少ない。雇用職員数(派遣者数)は15名以下が全体の75%以上を占める。事務員は2名以内である組合がほとんどで所在は行政の施設内か組合員の施設内である組合が約半数、賃貸が半数である。派遣先の給料は時給900円から1300円までに集中している。派遣先で多いのは農業と林業が最も多く、次いで宿泊飲食、製造業と続く。

組合設立のきっかけの多くは行政からの働きかけがほとんどである。組合の活動で最も苦労するのは派遣職員の確保である。組合は行政施設内に事務所を所在し行政に同行しながら活動を共にすることが多い。町の移住定住担当課などと連携し首都圏での移住フェアやUターンフェアやIターンフェアなどに同行したりしている。行政が住居を紹介し、組合が職を紹介するというセットした取組を行っている。

また、市町村が直営で運営するスキー場などで繁忙期に職員を派遣することを望む声も大きい。組合法では市町村が組合員になることはできない。よって、組合から市町村への派遣については組合員以外の利用となり院内利用に比して20%に制限されている。能登半島地震の被災地からのニーズもあり、本法案では市町村への派遣に限り員外利用が員内利用に比して50%を上限とする緩和策が盛り込まれている。

派遣者数が少ない組合は赤字であることが多い。派遣者数が多くても赤字の組合はある。事務員の数が多かったり販管費が嵩んでの赤字である。人件費を含む経費の総額の1/2の国と地方自治体によって支援されても尚赤字が出るというのは事業の構造自体が破綻しているし、成り立たないスキームである。収支や収益に鈍感になりがちである自治体主導の事業ではありがちな結果である。儲からないからこそ行政が行うというのは正解であるが、行政がバックアップすることがかえって事業者の甘えを生むこともある。組合が収益目的ではなかったとしても経常で赤字になると継続的な経営はおぼつかない。

UターンやIターンやJターンに関する支援制度は他にもある。人材を求める地方企業には早期再就職支援等助成金(UIJターンコース)というものがある。東京圏からの移住者を雇い入れた事業主に対しその採用活動に要した経費の一部を助成するというもの。募集・採用パンフレット等の作成・印刷やホームページ・自社PR 動画の作成・改修、就職説明会・面接会・出張面接にかかった費用を中小企業の場合は100万円を上限として1/2を助成する。中小企業以外は1/3となる。また、多くの自治体が空き家を借りたり買った場合のリフォーム代の補助や創業する場合の支援金制度や子育て支援制度を備えている。一定期間、その地域に住むだけで金銭を支給する自治体もある。国から自治体への補助金制度の中にはデジタル田園都市国家構想交付金地方創生推進タイプ(移住・起業・就業型)のように本制度と類似したものもある。デジタル田園都市国家構想交付金地方創生推進タイプは地方創生移住支援事業、地方就職学生支援事業、マッチング支援事業、地方移住支援窓口機能強化事業、地方創生起業支援事業、新規就業等支援事業に該当すれば自治体向けに補助金が交付される。デジタル田園都市国家構想交付金地方創生推進タイプでの令和6年度の交付金の総額は72件48億円となっている。こちらも多くはない。ちなみに特定地域づくり事業協同組合制度で支給された交付金は約6億円(令和5年)となっており凡そ国が法を整備するようなレベルの事業には育っていない。地方創生や地域振興を趣旨とする似通った、もしくは目的が近い公的制度が多すぎる。ふるさとワーキングホリデー制度、過疎地域持続的発展支援、地域おこし協力隊、環境保全型農業交付金、集落営農活性化プロジェクト促進事業、産地基幹施設等支援、地域集積協力金交付事業、農山漁村振興交付金、多面的機能支払交付金、農業農村整備事業、森林・山村多面的機能発揮対策交付金、空き家対策総合支援事業、空き家対策の担い手強化・連携モデル事業、地方創生推進交付金、地域活性化伝道師派遣制度など上げればきりがない。各省庁がばらばらに施策を実施するので際限なく増え続ける。その弊害として目的が達成さないことはもちろん、混乱を招き機能しない。機能しないものに財政的な補助を出し続けることは単なる浪費に過ぎない。

ちなみに特定地域づくり事業協同組合制度が多く地域に波及しないのはコロナ禍が明けて経済活動が活発化する中で首都圏に労働力がさらに集中することになったことが影響していると思われる。本制度は雇用創出とは言えず、労働力不足を補う方策であり、労働の対価の一部を行政が補うことはデフレに繋がるのではないか。

地域振興や地域創生に関わる法律や制度に関しては一旦整理したらどうだろうか。ただし、既に様々な制度を利用している自治体や国民が多数いることも無視できない。本制度においては組合職員の雇用は期限を設けないことが原則である。派遣職員となる為に他府県から移住してきた人も49%いる。時限立法でありながら期限を切らない雇用を前提とした制度によって運用することは無責任なロジックと言わざるを得ない。5年たっても未だに利用する自治体が6.4%しかなく認可する組合にも赤字や小規模なものが多い現状を鑑みると施策としては失敗であった考える。よって、法を延長することはなく既存の認定組合の活動に関してどのように対応するかについて検討するべきであると思料する。


*5年が経過して対象とする1718市町村の中で110市町村しか制度の利用がないということは元々のニーズに応える制度になっていないか、ニーズがそもそもなかったのかどちらかではないか。

*他の都道府県からの移住を伴う雇用は49%に過ぎないというのは制度の趣旨に反しているのではないか。

*同様の趣旨の制度や関連する制度が多すぎて地方自治体を支援する制度というよりむしろ地方自治体の事務負担ばかりが増す制度になってしまっているのではないか。

*年間の予算執行額が令和5年度が6億円に留まっており制度の広がりが見られないので廃止を視野に検討するべきではないか。

*組合の派遣職員に支払われる報酬と派遣先からの利用料の差額を補填する制度は労働力に対する市場原理、経済原理が働かず、正常な経済成長を阻害する可能性も否定できないのではないか。


参考

特定地域づくり事業協同組合制度

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/c-gyousei/tokutei_chiiki-dukuri-jigyou.html

地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/501AC1000000064/

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