公認会計士・監査審査会委員の国会同意人事について
ま時価。おやすみな債務。
公認会計士・監査審査会委員の国会同意人事についてである。本審査会は合議制の機関として金融庁に置かれ内閣の任命ではあるが内閣から独立して執行する。任期中に意に反して解任されることは原則ない。業務は「品質管理レビュー」に対する審査及び検査、公認会計士試験の実施、公認会計士等に対する懲戒処分等の調査審議が主である。日本公認会計士協会から品質管理レビューの依頼を受けてその内容を必要に応じて監査事務所や協会等に検査等を行っている。監査事務所において監査の品質管理、品質管理レビューが適切に行われていなかったことが明らかになった場合や業務の適正な運営を確保する法令等に準拠していないことが明らかになった場合には必要な行政処分その他の措置を金融庁長官に勧告する。令和3年には9件を検査し3件に勧告している。審査会では公認会計士という職業への関心を高めるための広報活動に力を入れているとはいうものの受験者数は横ばい。約14000人が受験し約1400人が合格している。受験者数も合格率も横ばいで安定している。懲戒については令和4年においては10件が日本会計士協会からの退会処分および行政処分を受けている。また、企業活動や投資活動の国際化が進む中、監査監督機関国際フォーラムに積極的に参加して国際的な監査の品質の向上と確保に取り組んでいる。
さて、同意人についてであるが青木雅明氏は東北大学大学院経済学研究科単位取得退学後、広島修道大学助教授、青森公立大学助教授を経て東北大学会計大学院教授、現在は透谷大学名誉教授となっている。青木氏はこれまで1期3年常勤の委員を務めており、会長である松井氏の退任を受けて今回の同意人事で会長の後任人事案として推されている。管理会計が専門。常勤委員在職中には監査法人への立ち入り検査なども経験している。これまで公職についたこともなければ官庁の諮問機関での委員歴も見当たらない。凄く地味な経歴なのだが逆にそれが良い。管理会計学で東北大学一筋できれいなキャリアであることは好印象。うろうろしすぎる人や政府の諮問機関に起用されまくっている人物に関しては勘ぐってしまう。青木雅明氏の常勤の会長就任案には賛成するべきだと考える。
蟹江章氏は常勤の新任案である。愛知大学経済学部、愛知大学大学院経営学研究科、大阪大学大学院経済学研究科後期課程単位取得退学後、弘前大学助教授、北海道大学大学院経済研究科教授を経て現在は北海道大学名誉教授であり青山学院大学会計プロフェッション研究科教授である。任命されれば委員8人中唯一の常勤となる。つまり常勤委員は次期会長となる可能性が極めて高い。前会長の松井隆幸氏も元青山学院大学会計プロフェッション研究科教授であった。年齢も3歳違い。つまり、前会長が蟹江氏を招聘した可能性は否定できない。蟹江氏を本会のナンバー2にしてしまうと退任した松井隆幸前会長の影響力が残ってしまうかもしれない。公認会計士試験を司ったり、公認会計士の懲戒を審査したりする組織であるから委員会のメンバーの清廉性が重要である。委員各人の不正を疑うわけではない。しかし、前会長に恩があるとすれば不要な忖度も働きかねないということを危惧するのである。なにより、常勤ポストが既得権化しかねない。よって、蟹江章氏の常勤での新任案には反対するべきだと考える。
非常勤での2期目の再任案である上田亮子氏は横浜市立大学大学院経営学研究科卒業後、みずほ証券に入社、日本投資環境研究所に出向、SBI大学院大学准教授を経て現在は京都大学経営管理大学院客員教授、金融審査会委員を務めている。また、TOKAIホールディングスや広栄化学の社外取締役でもある。首相官邸の未来投資会議・構造改革徹底推進会合委員、金融庁のスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、金融庁の金融審議会市場ワーキンググループ委員、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループメンバー、スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会委員、会計審議会審査部会委員、経済産業省の人的資本経営の実現に向けた検討会委員など政府の諮問機関に多数起用されている。コーポレートガバナンスが専門であるが経歴が賑やか過ぎるわりに著作も論文も少ない。実績よりタイトルばかりを追いかけているのではないかと勘繰ってしまう。とはいえ、大きな落度も特定の政治繋がりも無いようであるし、非常勤であることから上田亮子氏の再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での二期目の再任案である古布薫氏は一橋大学経済学を卒業後、JPモルガン証券を経てインベスコアセットマネジメントに入社。日本株式運用部に在籍。証券アナリストとして企業の分析・評価を行っている。ジェンダーダイバーシティに関して発言や主張がみられ女性の活躍の推進や女性役員の枯渇に関する発言も多いのが・・・である。いわれてみればこの公認会計士監査審査会委員は男性が5名、女性が4名でありジェンダーバランスが取れている。意識して男女比を整えたのか、それともたまたまなのか。私は女性に下駄を履かす施策を好まないが古布氏を敢えて非難する要件もない。よって、古布薫氏の非常勤での再任には賛成するべきだと考える。
非常勤での3期目の再任案である玉井裕子氏は東京大学法学部卒の弁護士である。長島・大野・常松法律事務所のパートナーである。三井物産の監査役も務める。弁護士として大規模な戦略的買収・提携案件、経営統合、合弁組成、カーブアウト型M&A案件含め上場会社を中心に国内外の取引を多数手がけている。経産省のM&A関連の研究会などのメンバーや金融審議会の委員を歴任している。企業法務分野でThe Best Lawyers in Japan 2019やChambers Global 2018の受賞歴がある。日本で最も活躍する女性弁護士の一人であることは間違いないと思われる。企業法務に精通する玉井裕子氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤で2期目の再任案である千葉通子氏は中央大学法学部卒の公認会計士である。東京都に入庁後、EY新日本監査法人に所属。現在は同社のシニアパートナーである。カシオ計算機、DIC、TDK、NTTドコモ、三井不動産の社外監査役を務めている。公認会計士が公認会計士を監査したり懲戒するのはどうかとは思うが会計事務も常々高度化している。本会は品質を監査するだけが使命ではない。公認会計士試験を担うのも重要な役割である。よって、千葉通子氏の非常勤での再任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である川村義則氏は早稲田大学大学院商学研究科卒業後、早稲田大学商学部助教授を経て現在は早稲田大学商学学術院教授である。専門は簿記と財務会計論。公認会計士試験の財務会計分野で長年委員を務めてきた。会計検査院や日本銀行で研究員をしていたこともある。少子・高齢化社会の進展に伴う公会計制度改革に向けた基礎的・臨床的研究や統一公会計基準設定に向けた国内・国際公会計基準の比較分析などの課題研究に取り組んでいる。公認会計士試験に長年携わってきたことからも川村義則氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である塩谷公朗氏は東京大学法学部卒業後、三井物産に入社し英国や米国での勤務を経験し、経理畑を一貫して歩んできた。現在は三井物産の常勤監査役と日本監査役協会会長を務める。被監査企業側での対応実績も長く監査業務には精通している。委員の中に監査を受ける側の立場の者がいることは意義がある。よって、塩谷公朗氏の非常勤での新任案には賛成するべきだと考える。
非常勤での新任案である井野貴章氏は慶應義塾大学経済学部を卒業後、中央新光監査法人に入社。公認会計士登録後にクーパーズライブランドに出向。あらた監査法人(現PwC Japan 有限責任監査法人)のパートナーとなる。同社代表執行役を経て現在は会長である。監査業務と監査以外のアドバイザリー業務の両方を行う業態のパイオニアである。会計業務が自動化されAIにとってかわられるのも時間の問題かもしれない中で取引先の非財務情報に関しても積極的なかかわりを持つ方針を打ち立てたのが井野氏である。監査の自動化を阻止するのではなく精度を上げる取り組みも行っている。大手監査法人を率いるカリスマの一人として井野貴章氏の非常勤委員への新任案については賛成するべきだと考える。
参考
公認会計士・監査審査会Hp
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