棚田地域振興法の延長法案について

ラブレターfrom棚田・・・古っ!

 棚田は貴重な国民的財産であり、農産物の供給にとどまらず伝統・文化の継承、美しい景観の形成、国土の保全、水源の涵養、生物の多様性の確保、自然環境の保全といった多面的機能を有している。いわゆるインスタ映えする棚田地域の景色が印象に残る。棚田での工作は地形的な条件が悪く、維持にも多大なコストを必要とする。人口減少や高齢化による担い手不足もあり全国各地にある棚田が荒廃の機器にあることから棚田地域振興法がつくられ棚田を核とした地域振興の為に財政的な支援を行ってきた。棚田地域振興法は令和元年に議員立法で成立した時限立法であり今年3月末で執行予定となっていることから今国会に同法を延長する法案が提出されている。

 棚田の歴史は長く室町時代に遡る。傾斜が大きい棚田では農業用水の管理が容易であったことから河川下流域の平野より稲作に向いていた。江戸時代以降は傾斜が少ない沖積平野でも水路に水車を設けて灌漑や排水が出来るようになったことで河川下流域の平野が穀倉地帯と呼ばれるようになった。戦後、棚田の多くは土木技術の向上により大規模化や機械化を進めてきたが、急傾斜地や斜面を削る必要のある圃場は土砂崩れ対策などの多額の費用を要するために営農放棄されたり荒廃したりした。

 そうした状況の中で成立したのが棚田地域振興法であるが営農の継続を支援することを目的としている。棚田地域振興法によって地域が指定を受けると棚田地域振興活動計画を策定し認定を受ける。計画を実施するにあたり様々な補助金や助成金などの財政的な支援が得られる。指定を受ける要件としては区域内の勾配が1/20の土地にある一団の棚田の面積が1ha以上であることとしておりハードルが非常に低い。現在、指定地域の数は108地域、31都道府県となっている。内閣府地⽅創⽣推進事務局の令和6年度予算概算要求額は4156億3千3百万円となっている。この予算が全て内閣府によって賄われているわけではない。内閣府の説明によるとこの法律には10省庁の35事業にわたって基づいているとのこと。要するに棚田地域に指定され活動計画が認定されると各省庁の様々な事業で助成金や補助金が優遇されたり嵩上げされたりするということ。よって各省庁の予算に予算を分散するとこんなに大きな予算にはならない。

 紐ついている事業の一部を上げると、都市・農山漁村の地域連携による子供農山漁村交流推進事業(総務省)、健全育成のための体験活動推進事業(文科省)、文化的景観保護推進事業、重要文化財等防災施設整備事業、地域文化財総合活用推進事業、日本遺産活性化推進事業、伝統文化親子教育事業(文化庁)、環境保全型農業直接支払交付金、中山間地域等直接支払交付金、農山漁村振興交付金のうち中山間地農業推進対策、農業農村整備事業(農水省)、地すべり対策(国交省、農水省、林野庁)、景観改善推進事業(国交省)、地域の観光資源を活用したプロモーション事業、広域周遊観光促進のための観光地域支援事業(観光庁)、Living History事業(文化庁)、指定管理鳥獣捕獲等事業、生物多様性保全推進交付金(環境庁)、地方創生推進交付金(内閣府)など35事業。棚田地域振興法で棚田が絡むと35事業にわたり公的な財政援助の選択肢がもたらされる。

 近代的な農業技術や土木技術では稲作地の傾斜は不必要である。溜池施設も整備されているし湧水なども利用できる。棚田の利用はワサビなど高い排水能力が必要なケースを主としている。農家の数は直近20年で半減している。2050年にかけて更に50%以上減少する可能性があるという。農家の減少を補うのが生産性の向上である。農家の効率化、機械化、大規模化を進める必要に迫られている。棚田は高低差があり、一枚の耕作面積が小さい。平野と比較して効率的ではない。生産性の向上を最大化するには傾斜地より平坦地に集積するべきあることは明らかである。よって、農業耕作地としての棚田への特別な支援は農業のすすむべき方向性と合致しないのではないか。棚田を他の農地と同様に扱い特別視する必要はないと考える。農水行政の一環として高付加価値化に取り組めばよい。農業農村整備事業として3978億円、持続的生産強化対策事業に233億円、水田活用の直接支払交付金3215億円、中山間地域等直接支払交付金269億円、中山間地農業ルネッサンス事業510億円など農水省の数多くある事業費にて対処すべきだ。ただし、棚田の存続と継承については別問題である。歴史や文化の継承や観光振興に利用するケースに限定して棚田地域振興法はドロップ&ビルドするべきだと考える。地域おこし協力隊や体験農業や国産飼料資源生産利用拡大対策や6次産業化施設整備事業、鳥獣被害防止総合対策交付金など棚田に限ったことではない支援制度が多すぎるし全く関係性を窺えない交付金制度もある。やはり、棚田に対する支援は歴史、文化、観光への支援制度に限定した方が良い。何にでも紐付けれる制度に行政にありがちな拡大解釈をしている結果、寄せ集めになっている各省との関連予算は4千億円を超える莫大な額となっている。穿った見方をすれば各省庁が予算獲得するためのネタに使われていないだろうか。棚田に紐づく予算が4千億円を超えることは異常事態であるし看過すべきではない。棚田の保存として費用をかけ過ぎである。法律の趣旨と必要性は認めるがそれにかこつけて際限なく拡大解釈して適用範囲が膨張しすぎているのは明らかである。ここで一旦立ち止まり整理整頓する必要がある。よって、安易に本法の延長に賛成するべきではなくリセットを求めるべきであると思料する。


* 営農の継続を支援するべきは棚田を抱える農家だけではない。段々畑で畑作を行う農家もあるし、あらゆる農家の耕作の継続を促進しなければならない状況にある。営農継続に焦点をあてて考えるならば支援の対象を棚田に限定する法律である必要性はないのではないか。

* 農家の減少に伴い生産性の向上を求められている農政において棚田の振興に過度に傾注することは時代の要請に反していると考える。平場での効率化、機械化、大規模化を図る必要性に迫られている中で本法は棚田への過度の支援措置につながると考えるがいかがか。

* 棚田への特別な支援措置は農水省による棚田に限らない農業支援と観光庁の棚田に限らない一般的な支援制度の範囲において実施することで足りると考えるがいかがか。

* 現状において本法に紐づいている各省庁の事業が35事業にもわたっているが多すぎないか。

* 現状において本法に紐づいている各省庁の事業が棚田に限った事業ではない、棚田とは関連性が薄い、もしくは関連のないように思える事業もある。紐付ける事業を再検討するべきだと考えるが如何に。

* 本法は対象とする範囲、適用する事業が行政によって拡大解釈されてきたように感じる。他の支援制度と適用範囲が被っていることも多いのではないか。計画の認定先が他にどのような支援制度を利用しているか把握しているのか否か。


参考

棚田と棚田地域振興法 農水省

https://www.maff.go.jp/j/nousin/tanada/tanada.html

棚田地域振興 内閣府地方創生推進事務局

https://www.chisou.go.jp/tiiki/tanada/index.html

令和6年度棚田地域振興関係予算概算決定

https://www.chisou.go.jp/tiiki/tanada/pdf/R6_tanada_gaisanketti_ichiran.pdf

棚田地域振興に関する説明書 内閣府地創

https://www.maff.go.jp/j/nousin/tanada/attach/pdf/tanada-9.pdf

令和6年度 棚田地域振興予算概算要求

https://www.chisou.go.jp/tiiki/tanada/pdf/R6_tanada_gaisanketti_ichiran.pdf

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